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8 対立する意見


「「あばよ」」


 俺達は煙の中を進み、狼人間達の包囲を擦り抜けることに成功する。



「クッ、どこです! おのれぃっ!!!」


 そんな中、イーラは見当違いな方向にレイピアを振り回しながら絶叫していた。



「アオオオオオオン!」


「オオオオン!」


「ウォオオフッ!」


「このっ! 離れろっ! 放せ!」


 俺達が狼人間達の包囲から離れていくにつれ、その場で聞こえていた喧騒も遠ざかって行く。最後に聞こえたイーラの声から察するに、包囲が狭まって戦闘へと突入していたようだ。


 これであの狼人間の集団はしばらく俺達を追ってこないだろう。



 無事に狼人間達から上手く距離を離し、隠れる場所が多そうな区画へと逃げ込む。


 建物と建物の細い隙間に入り込み、物影へと隠れて一息つく。


「ふぅ……、なんとか逃げ切れたな」


 なんとか土壇場で【火遁の術】を使ってイーラと狼男達をまくことに成功した。


 もう少し機転を利かせて行動できるとかっこいいところだが、追い詰められると慌ててそうもいかない。


 落ち着きを取り戻し、辺りの気配を探るも近辺には狼人間達はいないようだった。



 ただ、この街は通路が狭いうえにそこら中に狼人間がいるため、【気配遮断】が上手く作用するか微妙なところだ。


 そのため行動にはかなり注意を払わなくてはならない。


 一度見つかってしまうとまた遠吠えで仲間を呼ばれる可能性がある。


「お前のファンにはこりごりだぜ」


 レガシーがため息混じりに呟く。


「俺だって遠慮したいところだわ…………。ん、なんか聞こえないか?」


「人の声っぽいな……。あっちか?」


 物陰に隠れて少し落ち着いたところで、どうにも聞き覚えのある叫び声が聞こえてくる。



 そちらへと視線を向けると狼人間達が二つの皮袋を担いで移動しているところが目に入った。


「クソッ! 出せ! 俺はこんなところで立ち止まってるわけにはいかないんだ!」


 その中の一つの皮袋が鳥についばまれた芋虫のように激しくのた打ち回りながら大声を発している。


 ……やっぱり聞き覚えのある声だ。


「あれ、チンピランだよな?」


「だな」


 声の主についてレガシーに確認をとると正解だと返ってくる。


 どうやら殺されずには済んだようだ。


 しかも大声を出してもがいているので、どちらの皮袋に詰められているのかもよくわかる。


 そしてもう一つの皮袋からは…………。


「ングオオオオオオッ! ングオオオオオッ!!」


 チンピランが閉じ込められている隣の皮袋からも大声が聞こえてくる。


 ……どうにも聞き覚えがある声だ。



「あれ、悲鳴だと思う?」


「ザコーダのイビキだな」


「だよな」


 チンピランがあれだけ大声で抵抗しているのに隣のザコーダはそれを物ともせず、凄まじいイビキをかきながら爆睡していた。


 ……大物すぎる。


 レガシーのイビキもかなりの音量だがザコーダのは獣の咆哮を疑うレベル。


 あれの隣で眠れる奴はザコーダの次に大物だろう。


「どうする?」


 レガシーが目配せしながら聞いてくる。



「助けよう。あれならいける」


 狼人間は四匹で二匹一組になって皮袋を担いでいる。


 全員手が塞がっているし、不意打ちが可能な今なら問題なく救出できそうだ。


「分かった。俺はこれ一本だからなんか得物貸してくれないか?」


「これでいいか?」


 レガシーは自身の蛇腹剣を抜いて見せながら空いた手を広げてこちらに向けてきたので、俺はアイテムボックスから予備のナイフを取り出して渡す。


「助かる。それぞれ二匹ずつってところだな」


「ああ、丁度背後が取れるし楽勝だぜ」


 ナイフを受け取ると振ったり突いたりしながら感覚を確かめるレガシー。


 俺はそれを確認しながら片手剣とナイフを抜いて両手に持ち、準備を整える。


「行くぜ!」


「おう!」


 俺の合図で物影から飛び出し、一気に狼人間に接近すると背後からそれぞれの腹部目掛けて両手の武器を突き出す。同じタイミングでレガシーも奇襲攻撃を成功させる。



 虚を突かれて無防備に晒した急所を貫かれた狼人間達は、何の抵抗もできずに力尽きて倒れた。


 当然担いでいた皮袋も地面へ落下する。


「な、なんだ!」


「ングオオオオオオオオンッ!」


 急に皮袋が落下した衝撃で慌てるチンピラン。


 全く動じず眠り続けるザコーダ。


 俺はレガシーに目で合図を送るとそれぞれ皮袋を開いた。



「……すまん。お前たちには助けられてばかりだな。ハァハァ……、少し休ませてくれ、なんだか頭が朦朧とするんだ……」


 俺が皮袋を開くとチンピランがゆっくりと這い出してきた。


 俺達と目が合うと軽く驚いていたようだったが、すぐに現状を把握して礼を言ってくる。



 ただ単に皮袋に詰められたわけではなく、何か意識を失わせる薬品でも嗅がされたのか、あまり気分がすぐれないチンピランはその場に座り込んでしまった。


 ザコーダの方は皮袋を開けても眠ったままなのでレガシーが力任せに引きずり出していた。


 全く起きる気配がないので蹴りを入れる。



「……んん? やぁ、もう朝かい? あんまり寝た気がしないなぁ」


 ザコーダは蹴られたことにも気付かず、マイペースに寝ぼけ眼でずれたことを言い出す。


「いや、まだ夜だ。あんた夜中に攫われたの。それを俺達が助けたってわけ」


「そうだったのか! ありがとう!」


 俺が見かねて側に転がる狼人間を指差しながら説明すると、あっさりそれを受け入れて礼を言ってくるザコーダ。こういうところは妙に疑ったりすることがない分、話が早くて助かる。


「一体どうなっているんだ?」


「やはり僕の財産を狙っての身代金目当てかい?」


「いや、正直よくわからん。宿の連中はほとんど全員連れ去られていた感じだ」


 俺はチンピランとザコーダにこれまでのことを簡単に説明する。


 二人は自分たちだけでなく宿の宿泊客がほぼ攫われたという事実を聞くと驚愕の表情を見せた。


「そ、そうなのか?」


「他の攫われた人達はどうしたんだい?」


「助けられたのはあんたらだけだ。他の奴らは今も連れ去られている最中だよ」


 自分の予想を遥かに上回る大規模な誘拐に驚くチンピラン。


 ザコーダには助けられたのは二人だけだと説明する。


 俺もできる事なら全員助けたかったが二人ですら偶然に近かったし、あの状況では難しかっただろう。


「宿全員となると相当の人数で襲い掛かってきたってことか?」


 誘拐の規模から実行犯の数を予想し、更に驚くチンピラン。


「人身売買目的の誘拐組織とかかな?」


 それを受け、考えをまとめるザコーダ。



 現場を見なければ俺もそんな予想をしただろう。


 だが実際は狼人間というよく分からない連中による目的不明の誘拐だ。


「そんな感じじゃなかったな。攫ったのがそこにある死体みたいなモンスターもどきだったんだ」


「ああ、一言で言うなら狼男だ」


 二人に説明していると、結局こいつらの誘拐の目的はなんだったのだろうと考えてしまう。俺が黙考しているとレガシーも攫った奴らが異常と感じていたらしく、二人に外見の説明をする。


「俺はそんなわけの分からない奴に攫われそうになっていたのか……」


「ミステリーだね!」


「まあ、知り合いだったあんたらも助けたわけだし、街から出るか?」



 分からないことが多いが知り合いの救出は叶った。


 これ以上はトラブルを避けるためにも、一旦街を出た方がいい気がする。



 といっても他の攫われた連中を見捨てる形になってしまうので、そこは後ろ髪引かれる思いがある。


 どうにかしてやれるといいんだが……この面子でどうにかなるだろうか。


「ああ、出よう。俺にはやらなければならないことがある。悪いがそんなわけの分からん人攫いとは関われないな」


「助けよう! 今なら追いかけられるんだろ?」



 ここでチンピランとザコーダの意見が分かれる。


 チンピランは街を出る、ザコーダは攫われた人達を助けると言い出した。


 俺としては助けられるなら助けてもいいが、命の危険があるような状況なら少し迷う。


 そんな状況で助けても自分も救出した奴らも無事に生還できるか怪しいからだ。



 かといってここで四人がそれぞれやりたいように行動するのもまずい。


 俺一人なら逃げる分にはどうとでもなるが、全員無事に逃げるなら生存率を上げるためにも四人で行動した方が安全だと思うわけで……。



 そしてクセの強いザコーダの方が助ける派なのも困った。


 もし俺達の手に負えないと判断した場合、こいつを街から出るよう説得するのは骨が折れそうな予感がする。


 レガシーもそれに気付いたらしく渋面をしていた。


「んん〜、どうしたものか……」


 俺は腕組みをして首を捻る。


「行けるところまで行ってみて、助けられそうなら助ける。無理そうなら人を呼ぶってことでどうだ?」


 レガシーが全員で行動できるように妥協案を提示してくれる。



 救出にはスピードも重要になってくるので、人を呼ぶのは最後という考えなのだろう。これならチンピランの性格なら我慢してくれるだろうし、ザコーダも説得し易い。


 だが、俺には少し気になっていることがあった。


「人……ねぇ。この街の人ってことか?」


「ああ、最悪の場合でも憲兵とかに呼びかければ協力してくれるだろ?」



 救援や増援を呼べるのであれば選択肢が増えるのだがここは辺境の街、簡単に助けが呼べる環境ではない。それでも街の人間になら助けを求めることも可能かもしれない。だが、それに関しては俺はあまり気が進まない。


 逃走中もずっと考えていたのだが…………。


 なんというか……、あの狼人間達がどこから現れたのか。


 なぜ、全員服を着ているのか。


 なぜ、これだけ騒動が起こっているのに街の中がこんなにも静かなのか。


 その辺りのことを考えると街の人間はこのことに関しては最低でもグル……。


 最悪、あの狼人間達が…………。



 もしそうなら、街全体がそうなっている可能性もありえる。


 その場合だと街の出入り口付近もがっちり固められていて、外に出られない可能性も出てくる……。


 俺はそこまで考えてレガシーにもその考えを伝えておいた方がいいと考え、口を開いた。



「お前はあの狼人間達がどこから来たか分かるか?」


「そりゃ街の外からじゃないか?」


「俺は街の人が変身した姿じゃないかと思っている」


「変身……か……」


 俺の言葉を聞いて何やら複雑な表情をするレガシー。



「あれだけの数が現れたのに、いくらなんでも街の中が静か過ぎる。それに服を着てたしな」


「つまり、街の人に助けを求めるのは難しいってことか。その場合だと街の出入り口が封鎖されているかもしれないな……」


「俺もそう考えた。最悪逃げるのも苦労しそうな感じってわけだ。更に人を呼ぶなら宿場町辺りまで戻る必要が出てくるが、そうなると時間が経ちすぎて攫われた奴らがどうなるかわからん」


「つまり俺たちだけで助けられないと判断した場合は攫われた奴らは助からないってことか」


「そうなる可能性が高いな」


「まずいな……」


 ……重い沈黙が訪れる。


「何をそんなに心配しているんだい? 僕がいれば大丈夫だよ!」


「そ、そうか」


 そんな沈黙を自信満々の表情をしたザコーダが破る。



 その自信は一体どこから来るものなのだろうか。


 当てにして大丈夫な自信なのだろうか。


 俺はここに来るまでザコーダが戦闘しているところを一度も見たことがないので、当てにしていいのかどうか全く分からない。


 ただ、見た目は全体的にぽっちゃりしているし、腹回りはこれでもかってくらいビール腹なので、外見からは鍛えている印象は全くない。皆無だ。


 今の状況でこいつを頼りにしすぎる度胸は俺にはない。


 ペーパードライバーの運転で高速に入るようなもんだ。


「助けてもらって悪いが俺は抜けさせてもらうぞ」


 次に発言したチンピランは別行動をすると言い出す。


 多分それはかなり難しい、今の会話では分かりにくかっただろうか。


「チンピラン」


「何だ?」


「一人で街から出られるか? さっきの俺達の話を聞いていれば分かると思うが、街中に狼人間がいる状態だぞ? それに、もし出入り口が封鎖されてたら詰むぞ」


「……ッ」


 俺の意見を聞いて不幸な未来を想像してしまったのか、チンピランが息を詰まらせる。



 現状では一人でここから街の外まで向かうのはかなり難易度が高い。


 ぶっちゃけ難易度的には攫われた人たちがどこにいるか突き止めるのと大して変わらないだろう。


「何か用事があるようだが悪いことは言わん、俺達と行動した方が生存率は上がるぞ?」


「……ここで死んだら元も子もない。分かった、よろしく頼む」


 チンピランは少し迷ったようだったが俺達と同行することを選ぶ。


 問題はザコーダの方だが……。


「そうと決まったら攫われた人達を捜しに行こう!」


 やはりザコーダは攫われた人達を救出したいようで、それの一点張りだった。


「あ、ああ。じゃあ捜すわ」


「おい、いいのか?」


「ああ、助けられるなら助けてしまって戦力を増強しよう」


 俺がザコーダの意見に賛成すると、レガシーが本当にそれでいいのか確認してくる。



 ザコーダやチンピランみたいに助け易いシチュエーションもあるだろうし、こうなったら助けるだけ助け出して集団で脱出を図った方がいいかもしれない。


 人数が増えればできることも増えるはずだ。


 それに俺だってできるなら見捨てたくないという心情もある。



 とにかくここでいつまでもザコーダと言い争っていると逃げることも助けることもできなくなってしまうだろうし、止むを得ない。とにかく進まないとまずい。


「人命がかかっているんだ、急いでくれたまえよ!」


 ふふんと鼻をならし、得意気に指示を出すザコーダ。



 何もしていないのにこのドヤ顔……。


 俺はザコーダの頭頂部に生えたそよ風に揺れる雑草を引っこ抜きたい衝動を必死に我慢しつつ、【気配察知】を使用して辺りの気配を探る。



 するとおあつらえ向きに集団で移動する気配を見つけた。


「集団で行動する気配を感じる。こっちだ……」


 俺は集団がいる方向を指差しながら皆を案内するようにして進みはじめた。


 …………


 集団の気配はやはり誘拐した人達を担いで移動する狼人間達だった。


 見つからないように距離をおきながら後をつけると、皮袋を担いだ狼人間達は街の外れにある巨大な施設へと入って行く。



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