3 第二行き倒れ発見
「おい、あれ……」
俺がチンピランの状態を気にかけているとレガシーが街道の先を指差して固まっていた。
その指差す先を見て俺も固まる。
「ぇ〜……」
レガシーが指した先には行き倒れが倒れていた……。
二人目だ……。
どうやら今日は行き倒れの引きがいいらしい。
こういうどうでもいいところで自分の運が浪費されている気がしてならない。
しかも今度の行き倒れもまたおっさんだった。
うつ伏せに倒れた頭がこっちを向いていて、その頭部がトゥルンとしている。
両サイドにはまだ頭髪が残っていてタレ耳の犬のようだ。
「どうする? 放っておくか?」
「いや、今更一人も二人も一緒だろ……。助けようぜ」
「わかった」
二人目の行き倒れも助けることにして全員でその場へと急ぐ。
「まさか俺以外にも行き倒れがいるとはな……」
チンピランもこんな近くに自分と同じ境遇の者が居たことに驚いている様子だった。
「おい! 大丈夫か!」
「う……ん」
「お、こいつも軽傷っぽいな」
レガシーが近付いて肩を揺するとまるで寝起きのような反応が返ってきた。
簡単に意識が戻ったことから、こいつも軽傷なのだろう。
「水飲めるか?」
俺は既視感を覚えながら水の入ったコップを差し出す。
「ありがとう……」
男は朦朧としながらも起き上がってコップをひったくるように受け取ると水をがぶ飲みしだした。
「大丈夫か?」
とりあえず声をかけてみるも無心で水を飲み続ける男。
しばらくしてコップの水を全て飲み終え、やっと落ち着いたのか男は少しほっとした表情をしているように見えた。
なんか数分前にもこんなほっこりした表情を見た気がする……。
デジャヴだろうか……。
そんなことを考えていると男が顔を上げた。
「いやぁ、助かりました! 僕の名前はザコーダ。オカミオの街を目指していたんだけど仲間とはぐれちゃってね。いつの間にか森を彷徨うはめになって何とか街道に戻れたまでは良かったんだけど、食料が尽きて倒れちゃったんだ。ありがとう」
男の名前はザコーダというらしい。
見た目は一言で言って、おっさんだ。
髪が薄く、いわゆるバーコードヘアで体型は中年太りという言葉がよく似合うビール腹をしている。
さっきは倒れていたので髪が移動して頭皮があらわになっていたが今は綺麗にセットされてバーコードになっていた。
この状態の人に無駄なあがきをするなとか言うと掴みあいのケンカに発展する恐れがあるので、髪のセットに関してはそっとしておく。
そんなザコーダの装備は金属の鎧と腰に片手剣を差していた。
その格好は文字で表示するとごく普通の冒険者を思わせるのだが……、見た目がちょっと普通じゃない。
なんというか安っぽい感じで派手なのだ。
例えるならロールプレイングゲームで漆黒暗黒剣士とか神聖聖天騎士とかそんな肩書きが付きそうなほどに妙にトゲトゲしてる感じだ。
僕が考えた最強の剣と最強の鎧を装備した“さいきょうのぼく”みたいな感じだ。
それを中年太りでバーコードヘアのおっさんが着込んでいる。
……凄まじい存在感だ。
これは多少距離が離れていても一発で誰か分かるレベル。
迷子にはならなさそうだが一緒に歩きたくはない……。
「お、おう」
そんな外見に気圧されてお礼を言われたのに言葉に詰まってしまう。
あと、行き倒れの理由はなんか似たようなのを少し前にも聞いた。
デジャヴだろうか。
「まあ僕って結構強いんだけど、こういうときって何の役にも立たないよね」
「そ、そうか。パンでも食うか?」
「腹ペコだったんだよ! 助かるよ!」
ザコーダは誰も聞いてないのになぜか自分が強いアピールを挟んでくる。
この見た目とこの感じ…………かなりやばい。
濃厚なデンジャースメルがする。
俺がちょっと動揺しながらもパンを見せると、ザコーダは飢えた獣のような速度で奪い取って貪りはじめた。
「本当に助かったよ。もし強いモンスターが出たら僕に任せておくといいよ! 助けてもらったし、今回は護衛料も無料にしておくよ!」
「おう、そのときは頼むわ」
街道でモンスターがほとんど出ないことは誰でも知っていることだがザコーダは街道でモンスターが出たら任せてくれと言う。しかも無料でいいと言う。
借りを作っておきたいのだろうか。
レガシーの方を見ると“やっちまうか?”みたいな顔をしてくるので“我慢しろ”みたいな顔を返しておく。
……街は近い、ここはやり過ごすべきだ。
「じゃあ、行こうか。ところで君達の名前を聞いてもいいかい?」
そんな俺達の葛藤など露知らず、ザコーダは俺達の名前を聞いてくる。
「あ〜、俺はケンタ、そっちはレガシー」
「よろしくな」
とりあえず俺達は簡単な挨拶を済ませ、チンピランの紹介へと移る。
「そんであんたと一緒で少し前まで行き倒れだったそいつがチンピランだ」
「チンピランだ。よろしく頼む」
俺の紹介を受けて軽く頭を下げながら挨拶するチンピラン。
顔は厳ついが会ったときから普通に礼儀正しい人だ。
……妙に思いつめている感じはするけど。
「あはははっ! 君、行き倒れだったんだ! 格好悪いね! まあ僕はたまたまだったんだけど、こんな街道で倒れるなんて恥ずかしいことだよ! あはははっ」
が、ここでザコーダが自分のことを棚に上げ、チンピランのことを指差しながら笑い出す。
こいつは俺達と仲良くやっていくつもりがあるのだろうか……。
「そうだな、自分の無計画さが恥ずかしいよ」
チンピランはそんなザコーダの挑発的な物言いにも動じず大人な対応をする。
怒りを我慢して合わせているというより、自嘲気味な感じで返事をする辺りに器の大きさを感じる。
だがスキンヘッドに眉なしのおっさんのため、どんなに真摯な物言いでもビクッと身構えてしまう俺は小心者。
「全くだよ。次はちゃんと準備した方がいいよ? 何なら僕がレクチャーしようか?」
しかし、ザコーダはそこへ更に伊豆石を一枚追加するような発言をしてくる。
バーコードでビール腹で中二テイスト溢れるギザギザアーマーを着たおっさんが、だ。
もし俺がチンピランなら激高して容赦なくバーコードを引き千切ってレジを通れなくしていただろう。
「ああ、それもいいかもな……」
そんな俺とは大違いのチンピランはフフッと黄昏た顔で遠くを見ながら相づちをうっていた。なんとも余裕のある仕草が渋さを二割り増しくらいにしている。
(おー、俺もあんな余裕が欲しいわ)
そんなチンピランを見て、いつも余裕のない俺はちょっと羨ましくなってしまう。
元の世界にいたときは俺の周りにああいったタイプの人間はいなかった。
俺も含めて全員余裕なんて皆無だった。
みんな寝るときさえ時間に追われていた気がする。
俺もこっちの世界に来て生活が変わったわけだし、ここは一念発起してちょっとああいう立ち居振る舞いを目標にしてみるのもいいかもしれない。
なんてことを考えていると、またザコーダがチンピランに向けて口を開く。
「うんうん、そうした方がいいよ! ところでその頭と眉は剃っているのかい? それとも禿げているのかい? ツルツルじゃないか! まあ僕は幸運にもそういったこととは無縁だけど、それじゃあモテなさそうだね!」
がっつくように相づちをうち、更に畳み掛けるようにチンピランの頭部について攻め入るザコーダ。
なんとも遠慮のない物言いが大人気なさを加速させる。
しかも自分の頭部は何ともないと耳を疑うようなことを言ってくる。
もしかするとあいつの家には鏡がないのかもしれない。
「これは半々だな。伸ばすとあんたみたいにむらがある感じになっちまうから剃ったんだ」
「僕みたい? 僕はなんともないよ? 何を言っているんだい?」
「そ、そうか。悪かったな」
「何を謝っているんだい? 何も謝ることなんてないじゃないか!」
そんな遠慮のない問いかけにも丁寧に答えるチンピランだったが、その答えを聞いて自分はなんともないとザコーダがヒートアップしはじめる。
ザコーダが自分で振って全身でブーメランを受け止める様を傍観していたが、これ以上髪の話をするのはまずいと判断し会話に混ざることにする。
「そ、そろそろ行こうぜ」
とにかく空気が悪いので会話をぶった切って先へ進むことを提案する。
「だ、だな。あんたらも案外ピンピンしてるみたいだし、少しペースを上げていこうぜ」
すると察したレガシーもそれにのっかってくれた。
ちょっとほっとする。
「ああ、俺も街には早く着きたいんだ」
「まあ僕がいれば安心さ! なんていっても僕は凄い強いからね!」
俺達の言葉を受けてチンピランとザコーダも髪から街へ向かうことに意識が向く。
冴えない顔をした俺、悪魔顔のレガシー、ハゲの眉なしで髭を蓄えたチンピラン、中二アーマーを着込んだバーコードのザコーダという珍メンバーの四人は顔を合わせて頷き合うと街へ向けて進み出す。
(なんて華がないメンバーなんだ……)
俺は一番後ろで三人の背を見ながら自分のことは棚に上げてそんな思考が脳裏を掠める。
この辺りは本来なら俺以外は全員女子で埋め尽くされなければならないはずなのに……。
どこで間違った……。
(ちょっと俺以外を性別変換してみるか)
もし俺以外が全員女性だったなら、それは間違いなくハーレムと言えたはずだ。
なら、今のメンバーを頭の中で女性に置き換えてみれば擬似的にはそうなるはず。
淋しい話だがこうなったら想像の中だけでも華やかな旅を楽しんでみたい。
そう思った俺は早速イメージしてみる。
(んんん〜? こんな感じか?)
…………冴えない顔をした俺、悪魔顔の女魔法剣士、スキンヘッドで眉なしのアマゾネス、中二アーマーを着込んだビール腹の女騎士……。
(あれ? 更に酷くなったような……)
ハーレムっぽくイメージしてみるも何かが決定的に違う気がする。
美少女恋愛シミュレーションゲームと思って開封したら翻訳もないガチの洋ゲーで益荒男系女子がてんこ盛りだった、ってくらいの落差を感じる。
ちょっと消費者センターに電話入れないといけないレベル。
こうなってしまうのも俺に主人公オーラが足りないせいだろうか。
「おい、置いてくぞ?」
「悪い、ちょっと考え事してたんだ」
俺がハーレムについて真剣に没入しているとレガシーの言葉で我に返る。
実際問題、冒険者の俺が女性に縁がある場合となると今イメージした通りの洋ゲーアマゾネスの皆さんになる確率が非常に高い気がする。
いや、国外へと逃亡する身となった今はそんな人と知り合えるかも疑わしい……。
一体他の異世界へ転生、転移した皆さんはどうやって美少女と知り合っているのだろうか。
結局何がどう転ぼうとも俺には華やかさなんて無縁だということがよく分かった気がする。
…………あれ?
………………眼から涙が。
そんな益体のないことを想像し終えると俺は全てを振り払うかのように歩くのを再開し、レガシー達へと追いつこうと足を速めた。
…………
それから数日が経過したある日、眼前に街と呼べる塀に覆われた建物群が見えてきた。




