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2 ロマン



 俺はレガシーの肩から手を放し、片方のキラーウルフへと駆け出す。


 戦闘開始だ。




 スキル発動に充分な間合いに到達した俺はキラーウルフの後ろ足目掛けてドスで【居合い術】を放つ。


【かまいたち】でコーティングされ【暗殺術】で威力が上昇した【居合い術】は、たちまちキラーウルフの片足を切り落とした。そこでドスを鞘に戻さず【短刀術】に切り替え、もう片方の後ろ足を斬りつける。流麗な斬撃は素早く足の腱を数回切り裂く。


 俺は、バランスを崩し不自然に倒れるキラーウルフの正面に向けて【縮地】で一気に移動し、首から頭にかけての部分に【張り付く】を発動させて飛び乗る。


 後は張り付いた状態を維持してドスで頭部を滅多刺しにして終わらせた。



 大型のモンスターは頭が固い傾向にあるが、強力なドスの連続突きなら通すことが可能だった。もし、刃に影響があったとしても自動修復されるらしいので問題ない。


(レガシーは!?)


 こちらは無事済んだがレガシーが気になり視線を素早く向ける。



 すると、レガシーとキラーウルフの戦闘はまだ継続中だった。


 キラーウルフに不意打ちである程度傷を負わせることには成功したようだったが止めを刺すまでには至らず、正面から戦う構図へと変化していた。


「グウオオオオオオオオン!」


 俺が顔を向けた瞬間、丁度キラーウルフがけたたましく咆哮を上げながらレガシーへ向けて突進していく。


 そんな中、レガシーは片手剣を軽く引いた構えからキラーウルフが相当離れているにも関わらず突きを繰り出した。



(何やってるんだ! それじゃ当たらねえだろ!?)


 俺は慌てて手甲から鉄杭を抜き出してキラーウルフへと投擲しようとする。


 が、次の瞬間、俺は鉄杭を投げようとした姿勢のまま固まってしまった。


「くたばれッ!!!」


 レガシーが気合の一声と共に突きを繰り出した剣が不自然に伸びたのだ。



 横縞のように入っていた切れ目から綺麗に分断し、突きの軌道上をなぞるように鋭い勢いを殺さずに剣が突き進む。


 伸びた剣は大口を開けたキラーウルフの口内を突き破って首裏からにょっきり生えた。


「フレイムアローーーッ!」


 キラーウルフが突きを受けて停止したところへ畳み掛けるようにしてレガシーは空いた手で魔法を発射する。


 炎を圧縮したように朱色に輝く矢は剣で閉じれなくした口内から侵入し、キラーウルフの頭部を爆散させた。


 頭部を失ったキラーウルフは一拍おいて崩れ落ち、短く痙攣すると動かなくなった。


「ふぅ……」


 剣を引き戻して鞘に収めたレガシーが一息つきながら手の甲で額を拭っているところへ俺は駆け寄る。


「すっげ! 何それ!」


 レガシーの技に素直に驚いてしまう。


 後こいつ、何気に魔法も使ってやがった。


 侮れない男だ。


「へへっ、こいつが俺の獲物、魔法剣だ。しかも伸縮自在ってだけじゃないんだぜ? 見てな」


 そう言って持っている剣を見つめながらレガシーが軽く集中すると剣の先端部分からジャコンと鈍い音を立てて無数の棘が勢い良く飛び出してきた。


 それを見せびらかしながら得意気な顔をするレガシー。



 何そのウェポン……エグ過ぎるんですけど……。


「先端部分だけでも刺されば棘を射出して引っ掛けることができるんだ。多少急所を外してもこいつで大体のやつは死ぬな」


 無数の棘がギラリと光る。


(引き抜けないですもんね……)


 俺が呆然としているとまた鈍い音とともに棘が収納され、元の剣の状態に戻る。


 どうやら棘を引っ込めることも自在に出来るようで引き抜くのも簡単そうだ。


 ギミック付きの武器とかちょっと羨ましい。



「でもあれだな、魔法剣っていったら、てっきり炎の剣とか氷の剣みたいなのを想像してたけど違うんだな」


「あ? なんだそりゃ?」


「いやいや、魔法の剣つったら刀身が炎や氷の魔法で出来たやつって鉄板じゃん?」


 俺のイメージだと魔法剣っていったらやっぱり炎そのものが刃になった剣とか水や氷が刃になったものを想像してしまう。


 レガシーの蛇腹剣もかっこいいけど微妙にイメージとずれる。


「う~ん、刃が炎だと相手の攻撃を受け止められずに素通りするんだよな……」


「そこはほら! マジカルなパワーでどうにでもなるだろ?」


「確かに、形状だけでなく性質も鋼の刃と同等にすることはできる。だが、それは余分な魔力を使うことになるわけで、燃費が悪いんだよな」


 レガシーが夢も希望のないことを言ってくる。


 こいつはロマンが分かってない。



 でも、言われると確かにそんな気もする、例えるならガスバーナーや火炎放射器を振り回すようなものだ。


 ブンブン振り回して髪の毛に引火したら笑えない。


 あと夏場とか大変そう。



「いや、まあ……あるにはあるんだぞ? 今は事情があって使えないが、俺も以前は鎖や斧を形成する魔法を使ってたしな。ただ、それほど使い勝手がいいわけじゃあないんだ」


「そ、そうか……」


 レガシーの冷静な分析にがっかりする俺。


「魔力の塊をその場に保持し続けるわけだから消耗が激しいんだよ。その分威力は高いが、気軽に使えるものじゃないな。いわゆる大技ってやつだ」


 聞けば聞くほど実用性がない。


 その点レガシーの魔法剣は刃を分断して操るときだけしか魔力は使わないので省エネなんだろう。


「ロマンが……」


 属性魔法を帯びた剣ってファンタジーでは鉄板だっただけにちょっとがっかりだ。


「まあ、こいつだってイカすだろ?」


 そんなことを言いながらレガシーは自身の蛇腹剣を構えて見せる。


「確かにそれはそれでロマンだな!」


 言われてみれば蛇腹剣もロマン武器だ。



 蛇腹剣なんて元の世界ではゲームとかには存在しても実物での再現はまだまだ不可能だろう。


 こんなものが見れるのも異世界ならではだ。


「分かってんじゃねえか! まあ、お前なら特別に“お願いします助けて下さい、レガシー様”って言ったらコイツですぐ助けてやるよ」


 自身の武器を褒められて気を良くしたのかレガシーは俺の肩を叩いてニカッと笑った。


「誰が言うかよッ! お前こそ“弱い僕を助けて下さい、ケンタ様”って言ったらすぐさま俺が駆けつけてやるよ!」


 俺は肩を叩き返しながらニカッと笑い返す。



 こいつは時々どちらが強いのかを誤解している節がある。


 助けられるのはどう考えてもレガシーの方だろう。


 俺がこいつに助けられる絵面とか想像できない。



「ハッハッハ、面白いこと言うな! 俺の方が強いのに大した自信だな?」


 俺に対抗意識を燃やしたのか肩を叩く力を増しながらそんなことを言ってくるレガシー。



「まあ、武器はロマン溢れているが敵を倒す速度は俺の方が上だったしな」


 俺はレガシーの肩を叩く力を二倍増しにして叩き返しながら事実を言う。



「お前にも俺の蛇腹剣の雄姿が見れるようにちょっと手加減したんだよ!」


 レガシーの武器は確かにロマン溢れるが実用性でいえば俺の戦法の方が上だ。


 キラーウルフを倒した速度がそれを物語っている。


 何か言い訳しているがこの事実は揺らがない。



「はいはい、行くぞ?」


「今度はちゃんと本気出してお前より早く倒すからな!」


 舌戦に勝利した俺は噛み付くレガシーをあしらいながらオカミオの街を目指す。


 …………


 キラーウルフを倒した後は特に異常もなく、スムーズに街道を進むことができていた。



 だがそんな状態は長続きせず、前方に何かが見えた。


 少し遠いせいかよく見えないが地面に何かあるのがうっすらとわかる。


 レガシーはそれが何か分かったようで立ち止まった。



「おい、人が倒れてるぞ」


 立ち止まったレガシーが指差しながら俺に前方にあるものが何か教えてくれる。


 俺にもなんとなくわかるがはっきりとは見えない。


 どうやら視力はレガシーの方が良いようだ。



「行き倒れか……、あんまいい思い出がないんだよな」


 行き倒れには以前遭遇したことがあるが、そのときは酷い目にあった。


 今回は大丈夫だろうか。


「どうする? 放っておくか?」


「一応助けるか。まあ手に負えないほど重症だったら放置で」



 あんまり見過ごすのも気持ちのいいものではないし、軽傷なら助けることにする。助けた奴が面倒臭い性格だったとしても、しばらくすれば街に着くはずだし長期間一緒に行動するはめにもならないだろう。


 もし重症なら俺達にできることはない。


 最後の言葉を聞いてやるくらいなら構わないが、死体を街まで運ぶのはトラブルに巻き込まれるかもしれないので御免だ。


「分かった」


 短く返事をして頷くレガシー。


 俺達は行き倒れにゆっくりと近付く。



「おい! 聞こえるか!」


 うつ伏せに倒れている行き倒れに近付き、声を張って呼びかける。


 近くで見てみると倒れていたのは冒険者風の格好をした男だった。


 男は俺達の声に反応してぴくりと身を震わせる。


「う……ん」


「お、大丈夫っぽいな」


 声をかけてすぐ返事が返ってきたので案外元気なのかもしれない。


 男は俺達の声に気がついて顔を上げるとずるずると体を起こし、その場に座り込んだ。



「水飲めるか?」


 俺がすかさず水の入った木のコップを差し出してみる。


 すると男は無言でコップを奪い取ると勢いよく飲み干す。


 一息つけたのか男は少しほっとした表情で俺達を見上げると口を開いた。


「助かったよ、俺はチンピラン。オカミオの街を目指してたんだが、街道の途中にすげえモンスターがいたんだ。そいつを避けるために街道を外れて街を目指すことにしたんだが、道に迷っちまってな……。なんとか街道には戻ることができたんだが途中で食糧が尽きちまってこの様さ。感謝する」


 男の名前はチンピランというらしい。


 ……まあ、おっさんだ。


 顔には細かい刀傷があり、スキンヘッドで眉もない。それを補うかのように髭をたっぷりたくわえた厳つい外見をしている。



 装備は使い込んだ革鎧に身を包み、腰には片手剣を差していた。


 そんなおっさんが水を飲んで一息つけたのかちょっとほっこりした顔で礼を言ってくる。


 元の世界ならどんなにほっこりした表情を見せようが絶対近づけない顔立ちだ。


「おー、街道に戻れてよかったな」


 話に出てきたすげえモンスターっていうのはやっぱりビッグキラーウルフのことだろうか。


 確かにあれがいたら街道を外れて迂回するしかないだろう。


 あれをやりすごすとはこのおっさんも中々運がいいようだ。



「ああ、ほとんど運だったよ。あんたらに拾われたのも運が良かったとしか言いようがない。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ……!」


 チンピランは険しい顔でそんなことを言う。


 妙に固い決意を感じるが、何か依頼でもこなしている途中なのだろうか。



「まあ、街ももうすぐだろうし一緒に行こうぜ。俺はケンタ、あっちはレガシーだ」


「レガシーだ。よろしくな」


「すまん、よろしく頼む」


 俺達は簡単に挨拶を済ませると、三人でオカミオの街を目指すことにして歩きはじめた。


 …………


 街道を進みながらも後ろが気になった俺は振り返ってチンピランに声をかける。


「大丈夫か? 少し休むか?」


「問題ない。ここで休むより街まで行って休んだ方が体にも良いしな」


 チンピランの体調が気になって度々休むか聞いてみているのだがその度に大丈夫だと断られてしまう。


 正直さっきまで行き倒れていたんだからあんまり無茶しないでほしいのだが、どうにも街に早く着きたいようで頑として休憩しようとしないのだ。


 だが、チンピランの様子を見ると呼吸が浅く、息も絶え絶えといった感じでかなりつらそうだ。


 返す言葉も最低限といった感じだし本当に大丈夫なのだろうか。



「おい、あれ……」



 俺がチンピランの状態を気にかけているとレガシーが街道の先を指差して固まっていた。


 その指差す先を見て俺も固まる。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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