1 久しぶりの主人公で緊張するケンタ
本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。
あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。
秋の緩い日差しを受けながら長い長い街道をただただ進む。
気温は夏に比べると確実に落ち着いてきたが日が暮れるのはまだ遅いので今の時期が一番過ごし易いかもしれない。
夕方には一面が茜色に染まる空を一望でき、なんとも穏やかな気持ちになれる。
とはいっても今はまだ朝なので、そんな情景を楽しむのはしばらく先になりそうだ。
本来なら逃亡中の今は緊張感を持って一秒でも早く先へ進んだ方がいいのかもしれない。だが、いつ終わるともしれない旅路でそこまで精神を磨耗させるのもどうかと思い、のんびりやっている。
ここまでのんびりできるのも俺達の脱獄のインパクトが薄れてくれたお陰だろう。
全ての注目を一手に引き受けてくれた革命家には感謝せねばなるまい。
ただ、いくらのんびりとはいえ、街道にもたまにモンスターが紛れ込むので時々【気配察知】を使ってのチェックは怠らないようにしている。
最後に周囲の気配を探ってからしばらく歩いたし、そろそろ再度チェックしておいた方がいいだろうと思い、俺は同行している男に声をかけた。
「ちょっと止まってくれ」
俺は少し前を進んでいた男に声をかけてを引き止める。
「分かった」
立ち止まって返事をした男の名はレガシー。俺と共に脱獄した男だ。
髪は銀髪、肌は浅い褐色、服装はジャケット姿だ。
外見的特徴がこれだけなら割と目立たない存在だと思うのだが、こいつには人目をひく尖った特徴が二つ存在していた。
それが顔にある角の刺青と黒く染まった眼だ。おまけに本来瞳の黒目にあたる部分は真っ赤ときている。角の刺青と黒い眼という二つの特徴のせいでどうにも悪魔を連想させてしまう厳つい外見なのだ。
といっても性格はいたって温厚で律儀な部分もあり、面白い奴だ。
ぶっちゃけ外見で損をしているとしか思えない。
「辺りの気配を探るのか?」
俺の言葉を受けたレガシーが振り返って聞いてくる。
「ああ、ちょっとやっとくわ」
俺はレガシーが立ち止まったのを確認すると、辺りの気配を探るために【気配察知】のスキルを発動させる。
【気配察知】のスキルは自身の周辺にいる生物の気配を探ることができるスキルだ。
ただ、少し集中する必要があるので動き回ったりしながら使うことは難しい。
そういう欠点もあるが目視で確認できない部分まで生物の場所が把握できるので、モンスターの不意打ちを避けるのにとても重宝している。
(さて……、どんな感じかな。ここのところ、やたらとモンスターに遭遇するんだよな……)
どうにもここ最近、オカミオの街が近づくにつれて街道でのモンスターの遭遇率が高くなってきているのだ。
街道には等間隔に結界石が設置されていて、モンスターがそれを嫌って近寄らないようにされているのだが、この近辺ではそれがあまり機能していない。
今まではそんな経験がなかっただけに何度か危険な遭遇の仕方をしてしまった。
そのため最近は念のために適当なタイミングで周囲の気配を探るようにしているのだ。
「どうだ?」
「……いるな。キラーウルフが二匹だ」
【気配察知】にはモンスター二匹の気配が引っかかった。
このスキルは何度か戦ったことのあるモンスターならその気配の正体が分かる。
モンスターと人との判別もつくがその気配はぼんやりとしたものなので、性別や人物を特定するほどの精度はない。
また対称の大きさに関してもはっきりと分かることはない。
分かるのはあくまで気配のみだ。
今回捉えた気配はキラーウルフのようだった。
「おい……、キラーウルフってまたデカいのとかじゃないよな?」
レガシーが嫌なことを思い出したかのようにちょっとうんざりした顔で俺に聞いてくる。
「大きさは見てみないことには分からん。位置関係が微妙だからやり過ごしても後で気付かれてしまう危険があるし、どのみちやらないとまずい」
見つかった気配はかなり街道に近い。
今までのパターンからいって見つかるとこちらへ襲い掛かってくる可能性大だ。
ここは積極的に倒してしまった方が安全だろう。
「まじか……」
「他の気配はないし、なんとかなるだろ」
レガシーは対象がキラーウルフと分かってからどうも乗り気ではない。
その理由は、少し前にキラーウルフの気配を見つけ、軽い気持ちで倒そうと近付いたら一回りデカイ個体だったという事があったのだ。
本来俺達の強さなら危険はない相手といえるキラーウルフだが自動車サイズのそれはただ大きいというだけで脅威が跳ね上がった。
そのときレガシーは単独でその個体に向かったため全力で逃走するはめになった。そのため、ちょっとした苦手意識が出るほどにはトラウマになっていたりする。
まあ、その後更にデカいバスサイズのキラーウルフとも遭遇したが、俺はあれをキラーウルフとは認めない。
なので俺の中で一番大きいサイズといったら自動車サイズだ。
しかし、【気配察知】ではそこまではっきりしたことは分からない。
大雑把な判別と位置関係が分かるだけだ。
残念ながら、それ以上詳細を知りたい場合は実際に行ってみて確認するしかない。
「気配を消して背後から近付く。準備してくれ」
本来なら格下の相手であるキラーウルフに対して万全の態勢で挑むということにちょっとした違和感を覚えてしまう。
(まあ、油断しないにこしたことはないんだよな)
そんなことを考えながら俺はステータスをチェックする。
ケンタ LV15 剣闘士
力 78
魔力 0
体力 32
すばやさ 92
剣闘士スキル (LV4)
LV1 【斧術】 (斧の扱いがうまくなる)
LV2 【槌術】 (槌の扱いがうまくなる)
LV3 【膂力】 (体力の能力値の三割を一定時間力の能力値に変換する)
LV4 【耐える】 (相手の攻撃を受けても姿勢を崩さない)
狩人スキル (LV5MAX)
LV1 【短刀術】 (短刀の扱いが上手くなる)
LV2 【弓術】 (弓の扱いが上手くなる)
LV3 【聞き耳】 (遠くの音や小さい音を聞き分けられる)
LV4 【暗視】 (暗闇でも目が見える)
LV5 【気配察知】 (広範囲に生き物の気配や敵意を察知できる)
暗殺者スキル (LV5MAX)
LV1 【暗殺術】 (敵に気付かれずに攻撃が成功した場合威力が上がる)
LV2 【忍び足】 (足音を消して移動することが可能)
LV3 【気配遮断】 (使用すると見つかりにくくなる)
LV4 【跳躍】 (跳躍力が飛躍的に上がる)
LV5 【張り付く】 (張り付ける)
戦士スキル (LV5MAX)
LV1 【剣術】 (剣の扱いが上手くなる)
LV2 【槍術】 (槍の扱いが上手くなる)
LV3 【剛力】 (すばやさの能力値三割を一定時間力の能力値に変換する)
LV4 【剣戟】 (装備中の武器を使って相手の攻撃を弾く)
LV5 【決死斬り】 (技前後に大きなスキのある威力の高い一撃を放つ)
サムライスキル (LV5MAX)
LV1 【居合い術】 (刀を装備したときのみ使える剣術)
LV2 【疾駆】 (一定時間走る速度が上がる)
LV3 【縮地】 (短い距離を瞬時に移動する)
LV4 【白刃取り】 (武器を装備していない状態で相手の武器攻撃を受け止める)
LV5 【かまいたち】 (装備中の刀から真空の刃を出す)
ニンジャスキル (LV5MAX)
LV1 【手裏剣術】 (手裏剣の扱いがうまくなる)
LV2 【火遁の術】 (火遁の術が使用可能)
LV3 【水遁の術】 (水遁の術が使用可能)
LV4 【鍵開け】 (指定した鍵を開けることができる。開けた鍵は閉めることも可能)
LV5 【変装】 (一度会ったことがある人物に変身できる。服ごと変身するか選択可能)
こうやって見ると俺も随分とできることが増えたものだ。
まだまだ敵わないモンスターもいるが、それでも逃げる選択肢も増えたし生存率もかなり上がった。これからの旅もなんとかやっていけそうだという気持ちになれる。
俺はステータスを閉じて、腰に差したドスに触れ、刃をコーティングする【かまいたち】と攻撃速度が速い【居合い術】の準備を終え、接近に備える。
「いつでもいいぜ」
こちらの準備が整う頃にはレガシーも準備が完了したようで軽快な返事が返ってくる。俺がそちらへ顔を向けるとレガシーは特徴的なデザインの片手剣を鞘から抜いて握っていた。
その剣は刃がかなり太くて厚みがあり、不思議なフォルムをしていた。
いわゆる重みで叩き割るかのようなデザインだ。
剣の先端を正面に見ると六角柱のような厚さだといえばどれほどの太さか分かってもらえるだろう。
そしてその刃には等間隔に切れ目のような深い溝があり、横縞のようになっている。
その溝で血や油を受けて流すためなのだろうか。
残念ながら俺にはその重さがネックになって使いにくそうだ。
そんな俺の視線を受けてレガシーが首肯する。
「行くぜ」
俺はそう言うとレガシーの肩に触れ【気配遮断】と【忍び足】を発動させる。
「……デカくないことを祈るぜ」
レガシーは軽く身を屈めながら小さく呟いた。
…………
「ダメでした……」
気配を頼りにキラーウルフを視認できる距離まで近付き、その個体を確認した結果、件のデカいキラーウルフと同タイプということが分かった。
今回は自動車サイズが二匹だ。
餌で釣って進路を誘導して戦闘を回避する方法も考えられるが、相手が二匹だと不確定要素が多すぎる。ここは倒しておいた方が無難だろう。
「クソッ、まあこの間見た超デカブツよりましか……」
レガシーが眼前を悠々と歩き回るキラーウルフを見て毒づく。
超デカブツというのはバスサイズのキラーウルフのことを言っているのだろう。
しかし、俺はあれはキラーウルフではないと思う。きっとフェンリルとかそんなのだと思うんだ。レガシーにもしっかりとそう否定しておく。
「いや、あれはさすがにキラーウルフじゃないだろ? 別のモンスターだって」
「ん〜、確かにあそこまでいったら名称が変わるかもな。ビッグキラーウルフとかかね」
「ビッグキラーウルフねぇ……。まあ、あんなのが二匹いるよりは増しか……」
「だろ? ここは分担して一人一匹だな」
俺達の雑談はモンスターの名前の話から討伐の相談へとスムーズに移行していく。あの大きさだと地味に面倒なので簡単な打ち合わせをしておくべきだろう。
「一匹ずつ確実に倒さなくて大丈夫か?」
「二匹に合流される前に短時間で倒せるならそれでいいが、合流されたら混戦になるぞ?」
「一人一匹だな」
レガシーに混戦になる可能性を指摘され、各個撃破に同意する。
「このまま接近してくれ。攻撃がギリギリ届く距離までいったら離れる」
「分かった」
打ち合わせの結果、同時に一人一匹狩ることになった。
準備を終えた俺達は注意深くキラーウルフへの接近を開始する。
キラーウルフに限界まで近付くとお互い視線をあわせ頷きあう。
俺はレガシーの肩から手を放し、片方のキラーウルフへと駆け出す。
戦闘開始だ。




