12 試行錯誤
翌日、俺は二パーティーが森に入るのを確認してから、鉢合わせしないように別方向に侵入する。
【気配遮断】と【忍び足】を使用し、しばらく森を進むとオーク二匹が行動しているのを発見する。
気づかれないように後を着け、攻撃しやすいポイントに移動したのを確認し岩陰へ移動する。
俺は岩陰に隠れ、オーク二匹が通り過ぎるのを待つ。
そんな俺の両手には石が一つずつ握られていた。
握っている石の大きさはペットボトル位だ。
俺はオークが通り過ぎたのを確認すると、岩陰から出てゆっくりと近づき、一番良いタイミングで二匹の頭目がけて石を同時に振り下ろした。
降り下ろした石はオークの後頭部に直撃したが倒れない。
続けて二撃目を当てるとふらついて倒れた。
俺はうつ伏せに倒れた二匹のオークの背に順に馬乗りになって、確実に頭を潰す。
「いけたな……」
なんとか一人でオーク二匹を倒すことができた。
ゴブリンなら石を使って難なく倒せたが、オークだと一撃で倒すのは難しいようだ。これは俺のステータスが低いというより武器の威力が弱いのだろう。
というわけで、事前に考えておいた次の方法を試してみる。
数分後、俺は大きめの石を両手で持って木の上にいた。
眼下にはオークが二匹、こちらに向かって歩いてきている。
スキルで気配を消しているため、オークたちが木の上の俺に気づくことはない。
俺は狙ったオークが木の下を通り過ぎる瞬間を狙って飛び降り、石を振り下ろした。石の直撃を受けたオークの頭部が見事に凹む。
着地後、俺が体勢を立て直す前にもう一匹のオークに気付かれてしまう。
俺は振り下ろした石をそのまま生き残った方のオーク目掛けてかち上げた。
気付かれたとはいえ動きの散漫なオークは対応できず、石は顎に直撃する。
顎を砕かれたオークは白目をむき、そのまま仰向けに倒れた。俺はすかさず倒れたオークへ近づき、その頭部へ石を何度か振り下ろしてとどめをさす。
今度は一撃で行動不能に追い込めたが、場所の確保や二匹目を狙うときが不安定になるため、あまり良い方法ではない気がする。
武器に使う石を重さ重視にしたため、相手に攻撃をかわされたら反撃される恐れがある。
オークは一匹で行動しているものがほとんどいないので二匹同時に不意打ちできるかどうかが鍵となりそうだ。ごついおっさんのように正面から戦って勝てればかっこいいが、怪我したら元も子もない。
ここは【暗殺術】を活かし、敵に気付かれないうちに倒すのが重要だろう。
だが、オークはゴブリンよりタフなため、石を使って一撃で倒しきるのが難しい。
……そろそろ武器を買うべきだろうか。
しかし武器は高額だ。
買った後で大した威力がなかった場合、目も当てられない。
その日はそこで狩りを切り上げ、俺は悩みながら南の森へ帰宅した。
…………
翌朝、オークの討伐部位を剥ぎ取り、ギルドへ報酬を貰いに行った。
今回は慎重に狩っていたこともあり、ゴブリン狩りのときより報酬の合計金額が落ちてしまった。
オークを効率的に倒す解決方法がないかと武器屋を覗いてみるもやはり価格が高い。
俺には弓術のスキルがあるし、弓が使えれば気づかれても敵が近づく前に倒せそうだ。しかし、弓のメンテナンスや矢の補充のことを考えると手が出ない。
うんうん唸りながら店を見て回る。
ここは変化球で武器以外の物に手を出してみるべきか……。
日用品や工具で武器として使えそうなもの……。
そんな物があれば安価で手に入るかもしれない。
思いつくのはオノ、ナタ、ハンマー、ツルハシ、クワ辺りだろうか。
この辺りならメンテナンスもあまり気にしなくてもよさそうだし、武器で使えなかったとしても本来の用途でいつかは使える。
というわけで、武器屋以外で武器候補を探してみる。
色々と武器に使えそうなものを見て回った結果、高いか使い物にならないかのどちらかだった。
ハンマーなどは片手で持つタイプはオークと戦うには小さくて、大きいサイズのものは両手持ちになってしまう。両手で扱うとなると、結局大きな石と大差ない。
クワやツルハシは武器より少し安い程度の値段だった。これだと普通に武器を買った方がいいだろう。
もう少し手頃な値段で手に入るかと思っていたが、消耗品ではないので意外と高価だったのだ。
元の世界であればバールのような物やチェーンソー辺りが化物と戦う定番アイテムだが、異世界にそれらを取り扱っている店はなかった。……当たり前か。
色々と考えてはみるものの良い結果には結びつかず、行き詰ってしまった。
(丸太で振り子の罠でも作って誘い込めば……いや、そこまで考えると無理に倒そうとしているだけだ……)
考えれば考えるほどどんどん安全から遠ざかっている。
「……お、そうだ!」
と、あることをひらめいた俺は街の外に出た。
そして周囲を見て回り、目当ての物を見つける。それは大きな岩だった。
(今まで試したことがなかったけど、こいつをアイテムボックスに放り込んだ後に、木の上に登ってから取り出して落とせばいいんじゃね?)
名付けて落石大作戦だ。相手がオークでも巨大な岩が頭上から落下して来ればひとたまりもないだろう。
というわけで、眼前に転がる巨大な岩を収納しようとしてみる。
「あれ……?」
が、収納できない。アイテムボックスが反応しなかった。
「もしかして入らないのか?」
大きすぎて収納出来ないということだろうか。
俺は、一回り小さい岩を探し出し、再度収納を試みる。
だが、駄目だった。
諦めきれず、サイズを小さくしながら何度も試してみる。
結果、分かった事は――。
「自力で持ち上げられる物しか収納できない……?」
という結論に至った。
はじめは大きさで判定しているのかとも思ったが、石以外の物を収納した時のことを考えると大きさに統一感がなく、ムラがあった。
が、重さで考えるとしっくりくる。
つまり、巨大質量の物を収納し上から落としてモンスターを倒す的なことはできないようだ。
まあ、ちょっと反則っぽいし、そういった部分に対策が施されていてもおかしくはない。……まあ、誰が対策してるかって話になってくると、ゴッド? とかちょっと結論が出ないことになってしまうので、あまり深く考えない方がいいだろう。
「もう、ゴブリンでいいか」
人間諦めが肝心だ。
レベルが上がればオークもそのうち何とかなるだろう。
ベテランそうな兄貴のレベルが8だったことを考えると、ソロで対応するにはその位のレベルが必要になるとみたほうがいいかもしれない。
時間はかかるかもしれないが、ここは地道にゴブリンを狩れということなんだろう。
あまり無理をしすぎると、金銭や食料の問題より命が危険にさらされてしまう。
(うし、ここは基本に帰ろう)
少しでも早くレベルを上げたいという気持ちのせいで焦っていたのだろう。
オーク狩りが上手くいかなかったため、収入も少し減っていた。
それも焦りを助長していたのかもしれない。
ここはまたゴブリン狩りで生活を軌道にのせていくべきだろう。
オーク狩りがうまくいかずに報酬が減った分を取り返す為にも、しばらくはゴブリンを乱獲せねば、そう決意した俺は南の森へ帰った。
南の森へ帰ると早速ゴブリンを探してうろつく。
どこかに手っ取り早く隙だらけのゴブリンが大量にいないだろうか。
などと都合のいいことを考えながら聞き耳のスキルを使いながら森をさまよう。
「アオオン! オン!」
すると犬っぽい鳴き声を【聞き耳】が拾う。
今まで聞いたことのない鳴き声だったので一応確認に行ってみることにする。
近づくにつれ、ゴブリンの鳴き声も聞こえてくる。
鳴き声がひとつではないことから、ゴブリンは複数いるらしいことが分かる。
目視できる距離まで近づいた俺はゴブリンに気づかれないように背後に回り、状況を確認してみる。
するとオオカミがゴブリンに囲まれているのが見えた。
オオカミは抵抗しているが多勢に無勢といった感じでじりじり追い詰められている。
(手っ取り早く大量に倒せそうだな……)
ゴブリンの意識がオオカミに向けられているので、不意打ちしまくるチャンスだ。
そう考えた俺は両手に石を持って忍び寄り、背後から二匹を殴殺すると素早く身を隠し、回り込む。
倒れたゴブリンに気付いた他のゴブリンが死体に目を奪われている間にまた背後から殴殺する。それを数回繰り返してゴブリンを全滅させた。
狙われたオオカミを見てみるも、ゴブリンが全滅したにも関わらず倒れて動かない。様子を窺うと辛そうに浅く速い呼吸を繰り返していた。
よく見てみると首に青い布が巻いてあるのが見て取れる。
(おしゃれさんだな)
誰かが飼っているのだろうか。
だとすると状況によっては俺がオオカミを傷つけたと誤解されかねない。
しょうがないので俺は一つしかないポーションをオオカミに飲ませることにした。ポーションの瓶を開封し、オオカミの口元へ近づけてみる。
動物だし、匂いを嗅いで嫌がるかと思ったがそんなこともなく、すんなり飲んでくれた。これで快方に向かってくれるといいのだが……。
俺が狼にポーションを飲ませ終わった頃、後ろから男の声が聞こえてくる。
「動くな!」
来ましたわー。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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