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21 女子会(異世界) 五

 


 ◆



「真っ白だな……」


 俺は夜空に圧倒され、一人呟く。


 どこまでも広がる夜空には満天の星々が色鮮やかに輝いていた。



 元の世界で星座に興味なんてなかったので、この世界との相違なんかは全然分からない。


 周囲は暗く、頼りになる明かりは目の前のかまどの焚き火のみ。


 辺りは木々がうっそうと生い茂り、朽ちた遺跡群が建ち並ぶだけなので、何一つ光るものなどない。



 そのため星空はより鮮明に、とても小さな星まではっきりと見えた。


 黒く染まった夜空を白く塗り替えるほどの無数の星々が空を彩る。



 火に当たりながら周りを見渡せば、情緒あふれる遺跡群が目に映る。


 いつ頃に建造されたものか分からない石造りのそれらと満天の星空が、なんともいえない雰囲気をかもし出す。


 俺は短く割いた干し肉をかみ締めながら、酒をちびりちびりと飲んで夜空を眺める。


「いいねぇ……」


「だな」


 遺跡にもたれかかりながら酒を傾けていたレガシーが短く同意する。



「お前は国外に出たらどうするんだ?」


 と、レガシーにこの後のことを聞いてみる。


 俺は何も決めていないので、何か参考になるかなといった思いもあった。



「お前がダメと言っても俺はお前についていく、命を救われた借りがあるからな」


「えぇ〜……。金は貰ったし、もういいんじゃないかな?」


「あれは交渉として言っただけで本心じゃない。やはり命を救ってもらって、金だけというのはありえない。二人の方が出来ることも多いし、別に構わんだろ?」


「そう……かもしれない」


 公然とレガシーからストーカー宣言をされてしまう。


 そして押し切られる俺。



 高級布団売りに家に上がりこまれたら、断りきれないレベルの思考力だ。


 まあ律儀なレガシーなら、そう考えてしまうのも仕方ない気もする。


 でも俺としては、バインバインなナイスボディのレディーとチェンジを願いたい。



「まあ、行ってみたいところがないわけじゃないが……、どうしてもというわけでもないしな」


 レガシーは腕組みしながら、自分の考えをポツリポツリと話す。


「そうか、俺はとにかくこの国から出られればそれでいいんだけどね。……おっと、そろそろいい時間だし、とりあえず先に寝てくれ、交代になったら起こすよ」


 レガシーの話は結局あまり参考にはならなかったが、そろそろいい時間なので先に寝ることを勧める。


 今日は俺が先に見張りをする番なのだ。


「分かった。じゃあ先に寝させてもらうぞ」


 レガシーは俺に軽く返すと、横になって毛布にくるまり目を閉じた。


 俺はそれを確認すると、また視線を真上に向ける。


(やっぱすげぇなぁ……)


 星々が輝き続ける夜空を見上げ、酒の入った杯を傾ける。


(うめぇ……)


 遺跡と星空を肴に飲む酒は格別だった。



 …………



 翌朝になり、片付けを済ませると早速街道付近へ戻ることにする。



「そろそろ行こうぜ」


 荷物を持ったレガシーが俺を待たずに先に進みはじめる。


「おう、待ってくれよ」


 俺は少し小走りでレガシーを追いかけて横につけた。



「なあ、オカミオの街ってまだかかるのか?」


 随分日が経ったせいか、レガシーが街に着かないのを気にしはじめる。



「どうだろうな、結構進んだし後少しなんじゃないか?」


 かなりゆったりペースで進行してきたが、そろそろ目的地ではないだろうか。


 一旦ウーミンへ寄ったのも影響して、ここまで結構時間がかかってしまった。



「そろそろベッドが恋しいぜ」


 レガシーがそう呟く。


「だよな。俺も体のあちこちが痛えわ」


 オカミオの街の手前にあると聞いた宿場町には寄れなかったため、ずっと野宿が続いているのもあって、俺もベッドが恋しい。


 なぜ、宿場町に寄れなかったかと言えば、もちろんナッコーさんのお陰である。


 カチロプレスの村で一泊するのは気が休まらないし、野宿続きなのは仕方がない。


 街まで後少しだろうという期待を胸に、俺たちは愛しのベッドを求めて歩き続ける。



 ◆



 そのとき、イーラ、エルザ、ドンナの三人は街道に戻ろうと遺跡から離れるところだった。


 すると近くから何やら話し声が聞こえてくる。


 どうやら遺跡の裏側でも野営していたパーティーがいたようだ。


 三人はトラブルの可能性を考え、自然と身構えていた。


 話し声はこちらへと少しずつ近づいてくるのが分かる。



「なあ、オカミオの街ってまだかかるのか?」


「どうだろうな、結構進んだし後少しなんじゃないのか?」


「そろそろベッドが恋しいぜ」


「だよな。俺も体のあちこちが痛えわ」


 身構える三人の前を、会話に夢中な男二人がこちらには気づかずに横切った。


 三人は横切る二人の男のうちの一人を見て、目を見開く。


 限界まで見開く。



「お前は!」


「貴様は!」



「テメェは!」



「「「ケンタ!」」」


「え?」


 名前を呼ばれた男は、ぽかんとした表情で女達の方へと振り向き、立ち止まった。


 その顔は驚きのせいか、なんとも間抜けな表情で固まっていた。



 だが、そのだらしなく、うだつの上がらない顔が偽物でも人違いでもないことを証明していた。


 三人が捜し求めていた男、ケンタで間違いなかったのだ。


「「「え?」」」



 そして女達もケンタを呼ぶ声が被ったことに驚き、互いに互いを見つめあう。


 三人が三人とも、顔に“どういうことだ?”という表情を浮かべたままでの硬直。



 なぜ名前を知っている?


 知り合いなのか?



 と、尋ねたいことは湯水のように湧いて出てくるのに、声に出せない。


 お互いがお互いを目でけん制し合い、誰が一番に話すのか決めかねる状態になってしまう。



 そんなケンタを含めた四人のあいだに妙な間が発生し、それぞれ何とも言えない表情のまま動きが止まってしまう。


 その静寂を打ち破ったのは、一人残された見知らぬ銀髪の男だった。


「オイオイオイオイ! 何だよオイ! お前も隅におけねぇなぁ! ええ! 何だよ? どういう状況だ?」


 銀髪の男はケンタの肩を揺すりながら、まくしたてる。


「え? いや……、俺にも何が何だか……」


 ケンタの方は目の前の状況が理解できず、うろたえているようだった。



 ◆



 現状を簡潔に説明すると。


 何故かは分からないが、野営の片付けを済ませて遺跡を後にしようとしたら、会いたくない知り合いが三人揃って目の前にいた。


 どういう状況なのか俺が知りたい。


 戸惑う俺を置き去りにして、外見だけは整った三人を前にしたレガシーは益々ヒートアップしていく。


「おい何だよ、あの姉ちゃん! 蠱惑的で小悪魔系な感じだな! 知り合いか?」


 エルザを指差したレガシーが、俺を問い詰めてくる。


「ちょっと……(殺されそうになったので、サメの生簀に引きずり落とした)……な」


 目線をそらした俺は俯いて答えた。


「おい何だよ、あの姉ちゃん! すげえ美貌じゃねえか! 知り合いか?」


 レガシーがイーラを指差し、俺を問い詰めてくる。


「ちょっと……(殺されそうになったので、国家反逆罪に仕立て上げた)……な」


 俺は目線をそらしたまま答えた。


「おい何だよ、あの姉ちゃん! ワイルドかつセクシーな体してんな! 知り合いか?」


 レガシーがドンナを指差し、俺を問い詰めてくる。


「ちょっと……(殺されそうになったので、爆破して滝つぼに突き落とした)……な」


 俺は俯いたまま答えた。


「はぁ……、二度と会いたくなかった……」


 三人を目の前にした俺は自然と愚痴を漏らしてしまう。



 一人でも厄介なのに、三人同時とかどんな嫌がらせなのだろうか。


 三人とも元気そうだし、相手をするとなると、こちらもタダでは済みそうにない。



「おー! 何そのため息! プレイボーイ的な!? 俺、モテ過ぎて困っちゃうとか! もしくはナスシスト的な!? 俺の美貌が恐ろしい的な!?」


 レガシーのキャラ崩壊がとどまることを知らない。


 これ以上喋らない方がいいんじゃないだろうか。



 そんな俺たち二人の様子を見ていたエルザが、すっと前に出てくる。


「アッハ、私はあなたのこと一日たりとて忘れたことはありませんよ? あんな夢のような日々、忘れられるわけがありません」


 エルザはうっとりとした表情で俺に語りかけてくる。


(夢つっても悪夢だろ)


 俺はその夢見たくないわ。なんか目玉抉られたり、鮫に足を食いちぎられそう。


 次にイーラがエルザの言葉に対抗するように、すっと前に出てくる。


「あなたと私の仲なのに、えらく他人行儀ですね。人目もはばからず、あれだけ激しく突きあったというのに」


 イーラは照れくさそうな表情で俺に語りかけてきた。


(剣とレイピアでね)


 突き合うという時点でおかしいから。突かれた、なら俺も何を突いたか説明せねばならないところだった。


 そして最後にドンナが二人に対抗するように、すっと前に出てくる。



「おいおい、つれねぇな。テメェからもらった贈り物のお陰で、こっちはテメェを忘れられない体になっちまったってのによぉ」


 ドンナは“わかるだろ?”みたいな表情で、こちらを見つめてくる。


(爆弾で爆破したもんね)


 今三個あるけど追加でいるか? だが、それはそれで三倍忘れられなくなりそうで怖い。



 三人が順に俺へ熱い想いを伝えてくる。が、俺は能面のような顔で無言。


 返事を返さなかったことから、間が空き、静寂が訪れる。



 そんな静けさを打ち破ったのは、またもやレガシーだった。


「オイオイオイオイ! オイオイオイオイ!」


 レガシーがオイを連呼する機械に成り果てて俺の背中をバシバシ叩いてくる。


 その内三三七拍子とかで叩き出しそう。


「何だよオイ! 三股かオイ! 四角関係かオイ! やるなオイ! 一人譲れよオイ!」



 と、ここでレガシーのキャラ崩壊が終焉を迎えつつあった。


 あと、何気に最後の一言が下衆い。


「一人と言わず全部やるよ」



 当然俺はそれに乗っかり、全額ベット。


 いらん。


 俺が欲しいのはそういう感じじゃないんだ。


 具体的に言うなら、俺を召喚してくれてチート能力をくれる女神とか、召喚先の国で勇者と神聖視してくれる王女とか、理由あり格安奴隷少女とか、モフモフ獣耳美少女とか、百歳オーバーのエルフ幼女とか、ビキニアーマー着た女戦士とか、ツンデレ令嬢とかなんだ。



 決してあんな奴らじゃない。


 断じてないんだッッッ!


 クッソ、イライラしたら全裸で絶叫しながらオシッコしたくなってきた……。



「マジかよオイ! お前すごいなオイ! やるなオイ!」


「レガシー……。落ち着けって」


 ――レガシーがおかしい。


 もしかして俺に隠れてヤバいキノコでも拾い食いしたのだろうか。


 それ以上オイって言うと、目の前の三人に語尾にオイってつける人って誤解されるくらいヤバイことになってる。


 俺がレガシーのキャラクター性について気を揉んでいると、当の本人は喜び勇んで三人の方へ近寄っていく。


「どうもこんにちは麗しいお嬢さん方! 街に着いたら一緒に食事でもどうですか!」



「アッハ、申し訳ありませんが、あなたには興味ありませんね」


「あらあら、私とケンタの仲に割って入ろうなんて図々しいですね」


「テメェはひっこんでろ。これは私とアイツの問題だ」



「オイオイオイ……」


 ちょっとレガシーのオイが弱くなった。


 ここはもう少しオイをチョイ増しにしたいところ。


「諦めんなって! いける! いけるから! ああ見えてグイグイ押されるのに弱いから!」


 グイグイ押されるのは弱点だと思う。


 多分、物理攻撃でグイグイ押し切れば確実に息の根を止められるはず。


「オイオイオイオイ!」


 レガシーオイがちょっと強くなった。


 などと、俺がレガシーのオイをコントロールして遊んでいると、三人から剣呑な雰囲気が立ち込めてくる。


 ……そろそろやばそう。いつ牙をむいて襲いかかってきてもおかしくない空気感である。


「遊びはここまでだ。そろそろ本番といこうぜ」


 俺を睨みつけたドンナは口元を歪ませ、こちらへ向かってこようとする。


「アッハ! あれは私の獲物です!」


 だが、喜色を浮かべたエルザが、ドンナを抜いて俺へと駆け出してくる。


「あらあら、抜け駆けはいけませんねぇ」


 と、そこへイーラが駆け出したエルザへ向けてレイピアを突き出した。


 エルザはその一撃を抜いた刀で受け止める。


「アッハ! 相手が違うんじゃないですかねぇ?」


「さて、どうでしょう?」


 お互い立ち止まり、睨み合うエルザとイーラ。


「おーおー、テメェらがじゃれ合ってる間に、私が相手をしておいてやるよ」


 ドンナはそう言うと両腕を赤黒く変色させ、地を蹴る。向かう先は当然俺である。


「アッハ! 行かせませんよ!」


 しかし、俺へ駆けるドンナを見たエルザが、義手をかざす。


 ドンナへ向けられた義手は掌が開き、筒のようなものが短く飛び出してきた。


 そして短い筒のような物から空気が弾けるような音が鳴り、鉄杭が射出される。



 何アレ……、ちょっと見ない間に凄いことになってるんですけど。


「チッ、邪魔するんじゃねぇ」


 一旦立ち止まったドンナは射出された鉄杭を変色した手で受け止めた。


「あらあら、それでは続きは二人で楽しんで下さい。私はこれで」


「おい、どこに行こうってんだ。あ?」


 鉄杭を投げつけられたドンナがエルザを威嚇していると、イーラがその輪から抜け出そうとする。だが、それはドンナが許さない。ギッと睨みを利かせ、黙らせる。



 女達三人が立ち止まり、三角形上に展開している状態となる。


 イーラがエルザをけん制し。エルザがドンナをけん制。そしてドンナがイーラを睨む。


 完全な三すくみとなっていた。



 これは…………、逃げるチャンス到来だろう。


 こんな連中の相手などしていたら、命がいくつあっても足りん。



「おい! 逃げるぞ!」


 俺は三人の様子を食い入るように見ていたレガシーの肩を掴むと走り出した。


「オイオイオイ! アレか!? 修羅場ってやつか! 刃傷沙汰ってやつだな!」


「違うわ!!」


 決して“お願い! 私のために戦わないで”って状況ではない。


 俺は後ろを振り返らず、全力で駆けた。



 ◆



「アッハ、その剣をどけてくれませんか? 行ってしまいますよ?」



 エルザの視線は離れ行くケンタに釘付けとなっていたが、イーラとの鍔迫り合いは続行中のため、動くことが出来ない。





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