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19 女子会(異世界) 三

 


 ◆



 イーラ、エルザ、ドンナの三人は協力関係を結び、街道を進むこととなった。



 当初、その進行速度はかなり遅いものだった。



 それは噂のモンスターを警戒したというのもあるが、体力を消耗したイーラを気遣っていたためでもある。だが、はやる気持ちを抑えられないのか、イーラは不調をものともせず進んでいた。そんな姿に触発され、エルザとドンナも次第に速度を上げていく。三人の進行速度はみるみる上昇していった。


 日を重ねるにつれ、三人はまるで走って移動しているかのような速度へと到達してしまう。


「ところでイー……ライザさんはどうしてオカミオの街へ?」


 道中無言を貫くわけにもいかず、エルザはイーラに質問を投げ掛けた。


 といっても答えに興味はない。どんな回答が返ってこようと、それが嘘だということは聞く前から分かっているためだ。


 イーラがオカミオの街を目指す理由は、王都でやらかしたから国外へ逃走を図ろうとしているだけだろう。だが、そんなことを馬鹿正直に答えるとは思えない。



 それでも、肉の盾として円滑に利用するためには、ある程度のコミュニケーションは欠かせない。


 ここ数日で関係も大分親密になったと判断したエルザは、少し立ち入ったことを聞いてみた。



「ええ、そちらに意中の殿方がいる可能性がありまして……」


 イーラはエルザの問いにボロが出ないよう注意しながら答えた。


 目下、イーラの第一の目標は国外への逃亡だ。だが、それを皆に告げることはできない。


 しかし、イーラの目標はひとつではなかった。


 そのため、二つ目の目標を質問への回答とした。



 それは、ある男に出会うこと。


 その男も同じ場所から追われて逃げる身なので、逃走経路が被る可能性が高い。


 イーラはこの道程で遭遇するのではないかと、自身の悪運の強さに密かに期待を寄せていた。


「へぇ、男か……」


 ドンナは相づちを打ちながら無難な嘘だな、と心中でほくそ笑む。


「はい、お恥ずかしながら。でも、向こうは私の気持ちになんて気づいていないと思いますけどね」



 イーラは儚げな表情をして俯きがちに応えた。


 だが、握りこんだ手は爪が食い込み、血が滲み出ていた。


 とても言葉では言い表せないほどの強い情動が身体機能の抑制を解除し、制御できない力となってその手中に注ぎ込まれる。


「アッハ、少し親近感を覚えますね。実は私も、ある人を捜してオカミオの街を目指しているのですよ」


 エルザはイーラの発言がウソだと思いつつも、自分がオカミオを目指す理由と同じだったため、同意を示す。



「あらあら、そうなんですか?」


 俯いていた顔を上げて軽く驚くイーラ。


「あんたも男を捜しているのか?」


 ドンナもまさかここでエルザが話題を被せてくるとは思っていなかったので、少し驚いてしまう。



「ええ、ちょっと過激な人なんですが、忘れられなくて……」


 エルザは少し恥じらいを見せるような表情で男のことを話す。


 人を全力で蹴り飛ばしたり、サメの餌にしようとするのだから、過激に違いない。


 自分のことを棚にあげたエルザは確信を持ってそう表現する。


「それはどう過激なのか、気になるところですね」


 イーラはエルザの発言に興味を持つも、あまり深く聞いて関係を乱すのはまずいと判断し、グッと堪えてそれ以上は聞かなかった。


「しかし、二人とも男絡みとはな……。そういう私も一応男を捜してあの街に行くんだけどな」


 イーラとエルザが男目当てと聞いて驚いたドンナだったが、よく考えれば自分もそれに当てはまるな、と考えてつい口が滑る。


「アッハ、聞き捨てなりませんねぇ」


 そんなドンナの発言を聞き、悪戯っぽく見つめるエルザ。


「あらあら、私たちのことを言えないじゃないですか。ちなみにどんな人なんですか?」


 イーラもまさか三人とも男を捜しているとは思っていなかったため、興味を持ってしまう。


「そうだな……。一言で言えばクズだな」


 ドンナは自分が滝つぼに落とされたことを思い出し、吐き捨てるように言い放った。



 何の躊躇もなく、人を崖から突き落とす。まさしくクズ以外の何物でもない。


 ドンナは自分のことを棚にあげ、そう言い切った。


「それはまぁ……。なんとも……」


 それを聞いて躊躇うエルザ。聞くべきではなかったと、相づちが消え入るようになってしまう。


「でも分かります。そういう人ほど放っておけないのですよね」


 イーラは逆にそういう男こそ母性をくすぐられるのではと思い、同調する。


「ああ、放っておけねぇなぁ……」


 だがその言葉を聞いた当のドンナの顔は、母性とはかけ離れた暴力の権化のような形相になっていた。



「……止まってください」



 そんな和やか(?)な会話をしていた三人だったが、急にイーラが立ち止まり、二人を手で制する。



「どうした?」


 ドンナはイーラの行動から辺りに異常があるのでは、と周囲に注意を向ける。


「件のモンスターですか?」


 エルザも腰の刀に手を当て、様子を窺う。



「あそこを見て下さい」


 とイーラが木が生い茂る森の入り口のような場所を指差す。



「何かいるのか?」


「遠くてはっきり分かりませんが……木の間から何か赤いものが……」


 ドンナとエルザは指差す方向へ目を凝らす。すると木々の隙間から何やら赤いものがチラチラと見えた。


「ここからでは何匹いるのかまでは分かりませんが、恐らくオーガです」


 各地を転々とし、移動が多かったイーラには、この距離からでもあれがオーガであろうという自信があった。


「一匹なら三人でかかれば何とかなるはずだ。行くか?」


 ドンナは首をゴキリと鳴らす。


「やり過ごすという手も考えられますよ。まあ、向こうはこちらに気づいていませんし、不意打ちするチャンスでもありますね」


 エルザの気持ちも倒す方へと傾きはじめる。


「今見えている一匹だけなら良いのですが、オーガ一匹であそこまで宿が埋まってしまうでしょうか? オーガは足がそれほど速くないので、比較的逃げやすいのですが……」


 イーラは宿場町の様子が気になり、少し消極的姿勢を見せる。


 オーガは確かに強い。だが、オーガが出たからといって、あそこまで宿場町が埋まるとも考えられない。集団でかかれば倒せる相手だし、逃げる事もそれほど難しくはない。


 そのことが少し引っかかった。



「分かりました。私が少し様子を見てきます。お二人はこの場で少し待っていてください」


 イーラの言葉にも一理あると判断したエルザは斥候役を買って出た。


 こういうときは待っているより能動的に行動した方が生存率が高いと判断し、自ら進んで森へと向かう。決して二人のためではない。


「分かった、確かにモンスターが集団でいたらまずいしな。気をつけろよ」


 ドンナはその提案に同意し、待つことに決める。


「気をつけて下さいね」


 イーラもその場に残ることにする。



 二人ともこれで危険と判断すれば、エルザを見捨てればいいと思っての同意だった。



 それぞれが自分のことを第一に考えて安全策を練っての発言。


 だが、それらの行動が奇跡的にぴったりとはまり、熟練のパーティーのような連携になってしまう。



 全て偶然の産物に過ぎなかったが、そのことに気づく者はいなかった。



 …………



「オーガは一匹でしたが、なぜかキラーベア二匹と共に行動しています」


 偵察を終えたエルザはその目で見た内容を二人に伝えた。


「は? 何でそんな組み合わせに……」


「合計三匹ですか……、参りましたね」


 エルザの報告に頭を悩ませるドンナとイーラ。



 オーガはダンジョン以外での遭遇は滅多にないが、危険視されているモンスターだ。


 そしてキラーベアはオーガ程ではないが、十分に危険と判断されているモンスターである。



 また、キラーベアはオーガに比べると遭遇率が高い。そのため、森での危険なモンスターの代名詞といえばキラーベアといっても過言ではないくらいであった。



 そんな危険な二種が行動を共にする事はかなり希少な例といえる。


 そもそも、二種が遭遇する事が稀なのだ。


 そんな厄介な出来事が目と鼻の先で発生していた。確かにこの状況なら、冒険者が到着するのを待った方が賢い選択だろう。


「無視して通れそうだったか?」


「多分無理でしょう。街道を逸れて森を抜けるなら避けられるかもしれませんが……」


 ドンナの質問にエルザが顎に手を当てつつ答える。



 このまま街道を通っていれば、向こうに気づかれてしまう可能性が高い。


 街道に設置されている結界石も万能ではない。結界石はモンスターが嫌がる気配を出すだけ。それを嫌がったモンスターが近づかなくなるだけで、壁のような役割は期待できない。



 目の前に美味しそうな獲物が通り過ぎれば、多少不快な思いをしても襲いかかってくるだろう。気づかれるほど接近してしまっては効果は余り期待できない。


「街道を逸れるのはオススメしませんね。結界石があるところとないところではモンスターとの遭遇率がかなり違いますので」


 エルザの言葉を聞いたイーラが街道から逸れることに否定的な意見を述べる。


 街道を逸れればオーガをやり過ごせても危険度は増す。八方ふさがりであった。


「つまりモンスターとの遭遇を最小に抑えたいなら、その三匹を倒すしかないってことか」


「そうなりますね」


 ドンナのモンスターを倒すしかないという結論にイーラが頷く。



「それに街への最短ルートも街道になります。お急ぎでないのでしたら、気にする事ではありませんが、ね?」


 と、エルザが付け加える。


 街道を進むことが街への最短距離。


 それぞれ目的のある三人にとって、ここでのタイムロスは避けたい。



「いや、できればさっさと街についておきたいな……」


「私もですね。そのために冒険者が来る前に宿場町を出たようなものですし」


 ドンナとイーラは街道を進みたいことを口にする。



 が、そのことは冒険者の到着を待たずに宿場町を出た三人全員に言えることだった。


 エルザとドンナは男の追跡。イーラに至ってはそれに追っ手からの逃走が追加される。



 迂回案を受け入れる者など、はじめからこの場には居なかった。


「私も同様です。となると、ここは倒すしかありませんね」


 二人の言葉を聞いたエルザも街道を進むことに同意を示す。


「だな」


「そうなりますね」


「ええ」


 それぞれの想いを胸に秘め、頷き合う三人。



 一見、意見が一致し協調性が発揮されたように見える。


 だが、三人はそれぞれ、二人を見捨てて自分さえ街に着けばそれでいいと思っていることが顔から滲み出ていた。


「中々ままならないものですね」


 盾を構えレイピアを抜きながら愚痴るイーラ。


「アッハ、全くです」


 懐から鉄杭を取り出すエルザ。


「フウウウウゥ」


 息を吐き出し【鉄腕】と【鉄脚】を発動させ、両手両足を赤黒く染め上げるドンナ。



「それでは私がオーガを引きつけます。その間にキラーベアをお二人で何とかして下さい」


 イーラは二人に自分がオーガの相手をすることを告げると飛び出した。



「分かった」


 短く返事をするとキラーベア目掛けて走り出すドンナ。


「何とかしますよ」


 鉄杭を構えたエルザはドンナの後に続く。



 三人がそれぞれモンスター達と対峙する。


 そして一番はじめに飛び出したイーラがオーガへと接近する。


「ハッ」


 イーラは気合の一声と共にレイピアで連続攻撃を放った。


 鋭い連続突きは全て急所を捉えた。


 だがオーガへの効果は薄いようで、攻撃を受けてもあまり重症を負ったような反応を示さない。



「ゴアアアアアッ!」


 オーガはレイピアでの攻撃を嫌がってイーラを威嚇するように咆哮すると、丸太のような腕を振り回しながら殴りかかってきた。


「……こっちですよ」


 イーラはそれをかわしたり、盾で軌道をそらしたりしながらキラーベアから離れるように誘導していく。


 イーラの誘導により、オーガがキラーベアから離れたのを確認したドンナが一気に距離を詰める。


「オラアッ!」


 ドンナはキラーベアに接近すると、一気に攻撃を仕掛けた。


 前回は組み合いになって苦戦したが、今回はうまく打撃のみを当てていこうと丁度いい間合いを保つ。


 イーラとオーガの戦いに気をとられていたキラーベアにドンナの初撃が綺麗にヒットする。



 ドンナの放った蹴りはキラーベアの前足を的確に捉えた。


 蹴りが命中し、キラーベアが姿勢を崩したところで【鉄腕】で強化した赤黒い腕で頭部目掛けて乱打を行う。


「グアアオオオオオッ!」


 乱打を嫌がったキラーベアはドンナを跳ね除けようと立ち上がった。



 ドンナはその隙を逃さず【瓶切り】を発動させる。


 スキルの補助を受け、大鉈のように鋭くなった手刀を水平方向に放つ。


 せり上がってきたキラーベアの頭部と手刀が綺麗に交差し、首から上があっさりと跳ね跳んだ。



「ざまあみろ!」


 手刀の残心姿勢のまま声を上げるドンナ。


 前回のリベンジを果たし、してやったりといった顔で口元を歪める。



「クッ」


 だがそこの頃、もう一匹のキラーベアを担当したエルザは苦戦を強いられていた。




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