18 女子会(異世界) 二
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宿場町まで到着したドンナであったが、そこで足止めを食らってしまう。
なんでもこの先の街道でモンスターが出たらしい。
ドンナにとってモンスターなどどうでもいい存在だったため、宿で一泊した後、早朝には街道に出た。
わざわざ討伐に来る冒険者など待つ必要は無い。出くわせば倒せばいいだけ。
そう思ってオカミオの街を目指す。
が、しばらく進んだところで同室だった眼帯の女と偶然鉢合わせてしまう。
どうやら女の方も、同じ理由で宿場町に留まらなかったようだ。
話を進めると目的地まで同じことが分かり、即席でパーティーを組むこととなった。
といっても、本気で協力するわけではない。
せいぜい囮や肉の盾として利用させてもらう腹積もりでの約束。
ドンナがそのような思惑を胸に口端を吊り上げていると「あの……、その話、私も混ぜていただけないでしょうか?」と、背後から声がかけられる。
なんだ、と振り向けば、そこにはイーラが立っていた。
――イーラ。
前日同室だった女の一人だ。
が、この女に関しては別の印象が強い。そう、王都での演説。
「ッ!!!」
当時のことを思い出したドンナは自然と身が固まり、声が出せなくなってしまう。
それはどうやら、今し方同行する事が決まった眼帯の女も同じようで、口を開けたまま立ち尽くしている。
(チッ、また思い出しちまった……)
あまりに強烈な光景だったため、イーラの顔を見るだけで当時のことがフラッシュバックし、動けなくなってしまうのだ。
「あの……」
二人の硬直に疑問を感じたであろうイーラが再度声をかけてくる。
我に返ったドンナは眼帯の女の方を見て口を開く。
「おい、どうする?」
ドンナは額に冷や汗をじっとりと浮かべながら、眼帯の女に尋ねた。
囮としては申し分ない存在だし、一人より二人の方が自分への被害が減らせる。
だが、この女は突拍子もないことをしそうで予測できない。
そういう前科があり、それを目撃したドンナは判断に迷いが生じてしまう。
「……何も情報がないですし、モンスターと遭遇するまでは一緒に行動しましょう。モンスターを倒した後は解散。モンスターに会わなければ街の手前で解散としましょう」
一拍の思考の後、眼帯の女はそう答えた。
要はモンスターが強い個体なら肉の盾に利用できる。
しかし街の中まで同行すれば関係者と思われて面倒臭い。
なら最低でも街の手前までに別れれば問題ない。
眼帯の女はイーラには察しにくいようにしつつ、ドンナにだけ伝わるように言葉を選んで提案してくれた。
「そうだな、それで行くか。アンタ! 聞いての通りだ。それでいいなら同行してもいいぜ」
ドンナは話の内容を理解し、同意する。
どの程度の強さのモンスターが出るか分からないので、人は多い方がいい。
「あらあら、それは助かります。私の名前はイー……ライザと申します。しばらくの間よろしくお願いしますよ」
イーラは迂闊にも自分の名前を言いそうになり、慌てて取り繕った。
どうやら偽名はイライザでいくようだ。
ドンナは何がイライザだ、と心中で笑いを堪えつつ、頷く。
「アッハ、私はエルザです。よろしくお願いします」
眼帯の女はイーラの自己紹介を受けて、丁寧に名乗っていた。
会話の主導権を握られては、どんな奇行に走るか分からないし慎重なのだろう。
だが、その眼帯女の自己紹介を聞いたドンナは一瞬固まってしまう。
その名は組織内で捜索の指示が出ていた奴の名前だったためだ。
顔を見れば確かに以前聞いていた特長のように片目がなく、眼帯をしている。
だが両手はある。ドンナが聞いた話では、確か片目と片手がないはずだった。
エルザの片方の手は不自然に甲冑のようなものを装備しているが、五指がちゃんと動いているのを目撃した。しかし、そこでドンナは深く考えるのを止めてしまう。
今更この女がそうだったとしても、もはやドンナにとってはどうでもいい話なのだから。
ドンナはエルザに対して私怨はない。組織として追っていただけ。
なら今は精々肉の盾として勘定すればいいだけの話だと考え、静観することを決める。
「私はドンナだ。よろしく頼む」
二人に対して思うところはあったが、無難に挨拶を済ませるドンナ。
どうせ、この二人も腹の中では何を考えているかなんて分からない。
街道に住むモンスターを倒すか、オカミオの街に着くまでの短い間だけうまくやれればそれでいい。
ドンナはそう考え、二人に改めて声をかける。
「短い間だが仲良くやろう」
「アッハ、そうですね」
「あらあら、よろしくお願いしますよ」
三人はにこやかな表情で自己紹介と挨拶を済ませた。
◆
「ようやくか……」
と、俺は安堵の息を漏らした。
カチロプレスの村を離れ、数日が経過したある日、とうとう街道と合流を果たしたのだ。
これで、よく分からない獣道を進む日々ともおさらばだ。
といっても街道へは入らず、側をキープ。なるべく人目につかないようにしながら、まったりペースで進行していく。
すると、何の前触れもなくレガシーが急に立ち止まった。
「お、あんなところに遺跡があるぜ」
レガシーが指差した方向には、何やら朽ちた石の城のようなものが見えた。
側まで移動すると、かなり大きなものだとわかる。
遺跡は建物の倒壊の仕方が数年でなったものというより、何百年もかけてそうなったと思わせるほど辺りの自然と一体化しており、不思議な存在感をかもし出していた。
崩れた石壁は苔や蔦に覆われ丘のようになり、あとから生えてきたであろう木々が複雑に城に絡みついている。石壁に絡みつき湾曲しても太陽を目指す木々には、小鳥が羽を休めており、なんとも幻想的だ。
「おー、俺ああいう遺跡って生まれてはじめて見たかも。ちょっと感動だわ」
元の世界で整備された城なんかには行ったこともあるが、こういう秘境の奥地にある遺跡って感じのものははじめてだ。
カメラがあれば是非撮影したかった。
とりあえず旅の思い出に根性で目に焼き付けておく。
「結構デカいし今日はあそこで野宿するか」
レガシーも遺跡が気に入ったようで、しばらくここに留まることを提案してくる。
「いいね! なんかロマンがあるな!」
俺はそれにノリノリで同意する。
「ロマンねぇ……」
レガシーはそこまで騒ぐことかといわんばかりに俺を半眼で見てきた。
どうやら俺とは気に入り方のレベルが違うようだ。
だがそれはここの良さをわかっていないだけだ、ちゃんと説明すればここがどれだけいい場所か、レガシーにも理解できるだろう。
「遺跡で焚き火たいて夜空の星を肴に一杯とかたまんねぇだろ?」
この雰囲気は人工的に作り出せないものだし、ここでしか味わえないものだ。
そんなところで飲む酒……。
間違いなく旨い。
「確かにそれはいいな」
その光景を想像したのかレガシーも乗り気になる。
「だろ?」
「決定だな」
その瞬間、俺たちの今日の野営地が決まった。
◆
イーラ、エルザ、ドンナの三人は協力関係を結び、街道を進むこととなった。




