17 女子会(異世界) 一
◆
王都で数日拘束状態となったエルザは、急いでオカミオの街を目指していた。
妙なところで足止めを食らってしまい、脱獄したであろうケンタと差が開いてしまった。
このままでは、追いつけないままに国境を越えられてしまう恐れがある。
はやる気持ちを抑えつつ、なんとか宿場町まで辿り着く。
が、宿はどこも満室。
どうやら、街道でモンスターが出たらしく、皆足止めを食らっているらしかった。
(案外、あの男も足止めを食らって、この町にいるのでは……)
と、捜してみるも、それらしき人物はいない。
その間に日が暮れてしまう。
モンスターが出ると確定している街道を夜中に進むのは、さすがに危険だと判断したエルザは、空きができた部屋で一晩やり過ごすことを決める。
その部屋は共同部屋だった。室内には先客がおり、空いているベッドは二つ。
先客に軽く挨拶を済ませたエルザはさっさとベッドへ横になり、体力の回復を図ろうとする。
と、その時、新たな利用客が訪れた。「失礼しますよ」という女の声が聞こえると同時に、室内へ入ってくる足音が聞こえる。
「いらっしゃい」
エルザは女に挨拶を返し、その顔を見た。
「ッ!!!」
そして固まる。
なぜなら、今、部屋に入ってきたのは、王都で凄まじいことをしていた女だったためだ。
エルザが目を見開いて驚く中、女はこちらのことなど気にせずベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまう。
(……なんとも凄い人と遭遇してしまいましたね)
どうしたものかと迷いあぐねる中、ふと視線を正面に向ける。
すると、自分と全く同じ表情をしたもう一人の宿泊客である女と目が合った。
「ッ!」
そして再度固まる。
もう一人の宿泊客。エルザはその女に見覚えがあった。
今まで気付かなかったのは女が先に部屋にいて、顔を見合わせることがなかったためだった。
「あなたは……、あのとき隣にいた方ですね」
眼前でエルザと同様に驚きの表情を見せる人物。
死人のように青白い肌をし、色素が抜けたように薄い色をした金髪碧眼。
カタギとは思えない雰囲気を纏った女。
それは王都で例の光景を見た際、隣に居た女だった。
名前も知らない上に、二言三言交わした程度。
普通なら忘れてしまうような人物だ。
だが、きっかけとなった出来事が強烈だったために、覚えていた。
「ああ、アンタのことは私も何となく覚えている……。あんな事があればな……」
女の方もエルザと同じ気持ちだったのか、言葉を詰まらせながら苦そうな顔をする。
こちらもかなり特徴的な外見をしているし、女にとっては顔を覚え易かったのかもしれない。
そして微妙な沈黙が生まれる。
お互い話したいことがあるのに口に出せない。
そんな空気が室内を満たしていく。
沈黙の原因はベッドで寝息を立てている女のことだった。
二人はどちらからというわけでもなく、その沈黙を破るように口を開いた。
「あの……」
「ああ……」
「……確か、イーラという名前らしいです」
「知ってる。王都で足止めを食らった時に散々聞いた」
ベッドで寝息を立てている女の名はイーラ。
生死問わずで手配され、高額の賞金がかかっている。
「どうしましょうか……?」
と、エルザは女に尋ねた。
見逃せば、最悪こちらも罪に問われかねない。
しかし、通報などを行えば、協力を仰がれ確実に足止めを食らってしまうだろう。
ただでさえ王都で時間を浪したのに、ここで更に身動きが取れなくなるのはつらい。
エルザとしてはイーラに関わりたくなかった。
しかし、目撃したのは自分だけではない。眼前の女がどう考えているのかを確認したかったエルザは女の返答を待つ。
「すまないが、私は先を急いでいる。もし、アンタに善意があるなら、アンタ一人でやってほしい。残念だが、私は居なかったことにしてくれ。正直、私にとってはどうでもいい話なんだ。アンタはどうだ?」
女は暗に一晩だけだし、放っておけばいいと言ってきた。
「アッハ、奇遇ですね。私も先を急いでいまして」
願ってもない返答を得たエルザは笑顔で同意する。
こちらとしても後ろ暗い部分もあるため、積極的に国と関わりたくない。
非常に助かる話だった。
「なら、決まりだな」
「ええ」
女の言葉に頷き返すエルザ。
お互いの意見が一致し、イーラのことは黙認すると最短で決まる。
「ここに居るのは顔がなんとなく似た別人」
「本人とは全く気付かなかった。むしろ別人と騙された」
「そういうことだ」
「では」
お互いの意思を確認した二人は納得顔で頷き合うと、競い合うようにして眠りに着いた。
◆
翌朝。
宿を出たイーラは再び国境を目指そうと街道に出る。
すると、たまたま通りがかった人に呼び止められた。
「おいあんた、今そっちへ行くのは止めた方がいいぞ。なんでもモンスターが出るらしい。もうすぐ冒険者が来るらしいから、それまでは大人しくしていた方がいい」
イーラも前日にその話は軽く聞いていたが、やはり街道にモンスターが出るようだ。
「あらあら、それはご丁寧にありがとうございます。ですが先を急ぐもので」
イーラとてモンスターと出くわしたくはないが、ここに留まれば追っ手が来る可能性もある。そのため、多少無理をしてでも進むしかなかった。
「まあ、出るといっても確実じゃないし、強引に止めはしないが気をつけろよ」
呼び止めた男も余計なお世話と判断したのか、あまり強くは言わなかった。
「ありがとうございます」
イーラは男に礼を言うと、街道を進むのを再開する。
街道に人がいないのであれば、それはそれでイーラにとっては人目を気にしなくていい分、好都合ではあった。
…………
しばらく街道を進んでいると、前方に二人の人影が見えた。
人がいるということは大げさに言われていただけで案外大丈夫なのではないか、という思いが頭をよぎる。
どうも二人は立ち話をしているようで、街道の真ん中で立ち止まっていた。
近づくにつれ、その二人が昨日宿を一緒にした女達だと分かる。
距離が縮まってくると、会話の内容も自然と耳に入ってきた。
「アンタはどこへ向かっているんだ?」
「オカミオの街ですね。あなたは?」
どうやら二人はお互いの行く先を確認しているようだった。
雰囲気から察すると、別々に宿を出たのに、結局街道で合流してしまったという感じに見える。
「同じだ」
「そうでしたか。どうやらこの街道上にはモンスターが出るらしいですし、ここは街まで協力して行きませんか?」
「そうだな。目的地が同じなら、それもいいか」
モンスターが出ると聞いていたため、単独で行動するより二人で行動した方がいいだろうと、どちらからというわけでもなくそういう話になっていく。
だが二人の顔を見れば、それが協力して街を目指そうといったものではなく、囮に使おうとか利用してやろうといった表情なのは想像に難くなかった。
(これは便乗しない手はないですね……)
二人の話を聞いていたイーラは自分もその輪に加わろうと、歩みを速めた。
そして近づくにつれ、あることに気がつく。
(もしや、あの女……)
片方の女はギャングの幹部であるハーゲンの部下だったドンナだと思い出す。
前日は暗い室内だった上に、自身が限界まで疲労していたため分からなかったが間違いない。
だが、今となってはギャングなど、どうでもいい存在だった。
手に入れた情報によると、ギャングは壊滅したはず。生き残りが一人いたからといって、ドンナには何もできないだろう。それに追われる罪人となったイーラにとって、もはやそういったこと全てがどうでもよくなってしまった。
むしろ、何食わぬ顔で接し、生きて国外に逃げ延びるために利用すればいいだけの話。
今更ドンナがギャングだと騒ぐ必要はどこにもない。
「あの……、その話、私も混ぜていただけないでしょうか?」
イーラは、会話がまとまるころに二人へ向けて声をかけた。
その目的は当然協力しあって目的地を目指すといったものではなく、肉の盾として使ってやろうという魂胆である。
「「ッ!!!」」
が、イーラの声を聞いた二人は一瞬身を震わせて停止。
こちらと目を合わせたまま動かなくなってしまう。
「あの……?」
二人の挙動不審さに疑問を感じたイーラが再度声をかける。
彼女からすれば、なぜそんなに身を固めるのか皆目見当もつかなかった。
◆
宿場町まで到着したドンナであったが、そこで足止めを食らってしまう。




