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16 金では買えないもの

 


 ◆



(ん? 意外といけそう?)


 という思いが俺の中に芽生える。



 チャンピオンの攻撃をひょいひょいとかわし続けて数秒。


 赤黒く染まった腕から繰り出されるジンギの攻撃は一発当たれば、即重症。


 ただでは済まない。


 しかし、どこかの誰かも言っていたが、当たらなければどうということはない。



 今の俺は上半身裸の身軽スタイル。剣も持っていなければ、手甲も付けていない。


 極め付けに上着まで脱いでいる。普段の装備状態に比べると、かなり軽量。


 動きにキレが増すのも頷ける条件が揃っていた。



 そんな中、チャンピオンのジンギの強さは普通。


 一応、ここで殿堂入りを果たすほどの実力があるのが理解できるほど強くはある。



 しかし、俺はそんなチャンピオンより強いハーゲンやドンナと戦ったことがあるわけで。


 こうやって実戦で相対して比較すると、その実力差をまざまざと感じてしまう。


 決してジンギが弱いわけではない。以前に戦った人達が変態的に強すぎるだけなのだ。


 結論として導き出されたのは、意外とどうにかなりそう、というものだった。


 とはいっても、ジンギの攻撃をかわしながら、隙を見ては拳を叩きこんでいるが効果が薄い。


 その理由は二つ。


 俺が素手での攻撃に慣れていないということと、ジンギの体が鍛え上げられているせいだ。


 タイヤでも殴っているかのように跳ね返され、こちらの拳が痛いだけ。



 どうしたものかと迷いながら導き出した答えは、金的。


 俺は隙を突いて屈むとハーゲン直伝のグーパンをジンギの股間に見舞った。


「よっ」


「グアッ!?」


 俺の渾身の一撃はジンギの股間にクリーンヒット。


 ジンギは短い悲鳴と共に、股間を押さえて動かなくなる。


 その光景を見た俺は、ハーゲンに殴られた記憶がフラッシュバックし、股間に寒気が走る。



 タマヒュンしてる場合じゃなかったと気を取り直し、両足に【気配遮断】の部分発動をかける。


「貴様ぁッ!」


【気配遮断】が発動するのを待っていると、ジンギが復帰し俺を睨みつける。


「悪いな。こっちも死にたくないんでね」


 俺はジンギに限界まで近づき、【縮地】を発動。ジンギの股下を抜け、背後へと回る。


 そして、【縮地】の発動中に【剛力】と【膂力】を発動し、力の能力値の底上げを図る。


 俺が背後を取った瞬間、両足が半透明になり、【気配遮断】が発動したことが分かる。


「ッ!?」


 ジンギは【縮地】のスピードについていけず、俺を見失う。


 俺はジンギの背後から水平方向へ【跳躍】。


 ドロップキックを相手の後頭部目がけて放った。



【剛力】、【膂力】、【跳躍】、【暗殺術】を全載せした渾身のドロップキックが、凄まじい勢いでジンギの頭部に命中する。


 背後から強烈な衝撃を受けたシンギは軽く吹き飛ばされながら、地面にうつぶせに倒れた。


 ――そして、起き上がってくることはなかった。



 …………



「こちらが報酬の百六十万になります」


「さんきゅー」


 カチロプレスの村の出入口で、渋い表情のモタロプから報酬を受け取る。


「まさか、勝ってしまうとは……」


 モタロプは呆然とした表情で呟く。未だ現実が受け入れられないようだ。


「盛り上がったし、いいじゃん?」


 うん、大盛り上がりだった。


 ジンギが復帰不能と判断され、俺の勝利が確定した瞬間、会場は騒然となり、大荒れ。



 観客の不満は留まるところを知らずに膨れ続け、暴動に発展。会場は滅茶苦茶となった。


 最後はモタロプが部下を総動員して鎮圧。


 今回の賭け試合は最低最悪な興業として終結した。



 俺とレガシーは全てが終わった後、モタロプの送迎を受けてここまで来た、というわけである。


「それで次の試合なのですが……」


 と、モタロプが揉み手をしながら俺にすり寄って来る。


「おい……、その辺にしとけよ?」


 さすがに苛立ちを覚えた俺は、モタロプを言葉で制する。


「すいません……。ですが、次回チャンピオンが不在というのは……」


「頑張ってスカウトしてこいよ。そこまで俺たちが協力する義理はないよな?」


 俺はモタロプに充分協力した。これ以上絡んでくるなら、さすがに考えないといけない。


「充分だろ。これ以上何か言ってくるつもりなら、こちらも対応方法を変えるぞ?」


 と、レガシーが俺の言葉に続く。俺たちの目的はここでチャンピオンの座を死守し、殿堂入りを狙うことではないのだ。


「……分かりました。代役、ありがとうございました」


 色々と察してくれたモタロプが言葉を飲み込み、頭を下げてくる。


「うん、お互い気持ちよく別れようぜ」


「だな。で、オカミオの街はここからどっちに行けばいいんだ?」


 無事、事が収まったことに安心した俺とレガシーは、本来の目的地であるオカミオの街の場所を尋ねた。



「あの道を進めば街道に出ます」


「お、ありがとよ」


 俺はモタロプが指差した方を確認し、礼を言う。


「ですがお気をつけください。うちの者が近くにある宿場町で聞いた話によると、この先の街道でモンスターが出たそうです。皆、討伐依頼を受けた冒険者が来るまで宿場町で待機しているそうですよ」


 どうも街道にモンスターが出たらしい。これは厄介だが、行くしかないのも事実。


「そうなんだ。気をつけるよ」


「じゃあな」


 俺とレガシーはモタロプに軽く手を振ると、背を向けて歩き出す。


「この辺りに戻ってくることがあれば、是非こちらにもお立ち寄りください。凱旋試合を組みますので」


「考えとくよ」


 未練が捨て切れないモタロプの言葉を背に受け、俺は街道を目指した。



 …………



「レガシー、山分けにしようぜ」


 カチロプレスの村を離れ、しばらくした後、俺はファイトマネーのことを思い出し、レガシーに半分渡そうとする。特に連携をした訳でもないが、こういうのは等分に分けておいた方がいいかなと、思ったのだ。


「ああ、俺はいい。お前が勝負に勝って得た金なんだから貰っておけよ」


 が、レガシーはそれを断った。


「そうか? じゃあ、貰っとく」


 強引に山分けするほどでもないと思った俺は話を切って、全ての報酬を貰うことにする。


 戦ったのは俺だし、役得ということでいいだろう。


「俺はお前に賭けて大儲けさせてもらったしな。特に決勝は大穴だったから、すげー金額になったぜ」


「え……、幾らだよ!?」


「百六十万は超えたな」


 と、レガシーが得意気に話す。……勝ちすぎだろ。


「はああああああ!? 俺が素手で殺し合いやってるときに、お前は軽く小遣い稼ぎかよ! 俺のお陰で稼げたんだから、分け前寄越せや!」


 俺はレガシーの胸倉を掴み、分け前を要求した。これは当然の権利である。


「ケンタ……、お前は金じゃ得られないものを手に入れたじゃないか……。そう、勝者にしか得られないチャンピオンという称号を!」


「何、いい話でまとめようとしてんだよ! 金、金だよッ!」


 レガシーは遠くを見つめながら尊いものを手に入れたから満足しろと言ってくる。


 そんな目に見えないもので満足できない俺はレガシーを揺すり続けた。


 金だ。金、金、金、金、金ェッ!


「それなら、試合前に自分の金を俺に預けておくべきだったな。そうすれば、お前の分も賭けてやったのに」


「しまったぁあああああああ!」



 痛恨のミス。レガシーの指摘どおりだった。俺も自分に賭けておけば良かったのだ。


 そうすればモチベーションも上がったし、勝利の喜びも二倍になった。


 後になって気づくと後悔しかない。


「ま、お前だって賞金ゲットしたわけだし、タダ働きじゃないんだから納得しろよ」


「ぐぬぅ……」


 俺はレガシーの言葉に不服ながらも納得し、黙り込むしかなかった。



 ◆



(傷は治してもらいましたが、やはり体力の消耗が激しいですね)


 イーラは何とか王都から離れようと、必死で重い体を引きずって歩いていた。


 少しでも距離を稼ごうと、短い仮眠を重ね、一日のほぼ全てを移動に費やした。


 イーラの消耗が激しいのは傷を治療したせいだけではなく、追っ手を撒くように街道を逸れてかなり無茶なルートを進んだためというのもある。その甲斐あって追っ手と遭遇する事はなかった。だが、さすがに体力と気力の限界が近づきつつあった。


 睡眠時間を限界まで削って何とか宿場町まで辿り着けたが、倒れる一歩手前といったところだ。


(本意ではありませんが、宿をとりますか)


 手配中の身で宿に入るのは危険だが、体力を回復させるためには仕方ない。


 そう判断して宿を探すことにするイーラ。


 イーラは倒れまいと必死に堪えながら宿場町の中を進む。



 …………



「すまんね、満室なんだ」



 しかし、宿はどこも満室だった。


 何の変哲もないこんな辺鄙なところでは珍しい話である。



「なぜこんなに宿が混んでいるのですか?」


 体の限界が近いイーラは苛立ちを露わにしながら、店主に事情を尋ねた。


「街道に強力なモンスターが出たんだ。それで皆足止めを食らっているんだよ」


「そうでしたか」


「もうしばらくしたら冒険者が討伐に来てくれるそうだから、それまでの辛抱さ」


「……わかりました」


 イーラは返す言葉にも力がこもらず、立っているのかどうかさえ自分では分からなくなりつつあった。


 店主に背を向けたイーラは、高熱でうなされる病人のようにユラユラと揺れながら次の宿へ向かう。



 次がこの宿場町にある最後の宿だった。


 そこで部屋が空いていなければ野宿しかない。



 今の状態で眠れば、周囲で何が起きようとも覚醒は不可能だろう。


 つまり、モンスターや山賊が跋扈する場で数時間無防備な姿を晒すことになる。



 そんな酔狂な運試しは御免被りたい。


 イーラは祈る気持ちで最後の宿を訪ねた。


「相部屋で構わないならあるよ」


 店主の言葉にイーラの顔がほころぶ。


 空いていた部屋はいわゆる料金の安い共同部屋だった。


 普段のイーラなら、絶対利用しないタイプの部屋だ。


 しかし、砂漠で水のタップリ入った水筒を見つけたかのような感動を覚えてしまう。


「分かりました。お願いします」


 現状、なるべく顔を見られたくないので、あまりいい選択肢ではない。


 だが、部屋がそこしか空いていないなら止むを得ない。


 残された体力も限界が近いため、選択せざるを得なかった。



 それと同時に、やっと休めるという喜びも自然と溢れ出る。


 壁に手を這わせたイーラはギリギリの体力を駆使して部屋に辿り着いた。


「失礼しますよ」


 扉を開けると、最後の気力を振り絞って声を出す。


 室内には背を向けた二人の女が、それぞれのベッドで横になっていた。


「いらっしゃい」


「ああ……」


 二人ともベッドに横になっていたが、イーラの声に振り向いて軽く挨拶を返してくる。


 イーラは二人に軽く会釈すると、ベッドに倒れ込んだ。



 ◆



 王都で数日拘束状態となったエルザは、急いでオカミオの街を目指していた。




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