11 観戦
だが、日が暮れるはじめる頃になって一体の死体に異常が起きた。
俺は警戒しつつも確認できる距離まで近づいてみる。
近くによると何かが弾けるような小さな音が聞こえた。
パチパチと小さな薪が燃えるような音だ。
注意深く死体を見てみると、まるでゲームのアンデットが浄化されるように死体が少しずつ塵になって舞い上がり、中空で消えていっているのだ。
そして、その死体の周りで小さな花火のようなものが弾けてパチパチ音を出していた。
この花火のようなものが精霊なのだろうか。
そうこうしているうちに、死体が完全に消失しそうになる。
俺はあわてて同じ場所に新しいゴブリンの死体を放り込んだ。
そうするとまた同じようにパチパチと火花を散らしながら塵になって消えていく。
(これは便利だ!)
俺は火に薪をくべるようにドンドコ死体を放り込んでいく。
そうすると、焚き火が燃え盛るように、火花と塵もドンドン勢いを増していく。
段々楽しくなってきた俺は死体を放り込むスピードを上げていった。
…………
今、俺の目の前には光の柱がある。
柱はその全身から神秘的な光を放ち、周囲を昼間のように照らしていた。
「綺麗だ」
別に死体を放り込みすぎて収拾がつかなくなり、どうやって消したらいいか分からなくなって放心しているわけではない。
光の柱は森を突き抜け、下界を見下ろすようにそびえ立っている。
「美しい」
別に光が強すぎて、街にばれたら騒ぎになるなとか、熱を持ってたら火事になるなとか、調子に乗りすぎたなとか反省しているわけではない。
そのまま様子を窺っていると、柱が振動しながら一気に膨らみ始めた。
膨らんだと思ったらすごいスピードで縮みはじめ、光が柱の中心に収束し、玉のようになる。
光の玉は打ち上げ花火が破裂するような音を立て、小さな火花を周囲に大量に撒き散らしながら消えていった。
全てが終わると辺りは何事もなかったように静かな闇が戻った。
(静かだ)
……今度からは、死体を入れる量を少なめにしておこう。
そう心に誓うと、死体処理を切り上げて眠りについた。
…………
光の柱事件から数日経った。
ギルドへ報酬を貰いに行く際、話題になっていないか探ってみたが誰も知らない様子だった。南の森のことなど誰も興味がないらしい。
存在しないものとして扱われているかのようだ。まるで元の世界の俺みた……いやなんでもない。
相変わらずゴブリンを狩り、報酬で食料と生活雑貨を溜め込む毎日を送っている。
今日は薬屋で貯金を使ってポーションを一個購入しておいた。オーガの一件もあったし念のためだ。複数持っておきたいところだが、買えたのは一つだけ。
かなり高価だった。これで効果が大したことなかったら泣ける。
そして狩人のスキルレベルが念願のLV4になった。早速スキルをチェックしてみる。
狩人
LV1【短刀術】
LV2【弓術】
LV3【聞き耳】
LV4【暗視】 (暗闇でも目が見える)
LV4は【暗視】らしい。
今は昼間なので使っても効果がわかり辛いが、日が当たっていない森の深部が以前よりはっきり見える。
サーモのような暗視モードに切り替えるというよりは暗いところも明るいところも分け隔てなく見えるようだ。
夜の森は本当に何も見えないのでこれはありがたい。
狩人のスキルレベルも4になったし、ゴブリンの討伐数から考えてもそろそろレベルが上がったもおかしくない。そう考えた俺は職業を一旦暗殺者に戻しておく。
暗殺者でレベルアップしたら今度は戦士スキルを取りに行きたいところだ。
しかし、いつレベルアップできるのだろうか……。
レベルアップ間近だろうと予測したが、倒すモンスターがゴブリンではまだまだ数をこなす必要がありそうだ。
西の森へ行ってオークを狩ることができれば、時間を短縮できるかもしれない。
あれからレベルは上がっていないが身のこなしは上手くなったと思う。今の俺なら一対一の状況に持ち込めれば、それほど苦戦しないのではないだろうか。
初心者相手のモンスターのようだし、オーガに気をつければなんとかなりそうな気はする。
一応、報酬を貰いに行くときにギルドで確認したところ、常時討伐依頼ではあった。
だが俺はオークを結局見ていない。戦うところもだ。
そのため判断が難しい。オークと対峙して倒せなかった場合のことを考えると少し不安が残る。
ダメだったから帰ろうとはいかず、そのままオークにあの世へ送迎されてしまうわけで。
ここはいきなり倒しにいこうとはせず、また誰かの後をつけて戦うところを見学させてもらうのがいいだろう。それを見て一人でも倒せそうならレベルアップするまで一時的に切り替える方針でいこう。
そう思い立ち、翌日から俺は他の冒険者の様子を覗くため西の森での張り込みを開始した。
多分、冒険者が森に入るのは午前中だろうから初日は昼まで張り込んで、まずどの程度の人数が森に入っているのか把握しようと考えた。
この日、昼間までに森に入っていったのはたった六人だった。
パーティーにすると二組だ。
やはり大半の冒険者は警備や護衛の依頼をこなしているのだろうか。
一組は四人組のパーティーで、もう一組は二人組のパーティーだった。
四人組の方は革鎧を着た戦士風のメンバーが四人で、二人組の方は以前オーガの件で見た金属の鎧を着たごついおっさんとローブを着た魔法使い風の老人の二人だ。
二パーティーとも朝早くに森に入って行ったため、今から追いかけてもどこにいるかわからない。
そのため尾行は翌日からにすることにし、今日は南の森へ帰ってゴブリン狩りに励むことにした。
翌朝も森に入っていくのは同じニパーティーだけだった。オーガの影響で死傷者も出ていたそうだし、人数が少ないのはその影響も考えられる。
隠れて様子を窺っていると二パーティーはそれぞれ別方向に進んで行った。
どちらを付けるか迷うがオーガの一件で隠れている俺に気付かなかった二人組のパーティーの方を尾行してみることにする。四人より二人の方が見つかる可能性も低いだろう。
後を付けた二人組はごついおっさんが先頭を行き、その後ろにローブの老人が続く。交わす言葉は少なく、必要最低限といった感じだ。
オークだけならここまで神経質に行動しないのかもしれないが、やはりオーガがいるとわかっているため慎重に行動しているようだ。
しばらくするとおっさんが指で合図し静止する。
それに倣い老人も止まる。俺はごついおっさんの視線の先を見てみる。
そこには豚のフルフェイスマスクを被り、全裸に腰みのをつけたビール腹のおっさん二人が棍棒のようなものを持って歩いているのが見えた。
あれがオークなんだろう。多分、フルフェイスマスクではなく地顔なんだろう。
ごついおっさんは指での合図を何回か続けた後、剣を抜くと音を立てないようにゆっくり動き出した。老人の方はその場で待機するようだ。
いくら音を立てないように歩いても俺のようなスキルはないようで、オークの側に近づくと気付かれてしまう。
しかし気付かれるのは想定していたのか、ごついおっさんは挨拶代わりに両手剣を一気に振り下ろす。
二匹のうち、おっさんの側に居たオークがざっくりと斬られ、体液を撒き散らしながら膝から崩れ落ちる。
おっさんは斬ったオークを盾にするように動きながら斬り込んだ両手剣を引き抜いて再び構える。
生き残ったオークは逃げることなく、そのまま棍棒を振り回して襲い掛かってきた。
おっさんは棍棒を最小限の動作で弾き、隙の出来たオークの足を蹴る。
そして足を蹴られてバランスを崩したオーク目掛け、両手剣を思い切り振り下ろした。
まともに両手剣を受けたオークはその場に崩れ落ち、立ち上がることはなかった。ほんの数秒。あっという間の出来事だった。
ごついおっさんの戦いぶりは不意打ちしかしてこなかった俺の目にはとても鮮やかな立ち回りに見えた。
二対一なのに正面から戦って勝ってしまうとは凄い。
剣の力加減も当たらなかった時のことなど考えず、全力で振り下ろしている感じだった。避けられる事など微塵も考えていないようだ。
もし、自分が二対一の条件で正面から戦って勝てるだろうか。
(いや、俺は俺で得意なところで戦えばいいのだし、不意打ちするにはどうすればいいかを考えていこう)
あのごついおっさんと同じ事ができるか悩みそうになるも、はじめからそんな事は不可能だった。俺は俺の戦いやすいように戦うべきだ。
その後も二人組のオーク狩りは続いた。
様子を見る限り、どうやらオークは二匹一組で行動することが多いようだ。
またオークはその外見から予想される通り、動きが遅いパワータイプといった感じだった。
武器は棍棒を持っていることが多く、防具は何もつけておらず、腰みののみしかつけていない。
尾行に一日を費やしたため、その日は狩りができなかったが色々と参考になった。オーガと比べれば十分戦えそうな気がする。
今回、尾行している間に老人の方が何かすることはなかった。
二人組で司令塔ということもないだろうし、切り札的存在と考えるべきだろう。
自分のステータスにも魔力の項目があったし、老人の見た目から考えて、魔法の使い手と考えるのが無難ではないだろうか。
多分、老人は魔法使いで攻撃魔法を切り札として温存しているか、僧侶で回復魔法が使えるがおっさんが無傷で使いどころがなかったかのどちらかだと思う。
魔法を使うところも見ておきたかったが、今日の感じだと使うことはほとんどなさそうだ。
これ以上の情報は実際に戦って入手すればいいので、明日からは早速実戦といこう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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