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本作品は以下の様な表現が含まれます。


映画で 【主人公が追跡する車の後輪を撃ったら爆発炎上】 というワンシーンを見て、


A タイヤに弾が当たって爆発炎上はおかしい。そもそも車体に当たっても爆発しないし、走行中のタイヤを狙って一発で命中させるのは不可能。


B 火薬が少ない。そもそも車が爆発炎上して運転手が死ぬのがおかしい、そこは無傷で出てきたうえに銃を捨てて殴り合うところ。


のような感想があると思いますが本作はB感想の著者がBのようなシーンになるように書いているためA感想の方には耐えられないシーンばかりとなっております。ご了承下さい。











 気がつくと目の前に冒険者ギルドがあった。



 あまりのことに気が動転するも、とりあえず自分の名前を憶えているかどうかで正気度をチェックする。


 (俺の名前は滝川ケンタ、小粋で物分りのいい男だ)


 どうやら自分の名前がわかるほどには精神状態も良好らしい。


 気を取り直して目の前の光景を再度注意深く見てみる。



 眼前にある建物には入口の上に看板がある。


 その看板には見たこともない文字でデカデカと冒険者ギルドと書かれていた。


 だからあの建物は冒険者ギルドで間違いないのだろう。


 確認を終えた俺は通行の妨げにならないよう、少し脇によってから目を閉じる。


 ……確か俺はついさっき、ビルから落ちて死んだはずだった。


 痛みはあまり覚えていないが接触した際の衝撃は覚えている。


 あれは助からない。


 物分りのいい俺には大体分かる。


 これはあれだ、異世界転生ってやつだ。


 しかも体は成長していて、ギルド前からのスタートという親切設定。


 元の世界では死亡しているので戻ることは叶わない。


 こんな素性のわからない人間を雇ってくれる安定した職場などあるわけがない。


 要は前置きはいいからさっさと日雇い労働者(冒険者)になって活躍しなさいってことなんだろう。



 そして物分りがいいという設定はここでなくなるということも理解している。


 きっとここからは察しが悪い鈍感優柔不断のハーレムヒーロー一直線に違いない。


 並み居るヒロインの告白を"え?"の一言でかわし続ける毎日が今ここにはじまろうとしている!



(……無いわ)



 軽く妄想してみるも自分がモテるという絵面が想像できない。


 だいたい、女性と対面しただけでうっすら額に汗が滲むような奴が常時女性に囲まれたら腋汗が滝のように流れ出てビショビショになってしまう自信がある。


 とりあえず腋汗の事は置いておき、現状の把握に戻る。


 でっかい看板の文字は難なく読める。


 目を閉じたまま冒険者ギルドと文字を思い浮かべてみる……思い浮かぶ文字は日本語と、見たこともない文字の二種類。適当な単語を色々と思い浮かべてみても同様の結果だった。声に出してみても問題なく二種類の言葉で発音できる。


 バイリンガルって素晴らしいと思う。


 視線を落とし、服装を確認するとくたびれた背広から通行人Aのような恰好へクラスチェンジしていた。着ている人間が何の取り柄もない人間なこともあって、なんとも言えないNPC感が漂う。


 次に持ち物を確認する。


 といっても手ぶらなのでポケットをあさってみる。


 財布っぽい皮袋を見つけ、中身を確認してみるとかなりの金額が入っていた。


 今日はバスと電車の定期の更新をしようと財布にかなり現金を入れていた記憶がある。


 多分、元の世界の現金がそのまま両替されているのではないだろうか。



 これなら冒険者の登録にお金が必要だったとしても大丈夫そうだ。


 そう判断し、俺は冒険者ギルドの門をさっさと潜る。


 中は結構広く天井も高い。受付は五箇所ほどあり、全員おばちゃんが対応していた。美人で切れ者風のお姉さんとかはいなかった。


 ……残念でならない。


 時間帯のせいか利用者は俺以外誰もいない。


 面倒なので入り口から一番近い場所の受付に行き、声をかける。


「すいません、冒険者の登録をしたいのですが……」


「登録料は一万ゴールド。必要事項をこれに記入して、あとこれに血を一滴垂らして」


 受付のおばちゃんは何か別の事務作業をしているらしく、机から目を離さない。 全くこちらを見ずに紙と金属の板を突き出してきた。


 必要事項に分からない部分などもあり、質問してみようとするも――


「あのぅ、この名前の部分なんですが苗字も必要で…」


「早くして!」


 ――俺の質問は机に視線を落としたままのおばちゃんに食い気味に遮られた。



 発言が許されない空気感が半端ない。


 個室トイレから出てきた時に待っていた人に声をかけれないくらいの空気感だ。


 しょうがないので諦めて適当に書くことにする……。


 お金を払い、必要事項を記入する……といっても名前とレベルと職業の欄しかなかった。これなら手間取ることはなさそうだ。


 名前は苗字を省きケンタ。レベルはわからんから1。職業はごまかしがききそうな戦士と記入しておく。


 次に指に針を刺し、おばちゃんに言われた通りにスマホぐらいの大きさの金属の板に血を一滴たらす。


 すると板が光り、表面に文字が浮かび上がる。


 ケンタ ギルドランク0


 どうやら名前とギルドランクが表示される物のようだ。


「終わりました」


 紙と金属の板を返すと板だけ突っ返される。


 そしてすっごい睨まれる。


「これがギルドカード! なくすと再発行にお金がかかるから! 依頼は掲示板に張ってあるものを受けるなら剥がしてこっちに持ってきて! 常時討伐依頼のモンスターは黒板に書いてあるから確認して!」


 俺が言葉を挟む間を与えないように畳み掛け、威嚇するように叫ぶ。


 受付のおばちゃんは酸っぱそうな唾液をまき散らしながら仕事として言わなければならないであろうことをまくしたてた。


 そして言いたいことを言い終えると俺にはもう何の用もないとばかりに視線を机に戻し、別の作業を始めだした。


(もう帰りたい……!)


 おばちゃんの給料以上のサービスは絶対しないという姿勢に心が折れそうになるも、掲示板と黒板を覗きに行ってみる。


 どうやら、俺のランクで受けられる依頼は薬草採取と、名前から察するに弱そうなモンスター討伐がメインのようだ。


 ランクが上がると街や畑の警備や運搬の護衛の様な依頼や、強そうなモンスターの討伐が受けられるようになるっぽい。多分依頼をこなすとランクが上がっていくんだろう。


 というか普通にモンスターがいるようだ。


 さすが異世界、倒すとレベルが上がったりするのだろうか。



 依頼の紙をおばちゃんに持っていくのが嫌なので常時討伐依頼のボードを見てみる。


 俺のランクで受けられるのはゴブリンとホーンラビットの討伐だった。


 先ほどの説明が本当なら、それぞれ指定された討伐部位を提出すれば報酬がもらえるのだろう。



 ざっくりとは分かったが細かい部分は予想しかできず、おばちゃんも答えてくれそうにない。他の受付を見てみるも、みんな忙しそうに何か作業をしている。


 他にギルドの利用者がいれば色々聞くこともできたかもしれないが、誰もいないし来る気配もないので俺はギルドを後にした。


 薄暗かったギルドから外に出ると、午前中の明るい日差しが出迎えてくれる。


(さて、どうするか……)


 俺は腕組みしながら今日の予定を考える。



 まずは宿を取る。


 その後、残った金と相談しながら装備を整え、時間に余裕がありそうならそのまま討伐に行ってみる。

 と、いったところだろうか。


(そういやちゃんと街の様子を見てなかったな……)


 考えもまとまり、少し心に余裕が出てくると当たりの様子が気になりはじめる。


 この世界に来たとき、俺の視界は冒険者ギルドに塞がれており、周囲を見渡すというところまで頭が回っていなかった。


 街の様子はどんなものだろうかと改めて見渡してみる。


 これは……、一言で言って……。



 異世界ファンタジーだ。


 街はここから端が見えないほど広く、建物は石造りで窓にはガラスがある、道は綺麗に舗装されゴミ一つない。


 行き交う人々の服は着古した中古ではない感じ、中世というにはボロっちくないし色鮮やかだ。


 着ている服装もバラエティーに富んでいて中世の農民が着ていそうな服からスーツっぽい服装の人まで幅広い。


 なんというか、雑多でまとまりがない感じだ。


 中世の世界というより、ファンタジーRPGの世界という言葉がしっくりくる。


 きっと文明では説明できないものにはマジカルパワー的なものが働いているに違いない。


 この感じなら多分魔法使いとかエルフとか獣人とかもいるんだろう。


 いて欲しいな……。



 ぼんやりと辺りを見渡して気付いたのは周りにはお店しかないということだった。


 商業区域みたいなものなのかなと、ウインドウショッピングよろしく店を覗き見ながらうろつく。


 しっかりとした家屋のようなお店が立ち並ぶところもあれば、露店やござを敷いただけのような店が連なる市場のような場所もある。店は一杯あるが行き交う人はまばらだ。


 そうこうしているうちに宿屋がある一帯が近づいてくる。まずは宿を取ろうと考えていたので早速今日の宿泊先を決めようとそちらへ向かう。


 しかし、店構えからは何も判断できないので、どの宿に入るか悩む。


 片っ端から入って価格を調べるわけにもいかないし、人に聞こうにも信用できる知り合いなんていない。


 客の出入りが激しいところが人気がありそうだがそんな都合よく人が出入りしている宿も見つからない。


 少し迷ったが、ここは失敗前提で一泊づつ順番に宿を取り、お気に入りを探すことにする。


 どうせしばらく拠点になる街だろうし、色々宿を変えて楽しむのも悪くない。


(まずは一番端の宿から攻めてみるか)


 俺はそう思い、多少不安が残るものの端の宿に入った。


「いらっしゃい!」


 中に入ると威勢の良い声と共に恰幅のいいおばちゃんが奥から出てくる。


「一泊したいのですが空いてますか?」


「朝食と夕食つきで八千ゴールド、素泊まりで六千七百ゴールドだよ」


 高いか安いか全くわからないが、この宿だけ異常に高いこともないだろうと思い、飯つきを選択する。


「飯つきでお願いします」


 俺は皮袋から八千ゴールドを取り出し、おばちゃんに渡す。


「あいよ、これが部屋の鍵だよ。鍵に書いてある番号の部屋を使っておくれ」


「どうも、一旦買い物に出るので部屋には後で戻ります」


「夕食は六時から八時の間にとれるからそれまでには戻ってきな」


「わかりました」


 おばちゃんに挨拶を済ませた俺は一旦宿を後にした。


 宿も取れたし次は装備を整えようと武器屋や防具屋を探しに向かう。


 …………


 無事買い物を終え、疲れた俺は宿の部屋に戻ってきていた。


 剣帯を外し、買ってきた片手剣を壁に立て掛け、ベッドに大の字になって寝そべる。


 宿を出た後、挙動不審にうろうろしながら道行く人の買い物の様子を窺ってみたが、値切り交渉をして適正価格にもっていくような感じではなく、値札通りの値段で購入していた。


 そのため俺でも簡単に買い物できたのは良かったが……。


 片手剣が高かった。


 武器の類はどれもかなり高額で武器屋で新品の物は買えず、バザーのように展開している区画で怪しげな中古品を買うはめになってしまった。


 残った金でナイフ、水筒、干し肉、薬草、着火用魔道具、リュックを買ったがどれも品質は悪い。というかボロッボロだ。本当はお金を少しでも残しておきたかったが全額使い切った……。


 絶対まずい。


 といっても不必要な物を買ったつもりはない。


 最悪、依頼がうまくいかなくても干し肉と共用の井戸で水を確保して何とか食いつないでいくつもりだが、何日持つかわからない。


 初日から一気に崖っぷちだ。


 ベッドで大の字に寝ころんだままぼんやりと天井を見つめる。


 今日一日を思い返しながら何とかならないものかと思案する。



 そういえば、転生物のファンタジーといえば何かしら恩恵を貰えたりすることが多い気がする。


 中には神様的な存在にチートと呼ぶに相応しい壊れ性能の異能を授かるのもあるくらいだ。


 その中でも定番なのはやっぱりステータスだろう。


 自分の能力なんかが一目で分かるゲームシステムもどき。


 俺にも備わってないだろうか……。



(メニューオープン! とか言ったら都合良く表示されないかな)


 と思った瞬間、視界の左上に小さく画面が表示される。



「うおうっ」


 驚きと喜びから思わず奇声を発してしまう。


 しかしよく見ると項目はステータスとアイテムボックスの二つのみ。


「魔法とかはないのか」


 と、がっかりしつつ、ステータスを選択し詳細を確認してみる。


 ケンタ LV1 無職

 力 2

 魔力 0

 体力 1

 すばやさ 1


 どうやらHPやMPの表示はないようだ。


 他と比較したわけでもないが絶対低いと確信できる数値に愕然とする。


 魔力が0なのもショックだ。


「どうすんだよこれ……」


 あまりの数値の低さに無意識に呟きが漏れ出る。


 いや、まだ望みはある。


 アイテムボックスの項目だ。


 もしかしたら、何かすごい物が収納されているかもしれない。


 俺は祈る気持ちでアイテムボックスの項目を選択してみる。


 だが、無情にも中身は空だった。そう甘くはなかった。


「まあ、使ってみるか……」


 とりあえず側にあった枕を掴み『収納』と強く念じてみると、ふっと消える。


 アイテム欄を見てみると枕の文字があった、それを選択し集中するとまた手に枕が戻る。


「おー、便利だな」


 アイテムボックスへの出し入れには集中する必要があるのでとっさには使えなさそうだがそれでも身軽に動けるのはありがたい。


 手ぶらで動くのは目立ってしまうだろうから、とりあえずリュックに入れるとまずいものだけアイテムボックスを使ってみることにする。


 買ってきたナイフは鞘がついてなかったので刃がむき出しの状態だった。


 リュックを傷つけるとまずいと思い、早速収納する。


 あと干し肉も裸で渡されたので、これもリュックからアイテムボックスへ移動する。


「匂いがつきそうだしな」


 肉の匂いがするリュックとか御免だ。


 これは冒険者よりアイテムボックスを利用して運送業とかやった方がいいかも?


 と思ったがアイテムボックスにどの位の量や大きさのものが入るのかわからないし、入れっぱなしで本当に大丈夫なのかもわからない。


 こんなわけのわからないもの、ある日突然使えなくなっても何一つおかしくない。


 それ以前に俺以外の人も使えるなら意味がない。


 いや、俺以外の人が使えなかったらそれはそれでトラブルに巻き込まれそうな……。


「使えるかどうかはもう少し状況がわかってからかな」


 枕を頭の下に敷きなおしながら呟く。


(俺、うまくやっていけるかなぁ……)


 寝そべったままぼんやりと天井を見つめる。


 正直これからには不安は感じるが、こんなにのんびりとゴロゴロしたのはいつぶりだろうかとついそんなことを考えてしまう。


 しばらくすると部屋の外から良い匂いがしてくる。


 夕飯が食べられる時間になったのだろう。


 俺は匂いにつられるようにして部屋を出て食堂へと向かった。


 そして流し込むように食事を終え、部屋に戻ってベッドに寝転ぶ。


「うまかった」


 俺はふくれた腹をさすりながら寝返りを打つ。


 朝から歩き通しだったうえに食うもの食ったせいか全身にじんわりと眠気が襲ってきた。


 眠るには少し早い時間だったが、今日はさっさと寝てしまうことにする。


(明日は早朝からモンスター討伐だな……)


 俺はそう決めて薄れゆく意識を手放した。



 そして…………




 朝、目を覚ますと、荷物が全てなくなっていた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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