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カレンの最後の奉公

作者: 飛鳥 休暇

私がここ白鳥家のご子息、優斗様にお仕えしてから、はや10年が立とうとしていた。


優斗様は今日も中庭で優雅にティーカップを傾けている。


「そうだ、カレン。久しぶりにあの本持ってきてよ。アイ ニード ブック!」


その指示を聞き、私はやれやれといった感じで本を持っていく。


優斗様に本を差し出すと「よく出来ました」とニッコリ笑って頭を撫でられた。



いつからだろう。


優斗様の体が私よりも大きくなった頃から、優斗様はたまに私を子ども扱いするのだった。


それに対して特に不満があるわけではない。


私の仕事は優斗様にお仕えする。ただそれだけなのだから。


優斗様にお渡しした本の題名は「オズの魔法使い」と言っただろうか。


少女が家に帰るため、不思議な仲間と旅をする話だ。


優斗様がこの本が好きな理由は、ボタンを押すとストーリーや登場人物のセリフが流れてくる読み上げ機能が付いているからだ。


それを聞きながら紅茶を飲むのが、優斗様の小さな頃からの楽しみのひとつだった。


まったく、どっちが子どもなんだか。




「ねぇ、カレン。天気もいいことだし少し散歩にでも行こうか」


紅茶を飲み終えた優斗様がそう誘ってきた。


散歩程度であれば、ここ白鳥家の中庭で十分ではないのだろうか。


そう思うこともあったが、きっと優斗様は私のことをお考え下さってのことなのだろう。


広い敷地ではあるが、ここに仕えている私には勝手に外に出かける自由などない。


だからしばしば、優斗様は私を散歩に誘って下さるのだろう。




優斗様が私の隣を歩いている。


少し後ろには護衛の者があと二名。


閑静な住宅街の道を歩く。


しばらく歩いていると、道の向こうから母に手を取られながら歩く少女が見えた。


少女もこちらに気付いたようでパァっと花が咲いたような笑顔を向けてきた。


こちらに駆けてこようとする少女を母親が制した。


少女は私を指をさしながら母親に向かってなにかを伝えている。


母親が「そうだねカワイイね」と言ってフフッと笑っていた。





散歩から帰り、また中庭に戻ると、優斗様のお父上とお母上のお姿があった。


そしてその脇には、



私と全く同じ格好をした若い娘だった。



「優斗、わかっているね」


お父上が優斗様に声を掛ける。



「しかし、お父様・・・」


優斗様が震えていらっしゃるのが、ハーネス越しに伝わった。


「カレンはもう年だから、これ以上無理をさせることが出来ないんだよ」


お父様が優斗様をなだめるようにおっしゃった。




「カレン・・・」


優斗様が私を抱きしめる。


私も答えるように、しっぽを振る。


涙のこぼれる、優斗様の盲いた瞳を舐める。


ありがとうございます。優斗様。


私はあなたにお仕え出来て、ほんとうに良かった。


ありがとうございます。優斗様。


私を家族のように愛して下さって。



大丈夫です。優斗様。


新しい子もきっと。命を懸けてあなたをお守りすることでしょう。


そんな思いが伝わるように、私はちぎれるくらいにしっぽを振った。




御迎えの車が来たようだ。


私はこれからどこへ行くのだろうか。


走り出した車の後ろから、遠く私の名を呼ぶ声が聞こえた。




さて、カレンとご主人様のお話はいかがだったでしょうか?

最後まで犬だと気づかれずに読んで頂けたのなら嬉しいのですが。

カレンの正体は犬でしたが、はて、彼女はただの犬だったのでしょうか?

答えが分かった方はぜひコメントまで。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初の英語での指示でお?と思いましたが、カレンちゃんは盲導犬なのですね。 新しい子の同じ格好=ハーネスということでしょうか。 お別れは悲しいですね。
[一言] 完全に騙されました。そう言う事だったとは、そりゃ頭なでられますよね。わたしも多少小説を書く身でありますが、光るものを感じました。短い小説で読む人を引き付けるのは難しいと思います。それが出来る…
[良い点] 執事だと思っていた私は年老いた犬だったんですね。最後までどうなるかとワクワクしながら読みました。
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