知りたくなかった事実(蒼視点)
この家族はおかしい、そう認識するようになったのは家族に義姉が加わってからである。
義姉が来るまでは何も知らずに呑気に幸せに浸っていた。
優しく、天然な母に格好良くて俺たちを愛してくれる父に囲まれて。この陰に犠牲があるとも知らないで。
義姉の第一印象は゛なんて不愛想で性格の悪そうな女なんだ゛だった。泣いている母親の姿を見て、激怒した俺は義姉に文句を言いに行ったが、呆れ以外の感情を灯さない表情で俺を見た。
俺は両親から義姉は親が交通事故で死んでしまった可哀そうな子だと教えられた。それを義姉に伝えるといきなり笑い出した。目は相変わらず冷めきっていて、それでいながら口元は上品な弧を描いていた。始めて背筋が凍る思いをした。
すべてに呆れ、そして馬鹿にしている表情。きっとそれには俺も入っているのだろうなと思った。
義姉は俺の頬を冷たい掌で寄せた。呑気にもキスされる!? なんて馬鹿げたことを考えた俺を殴ってやりたい。
義姉の赤い唇から残酷な真実が告げられる。
「私のお母さんもお父さんも生きているよ」
何かを予想したんだと思う。この続きを聞きたくなかった。
「私のお父さんを貴方も良く知っているでしょう?」
ああ、もうやめてくれ。
聞きたくない。
「私のお父さんの名前は゛暁゛だよ」
父さんと同じ笑い方で笑って俺の幸せな記憶を黒く塗りつぶした。
「顔、少しだけ似ているでしょう?」
ああ。似ている。目じりを少し下げ、右の口角が左より高いところも。
でも俺は、それを認めたくない。どこか、冷静な俺は認めたくない俺を嘲笑っていた。
「つまり、あなたのお母さんは愛人だったの。お父さんは不倫」
母さんが愛人? ありえない。
「ちなみに、貴方と私の年齢は同じ」
ああ、その通りだ。7ヶ月の差が……あ……る。
冷や汗が頬を伝う。嫌だ、真実にたどり着きたくない。でも、義姉の口は止まらない。待ってはくれない。
「ということは、私が生まれる前からその関係はあったってこと」
聞きたくなかったのに。
受け入れたくない俺は必死にそれは嘘だと言う。無駄な行為であることはわかっていた。それでも止められない。
「笑えない冗談止めろよ」
これが冗談ならどんなに幸せか。
「母さんがそんなことできる人間じゃない。母さんは少し天然で……正義感が強くて」
そうだ、母さんに出来るはずがない。そうだ、義姉が言っていることは嘘なんだ!!
「そんな母さんが愛人なんて出来るはずないだろ!」
そうだ、これからも幸せな毎日は続く。壊されてなんかいない。
義姉は俺の弱い心を見透かしたように笑った。
「私が言っていることが本当だって分かっているんでしょう? そうじゃなきゃ、そんなに必死にならないもの」
悲しいほど、その通りだ。でも、俺は認めたくない。
「母さんに聞いてくる」
最後の望みを託して。