何を考えているの!?
目覚まし時計を目を開けずに止める。
「う……ん、頭が痛い」
最近、非常識の人に囲まれて疲れがたまっていたらしい。
体を起こすと余計に痛みは増し、ベットに逆戻りである。この状態で学校に行っても体調が悪化するだけだろうと判断して学校に連絡した。
体調が悪い時は薬を飲んで寝るのが一番だが、生憎、薬があるのは一階である。しかも、そこには煩わしい父親と義母と蒼がいる。頭痛の元凶であるあの人たちに会いたくはない。
しょうがない。ふう、とため息をこぼす。この家に来てからため息が圧倒的に多くなった。ため息をすると幸せが逃げるというが、幸せが逃げていくからため息をするのだ。逆であると私は思う。
頭が痛い時、お母さんが心配した顔で薬と水を持ってきてくれて、私が眠るまで頭をなでてくれた記憶がよみがえる。温かいお母さんの手に安心してあっという間に寝てしまった。そんな優しい記憶。
段々現実と夢の境目が分からなくなり、とうとう夢の世界へと旅立った。
「詩織っ!」
男の声で目が覚める。
この男の声に聞き覚えがある、たぶん真和のものだろう。
どうしてうちに居るのだろう? ああ、そうか。体調が悪くて休んでいる私は学校にいると義母は思っているんだ。お父さんは出張で、蒼と私は学校にいると思っている。
つまりは家に誰もいないと思ったから真和を家に入れたのだろう。
真和は義母に恋愛感情を抱いている、それなのに二人きりになることを許しているということに吐き気すらする。
真和はたぶん純粋なのだと思う。幼いころから一途に義母を想って。それを弄ぶ義母はまるで悪魔だ。
「キスマークがついてる……。暁につけられたのか?」
不機嫌そうな声が下から聞こえる。不機嫌そうだが、どこか甘い声。
どうやら、真和は義母が晴翔と関係があることを知らないらしい。暁以外の男がいるとは想像がつかないらしい。
こんなにも尻軽なのにねと笑いがこみ上げる。
「ん……」
どろりとした蜂蜜のような甘い甘い二人の時間が始まったらしい。
まさか自分たちの部屋でほかの男と義母が甘い時間を過ごす、なんてことはお父さんは全く考えてもいないだろう。なにせ、お父さんにとっての義母はか弱くて守ってやらなければならない存在なのだから。
義母にとっての騎士はお父さんだけではないのだろうが。
「このキスマークを俺のもので上書きしてやる」
「もう、馬鹿……」
お父さんは不倫をしたことに罪悪感を感じていなかったように、義母も不倫をすることに大して罪悪感を抱いていないらしい。
顔が整ってさえすれば簡単に相手の愛を受け取るのだろう。母親としての自覚すら無く。
ふとあることに疑問を抱く。下の階での騒音すら気にならなくなるような疑問を。
蒼は本当にお父さんの子なのだろうか?
お母さんは確実に被害者である。でも、蒼も常識のない大人たちの被害者なのかもしれない─────?