悲劇のヒロイン気取り
今回は少し短いです
「私だって辛かった……? 笑わしてくれる。私達の辛さをアンタは全く分かってないでしょう。そもそも理解しようともしてないわね。アンタは守ってくれる人がいる、そうでしょう? そうじゃなきゃそんな甘ったれた事なんて言わないもの。お母さんには守ってくれる存在がいない。分かる? 言っていること。お母さんだったらそんな甘ったれた同情してほしいなんて考えは持ってないわ。私、悲劇のヒロインぶってる人嫌い。」
俯き、震える声は悲しみではなく、凄まじい怒りである。握りしめる拳は必死に怒りを抑えようといしてのだが、女は殴られると勘違いし、父の後ろに隠れた。
ふるふると震える肩、涙目、そして白くて守る術を知らない細い腕は父の腰に巻きつけている。父が守ってくれると信じ切っている。怖い……と小さい声で言えば、俺が守ってやるとヒーロー気取りのセリフを吐いてキメ顔をした。それを見て私は冷めた目を父に送り、女は熱い視線を送った。
「早く部屋を出てくれない? さっきから言ってるんだけど……」
溜め息混じりに言う。2人のあまりにもバカバカしい姿で、見ていると起こる気も失せる。コイツ等に構っているのは時間の無駄だと悟ったのである。2人は大人しく出て行くはずもなく、女は一度引っ込んだ涙を再び流し、父親も父親で泣いている姿も可愛いとデレデレしながら抱きついている女を更に抱き寄せ、頭に優しくキスをする。はた迷惑な2人だけの甘い世界が出来た。
「やっぱり、紫乃ちゃんとは仲良く出来ないのかなぁ……。そうだよね……暁さんとの愛人だったんだものね……」
苦しそうな顔をして父のYシャツに涙によってシミをつくる。
「愛人はともかく、人の部屋に勝手に入って泣きわめくなんて礼儀としておかしい。わかる? 私はまだパジャマなの。着替えたいから早く出て行って!」
枕を女に向かって投げる。すると丁度女の顔に当たってふらりと後ろにバランスを崩す。バランスを崩しただけで、転んではいないのだが。先ほど父は女を守ってやると言っていたのに守るどころか、少しも動きを見せなかった。
「分かったわ。……えっと、あの……その……ごめんね」
俯き、小さな声で謝罪した。その謝罪は罪悪感など感じておらず、むしろ、悪いことをしたという考えもないであろう。この人は守られ、愛されてきたから、全てを許されてきたから、とりあえず謝れば解決。という考えなんだろう。
とぼとぼと酷く遅い足取りで悲しそうな顔をして父と一緒に私の部屋を出て行く。
女が悲しんでいるのは自分を拒まれたからであって、自分の過ちに気付いていないため、己の礼儀知らずの事についてではない。
「せめてドアを閉めていってよ……」
開いたドアを見て全てを諦めたような重い溜め息をついた。
読んで頂き、有り難う御座います\(^o^)/