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ヒロインな義理の母。

ジャンル別ランキング1位!!読んで下さった方々、有り難う御座います\(^o^)/

 「今日から詩織さんと一緒に住むことになったから、挨拶しに下に降りてこい」


淡々と告げられるこの言葉に目を覚ます。窓から漏れる太陽の暖かな光と、少し冷たいけれど、優しい香りがする風が私の意識を覚醒させた。


「なに? あの女来ているの。しかも住むとか許さないから。それにまだ7:00にもなってないんだから休日位寝させてよ」


 出ていけ、とばかりに枕を投げつける。しかし、綺麗に避けられてしまうので鬱憤は晴れるどころか、苛立ちは募るばかりでチッと舌打ちをした。

 そんな紫乃の姿を見ても表情は変えず、ただ下りてこいと繰り返すだけである。


「伊集院さん? どこにいるの?」


トントンと階段を上る音が下から聞こえる。その声に父はここだよ。と甘い声をだした。悪寒が走り、目に入った私の腕は鳥肌がたっていた。


 がちゃ。と音を立てて駆け足で女が入ってきた。その目には私は映っておらず、父の姿だけがある。頬を赤らめ、嬉しそうな顔をしている姿はまるで少女のようだ。


「伊集院さんっ! もぉ、こんなに早い時間に呼び出して!! 紫乃ちゃんを紹介してくれるんでしょ? これからうまくやっていけるかなぁ……」


不安そうに父を見上げる、髪を後ろで一つに結った女は私が下で座って見上げているにも関わらずまだ気付いていない。


「伊集院さんって……くくく。詩織も伊集院になるんだよ。だから、暁って名前で呼んで」


女の頭を、撫でながら優しげに笑う父と嬉しそうな恥ずかしそうなふにゃりと柔らかに笑う女に殺気が湧く。

 

「出てってよ。ここ、私の部屋なんだけど。」






やっと私の存在に気付いたらしく、女は羞恥心の為か紅潮させながら父から離れた。


「こ、こんにちは!! 私、暁さんとお付き合いさせて頂いている詩織ですっ。 これからよろしくお願いしますっ」


普通よりも少し可愛いと言える顔、赤いゴムで高く結った髪に口調が学校で隣の席に座っている女の子が熱く語っていた乙ゲーのヒロインにそっくりであった。

 頭の悪そうなこの女にお母さんは負けたのかと思うと憎しみと悲しみは倍増する。


「母さんっ!! あ、父さん! 早く下に下りようよ」


男の子にしては高めの声を出し、ばたんっと荒々しげな動作で部屋のドアを開ける。

 そして今回も私に気付かない。この親子は私が見えないようにフィルターがかかっているのかな。

とくだらないことを朝っぱらから考えてしまう。


「あ、紫乃ちゃん、この子は息子の蒼です。同じ歳だけど、紫乃ちゃんよりも7ヶ月後に生まれたがら紫乃ちゃんの弟ってところね。」


口に手を当て、楽しそうにふふふふと笑った。何が楽しいのだろう。私は楽しさなんて微塵も感じない。浮気相手とその間の子供を見て、楽しさなんて湧くと思う?コイツ等のせいでお母さんは苦労してきたんだと思うとお腹の中にある、ドロドロと煮えたぎったものを感じられる


「おう! よろしくな!! じゃあ、俺下行ってるから。母さん、父さん早く来いよ!」


それだけ言うと、来たときと同じく慌ただしく部屋から出て行った。父さん。と言う言葉につい反応してしまう。蒼は父さんと呼ぶのを慣れている様子で、しかも女と父が一緒にいるのも当たり前だと感じている様子だ。

 下を向けば悔しさで涙が出そう。だから上を向き瞬きを繰り返すと涙は収まり、唇をきつく咬んでいた歯も緩まり、少し熱は冷め、冷静になれた。


「お前、まだこんな写真あるのか。お前の母親は詩織だけなんだからこんな写真いらないだろ。」


苛立ち気にそう言うと、机の上に綺麗に並べられたお母さんと紫乃との写真は父の汚い手によって掴まれ、床に投げつけられる。ピシッと音を立て、写真立てのガラスに白い比較的大きなヒビが入った。けれど、写真その物は全く傷ついていないみたいで、紫乃はほっと息を短く吐き出した。

写真に傷は付かなかったが、暁のした行為は紫乃の逆鱗に触れた。紫乃の大切なお母さんとの写真を家族を蔑ろにし、母を苦しめた父が壊そうとしたことは許せない事である。


「私の部屋から出てってよ!! 早く、早くでてって!!」喉が痛くなるほど叫ぶ。体が熱い。底知れぬ怒りがどんどん湧いてくる。


「なんであんな女の写真に執着するんだ? あんな女の写真なんて、いらないだろう? 笑いもしないあんな女よりも詩織の方がずっと良い女だろ」


「あんな女……? 笑わない……? ぶさけんなよ!! 浮気して、家に金も入れず、ふらふら遊んでいるアンタがあの女なんて言う資格無い!! お母さんがアンタに笑わないなんて当たり前でしょ! 憎いアンタに笑いかけるなんてあるはずないでしょ! 詩織も、アンタも皆嫌いよ!!」


「私だって……!! 私だって……!! 本当は愛人なんてしたくなかった……!! 好きになっちゃいけないって何度も言い聞かせて……それでも……それでも! 止められなかった……。紫乃ちゃんも、紫乃ちゃんのお母さんに悪いことをしてしまったわ。人として酷いことをしてしまったわ……でも、私だって辛かったの……」


悲しみに満ちた涙で濡れた大きな瞳、ひっく、ひっくと可愛らしく泣く声。小さなか弱いその姿は小動物みたいで、皆の保護欲を掻き立てるだろう。父の胸にすがり、泣きつく姿は女性らしくて、とても可愛くて………皆に守られて生きていることが分かる。

 このお女にピッタリ当てはまるのはヒロインという言葉。ひとりで私を育て生きていたお母さんとは真逆で悲しくなった。


世界はなんて不公平なんだろう。

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