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嘘だと言って欲しかったのに(蒼視点)

 冷や汗が留まらない。

 鼓動は煩いと感じるほど脈打ち、胸の奥は沸騰するほど熱いのに凍えそうなほど手足が冷たい。

 早く母さんに聞きたい。

「えっ? 愛人なんてなるはずがないでしょ」

 そう言って笑って貰うことを期待した。


「母さん、母さんが父さんの愛人だったって聞いたんだけど」


 情けなく声が震えていた。


「どこでそのことを……」


 望んでいる言葉ではなかった。

 困ったように首を傾げ、父さんに助けを求めるように視線を寄越した。


「どういうことだよ……!!」


 父さんは震える母さんの頭をなでた。

 違う、俺が求めていた反応ではない。一番苦しんだのは義姉やその母親で、謝ってほしいわけではない。でも罪悪感を感じる反応が欲しかった。

 義姉が不愛想な理由が分かった。二人の態度に腹を立てていたんだ。


「母さんはそんなことしないって信じてたのに!!」


 裏切られた、そう感じた。

 喉が痛くなるほど怒鳴ると母さんは小さく震え、後ろに後ずさった。そして、目に大きな涙をため、泣き出した。


「たまたま好きになった人が結婚している人だった」


 母さんの言葉に目の前が真っ暗になる。自らの罪を正当化させるような言葉だったから。


「いけないことだって……分かっていた……やめようとした……」


 何か違和感はある。

 まるで自分の不運が可哀そうでしょ? と同情させるような言い方。

 

 母さんの涙は悪いことをしたっていう涙じゃなくて、自分を憐れむ涙なんだ。


「どうすることもできなかったの」


 上目遣いで私、可哀そうでしょ? と問いかけるような視線に吐き気がした。


 父さんは母さんを優しく包み込むようにして抱き、こちらを睨んでいった。


「そんなにきつくいうことはないだろう」


 これが俺の両親なのか。


 不倫を悪いことだと二人とも思っていない。

 優しく正義感のある母さん……よく思い出せば、優しく親切にする人は母さんの幼馴染の真和のような顔の良い男だけだ。

 格好良い父さん……近所の人や親せきから白い目で見られていた。


 義姉が言っていたことは嘘ではないのか。


 嘘だと言って欲しかったのに。


 そうすれば、二人の醜い本性なんて知らずに優しい世界で生きられたのに。


 

 

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