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白金姫と七人のドワーフ  作者: さぼす
4/4

004 傭兵の憂鬱

お待たせしました、やっぱりギリギリでした

ー愚鳩亭ー


「女将さーん!エール4杯と今日のおすすめもう一皿追加です!

あら、なんか今日は機嫌がいいですね!」


「んまぁ、わかるぅ?」


すっかり日が暮れ人の往来が激しくなる頃

いつもの様に騒がしいホールから

沢山のエールや料理の注文を受けたセサミが

鼻歌混じりにエールを注ぐサボに声を掛けると、

何とも上機嫌な答えが返ってきた。


「何があったんですか?教えて下さいよー」


「んもぅ、聞きたいの?しょうがないわねぇ、あのね・・・」


話したくて仕方が無いと言うサボの様子を見て

これは聞いてくれと言う合図だと悟り、

セサミは持ち前の聞き上手スキルを生かし

待ってましたと言わんばかりにサボが話し出した。






昼間、注文した食材や酒類を届けに来たネリィとバンデス。


「ママさん!ご注文の品、お届けに来ましたです」


「あら、サマノ君とこのネリィちゃんじゃない。

思ったより早いの・・ぬ!?」

(やだ少し田舎臭さはあるけどなかなかのイケメンじゃない!これは逃せないわね)


確実に仕留めれるその瞬間まで殺気を消す

これが肉食動物が野生で生き抜く狩りの基本であるが

あまりの久々の獲物バンデス

逃してはいけないと言う気持ちが先走ってしまい

思わず殺気が噴き出てしまったサボ。


「思ったより早かったわね、そこに置いて頂戴」


瞬時に平静を装い届けられた荷物の置き場所を指定するが

既にサボの視線はバンデスをロックオンしていた。


「はい!じゃぁバンデス、このテーブルの上に置いて行くのです」


店に入り、ネリィがサボと会話し始めた際バンデスは背筋の凍る様な

凄まじい殺気?悪寒を感じ

思わず腰のロングソードを抜きそうになるが何とか堪える事が出来た。


(なんだ今の圧力プレッシャーは?これ程の威圧感はそうそう無いぞ?!

それにしても、ネリィはママって呼んでるが

どう見てもガチムチのおっさんじゃないか・・・)


初対面であるバンデスが持った正直な感想だが

これは決して口に出してはいけない、彼はそれを本能で感じ取った

そう、彼もまた空気が読める男だった。

ちょっと騙され易いが命に関わる際には非常に勘が良く働き

今まで何度もそれに助けられてきた実績と経験がある。


「やだ凄いじゃない!暴走牛の肉とかよく手に入ったわね、

あらあらまぁまぁエントの芋酒もあるじゃない!さすがサマノ君ねぇ」


「あい、暴走牛は運良くギルドから買い取れて、

この芋酒は何度も蔵元にお願いしてやっと分けて貰えたんですよ、

その時の話が・・・」


注文していた商品を一つ一つ確認しながら一見楽しそうに

ネリィと会話しているサボだが

本当に見定めていたのは勿論、商品では無くバンデスである。

そしてそのバンデスはこちらの一挙一足を見定めるような視線を感じていた。

過去に王都の大闘技場で、

飢えた野獣ビーストと1対1で睨み合いをしていた時以上の

ガリガリと精神力を削られていた。


(俺の勘が告げている、全ての毛穴が叫んでいる、

早くここから立ち去れと!)


何とか全ての荷物を降ろしきり早々と立ち去りたかったのだが

二人の会話はまだまだ終わりそうに無く

それを言い出す切っ掛けがなかなか掴めないで居た。

やっと検品も終わりそろそろ帰ろうとしたその時


「これで全部ねご苦労様。あぁそうだ!新作のお菓子焼いたんだけど

良かったら味見していかないかしら?」


「ふぇ!お菓子?いいんですか!食べたいです!」


(おい、やめろバカ!お前さっきも肉串4本喰ってたろ!)


「んーいいのよ、ほら座って座って」


心の中で盛大な突っ込みをしていたバンデスを尻目に

あっと言う間にテーブルに座ったネリィは

サボから薦められたお菓子に夢中になり

今は幸せそうな顔で喋れない程口いっぱいに頬張っている。

バンデスは仕方なくテーブルに着き、淹れて貰ったお茶を一気に飲み干して


「じゃぁ、お、俺は旦那の仕事がまだ終わってないんで、これで・・・」


「そうそう、次の注文なんだけどね」


そう言いながら何故かバンデスの隣の席に座り話を始めるサボ

返事をしようとするが口いっぱい頬張っているお菓子がまだ飲み込めず

紅茶を流し込みながらバンデスに自分の代わりに注文を聞けと

目で合図するネリィ

無駄に器用な子である。


かなりの無茶振りをされたバンデス。

ネリィだけを置いていってもいいが野獣サボの目は

最初からこちらを向いており

今さっきネリィからもお前が代役だと言わんばかりの目線を受けた。


ここ愚鳩亭は毎回、荷馬車の1/3にもなる

大量の食料と酒を注文してくれる響音の谷でも屈指のお得意様である。

そこの主人であるこの野獣サボの機嫌を損ねる事は

雇い主サマノの顔を潰すことにもなりかねない。

雇い主の大事な得意先を失うと言う事は回り回って

最終的に自分の首をも絞める事になると言う事に気付いた獲物バンデス

何とか穏便にこの場を乗り切ろうと覚悟を決めたが

ふと何か違和感に、気付いた

(さっきから 少しずつ 近づいて 来ている!!)

会話の中で何かアクションをする度にサボは少しずつ、

だが確実にその距離を詰めて来ていた。

そうこうしているうち、今はもうバンデスの真横にぴったりと詰め

視線をおくびも隠す事無くこちらをじっと見ていた

もう言うなれば、それはガン見である。


(近い、凄く近いぞ。何だか変な汗が噴出してきた。)

これは俺の色々が本当に絶対絶命と悟ったバンデスは、

最後の望みをかけてネリィを見るが

なんと次のお菓子を口に頬張っており至福の笑みを浮かべていた。

やはりこいつ既に買収されている、もはや味方は誰もいない。

(も う 駄 目 だ)


その時、ゴォォォンと大工房から夕刻を告げる鐘の音が鳴り響いた。

それはその日の仕事を終えた職人達が

帰り支度をし始める合図であると同時に

酒場である愚鳩亭の営業が始まると言う合図でもある。


「あらやだ!もうこんな時間なのね、楽しい時間はあっと言う間だったわ。

残念だけどそろそろお店空けないといけないのよね」


神は居た、九死に一生を得るとはまさにこの事

バンデスはまだお菓子を口に頬張っているネリィを担ぎ

台車に乗せると脱兎の如く店を後にしようとした・・・・

が何かに気付いたサボに首根っこを捕まれて呼び止められる。


「ところで凄い汗ね、そのシャツ洗っておいてあげるから

脱いで行きなさい。」


「え?」


「まだこっちに居るんでしょ?また取りに来ればいいわ、

あーでもその格好で帰らす訳にはいかないわね・・・」


「いや、大丈夫です、今日はまだ暖かいですし・・・」


「そうだ、これ着て行きなさいよ、裸よりマシでしょ!

・・・・ほぉら似合うじゃないの!可愛いわ」






「と、言う訳でその戦利品がコレよ!

返さなきゃいけないのが残念だけど

いい男のイイ香りが染み付いてるわよ!嗚呼素敵」


少しくたびれた黒いシャツを顔に押し当てうっとりした顔で答えるサボ


「は、はぁ・・、じゃぁ取りあえずコレ持っていきますねー」


注がれたエールを受け取り(足りない分は自分で注いだ)、

何とも言えない返事をしながらセサミはホールに消えて行った。


「さぁて今日も張り切って頑張るわよぉぉぉ!!」


今日のおすすめである「暴走牛のハニーマスタードロースト」

の焼き上がりを告げる香ばしい薫りするホールに

野獣のご機嫌な雄叫びが極低音で木霊した。

読んで頂き有難う御座いました

少し書き溜める様にします。

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