ひなたぼっこがしたい
午前十時半。ブラインド越しに朝日と呼ぶにはもう遅い陽の光が差し込んできて、僕の目元を刺激したのに気づいて目を覚ました。夏休みが終わってもう二週間も経つのに、相変わらずひと桁台の時刻に目覚めることが出来ずにいる。
隙間風が足先を冷やす。さすがに10月ともなると朝は冷える。フローリングが冷酷な表情で僕を洗面台まで案内した。
大学と家を行き来する毎日。こんなことになるならもっと遠くに住めばよかった。大学に近いというだけでコンビニもスーパーも遠い、不便な土地。通学は面倒だとあえて大学の近くを選んだのが間違いだった。そこにはただ大学への入り口まで続く舗装道路が延々と続いているだけ。四季折々の田舎風景が楽しめるとはいえ、目に映るのはそれくらいのものだ。退屈でしか無い。
秋風が冷たい。押し入れから引っ張りだしたままのしわくちゃなコートに手を突っ込み、チノパンをこすり合わせるように歩いて行く。空はどこまでも高く、通り過ぎていった台風とは似ても似つかない真っ白な雲がぽつりぽつりと浮かんでいる。
ひなたぼっこがしたい。
道端の咲き遅れのたんぽぽが、歩ける僕を羨ましそうに見つめてくる。それはこっちのセリフだと僕は言ってやりたい。こんな天気のいい日に、わざわざ建物の中に入らないといけないのに。一日中ひなたぼっこしていられるたんぽぽのほうがよっぽど羨ましい。今すぐ足を地中に埋め込んで、のんびり光合成してパワーを蓄えたい。
しかし現実とは悲しいもので、あと二分で始まる講義に向かって俯いたまま足を速める他には選択肢はなかった。
僕を見送るたんぽぽは、冷たい風のなかで凛と黄色く花弁を伸ばしている。僕は首もとをコートで覆った。