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狂神の契約者  作者: Asagi
6/9

遅くなりました。5話目です。

―――side リーナ=フロイス


「うわぁ……」

 

 私の第一声はソレだった。いや、他に言いようがない。

 なんというか、酷い初撃だった。距離を詰めて、剣で斬り合うような展開を予想していただけに予想外だった。


「テメッ、コラ汚ぇぞ!!」

「人の事は言えないよっ!!」


 目の前の言い合い。パッと見では明らかにフレアが悪いように見える。

 だけど、私には見えていた。


 ――後ろに回避すると同時に、袖に仕込んでいた小石を投げつけるルインの姿が。

 

 これは……どっちもどっちだ。汚い。

 というか、正々堂々と言いながら初手がソレってどうなの? お互いの様子を見るにいつもの事なのかもしれないけど。


 ともあれ、最初の応酬の後すぐに動いたのは予想通りというかAクラスの成績優秀者であるフレアだ。自身が蹴り上げた土で生じた土煙に乗じてルインに特攻。すぐさま勝負を決めにかかるが、意外とルインも負けてはいない。

 その場にしゃがんで石を拾ってフレアに投げつけ、接近。土煙の中で見えにくい石を、レイピアを盾にして防ぐフレアの足元に足払いをかける。


「残念、分かりやすいよ」

「うぉっ!!」


 しかし、相手はフレア。Aクラスの実力者だけあって状況判断が早い。

 足払いをかけられて傾いた状態でレイピアを手放し、空いた手で地面に手を着くとそのままの勢いでルインに蹴りを浴びせる。間一髪下がって避けるルインだけど、気が付けば既にレイピアを回収したフレアが襲い掛かる。


「ルイン、覚悟ッ!」

「いや、まだだ。まだ負けねぇよ!」


 ここでルインがしゃがんだ体勢のまま、いつの間にか抜いていた双剣でレイピアを弾いて距離を取り、体勢を整えると同時に接近して手数の勝負に持ち込んでいく。





「……すごい」


 瞬時の判断の連続。一手でさえ間違えたなら即敗北の模擬戦に、私は圧倒されていた。

 最初こそ驚かされたけど、それも冒険者としてならアリなのかもしれない。

 今のところフレアが優勢だけど、ルインの方も上手く捌いている。殆ど互角の戦いかもしれない。ここで見ているとお互いの武器の特徴も分かってくる。


 フレアのレイピアは速度重視。とにかく速い。刺突を主にしながら、蹴りを交えて刺突の隙を埋めているから一手一手が連続して襲い掛かっているようにも見える。そんなレイピアを持って相手に突っ込んで行くスタイルは彼女の性格をよく表しているかもしれない。


 一方でルインは手数と防御を重視しているように思える。フレアのレイピアを片方の剣で逸らし、もう片方の剣で斬りかかる……防御しながらの攻撃は盾を持ってのスタイルを彷彿させるが、彼は剣で相手の攻撃を受け止めるような事はしない。おそらくは魔力強化した相手と力勝負になる事を嫌ってのことなのだと思う。


 フレアの攻撃をルインが逸らして、次の攻撃の前にもう片方の剣でフレアを攻撃。フレアの方もルインの反撃をよく防いではいるけれど、片手のレイピアではルインの方が早い。じわじわとルインが圧しているように見える。


「はぁあああ!!」

 

 ジリ貧になってきたのを嫌ってか、フレアが再び攻勢に出た。刺突、だが今度は連撃だ。


「ぬうっ」

 

 対するルインの方もレイピアを逸らしにかかるが、元々速く受けが取りにくい刺突である上に連撃だ。ルインは防御に意識を割いて両の手で逸らしにかかる。

 だが、それもフレアの想定の内。フレアは下半身へ攻撃した直後、上半身に2連撃を加え、両手が浮いた瞬間に胴体に目がけて回し蹴りを放つ。私だったら避ける事なんてとてもできそうにない、いっそ綺麗にすら見える攻撃の流れだった。


「せやっ!」

「ぐぅっ!!」


 ギリギリ反応して双剣で受けるも、呻きながら吹っ飛ばされるルイン。このまま何もなければ追いすがるフレアに負けてしまう。

 だけど、ルインの方も既に手を打っていた。吹き飛ばされて地面を転がりながら左手で近くの雑草を抜き、そのまま草の部分を持った状態でフレア目がけて剣を振るように振る。すると当然草の根に付いていた土がフレアの方へと飛ばされ、足を止める。


「おっと!!」


 そして土で遮られた死角を利用して腰に手をやり、そこからナイフを3本抜き取って投げ……って、どこからだしたの!?


 しかし、これにもフレアは対応。

 慌てる事無くレイピアで即座に弾いていく。だけど、その瞬間に予想を上回る事が起こった。


「……え? 何で?」


 ルインの投げたナイフ。その最後の1本の切っ先は、フレアのレイピアに弾かれる寸前で停止した。



――side ルイン=カーライン


「……え? 何で?」


 背後でリーナの困惑の声を聞きながら、俺はナイフを手元に戻してフレアに再び投げる。そして、フレアの剣にわざと弾かれた状態にしてフレアに接近。先ほど投げ放った剣は既に回収済みなので、そのまま攻勢にでる。

 フレアのレイピアと俺の双剣は分類上では同じ剣の扱いだが、本当の所は少し異なる。あくまで剣の間合いの中での話になるが、フレアは遠距離で俺は近距離だ。理由は簡単、剣の種類の差だ。

 俺の剣はどちらかと言えば曲刀のような形をしており、斬るためには横に薙ぐ必要がある。その一方でフレアのレイピアの場合は、刀身自体が細く、刺突を目的に作られているため、突くために相手と距離を少し開ける必要がある。一応切っ先で斬ることもできるが、これは効率的にもあまりよくない。


 つまるところ、超近距離戦においては、俺の方が有利な訳だ。

 ただ、問題があるとすれば……


「ぜいっ!!」

「っとお! 危ねぇ!!」


 フレア自身もその問題を理解していて、蹴りを使って突きの為の僅かな距離を稼ぐことだ。


 まったく、貴族のお嬢のくせに足癖が悪い。しかもフレアの靴は蹴りの威力強化と足の保護のために薄い鉄板でつま先の部分を覆っている。コイツの脚力で蹴られたらひとたまりもない。

 ちなみにソースは俺。というかそういう風にやったのも俺だが。


「畜生っ。こんな事なら徹夜なんかして靴を改造するんじゃなかった……」

「今更言っても手遅れだよ。はっ!」


 それはそうだが、なんかやりきれん。

 フレアの回し蹴りを後ろに下がるように回避。目の前を鉄の塊が通り過ぎる光景に若干背筋は凍るものの、通り過ぎたところで吶喊。がら空きの側面に一太刀を入れる。


「はっ!!」

「マジかよ!?」


 だが恐ろしいことにこの女、靴による重量を利用して軸にしていた方の足で後ろ回し蹴りを敢行。宙を舞って鋭い蹴りを放ってきた。

 しかし、そんな凶器じみた攻撃を喰らってしまえば確実に骨の一本は持ってかれるので当たる訳にはいかん。上体を華麗に逸らし、腹筋を天にかざしながら(といっても服着てるから厳密にはかざしてないが)再び蹴りをやり過ごす。


 これで空中。避けれまいッ!!


「ざまぁ、くたばれ!!」


 逸らしたところから復帰。その勢いに乗って剣を――って、頭上に踵!?


「うわおッ!! 危なッ!!」


 だが、目の前の光景に絶句。無様に転がることで飛んで来た3発目の攻撃を回避。


「空中で2連撃とか、ホントに人かよテメエはっ!!」

 

 明らかに人の動きじゃねぇだろ。今のは。


「はははっ、よく避けれたね!!」

「くそっ、やっぱ割に合わねえ……」


 空中を鳥獣人ハーピーの如く舞いながら襲い掛かるフレア。信じられない事に、純粋な人類である。


「ええぃ、やられてばかりじゃいられねぇっっ」


 懐の道具の具合を確かめる……ナイフが7本。どれも仕込みは済んでいるが、2本は絡まっていて使えない。

 最初のと合わせて6本。これでいけるはず……。


「せやっ!!」

「ん? またナイフかい?」


 仕込みをしているナイフを3本投げてフレアを牽制。フレアの方も何度も引っかかる訳じゃ無いだろうが、今度は3本とも目前で止め、手元を絡めてフレアにぶつかるようにして当てる。


「何これ、また……!! まさか、糸!?」


 ご名答。森を歩いて蜘蛛の糸を必死にたぐり寄せて作った甲斐があったぜ。

 フレアが受けた時点で仕込みは完了。俺は一番版最初に投げた仕込みナイフの糸を手繰り寄せるようにして、フレアの後ろを抑える。これで、フレアは3角錐の檻に閉じ込められるように糸で包囲される。あとは双剣でチェックメイ……


「だぁあああ!!」

「はっ!?」


 トなどと思った寸前、フレアはあろうことか糸を掴み、巻き取るようにして俺を引き寄せる。ありえねぇ! キマイラクラスの魔物を捕獲できるように考えた罠だぞっ!!


「討ち取ったりー!!」


 あまりの事に呆けてしまい、即座に糸を放棄するにしてももう遅い。イノシシの如く突進してきたフレアに跳ね飛ばされ、木に叩き付けられたところで首にレイピアを当てられた。


 この女、滅茶苦茶しやがる……。


「勝者、フレア」


 リーナの審判の声が鳴り響いた。







「いやーしかし、危なかったねー。まさか仕込みナイフを使ってくるとは」

「それを言うなら、まさか女に糸ごと投げられるとは……」


 どっちも身体強化していない状態なのに、コイツの方が腕力が上とは何とも……。

 いや、そんなチャチな問題じゃないな。フレアが化け物すぎるんだ。


「お疲れ様、すごく参考になったわ。ところで、2人とも普通に戦っていたけど、土とか石とかは反則じゃないの?」


 フレアの言葉を皮肉っていると、審判をしていたリーナから声を掛けられる。


「うーん、実戦でボクたちが戦うのは私たちよりも遥かに力の強い魔物なんだ。もしかしたら魔法が効かないかもしれないし、逆に物理攻撃に耐性を持っているかもしれない。そんな魔物たちと戦うためには、周囲の環境や罠を利用するのは冒険者としては当然だと思う」

「そんなものなんだ……」


 実際にフレアは大の男を投げ飛ばす位だから、罠に嵌める位で丁度いいと思ったが、さすがに命が惜しいので黙っておく。

 

「まぁ、魔物の中には体表に毒を持っていたりするような奴もいるらしいから備えは必要だな」

「そういう事だね」


 冒険者に来る依頼の中には、フロンティア内部の生物の調査のために魔物を捕獲して欲しいといった物まであるらしいから簡単な罠の知識ぐらいは必要になるだろう。それに、世の中にはそこらの魔物よりも凶暴な女もいる位だから罠は合っても困らん。誰の事かは言わないが。


「うーん、私も少し体術の練習やってみようかな……」

「おっ、興味出てきた? なんならボクも協力するよ? リーナは体のバランスが良さそうだから、意外と上達するかも」


 ふと呟いたリーナの言葉にフレアが反応して練習相手を申し出る。だが、そうはいかん。

 物事にもよるが、こと体術のようなセンスの有無も関わって来るような物においてコイツのようなセンスの塊かつ、自分の出来ることがイコール他人にも出来ると思うような奴に任せると地獄を見かねない。


「止めとけ、せめて練習するなら他の奴に頼むべきだ。人間基準で教えられる奴にな」

「アハハ……」


 先の空中連撃や俺を投げ飛ばしたのを見たせいだろう、リーナも流石に苦笑いを浮かべている。


「はっはっは、ルイン君。どういうことかな?」

「ハッハッハ、フレアよ――自覚、無かったのか?」


 当然、殴られた。だが、間違った事は言ってないと思う。

 寧ろその反応こそが恐ろしい。


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