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狂神の契約者  作者: Asagi
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3

これで予め書いていた分は使い切ったので、次回からは大体週1回~2回ぐらいのペースで投稿する予定です。

―――side ルイン=カーライン


 いつもよりも少し賑や……いや、わりといつも通りの昼食を取った後、俺は午後の授業を受けるため校庭に出た。

 ……フレアの奴、タンコブになったらどうしてくれる。


 しかし、リーナ=フロイスか……。


 俺は、さっきの事を思い出しながら考える。

 あんな事を言われたのはフレア以外では初めてだ。転校生だから、それ故のズレもあるのかもしれないが、それでも初めて会った奴から拒絶以外の言葉を聞けたのはずいぶんと久しぶりだ。

 嫌われ続けたせいもあってか、俺は相手の悪意には敏感だ。おそらくリーナは本心からああ言ったのだ。

 嬉しく思うのも仕方ないと思う。


 もっとも、ミレイの奴が俺を良く思っていないのに関しては学科試験などでの成績が悪い故の努力不足を怒っている訳だから、アイツも例外の一人ではあるけれども。


「(思えば、我ながら根暗になったモンだよな)」


 入学前は良くも悪くも人を信じすぎていた部分があった。契約の儀が失敗してからも、他人の親切を罠の可能性を考慮せずに信じていた所があったが、今は違う。

 フレアのような例外があるだけ有り難いが、それでも学園のほぼ全ての態度が完全に変わったのだ。人間不信になってしまったのは果たして成長なのか捻くれただけなのか……。


 この学園は冒険者の学園なので、当然、実技は必須である。今ではもうほとんど無能クラスの俺でも、それは例外ではない。だいたい思い思いの自由な服装で校庭に出て、教師を待つ。どんな授業になるのかはその教師次第だ。

 だが、この授業には俺にとって半ば地獄のような物でもある。


「はーい、では注目。これより、実技の授業を始めます」


 ……最悪だな。

 俺たちが校庭に出て数分後に、出てきたのは俺をいつも目の敵にしている男性の教官だった。

 軽薄そうな笑みで、脂ぎった笑顔。そして肥満体質。

 どう見ても悪人顔、というかゲスい感じの面だが侮るなかれ、流石に此処の教員を務めているだけあって強い。ゲスい顔であっても生徒を教える実力は確かなモノらしい。


 だが、当然それだけではない。なんといっても最悪なのは、その性根だ。


 ところで、上手く行かないところを何度も教えてくれる教師といえば何を浮かべるだろうか?


 熱心な教師? 優しい教師?

 まぁ、大体そんなところだろう。

 この教師は、熱心に何度も俺に物事を教える教師だ。

 俺の受け身が甘いと言って本気の蹴りを何度も喰らわせ、魔法すら打ち込む。

 俺が死なないギリギリのラインで火あぶりにされたことも数知れない位だ。


 つまるところ、痛めつけられている訳だが。

 というか、飛んでくる火の玉相手にどう受け身を取れと。


 それでも実技がメインのこの学園において、ここで単位を取れないと卒業は出来ない。これは、新人の冒険者の死亡率を下げるという目的があるのだが、結果として俺の生命線はこの教師に握られているとも言えるわけだ。死亡率を下げる目的で死亡率が上がるとかワケガワケンナイヨ……。

 

 故にこの授業、俺の中では常にサバイバルが行われていると言っても過言ではない。



「では、今回は二人一組となって手合せをして下さい。あっ、ルイン君は私と組んで下さいね。他の生徒と組んで、うっかり死んでもつまらないですからね」


 教師の言葉に、多くの生徒が笑い出す。

 いや、笑えねぇ……。というか、お前とやった方が死ぬわ。

 前回の授業では、爆裂魔法の効果範囲の説明で、爆心地近くに立たされて、体が吹っ飛ぶ所だったんだぞ? 1、2のドカンとか、マジ洒落にならん。

 その前は、毒の影響下での耐久訓練とか言って猛毒魔法を掛けられた。さらにその前は……まぁ、言ってもキリがない。


 それに、断ったところで碌な結果にならないのは目に見えて明らか、というか経験済みだ。

 俺は手持ちの双剣を準備して、奴の前に立つ。

 

「あらあらぁ? 困りますなぁ、ルイン君。手合せなのに、武具化マテリアライズをしていないなんて」

「先生、俺は武具化マテリアライズが使えません」

「おおぅ、そうでしたな、忘れていました。いや~普通は使えるので、うっかりしてましたな~」

 

 そこでまたハハハッと周囲が笑う。当然、分かってて生徒達の前で馬鹿にしているだけなんだろうが。


「まぁ、それでも死なないように、手加減はしますよ。もっとも、手が滑ったらごめんなさいねぇ~」

「はい。ワカリマシタ」


 いい加減にしろよ。というか今回は殺す気かよっ。

 最悪、死ぬ位ならアレを使うけど普通の状態じゃまず無理だ。最悪、そのまま自爆して死にかねん。

 俺は自分の腕に力を込めて状態を確認すると、腰の双剣を構える。


「でわぁ、武具化マテリアライズ――ウィスプ」

「っ……」


 教師の言葉と共に、その手に赤いロングソードが現れる。

 <火精>ウィスプ――この男が使う忌々しい炎の精霊の力だ。加護は至極単純で、物に炎を込めること。

 炎を込めた武器は攻撃力が上がるだけでなく、鍔迫り合いに持ち込んだ時に相手にダメージを与えられる他、剣を振って火球を飛ばすことが出来る。

 

 今まで幾度となく、俺を火炙りにしてきた憎き剣だ。コノヤロ。


 そして教師はいつも通りのゲスい顔で笑うと、これまたいつものように俺に向かって言う。


「君は鍔迫り合いが苦手のようだから、今日はそれを練習しましょう。早く、打ってきたまえ?」

「……」


 目の前の剣は当然、炎が付加されている。そんなものと打ち合えば、当然俺の手は無事では済まない。躊躇するのも当然だ。誰が炎の中に進んで手を入れるのかよ。


「どうしました? 早く来なさい?」

「……」


 何が、どうしました? だ。馬鹿野郎、そんなモンに斬りかかれるか!!

 だが、一向に動かない俺の態度に焦れたらしい。


 すぐさま俺に向かって剣から火球を飛ばして来た!

 

 って、気が短すぎるだろ、オイ!!


「くっ!!」


 完全に発射してからでは間に合わない。

 俺は即座に横っ飛びをして火球を回避するが、奴は即座に二発の火球で俺を襲う。

 

 だが、もはや何度目かは分からないこの授業。その程度の追撃はお見通しである。


(甘ぇよクソ先公!!)

 

「うぉぉ!!」


 体を前屈みにするようにして、頭部を狙っていた火球を回避。同時に床を転がる様にして二発目もギリギリ避ける。今日はこの流れで回避訓練かな……。


 ともあれ、これでとりあえずは―――


「ッ!!」


 直後、地面から行き成り現れた蔦に足を取られ、俺の動きが止まる。

 なんだ? 何が起こった!?


「あれぇ? 相手を拘束するはずがアイツに当たっちまったよ。アハハハ」

「何やってんの。でもホントだ~惨め~」


 どうやら犯人は横で組み手をしていた生徒らしい。畜生、なんてことだ。死ねよ!!

 だがしかし……この状態は、やべぇ。


 見れば、教師がニヤニヤと笑っていた。


―――side リーナ=フロイス


「ふぅ……」


 午後の授業。相変わらず魔境のように見える教室の中で、私は魔力と術式についての授業を受けていた。

 この二つの違いは、そう難しいモノでもない。人間の体に宿る不思議な力が魔力で、術式はそれを編み込んで作る魔法の式だ。

 だが、この術式にも使い手によって様々な特徴がある。優劣が分かれると言ってもいいかもしれない。

 例えば、蝋燭に火をつける魔法を使う時に炎を直接生み出す術式と蝋燭の先の温度を発火点に近づける術式のどちらを利用するかの違いがあるし、術式を作るときに込める魔力量の差でも効果は変わってくる。

 魔力の制御や術式に綻びがあると、蝋燭に火をつけるつもりが教室を燃やしてしまいました。などと言う事になりかねない。

 ちなみに、教室は事故防止の目的から魔法の影響を受けにくい素材で作られているらしい。


 まぁ、つまり、魔法を使う上でとても重要な授業なのだ。目に見えない魔力を利用する分、余計に。

 

「(……暇だなぁ)」


 けれど、私はとても退屈だ。

 だって考えてみて欲しい。この授業、そもそも魔力が見えないから必要な授業なのだが、私は<見通す目>の加護で魔力がはっきりと見えるのだ。

 この魔力が充満したクラスで、教師が大真面目に「魔力は目に見えないモノです」などというのだ。分かっている、私が特殊な部類であることは。

 けれど、なんというか、集団でそれを大真面目にやられるとちょっと笑える。だが、真面目な授業。笑ってはいけない。正直つらいところだ。

 今では既に軽い気疲れすら覚えている。


「(そう言えば……)」


 偶然にも、食事を一緒に取ることになった彼。

 あの後、クラスの皆にも少し尋ねてみた。しかし、彼の話題になって帰ってくる反応は、嫌悪感が多数を占めた。


 ルイン=カーライン――元々はAクラスでの入学を果たした優秀な魔法使いであったらしい。


 しかし、入学当初に受けた召喚の儀に失敗して魔力の全てを失い、容姿に大きな変化が生じる。結果として退学は免れたものの、魔法がメインであった彼の実力は大きく落ち、すぐさまFクラスに落とされる事になったのだと言う。


 そして今では学年最下位の落ちこぼれと呼ばれ、学校中で浮いてしまっているらしい。一部では、彼のAクラスでの入学は不正の結果だとすら言われているとか。

 それなのに、彼の幼馴染であり、学年中で人気があるらしいフレアは彼の傍に居つづける。彼女に振られた生徒も何人もいるらしいことから、彼が嫌われている理由にはソレもあるのだろう。 


 けど、不思議な事がある。

 確かに、今の彼には魔力が全く感じられない。でも、なんらかの契約は結んでいるように見えるのだ。

 それなのにどうして、彼はそれを伏せているのだろう。

 彼の体を覆う不気味な力。アレを使えば、恐らく学年最下位からは脱することが出来ると思うのだけど……。


 何か理由でもあるんだろうか。


 そう思いながら窓の外を眺めていると、ちょうど彼の姿が見えた。

 実技の授業なのだろうか。

 双剣を持って教師と向かい合っている。


「(どんな風に戦うのかな?)」


 私は魔力が見えるお蔭で、術式の完成度がかなり高い。完璧と言ってもいい位だ。

 その特性を生かして武器は魔力増幅の効果がある杖をメインに使っているけれど、魔力に頼りきりな戦い方をしている故に、魔力の使えない彼の戦い方には興味がある。

 だから、少し見ていたのだが……。


「(……なに、あれは)」


 すぐさま興味は薄れた。いや、寧ろ見過ごせなくなった。

 教師が彼を過剰に攻撃している様に見えたからだ。普通、訓練では大きな怪我は避けるはず。

 当然だ。そもそもが強くなるための訓練だからだ。だけど、教師の火球に込められている魔力の量は明らかに大きすぎる。

 あれでは、当たったら無事では済まない。ルインも必死に避けているけど、当たるのは恐らく時間の問題……。


「(許せない……)」


 元々、そこまで正義感は強くないが、被害に遭っているのが知り合いなら話は別だ。

 容姿の話になった時の彼の表情が思い浮かぶ。もともとは純情な少年だったのだろう。だけど、周囲の偏見や侮蔑、そしてそれ以上の拒絶が、彼を無遠慮に傷つけたのだ。

 もしも、フレアがいなければ、彼は完全に孤独だったかもしれない。そして、その悪意の一面が目の前で繰り広げられている。


 到底、許せるものではない。


「……先生」

「はい、なんですか? ミーナさん」

「少し気分が優れないので保健室へ向かいたいのですが……」


 少し厳しい気がしないでも無いが、とりあえずこれが無難だろう。


「あら、そうですか。転入初日の授業ですから疲れが出たのかもしれませんね、誰か……」

「いえ、場所はもう分かっているので大丈夫です」

「そうですか、では気を付けて」

「ありがとうございます」


 先生は誰かを付けてくれようとしていたが、私は保健室に行くわけには行かないのでそれを断る。

 そして教室を出ると、すぐに校庭へ向かって走っていった。


「急がなきゃ……」


――side ルイン=カーライン


「おやおやおや? 草が絡まってしまっているようですね。君たち、次からは気を付けなさい」

「「はーい」」


 案の定、ニコニコとしながら奴がゆっくりとこちらへ向かってくる。

 はっきり言おう。怒り半分、だが恐怖も半分だ。

 というか、ここで降参してしまいたい。まぁ、聞き入れられる訳がないが。

 

「う~ん、これは難しい。今すぐに拘束を解かなければ授業になりませんね~」


 奴が俺の足元を見ながら嫌味ったらしくそう口にする。

 当然、俺に蹴りを加えることも忘れない。

 この、下種野郎!!


「いえっ、俺の剣で切れるので大丈夫ですよ」


 このまま授業中止をコイツが良しとする訳がないので、俺は痛みを堪えながらそう答える。

 蹴られた肋骨が僅かに軋む。

 これで、なんとか乗り切れるか……。


「いやいや、これは燃やした方が速いですよ。幸い、私の武具は炎が扱えますし」

「なっ……」


 何だと? この野郎、何考えてやがる……。

 俺は必死にもがくが、既に体の上には俺の体を包むような火の玉が形成されている。

 

 やばい。こんなのを食らったら、流石にマズい。

 今までも何度かこういう事はあった。だが、今までで一番マズい。

 しかも今の俺は『魔法のダメージが約2倍』になっている。前回は爆心地から離れてギリギリ大けがで済んだのだ。今回ばかりは逃げ場もない。


「せ、先生。流石にそれは、死んでしまうんじゃないでしょうか?」


 せめてもの抵抗。頬を伝う汗は、決して前の炎が熱いからというだけじゃないだろう。

 ひとまず、時間稼ぎだ。とりあえず、授業が終わるまで耐えきればまだ大丈夫だと思うし。

 それに、流石に殺すのは問題だと思うのだが……。


「そうですかね~……おおっと、手が滑ってしまったぁ!!」


 教師はわざとらしくそう告げると、炎を込めていて赤熱したロングソードを俺の左腕に差しやがった!!


「ぐぁあああっ!!!」

「クスクス……」


 俺の悲鳴が聞こえていない奴がいない筈がない。

 しかし教師の言葉に笑う者はいるが、止める奴は皆無だ。


「スミマセンね。一応、蔦を切ってあげようとしたんですがね」

「はぁ……はぁ……」


 痛いなんてモンじゃない。

 刃物が刺さるだけでも激痛モノなのに、今回はそれが炎で燃えているんだ。傷口から肉の焼ける嫌な感触と凄まじい激痛が俺を襲う。


 前から思ってはいたが、コイツの最近の行動は半ば迫害だ。

 実際に食らっている俺が言うのもなんだが、最近は特にひどい。

 

 だが、こいつは俺の呻きを聞いて愉悦に浸るように笑うと、地面に縫い付けられている俺の左腕を更に蹴り飛ばす。


「がぁぁああっ!!」

「おやおや、どうもこれは完全に絡まってしまっているみたいですねぇ」


 その攻撃で俺の腕に刺さっているロングソードの刃がさらに他の部分も傷つけ、激痛を生み出す。

 しかし、その張本人はどこ吹く風といった様子だ。


「う~ん、やはり魔法の方が上手く行くようです。まぁ、死にはしませんよ。魔力で身を護れば、怪我ををすることも無いでしょう」


 教師の言葉は本当だ。確かに魔力で防御を固めれば『怪我で済む』。限界はあるが。

 魔法は魔力の塊みたいな物だから、全身を魔力で固めるようにできれば、魔法を遮断できる。


 だが、今の俺には魔力はない。冗談じゃない。

 そんな状態であんな魔法を食らえば最悪、命に関わる。

 信じられねぇ、それでも教師かよっ。


 ……これは、使うしかないな。

 できれば使いたくない手段。これを使えばそれこそ命に関わる。

 だが、こんなところで死ぬわけにはいかない。使った瞬間は、加護で即死はしなくなる筈だ。

 それに、右腕だけなら死ぬ可能性も少ない。

 右腕だけに意識を集中し、唱える。


「……武具化マテリアライズ……グッ」

 

 直後、全身を切り裂くような痛みが俺の体を襲う。

 炎では無い。これは、代償だ。

 1年前、契約したアレを使うための。


 服の内側から血がしみ込んでいるのが分かる。服で隠しているが今の俺の全身は無数の刀傷のような傷で覆われているだろう。そして、その肌を覆うように黒い魔力を帯びた鋼が手首から下の部分、袖の内側を覆うようにして籠手を形成していく。

 腕一本の強化でこれだ。ホントに使い勝手が悪い。 

 浅い傷である分、軽減されいるんだろうけど。


「ではでは~――エンファイア」

「ちっ……」


 即座に体が炎で覆われる。予想よりも躊躇がねぇっ。

 熱い。そして痛い。だが、まだ大丈夫だ。

 今の状態ならば即死はない……ようになってるはずっ。


「――ッ!!」


 炎の中で俺は全身の炎を、それを構成する魔力ごと薙ぎ払う様に腕に力を込め、右手の剣を振るおうとする。

 だが、その瞬間。


「エンウォーター!!」


 大量の水と共に俺の体を覆っていた炎が消される。

 見れば、今日転校してきた彼女――杖を構えたリーナ=フロイスがそこにいた。




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