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初めまして、或いはお久しぶりです。アサギンです。
夢現も完結してないのに、こっちを書いてしまってますが、暖かく見守って頂けたらとおもいます。
世界中に数多く存在する未踏破地域。
そこは未知の物質や財宝にあふれていた。だが、それだけでは無くフロンティアには様々な特異な生物――魔物が存在していた。
歴史上で数々の人々がある者は研究のために、またある者は富と名声の為に命がけで様々なフロンティア挑み、踏破されたフロンティアもいくつかあったがそれでもまだフロンティアが消滅する様子は無かった。
それは、フロンティア自体が人にとって住みにくい場所であることも理由ではあったが、何よりも魔物たちが強大すぎたことが一番の理由であると言える。
ただそこにあるだけの自然の宝物庫。それだけであったならば良かったのだが、いつからかフロンティア内にしか存在しないはずの魔物がフロンティアから離れ、人の住処を脅かすようになってきた。当然、魔物たちは人間よりも強大で、一般人の手に負えるような物ではない。フロンティアからの脅威に、人々の生活は少しずつ脅かされていった……。
だが、人々もただ手をこまねいていた訳ではない。自らの知恵を結集させ、ついに彼らは超常の力――魔法を生み出し、それを応用して自分たちの生活圏をフロンティアからほぼ完全に切り離す結界を施すことに成功した。
これにより、人々は魔物の脅威から身を守ることが出来るようになったが、既にフロンティアは拡大し人の生活圏は大陸の中でも僅かになってしまっていた……。
限られた生活圏の中で多くの人を養っていくだけの力は、魔法の力があっても難しい。そこで人々は結界の外――フロンティアに目を向けた。
元より自然の宝庫。人が生活するのに必要な資源など腐るほどあるフロンティアだが、魔法の力だけで強大な魔物達に立ち向かうのは心許ない。
そこで、人々は魔法によって知覚することができるようになった超常の存在――死後の英霊を初めとして、悪魔や精霊、さらには天上の神々と契約を結び、彼らの力を借りることで魔物と渡り合いフロンティアを開拓していったのだ。そうしてフロンティアを冒険し、開拓する彼らはいつしか冒険者と呼ばれるようになった。
それから約1000年。
冒険者たちの活躍によって人々は大陸での生活圏をその半分まで取り戻し、5つの国が成立した世界。
物語は、その世界に3つある冒険者養成学園の内の一つ、イーリス学園で始まる――。
―――――――side ルイン=カーライン
冒険者関連の記憶の中で、最も最初のやつと言えばやっぱりアレだと思う。
「俺はいつか、冒険者になってみんなが魔物に苦労しないような世界を作ってみせる!!」
幼い俺は、赤い髪を肩までで切りそろえた身なりの良い服を着たアイツに向かってそう言っていた。子供の夢としてはまぁ、ありふれた物だっただろう。俺がいた地区はフロンティアの前線が近かったこともあって冒険者が多かった。
だから、憧れもあったのだと思う。なにせ、冒険者はいつも強そうで、実際に魔物を倒すヒーローに見えていた。だから、当時の俺にとってその夢は何よりもかけがえのない物だった。
だが、冒険者に憧れていたのはどうやら俺だけでは無かったらしい。
「なら、ボクも冒険者になる。そして、ボクはキミの隣で戦うんだ」
「う~ん。でもお前にできるのか? お前、魔法苦手じゃん」
「でも、キミとならできるさ。ボクにはこれがあるからね」
そう言ってアイツは腰に差していた剣の鞘をトントンと叩く。
アイツの家は騎士の家系というやつで、剣を修めることが決まっているというようなことも言っていた。
俺としてはアイツも含めて人々も守ろうと思っていたんだが、どうやら相手も折れそうになかった。当時は子供だ。子供同士で意見の対立があればどうなるか。
まぁ、難しい話ではない。要するに喧嘩になったのだ。
それも魔法と剣の打ち合い。傍から見れば弱々しい初級魔法の打ち合いと、木剣の打ち合いだ。さぞかし微笑ましいものだったと思う。
結果として言えば、魔法では俺が勝ち、剣ではアイツが勝った。引き分けだ。
「……これで、どうだい? 剣の得意なボクと、魔法の得意なキミ。いい組み合わせだと思うよ。勿論、反論は聞かないけどね」
肩で息をしながら言うアイツに流石の俺も折れた。というより、剣を突きつけられた状態では反対することなんか出来なかったとも言える。思えば、あの頃からアイツは乱暴な所があった。
ともかく、そうして2人で誓った。騎士の礼に従った宣誓、というやつだ。
「「俺たちは、力を合わせ、2人でフロンティアを踏破することを誓う!!」」
そうして俺たちは互いに競い合いながら、イーリス学園に1年前に入学した。
このまま進んでいけば、俺たちは無事2人そろって冒険者になることが出来ただろう。
俺が――――。
「起きなさい!! ルイン=カーライン!!」
「は、はいっ!!」
唐突に名前を呼ばれて目が覚める。しまった、どうやら眠っていたようだ。
「貴方は何をしに此処にきているのです? 志の無い者は此処には不要ですよ? 半端な気持ちで冒険者になってもすぐ死ぬのがオチですからね……」
「はい。すみませんでした」
教官に謝罪をして席に座る。その時、背後からクスクスという笑い声と共にかすかに声が聞こえた。
――いい気味だな――
――まだこの学園にいるつもりなのかな? いっそ邪魔だよね――
――ホントホント。だいたい、1年前の契約の儀で――
――そうそう。それに、あの髪と目……――
――でも、……さんが……――
聞こえる声はだいたい同じ。俺を嘲笑う声や侮蔑する声が大半だ。まぁ、1年前の契約の儀の事を考えれば当然なのかもしれないが。
契約の儀とは、文字通り冒険者になる為に、超常の存在を魔力を使って呼び出して契約する儀式の事だ。契約を結んだ人間――契約者は、超常の存在から受け取った力を振るう事が出来る。一応、契約した存在によって強さは変わりはする。
だが、当然の事ながら、そんな力を誰彼構わず渡すのは問題がある訳で……。
今ではそれぞれの国家に中立である冒険者ギルドが契約の儀を管理、執行している。なので、冒険者になりたいのなら冒険者ギルドが設立した冒険者養成学園に入って契約の儀を行うのが最も手っ取り早い訳だ。実際のところ、最近は冒険者ではなく軍人候補の奴も少なくは無い。
そんな契約の儀は大体入学式の後、すぐに行われる。そして、それがある意味俺の失敗の始まりだったとも思える。今になって考えても出来の悪い悪夢にしか思えないことこの上ないが。
結論から言うと、まぁ、何だ。失敗してしまった……わけだ。
実際、契約の儀に失敗する人間はいない訳じゃない。そういう人間は、失敗してからしばらくして再び契約の儀を行うのが通例だ。普通2度も3度も失敗するようなものでも無いから、大半はそれで事なきを得る。というか、今の所ではそう何度も失敗したという事例はない。
だが、俺の場合はそうはいかなかった。他にもはっきりとした理由はあるが、何よりも俺は失ってしまった。
契約の儀どころか、冒険者に何よりも必須と言われる魔法の力――その源である魔力の全てを。
元々、俺は魔法が得意な人間だった。
魔力量もさることながら、その魔法制御力や発動速度もかなりのものだったと今でも思う。そのおかげで入学時は生徒の中でも上位の実力だった。
しかし、魔力を失った事で魔法は使えなくなり、魔力が無いので身体強化すらできずに実技の成績は転落。当然だ。身体強化の有無で大人と子供ほど力の差が出るし、契約以前に魔力があれば無意識でも身体の強化は行われるのだ。魔力を無くして初めて分かった事だが。
そんな身体強化が使えない生徒、というか人間は俺以外いないわけなので、今では落ちこぼれもいいところなのだ。
その上、魔力の影響かどうかは分からないが、もともと黒だった髪は銀色になり瞳は紫紺に変わった。正直、不気味な変化だと言える。原因不明なのが尚更タチが悪い。特に目、魔物の目なんて言われそうな不気味な目なのだ。
それだけでも既にアウトなんだが、まだ大きな要因がある。
俺が入学したのは、実力主義の冒険者社会の学園である。力が無い者は軽視され、時には侮蔑すらされることも珍しくはない。この学園は、その実力によってA~Fまでランク分けされ、それによってクラスが決まるが、入学時の俺のランクはA。
一方で、今の俺のランクはFだ。もともと上位の実力があった者が急に最下位に転落。それが他者から見ればどう見えるのかは想像に難くない。
まぁ、非力さと容姿の変化に環境、あともう一つの要素のトリプルパンチどころかクアドラパンチ。今では一部を除いた教師からは厄介者扱いされ、数人の例外を除いて他の生徒達からは侮蔑と嘲笑の的になってしまっている。
はぁ……一体、俺が何をしたと?
「やぁ!! はっ!!」
放課後、学園の近郊にある森の中で、俺は一人双剣を手に技を磨いていた。魔力の無い俺は実技の為に練習しなければならないし、筋力も付けなければならない。そしてなにより、学院の中にはあまり居たくはない。下手にうろついていると、余計な事に巻き込まれかねないしな。
一秒間のうちに一閃、二閃……と武器を振るう。速度を重視した高速の連撃。だが、それでも魔力で強化した生徒の一撃とは比べ物にならないぐらい遅く、弱い。
はっきりと言えば、この訓練自体が非効率的だ。強くなりたければ身体強化魔法を鍛えた方が圧倒的に早い。しかし、魔力の無いこの身ではそんな事は出来ず俺は生まれ持った自分自身の肉体を鍛えることでしか強くはなれない。
なんとも遠い道のりである。
「……まだまだ、遅い!!」
疲労で落ちる腕を気力で振り上げ、無駄な動きを無くすようにして振っていく。一振り毎に剣筋を確認しながらも、次の一撃を遅らせることなく、それでいて先の一撃よりも無駄を省く様に振っていく。
一つ、二つ、三つ……そうして、百を数える辺りでいったん中止して、残心。自身の構えを見直す。無理な力が掛かっている所は無いか、すぐ踏み込める体勢になっているか、体に隙は無いか。構えの要所要所を確認して、問題が無ければ5分間構えを維持。それが終われば再び素振りに戻る。それを何度も繰り返し、自分の体から妥協を無くしていく。
今の俺が通常の攻撃速度や威力を上げるには、無駄のない動きで最大限の力を発揮するように武器を振るうしかない。どれだけ鍛錬を施しても、無駄な筋肉がついてしまえば体の重さで動きが鈍るから、鍛錬は全て的確に行わなければならない。
最初、魔法が使えなくなって愕然とした俺がまず行ったのは学園の図書館に行くことだった。
学園の図書館には、冒険者に必要な薬草などの知識や鍛錬の方法などの様々な知識が眠っている。俺はそれらを読み解き、自分でその理論を学んだ上で自分の体に合うようにアレンジした。
しかし、言うは易し行うはなんとやら。
まず、全ての基礎と言うことでスタミナをつけるようにしたのだが、もともと魔法系。はっきり言って引きこもり一歩手前の魔法研究をメインとしていた俺だ。幼馴染のアイツがいなければ完全に引きこもっていたような俺が体力を付けるには、この世界は過酷だった。
いや、俺に体力が無いだけなんだが。
当初はかなりの無茶もやったが、だいぶ体力に余裕が出てきたのでスタミナアップを初めて2カ月経つと、剣術の方を学んだ。
いつも一緒に学んでいたアイツに言わせると、なんとなく振っていれば強くなるらしいが、そんなのはあの超人だけなので地道に型から磨いていったものだ。
半年以上経つ今では、少しは形になってきたが、まだまだ荒削りで強くなったかどうかは微妙な所だ。
「……はぁ!!」
そうして何度目かの素振りを終えて残心をしていると、つい他の事も考えてしまう。今までの環境の変化や、これからの行動。
そして、一年前のあの日、俺に向けられた言葉。
―――友の、愛する者達のために命を懸ける覚悟があるか?
魔力を失い、更にある理由から死にやすくなってしまった今の俺は、はたしてあの時のように答えることが出来るだろうか。自分よりも強い者が何人もいる中、無駄に命を懸けて戦えるのだろうか。
そして、俺は他人のためにアレを使う事ができるのだろうか。
静かな森の中で瞑想をするように剣に向かっていても、答える声は、ない。
――――――side リーナ=フロイス
「失礼します」
初めて着る制服の違和感を少し気にしながら、私はイーリス学園の学園長室の扉を開いた。時間には間に合っている筈だから問題はない筈だけど、扉を開けた瞬間、中にいた何人もの教官らしき人達を見て反射的にしまったと思った。
「す、すみません。間違え……」
「いや、大丈夫だよ。君がリーナ=フロイス君、だね?」
「はい。そうです」
部屋の奥の机に座っている壮年の男性に名前を呼ばれ、私は部屋を間違っていなかったことにひとまず安堵した。男性の名前はクラウス=ハドラー。イーリス学園の現在の学園長であり、世界に何名もいない特別ランク――Sランクの冒険者だ。
本来、冒険者のランク分けはAまでであるのが一般だが彼らは違う。他のAランクと比べてその貢献がめざましく、他を圧倒する実力であることでSランクであると認められた者達なのだ。事実、目の前の学園長も十年前に起こったという大侵攻――フロンティアから突如現れた大量の魔物による侵攻――を単身で食い止めている。まさに英雄と呼ばれる人物なのだ。
だが、それはともかく、どうしてこんなにも教官クラスの人達が集まっているんだろう? 私はただ、この学園への転入手続きをしたいだけなのだけど……。
「あ、あの……」
「ん? ああ、すまないね。彼らはこの学園の教官達なのだが、噂の<見通す目>の契約者をどうしても見たいらしいのでね。迷惑ならば、下がらせよう」
「い、いえ。大丈夫です」
その説明で一応得心がいった。私が契約しているのは先の話に出たように、<見通す目>と呼ばれる下級神ブラフマーだ。下級と呼ばれる通り、最上級である八大神には及ばないけれど神と契約を交わした私は珍しいに違いない。
「しかし、<見通す目>と言う事はやはり……」
「はい、見えます。学園長は<地刃>ドルゴーと契約を交わしていますね?」
「「おお……」」
私の言葉に、周囲の人たちが驚いたように小さく声を上げる。<見通す目>と契約した私には、他人の契約や魔力の流れが見えるのだ。このくらいのことは問題ない。
「……成程、これは素晴らしい。君のクラスはAクラスを予定している。自身の目的に向かって頑張りたまえ」
「はい」
返事をすると、学園長は傍に控えていた教官に私の案内を申付け、私は彼女と共に学園長室を後にした。
「歩きながらで失礼だけど、私は貴女の担任を務めるキーリ=スイマーと言います。よろしくお願いします」
「は、はい。リーナ=フロイスです。これから、よろしくお願いします」
「今日はもう放課後で授業はありません。なので、クラスへの自己紹介もあるでしょうから明日は職員室の私の所へ来るように」
「分かりました」
学園長室から出た後、目の前の女性―キーリ教官に連れられて軽く学園の施設の案内を受けた。どうもこの学園は実践重視の傾向があるようで、訓練場などの施設は充実しているようだ。
それに、このキーリ教官もそうだけど、この学園ですれ違う生徒を見ていても契約している存在からしてその実力の高さが伺える。
なにせ、普通は珍しい筈の大精霊クラスとの契約者がちらほら存在している。これだけでもすごい。
「あとは……まあ、分からないことがあれば私でも誰でもいいのでその時に尋ねるように」
「はい」
そうして、解散しようとしている所だった。
「……ッ!!」
私は校内から外を眺めている時、不意に足が止まった。
「(何、あれは……?)」
私の目に映ったのは一人の男子生徒だった。
白銀の髪に紫紺の瞳。腰からは剣を下げている。身長は低めだが、整った顔立ちをしている。
変わった容姿だが、私からすればそんな些細な事は問題ではない。
私が不意に足を止めてしまったのは、彼から一切の魔力が感じられなかったからだ。通常、体を漂っている筈の余剰魔力は勿論のこと、体内を循環しているはずの魔力も一切感じられないのだ。しかも、それだけでは無い。
彼の体を覆うように何かの契約が見える。魔力とは異なる、黒い異質な力。
だけど、私の目を通してもそれが何なのか全く分からない。ただ、それが尋常なものではないことは確かだ。
彼は何者なのだろう?
「おや? どうしました?」
「ええ、あそこにいる彼なのですが……」
私の言葉に教官はつられて窓の外を見る。そして彼の姿を見ると顔を僅かにしかめて言う。
「あれは、ルイン=カーラインですね。悪いことは言いません。あんな劣等生とは関わらないようにして下さい」
「劣等生、ですか?」
「ええ。契約も満足にこなせず、魔力も失った。そんな彼が冒険者になることは絶望的です。おまけに、優秀な他の生徒まで巻き込む有様。まったく、彼女もただの幼馴染相手に物好きなものです」
「……」
契約もこなせない?
そうだろうか? 私には見える。彼はナニカと契約をしている。
だが、あれは。あの強大な力は。
人が抱えきれる物なのだろうか?
そうして、一抹の疑念を抱いたまま、私の新しい生活は始まった。




