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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 20 * PROPOSE HEART
99/139

* Be Mistaken

 ひさしぶりにかなり喋った、私。

 ルキアノスは言い返さなかった。反論があるのかは知らない。

 その数秒の沈黙を、ナイルが溜め息で破る。

 「っていうか、他にも理由、あるだろ。べつに言わなくていいけど。だいたいの予想はついてるし」

 その言葉に、ゼインはばつの悪そうな様子で彼の視線を受け止めた。

 ナイルが続ける。「何年お前とつるんでると思ってんの。アドニスとルキの勘ぐりに先入観持っちゃってたけど、それ切り離してちょっと考えたらわかったわ。もう確信してるわ。だから少なくとも、俺はもう勘ぐったりはしてない。っていうかよくよく考えたら、お前にそんなことできるわけないし」

 さすがナイル。などと思いながら、私も溜め息をついた。ゼインに言う。

 「あんたもあんたよ。アホなこと言われて、その気にならないでよ。恋愛は頭で考えるものじゃないでしょ。考えたって、よけいにわけがわからなくなるだけよ」私が、そうだ。「誰になにをどんなふうに言われたか知らないけど、周りの言うことなんか気にしなくていい。あんたがサビナを好きだって思ってんなら、それが正解。素直でまっすぐすぎるから、周りにおかしなこと言われただけで、自分の気持ちがわかんなくなってくるだけ。流されんな」

 立てている片膝にあごを乗せ、ナイルがあとを引きとる。

 「あとお前、いいかげんサビナにもそのバカ正直なとこ、認めて受け入れてもらわないとな。バカ正直なお前が、まともに気遣うなんてのは無理なんだろうし。っていうかベラとのことを変に隠したり嘘ついたりしてもけっきょく、サビナはイヤな思いするんだろうし。今日のうちにはっきり言いなよ。こんな自己中な変人に興味はないって」

 私は少々むっとした。「ビッチには興味ないから、でいいんじゃない。キス魔には興味がないとか、学力残念女には興味がないとか、復讐のことしか頭にない冷酷無関心女には興味がないとかでもいいけど」

 ナイルは笑った。

 「自分のこと悪くいいすぎだし」

 「あんたが先に言ったんじゃん」

 そんなやりとりに、ゼインも苦笑った。

 「やっぱオレ、恋愛下手なんかな」また片手で頭を抱えてうつむいた。「お前らの言うとおり、嘘つくよりマシだと思ってんだけど。隠したってそのうちボロが出るから、もうできるだけ隠し事もしないんだけど。サビナに関しては、今までと違って、扱いが適当になったりしないんだよ。むしろ最初は隠し事とか少々の嘘、必要ならアリだと思ってたのが、今はそうでもなくて。けど正直になったらなったで、今度はなんか変に不安にさせてるっぽいし。どうすりゃいいんかさっぱり」

 私にもさっぱりだ。

 「べつにいいじゃん、そのまんまで」ナイルが言った。「それをそのまんま、あっちに受け入れてもらうしかない。今まででお前、いちばん幸せそーだもん。サビナの過去の陰険さはともかく、つきあい長いわりには愚痴もほとんどないし、相性? が、いいんだろうなとは思う。なんでかは知らないけど」

 うつむいたまま、ゼインは短く笑った。

 「オレも思う。相性がいい。昔のこととかはもう気にしてないし。このまま隠れボスにも突っ込んでいける気分。レベルがマックスなのかは知らんけど」

 「なんの話だよ」

 ナイルがつっこむ横で、私はふきだして笑った。以前電話で話した時のことだ。

 「つまりね、プロポーズしたい気分だって言ってる」笑いながら彼に説明した。「サビナの親に、サビナを嫁にくれって挨拶しにいけそうな気がしてるらしいわ」

 「マジか」とナイルも笑った。「まだお前、高校生なのに。サビナにいたっては中学生なのに。さすがに早い」

 彼は顔をあげた。

 「オレが十八になったら結婚できる。学生結婚。どーよ? いや、マジで」

 ナイルはけらけらと笑っている。「誰が養うんだよ。大学行かずに働くんか」

 「いや、え、あれ?」わけがわからないらしい。「ああ、だめか」思いなおした。

 「婚約ならできる」彼の後方で苦笑をこらえるアドニスが口をはさんだ。「大学受験そっちのけでバイトして、婚約指輪買えばいい」

 はっとして「それだよ」と、ゼインは指を鳴らした。「って、だったらもう就職すればいいんじゃね」身体を横に向ける。「大学の四年間がもったいない気がする」

 「恐ろしいくらいに乗り気だな」ナイルが言った。「しかも相変わらずの単純思考」

 「っつーかあれだよ。今年のクリスマス、二十五日。十ヶ月記念なんだって、オレら」

 私は口をはさんだ。「あんた、そういうの数えてんの? 数えないんじゃなかったっけ」

 「だからな、サビナはなんか違うんだって。普通に数えてる。むしろオレのほうが数えてる。いや、変に意識して祝ったりはしないし、キスの記念日とかまではいかないけど」

 ナイルは少々ヒいている。「病気だな。怖いわ」

 「ビョウキ言うな」

 「けど」アドニスが続ける。「とりあえず、今日のサビナをどうするかだろ。説得できる自信あるわけ?」

 ゼインは天を仰いだ。

 「説得もなにも、思ってること正直に言うしかないし。サビナのことはだいじだけど、さすがにベラと友達やめるとかまでは言えんわ。どうしても気になるっつーんだったら、もうマジで話題に出さないようにするしかないんだろうけど──そんなことしたってサビナが喜ぶわけはないだろうから、わかってもらうしかない。サビナのこと考えてベラと会わなくて、でも友達でーみたいなのも、なんか違うし」

 ナイルは溜め息混じりに肩をすくませる。

 「めんどくさい。紹介の恐ろしさがこれだよな。って、ちょっとルートが違うけど。ルートが違うからよけいなのか、なんかめんどくさい」

 手にあごを乗せ、黙りこんでいたルキアノスも溜め息をついた。

 「言われたって、どうしても納得できない部分はある」誰とも視線を合わさず言葉を継ぐ。「一度浮かんだ不安は消えない。理解しようとしても、できないことはある。サビナがきついだけ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ルキアノスの言葉で数秒、全員が押し黙った。

 私にはやはり、呆れしかない。

 「ねえ。なにをどうしろって言ってるの? ゼインを動揺させて、なんの意味があるの? ここまで言ってもわからないなら、もう理解しろなんて言わない。けっきょく、私とゼインがトモダチやめるまで言い続けるんだろうし。それでサビナが満足するんなら、私はそうするしかないけど。くだらない妄想に憑りつかれて、一生そうやってゼインから女友達奪ってればいいわとしか言えないけど。ってことで」ゼインに向かって続ける。「サビナに言いなよ。どうしてもイヤな思いするなら、もう友達やめるって。私が用もなく自分から連絡しない人間だってのは、サビナの耳にも入ってる。だからきっぱり友達やめる宣言するわけじゃなくて、あんたが登録してる私の番号とアドレス、サビナの前で消せばいい。もし私がみんなと集まることがあっても、あんたはそこに行かないって言えばいい。それならサビナは私に対して変に罪悪感持ったりもしないだろうし、学校でも微妙な空気にはならないと思う。もし万が一私があんたに電話したとしても、そのことはサビナに言わなきゃいい。これ以上ややこしくなるまえにそうするのがいいと思う」

 口を開けたまま、ゼインは呆然とかたまっている。

 「いや、ちょっと待てって」ナイルが割って入る。「結論急ぎすぎだろ。とりあえず、ゼインからちゃんとサビナに話さないと。お前のことはなんとも思ってないってのがサビナに伝わったら、それ以上はなにも言わないわけだろ? だったら──」

 「だから」私は彼の言葉を遮った。「ルキが言ってるのは、もしそれを理解したみたいにサビナが答えたとしても、一度浮かんだ不安は消えないってことでしょ? こうやってこのメンバーで会って、それを話題に出さないようにしたとしても、それはそれで両方きついのよ、たぶん。だったらもう、ほんとにトモダチやめるしかないじゃない。っていうか厳密には、トモダチやめるっていうより、連絡とったり約束して会うってのがなしになるってことなんだろうけど」

 「ああ──」つぶやいたものの、ナイルは天を仰いだ。「めんどくさいな。ほんっとめんどくさい」イライラしてきたらしい。

 アドニスが言う。「っつーかこれ、一生結論出ないよな。サビナが理解したつっても、やっぱ気にはなるんだろうし。だからってお前らがダチやめたら、三人とも微妙な感じになる。どっちにしても、ゼインとサビナがぎくしゃくする気が」

 「言うべきじゃないわ」ナイルはつぶやいた。「こういうの、言うべきじゃない。サビナがどういう答え欲しがってんのか、ぜんぜんわかんないし。それ言われたゼインの気持ちも考えろよって」

 やはり誰とも視線を合わせないままのルキアノスが応じる。

 「だから、切羽詰まってたんだろ。それに、本音は直接ゼインに言えってサビナに言ったの、ベラじゃん。どれだけ話してるか知らないけど、サビナからすれば、ゼインがベラのこと好きかもって感じるのも無理はない。だから言ったんだろ」

 え、私のせいですか? 確かに、本音を言うのは間違っていないが。

 ナイルが応じる。「だからって、なんでゼインを信じないんだとは思う。なにも考えずに見てれば確かに、ちょっと変なとこはあったけど。こんなこと言っちゃったら、ゼインがどっちかを切るしかないじゃん。なんだその二択。俺から見れば、こいつがサビナにベタ惚れなのは確実なのに。なに? 自信がないから? 自分とベラなら、みたいなのか?」

 「──たぶん」ゼインが視線を落とす。「そういうのは、あると思う。昔のこと、オレは気にしてないけど、サビナは相変わらず気にしてる──気がするし」確証はないらしい。「確かにベラも性格悪いんだけど、サビナとか他の女からすれば、好き嫌いがはっきりしてて他人に流されないで、誰にでも言いたいこと言えて、みたいなとこ、羨ましいんだって。

 ベラの場合、クロい部分もあんだけど、他と違うから性格悪いように思うっての、あるじゃん。しかも自己中だとしても、言ってることは的はずれじゃなかったり。ほとんどの奴にとって、ベラはかなりズレてるけど、よけいなことごちゃごちゃ考えないとことかも、たぶん理想ではあんだよ。“その他大勢”と違うからズレてるみたいに思うだけ。

 けどサビナは、自分が“その他大勢”側にいると思ってる。だからたぶん、オレがどんだけベラよりサビナのほうがいいっつっても、心の底から信じたりはできないんだと思う」

 ナイルは呆れきっていた。「ほんとに一生終わんないな、この議論」

 「終わんねえ」ゼインはまた顔を伏せた。「もうやだ」

 なんだかもう、なにもかもがめんどくさい。

 「いろんな奴にとってなんだけど」と、私は切りだした。「なんで私って、存在するだけで周りに面倒撒き散らすような感じになってんだろ」

 言いながら、ソファ脇に置いてあるバッグから携帯電話を取り出した。

 厳密に言えば、友達をやめるというか、連絡をとらないようにするという意味なら、特に抵抗はない。べつにかまわない。だって本当にそれほど連絡はとらないし、これ以上面倒なことになるよりはいい。けれど周りに言われてというのは、なんだかムカつく。なにより理由がくだらなさすぎる。

 「“存在するだけで”は言いすぎだろ」アドニスが答えた。「まあ確かに、なんかいろいろめんどくさいことは多いんだろうけど」

 「もうイヤになるよね」と、私。

 携帯電話を開くと、不在着信通知が入っていることに気づいた。レジーからだ。しかもほんの数分前。マナーモードにしていたのだが、バイブレーションに気づかなかったらしい。「ちょっとごめん、電話する」レジーに電話をかけながら、ナイルとのあいだにあるケーキの箱をゼインのほうに押しやった。「とりあえず食えば」

 アドニスが反応する。「あ、オレにもよこせ」

 「プレミアムのチャンス!」

 ナイルはプレミアム・チーズケーキを即取った。

 このやろう。と思ったところで呼び出し音が途切れる。軽い調子で挨拶をする彼に、なにか用だったかと訊いた。

 「いや、あの十七歳二人と約束、とりつけたって報告」電話越しにレジーが言う。「予定どおり今日の夜八時。お前はマジで来ないの? 来るなら迎えに行ってやるけど」

 「行かないし。もうどうでもいいのよ。今はそれどころじゃないの」

 「ええー。昨日のお前、他の女とは違う意味で怖いって評判だったのに。何人かはまた見たいっつって」

 「見せるほどのもんじゃないから。あ、でも、なんなら持ち物投げるあたりだけ、動画撮って送ってくれる? そこはたぶん、あいつらも見たいと思うのよ。よけいなところはいらないから、うまくやりくりして」

 「ああ、りょーかい。金はとっていいんだよな」

 「だから私に訊くなって」私は強盗の親玉か。「昨日と同じでいいじゃない。つっても年齢考えれば、たぶんそんなに持ってないけどね」

 「まーな」と、レジー。「昨日のはアタリだったから、先輩たちみんなテンション高かったけど。んじゃ暴力部分は映さないように、どうにか動画撮って送るわ。じゃーな」

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