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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 19 * PENALTY HEART
96/139

○ Finish

 爆笑するギャングたちをよそに、私はゴスタの黒い二つ折り財布を開けた。カード類がたくさん入っている。

 「あれ、金取るんか」レジーが訊いた。

 「んなもんいらねえよ」と、私。銀行のキャッシュカードを二枚見つけ、それを地面に置いた。それからIDカードと──あった、運転免許証。「あれ、私に言ったのは本名なのね。でも十八歳じゃなくて二十一歳か」まあどうでもいい。財布を置き、今度は鍵の束を手に取る。「これは車の鍵だよね」シルバーのリングからリモートキーをはずしてゴスタの顔の前に、免許証と並べて置いた。「これも車の鍵」それもはずして並べる。「これは家?」とりあえず並べた。「なんだこれ」なんか普通より長い気がする。

 「単車じゃね」向かいの男が言った。

 「へー」よくややこしくならないな、と思いながらもそれをリングからはずした。「はい、これは返しとく」鍵がなくなって有名ブランドのストラップだけになったリングを置いた。はずした鍵たちとカード類をまとめて持ち、立ち上がる。「私、モノ投げるの下手なんだけどね」

 ギャングたちと一緒に、レジーもぽかんとした。「は?」

 無視した。「ちょっとどけ」

 マルコとチェーソンに言うと、彼らはなにも言わずに左右に分かれた。

 私は家の鍵と思われるものを、マルコとチェーソンのあいだの上空を通すよう、グラウンドの南側、山に向かって投げた。思いきりだ。

 去年、アゼルと一緒に投げた南京錠の鍵のことがあったので、高く上げすぎず遠くに飛ばすよう意識はしたものの、山になど届くはずもなく、おそらく手前の芝生に落ちた。私は舌打ちした。

 どういう投げかたをすればここから山に届くのだろうと私が考える一方で、一同は呆気にとられたらしく、ほんの数秒、あたりは静まり返っていた。

 と思ったらチェーソンがふきだし、そして笑った。ものすごく笑った。彼に続くよう、マルコやレジーたちも笑いはじめた。かなりの勢いで。まさに大爆笑。

 かまわず、ブーメラン風に横を意識して投げてみようと思いついた私は車の鍵を持った手を上げた。

 「第二球──」

 「ちょ」隣にいたギャング男が遮った。「オレもやらして」

 「オレもやる!」パーヴォが言った。

 他の子たちも投げたいと言うものだからしかたなく、残りの鍵とカード類をひとつずつ渡した。「方向ばらばらにしてよ。あちこちに」などと言いながら。

 彼らはそのとおり、あらゆる方向にそれらを投げていった。カード類はフライングディスク扱いで、それらみんな、グランドだったり山のほうだったり入口を越えた道ほうだったりに、くるくると回転しながら飛んでいった。ツボに入っているらしく、チェーソンとマルコはしゃがみこんでとにかく、ひたすらずっと笑ってた。

 すべてが投げられたところでレジーが私に訊く。

 「え、他のカードはやんねえの?」

 「どうでもいいもの投げても意味ないじゃん。なきゃ困るものを投げないと」と、私。

 「あ、こいつのもやればいいんじゃね」

 そう言って、ギャングのひとりがスネの財布からカード類を出しはじめた。

 「おお! 鍵も鍵も」

 レジーの言葉で別のギャング男がスネの鍵をはずしていく。これらは取り合いになった。そしてけっきょく、スネの大事だと思われるものたちもあちこちに飛んでいった。スネはただただ絶句していた。

 「ま、がんばって探してよ」私は唖然としすぎて涙も声も出ないらしいゴスタとスネに言った。「あんたたちが山ん中に置き去りにした女たちを、みんなが捜して見つけてくれたみたいに。あと、あんたたちみたいなの、もう“プラージュ”は使わなくていいから。まだ探して見つけられる位置に投げただけ、マシだと思ってね。次なんかやらかしたら、今度はわざわざ海に行って投げるわよ。もしくは山の頂上から、あちこちの町に向かって。どのツラ下げてヤらせろなんて言ってんのか知らないけど、飯奢ったくらいで調子に乗んな。私の友達はそんなに安くないのよ、残念ながら」おそらくですが。「じゃあね、アンスティア・タウンのお二人さん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「ちょっと予定が違う気がする」ぞろぞろとグラウンドをあとにしながらチェーソンが言った。「十七歳二人の居場所もつきとめるんじゃなかったっけ」

 私ははっとした。「忘れてた。そういやそんなこと言ってたわね」

 「お前、どっちの復讐したんだよ」マルコが言う。「けっきょく自分の復讐になってねえか」

 「だって、本気で気持ち悪かったんだもん」

 「ベラ、携帯電話貸して」後方でレジーが言った。「もしかしたらメール入ってるかも」

 私は彼に携帯電話を渡した。

 チェーソンが言う。「いや、けど、久々にかなり笑った。あごはずれるかと思ったわ」

 「はずれなくて残念」と、私。「なんでそんなに笑うのかがわかんない。そんなおかしなことをした覚えはないんだけど」

 「してるっつの」

 私とマルコはチェーソンの車に乗せてもらい、アニタたちが待つ池側のパーキングへと移動した。

 そこでレジーやパーヴォ、ギャングのみんなが、事の一部始終を彼女たちに説明した。苦笑と爆笑が返ってきた。エルミを乗せてきた単車男とケイは、自分も行きたかったと不満をもらしていた。ケイには私とマルコが、絶対に来るなときつく言っていた。ケイはそんな世界を見なくていい。見てほしくも、入ってほしくも、関わってほしくもない。

 ちなみにグラウンドをあとにする直前、ギャングのひとりが金は奪っていいのかとチェーソンに訊き、なぜか彼が私に訊けと言うものだから、私は本人にガソリン代をもらっていいか訊けばと言った。肉体的にも精神的にもボロボロになった二人がそれを拒否できるはずもなく、けっきょくギャング組は彼らの財布から小銭だけを残して金をもらった。一応許可はとっているので強奪ではない。と、思う。

 太った男が自分のワゴン車に自信を持っていたのは、後部座席のノーマルシートがすべて取り払われ、床も張り替えられ、ちょっとしたベンチのようなものがL字になるよう設置されているからだった。しかもブルーのライトがつけられていて、独特の雰囲気があったという。あの顔でよく思いつくなと、アニタとエルミは言っていた。

 そしてレジー、エルミが相手にしていたのとまったく同じアドレスからのメールを受信していたことに気づき、それに返信していた。少々待ちはしたものの、返事がきた。今日遊んだのははずれだったからすぐ帰ってきた、もう遅いから明日遊ぼうと言って、彼は自分のメールアドレスを教えた。明日、ギャング組と一緒に乗り込むらしい。

 「あ、ベラ」アニタが切りだした。「さっきママから電話かかってきて、ベラのところに泊まるって言っちゃった」

 「やだよ。なんでだよ」

 「言っちゃったの!」

 「ケイとマルコと三人でドライブだって言ってあるのに、なんて言えばいいわけ? あんたも一緒にドライブ? ケイがそんなことするわけない。ありえない」

 「だから──」

 「あたしも泊まっていい?」エルミが割り込んだ。「たぶん十時過ぎたら親から電話くるけど、帰ったらなんかいろいろ、うるさそーだし」

 「いや、私のベッドはダブルなので」

 「ラグでいいよ」ナンネへと視線をうつす。「ナンネは? ばーちゃんあたりになんか言われそうだけど」

 彼女は肩をすくませた。

 「まあたぶん、怒られる。だから電源落としたままだし」

 あはははは。

 「泊めりゃいいんでしょ泊めりゃ」私は投げやりに言葉を返した。「エルミの家に泊まる予定だったけど、エルミが親と喧嘩したらしいです。しかたなくうちに連れてきました。はい終了」

 ケイがしかめっつらで私に言う。「もうこいつらとつるむの、やめたほうがいいんじゃね。遠慮しなさすぎだし。迷惑かけすぎだし」

 あはは。

 「ベラはつるんでるようで、実は誰ともつるんでないんだって」エルミが言った。「だって一匹狼だし」

 「お前らが迷惑かけてることには変わりねーよ」

 アニタが反論する。「あんただって文化祭だのなんだので、ベラにあれこれやらしてんじゃん! 特に去年のクリスマスパーティー!」アテレコのことを言っている。「なんかおもしろそうなことやらせてもらいやがって!」まだ根に持っている。

 「はあ? それとこれとは話が違うだろうが。最初っからベラに意見もらわねえのが悪いんじゃねえのかよ! っつーか今日のお前ら、どんだけの人間に迷惑かけたと思ってんの? 兄貴やオレまで巻き込みやがって!」

 「マルコはともかく、あんたが勝手にいたんじゃん。あんたなにもしてないじゃん。酔ってただけ!」

 「はあ!?」

 「うっさいわ」私は口をはさんだ。ケイに言う。「もう放っときなよ、このバカのことは。これでもへこんで反省してるのよ。私が気にしてないうえに、巻き込むとしてもせいぜいマルコくらいだろうと思ってたのが、なぜかこんだけの人数巻き込むことになって、あやまるどころじゃ済まない状態になってるから、どういう態度とればいいかわかんないだけ。で、あんたに八つ当たりしてるだけ。あんたが気にすることじゃない」

 彼は相変わらず不機嫌顔。「ほんとに反省なんかしてんのかよ」

 「してるわよ。だってね」彼の耳元で声を潜める。「うちに帰ったら絶対、もう二度とプラージュはやらないって言うから。マジで。賭けてもいいよ」

 ケイは信じていない。「どーだか」

 「なに!?」アニタが不満そうに訊いた。「なに言ったの」

 「いいえ、なんにも」と、私。

 「いや、けどいい暇つぶしにはなったわ」チェーソンが言う。「おもろいもんも見せてもらったし」

 レジーは十七歳の男相手に、女のふりしてメール中。「明日こいつら呼び出せたらまたできる。また投げまくる」

 「財布がブランド物だったら、中のポイントカードとか抜いて、空の財布も投げるってどうよ? 手元に残るのはポイントカードとレシートだけ」

 ギャングのひとりが提案すると、他のギャングたちはそれもいいと笑った。キーホルダーや自転車の鍵ですら投げてやるとか。

 「明日、兄貴も行くん?」ケイがマルコに訊いた。

 「行かねえよ。めんどくさい」

 「なんだよ、つまんねえ」

 「明日はお前、ベラに買わせたゲームすんだろ? 今日帰ったらゲームで夜更かしして、寝て起きたらまたゲーム三昧だぞ」

 ゲームソフトの存在を思い出したケイははっとした。「そうだ。ゲームだ──って、一日つきあってくれんの? 毎日アホみたいにどっか遊びに行ってんのに?」

 「アホ言うな。とりあえず今日と明日はつきあってやる。お前が先に眠りこけても勝手にレベル上げて進めてやる」

 「ありえねえし! 寝ねえし!」

 「んじゃとりあえず、帰ろうか」私は言った。「もう疲れた」

 チェーソンが訊ねる。「全員ベラの家でいいんか」

 「みたいですね」と、私。「タクシー呼ぶわ、ケイとアニタがこんなだし。途中でディスカウントショップに酔って、こいつらの着替え揃えなきゃいけないし」

 「いや、送ってやるって。別々に乗せればいいだけの話」

 「ああ。じゃあ──」

 「アニタはイヤ」ケイが言った。「うるさいからイヤ」

 顔をそむけ、彼女も言葉を吐き捨てる。「こっちだって願い下げだっつの」

 「じゃあちょっとのあいだ、ジョンアとナンネの相手して」ケイに言った。彼はなぜか、ジョンアとならときどき話す。自動的に、ナンネのこともまったく知らないわけではない。「私はうるさい二人と一緒に、チェーソンのほうに乗せてもらう」

 「パーヴォ、ついてくるか」チェーソンは彼を誘った。「帰りが暇になる」

 「いーっすよ」

 「ならジョンアは」彼女の右隣、ジョンアをここまで乗せてきた男が切りだした。「俺が単車で送ってこうか。そのほうが狭くないし」

 「え、悪いよ」と、ジョンア。

 「ああ、なら──」チェーソンが視線をこちらへと戻す。「なに?」

 「えーと。じゃあマルコのほうにナンネとエルミ。で、私とアニタでチェーソンの車」

 「よし、できた」おそらく彼、誰が誰だかよくわかっていない。「お前らはとりあえず解散。飛び蹴りドミノの褒美は明日な。レジーはそのクソガキ、ちゃんと引っかけろよ」

 「うぃーす」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 結果的にまったく関係のない彼らを巻き込むになったわけだが、それでも彼らは文句ひとつ言わず、むしろ楽しかったとか言ってくれた。今度から喧嘩の類では必ず、鍵と財布の中身投げを実行するのだとか。

 ギャングというのがなんのために存在しているのかは、わりと謎ではあるものの、彼らの地元方面では不良の存在が多く目立っていて、わりと頻繁に喧嘩を売られたりもするらしい。単車やスクーターで走りまわっていると、必ずといっていいほど別の町の不良に絡まれるので、当然そいつらと喧嘩になったりもするという。

 ちなみにボスのチェーソンは、怒ったら血も涙もない男ではあるものの、実は相当な変わり者で、ドラマや映画にあるような感動話が好きらしい。チームの人間かどうかもあまり気にしないのだとか。

 ただマルコの言っていたように、やはり彼にも彼なりの筋道というものがあって、それに反することは嫌っている。

 ならなぜカツアゲを許すのかって、中身が空っぽのくせに表面ばかりよく見せている人間がキライだから。親が金持ちだからといって、そのお金で遊び呆ける人間もキライ。権力を振りかざす奴もキライ。そんなうわべだけのものに釣られる女もキライ。けれどマルコと同じで、喰える女は喰っておくという。意味がわからない。

 ディスカウントショップに寄ってもらい、アニタたちの着替えを買ったあと、私たちはキャッスル・ロードの、祖母の家がある通りの角で降ろしてもらった。

 またそのうちマルコと、なんならケイも連れて遊びに来いとチェーソンに言われた。あと、血なまぐさいことができる面倒事ならいつでも呼べ、とな。もう二度とごめんだけれど、機会があったらと答えた。ジョンアを乗せた単車が到着すると、パーヴォがまたメールすると私に言い残し、彼らはダッキー・アイルへと帰っていった。

 そしてケイとマルコ。ケイはアニタたちがうちに泊まるということにやはり不満そうだったものの、マルコがめずらしくゲーム三昧につきあってくれるらしいから、今日と明日のうちにとことんやり込むと宣言し、ニュー・キャッスルにある自宅へと帰った。

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