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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 19 * PENALTY HEART
94/139

○ Lips Bitch Pretend Real Bitch

 投稿から十分ほどが経った頃。

 数度やりとりした男の中から、レジーたちがそれらしい男を見つけた。十八歳が二人いて車もある、自分のワゴン車見たら驚くと思う、呼ぼうと思えば後輩を二人呼べるけど、といった内容だった。

 ここへ来るのに通ってきた道の傍にプリビュース・ヒル・パークという公園があるらしく、怪しまれたら私の写真を送って釣ればいいとかいう話になり、その近くに住んでるからそこで待ち合わせたい、とりあえず四人で会おうかという返事が送信された。釣れた。

 来た道を戻ってプリビュース・ヒル・パークへと急行するのだが、彼らの単車を誉めちぎったりスクーターが欲しいなんて言っていたエルミと、それにつきあっていたジョンア、単車組からうしろに乗せてやろうかと言われた。エルミは“ガチ”で喜んだ。おそらく心底単車に興味があるわけではない。

 というかエルミの場合、山に置き去りにされたことはともかく、誰かと寝ることに対する抵抗は、それほどなかったのではないかと私は思っている。置き去りはさすがに焦っただろうものの、奴が男を欲しがるのはおそらく、誰かと寝たいからだ。だってスキモノだし。だからこそプラージュを誰よりもはりきって活用し、知らない男たちと知り合おうとしている。学校ではそれほど男友達が多いというわけではないけれど、というかはっきり友達と言える男なんかはいないけれど、実は男好きだし。

 アニタは恋愛感情を引きずっていないにしても、アドニスのことを少々気にしている。誰かとつきあって嫉妬させたり、見せつけたいわけではない。気持ちが残っていないことを証明したいのだ。アドニスが同じ高校の女に告白されて今日、デートしていたということに、ショックを受けたわけでも羨んだわけでもないものの、応援したい気持ちは本物なものの、安心させたいのだと思う。

 ナンネはクリスマスを境に、ダヴィデのことを完全に諦めることを心に決めている。少々の焦りもあるのだろう。最近は私が学校外でゲルトたち、ダヴィデたちと遊ぶことがあたりまえになっていて、彼女もそこに、高い確率で一緒にいる。もちろん無理に誘いに乗っているわけではないだろうが、少々の焦りや葛藤があるのだろう。なにも私は、彼女に最後の思い出を、なんてことを考えて誘っているわけではないのに。

 そして、アニタとナンネは断ったものの、ジョンアも別の単車に乗せてもらうことになった。ジョンアについては、本当になにを考えているのかがわからない。悪に興味があるのか、不良の道を行きたいのか、恋愛したいのかですら。彼女の言葉のなにが本音なのかは、私には本気でさっぱりだ。まあどうでもいいけれど。

 そんなわけで、アニタとナンネはケイと一緒にマルコの車に乗り、私はレジー、パーヴォと一緒にチェーソンの車に乗り込んだ。

 私の携帯電話を奪ったまま、彼らは詐欺ともとれる返事を相手の男に返していた。彼らによると、男がインターネット経由で女のフリをすることを“ネットオカマ”を略して“ネカマ”というらしい。それはともかく、女のフリをしてメールするのが楽しいらしい。そのあいだに、私とチェーソンは公園に着いたらどうするかという相談をしていた。

 公園はわりと大きくて、池や子供向け遊具や散歩道だけでなく、グラウンドやテニスコートもあるらしい。時期的に今はどうかわからないものの、池のほうはデートスポットになっていることもあるという。山のふもとでデートって、なんだかおかしな気もするが、それはまあいい。

 とにかくそんな感じなので、グラウンドで待ち合わせることにした。私ひとりがグラウンドのベンチに座って待ち、アニタたちは大通りの脇道に停めた車の中だったり、乗せてくれた単車男と一緒に、自分たちを置き去りにした男たちかどうかをさくっと確認する。

 その他のギャング組は奥にテニスコート利用者用としてあるパーキングに単車とスクーターを停めておいて、グラウンドとテニスコートの中間あたりにある、時間的に当然ひと気のない建物の陰に隠れて待つ。

 私は指輪をはずしておくようチェーソンに言われ、従った。

 ちなみにアニタたち、なにをする気なのかは一度も訊いてこないものの、おそらく予想はできているだろう。私がいるしマルコがいる。おまけに一緒にいるのはギャング。訊くのは野暮というものだ。それを彼女たちが望んでいるのかどうかは、私にはわからないけれど。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 プリビュース・ヒル・パークのグラウンドは、想像以上に広かった。ストーン・ウィルは田舎ではあるものの、山はあるし畑も多いものの、町としてはおそらくケイネル・エイジと同じくらいか、それ以上に広い。なぜかバドミントンがしたくなった。最近授業でもバドミントンはしてくれないし、テストも終わったことだし、来週の昼休憩中、やってやろうか。

 そんなことを考えながら、広さのわりには薄暗い外灯が数個つけられただけの薄暗いグラウンド内、出入口近くの端にあるベンチに腰かけ、時間的におかしいだろうサングラスをかけてひとり待っていると、マルコの車の充電器を借りて携帯電話を充電していたアニタからメールが届いた。偽アドレスを教えてはいないので、わざわざ“プラージュ”のサイトで探したと思われる。

  《どんなのか、なんて訊かれなかったから言わなかったけど、自称十七歳の奴らはともかく、自称十八歳の二人は、本気で残念顔。運転手は不良っぽい感じがするものの、太ってるし、その顔でさせろなんて言うかって感じ。逆に考えれば、そうでもしないと女と寝るなんてできないのかもしれないけど。助手席の男は、正反対のタイプっぽかった。地味で気弱そうで頼りなさげ。運転手には逆らえないみたいな感じ。まるで王様と下僕。はっきり言って二人共気持ち悪かった。これが正直な感想。

  今さらなに言っても言い訳にしかならないけど、そこまではっきりとお互いのことを喋ってたわけじゃなかったけど、十七歳の二人とはわりと打ち解けてたから、そう思ってたから、ついてっちゃったんだと思う。っていうか運転手見て、なんかヤバそうだとは思ったけど、もう逃げられる状態じゃなかったし。ほんとにごめん。でもいつもみたいに、誰かれかまわず好き勝手にモノ言うみたいな態度とってると、ほんとにまずいと思う。お願いだから気をつけて》

 「長いわ」

 思わず声に出し、携帯電話に向かってひとりつっこんだ。

 アニタがここまで──ハヌル以外の人間を対象に、ここまで顔のことを言うというのは、めずらしい。彼女も実は顔がどうとかというのを内心、気にしているのかもしれない。私が気にしない、というかわからない人間だから、言わないだけなのかもしれない。どうでもいいが。

 それにしても私、なぜこんなことをしているのだろう。なぜこの場所は、親切にベンチ脇に灰皿を用意してくれているのだろう。吸っちゃうじゃない、バカ。

 偽アドレスを設定した携帯電話には、今も知らない人間からのメールが入ってくる。もう遊ぶ相手は決まったかとか、とりあえずメール友達にならないかとか、まったく関係のない内容だったりのメールだ。なぜこんなことをしようと思うのか、本気で意味がわからない。

 そんなメールを流し読みしていると、アドニスから電話がかかってきた。応じる。

 「はいはい」

 「メールが宛先不明なんだけど」と彼が言う。「どうなってんだ」

 「ごめん、今ちょっととりこんでる。日付が変わるまでには戻ってると思う」

 「は? なんだそれ。え、電話無理?」

 「うん、無理」即答した。おそらくそろそろ来る頃だ。「なんか用なの? 遅くなってもいいなら電話するけど」

 「ああ──」悩んでいるらしい。「んじゃ、またメールか電話して。零時までは待つ。起きてたら返事するか折り返し電話する。零時すぎたらルキに電話して」

 なにを大それたことをと思うものの、今はそんなことを訊いている時間もない。「わかった。あとで」

 「ん、じゃな」

 電話を切った。プラージュを使うためにアドレスを変えればこういうことになるのに、本当に、なぜこんなことをしようと思うのだろう。アドレスを変えたこと、周りにどう言い訳するのだ。

 また電話がかかってきた。単車男と一緒にいる二番手の確認係、エルミだ。

 「はいよ」と、私。

 「間違いないと思う。ジョンアもたぶんあれだって」ジョンアは一番手の確認係だ。といっても、彼女たちの確認位置はそれほど離れていない。「今あたしたちの前通りすぎた」

 「わかった」

 電話を切った。単車男たちはすぐマルコとチェーソンに連絡をとれるようにしてあるはずだ。

 ケイからも着信が入った。彼が報告する。

 「アニタとナンネ、たぶんあれだっつってる。そっち行った。もう着くぞ」

 「オーケー」

 電話を切るとちょうど、相手の男から“着いた”とメールが届いた。髪を一度ほどき、まとめてまるめてアップにする。

 さて。仕事の時間ですよ、私。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 車の音が近づいてくるのがわかった。グラウンドの出入り口近くにある駐車スペースに辿り着いたらしく、車のライトがグラウンドの入口を少しだけ照らしながら移動、消えた。

 私は振り返ったりはしなかった。めんどくさい。

 車のエンジン音が消え、車のドアが開く音がし、閉まった。ふたつ。つまり二人ということだろう。

 ハヌルみたいな顔がきたらどうしよう。さすがに普通に相手する自信がない。そっくりだと笑いだしてしまったらどうしよう。アニタはそんなことは言っていなかったので、平気か。

 控えている単車連中には、すぐには出てくるなと言ってある。ちなみに彼らが車から離れたら、テニスコート用のグラウンドで待機しているチェーソンの車が、彼らの車の退路を塞ぐはずだ。それがバレようと、私はレジーたちが出てくるまで、知らないふりをとおすだけ。

 地面を擦るような足音がゆっくりと近づいてくる。小声で話す声が聞こえるけど、さすがになにを言ってるかわからない。

 「あれ、ひとり?」

 入口から入ってきた男がこちらへと近づきながら声をかけてきたので、私は振り返った。

 向かって右の男、確かに太っている。顔はまだよく見えないが、身体が大きくて、黒いキャップを前後さかさまにかぶり、プリントの入った黒いパーカーを着て、ダボダボのジーンズを履いている。短足に見えるが、それがジーンズを腰で履いているからなのか、実際に短足だからかはわからない。

 太っている男に適当すぎる答えを返す。「ここに来る直前に親に見つかっちゃって、私ひとりで来た。“プラージュ”でメールくれた子よね?」まだ私、どんなキャラでいくのかは決まっていないらしい。

 「そうそう」とうなずく太った男の顔が見えた。少々垂れた目、黒い眉毛は太くて濃い。髭もうっすら生えている。黒い髪はおそらく癖があって短い。なんというか、不潔感がある気がする。髭のせいか。「ってかなんでグラサン? 夜なのに」ベンチの傍らで立ち止まった。

 「ああ、昼間からかけっぱなし」さらりと嘘をついた。「バッグに入れたら傷がつくじゃない」かけない時はたいていバッグに放り込んでますけどね。「服にかけるのは好きじゃないし」これは本当だ。邪魔だし落としそうになる。

 「え、はずさねえの?」

 本気でアホらしくなってきた。「どっちでもいいけど」そう答えてサングラスをはずし、バッグの中へと入れた。再び彼へと視線を戻す。「友達呼んだほうがいい? メールで訊こうかと思ったんだけど、電池がなくなっちゃって」また嘘ついたよ私。サイレントモードにしてるだけだよ私。

 「いや、そっちがいいならいいけど」彼の顔は心なしかほころんでいる。「っつーかめっちゃ可愛いじゃん」

 普通の女がこういうセリフで喜ぶ理由がわからない。男はきっと、言える人間はきっと、誰にでもこういうことを言っている。

 いつもなら無視するところだが、状況的にそんなわけにもいかず、「そんなことない」と答えた。普通はどう答えるのだったか? ありがとうとか? 変だろ、それ。

 私はもうひとりの男に訊いた。「メールの相手はどっち?」

 こちらはアニタの言っていたとおり、地味だ。身長は低くて細身、やはり黒い髪、前髪は目を隠せるほどの長さで、中央から左右に分けている。眉は太くて丸顔。おそらく一重で、鼻も低い。ちっとも喋らないことと見た目のことを考慮すれば、アニタが“下僕”といったのもうなずけなくはない。ジョンアよりも気弱そうだ。というか、ジョンアはもう気弱ではないのだったか。どうだったか。

 「あ、おれ」下僕が答えた。声まで小さい。

 少々煽ってみようか。「ほんと? じゃあ家に帰って充電したらアドレス、登録していい?」

 「いいけど、名前は?」

 レジーたちは名前など決めていなかった。「ベリー」ハリエットが私を呼ぶ時の愛称を答えた。「そっちは?」

 「おれはスネ」

 スネ。キャラクターどおりシンプルというか地味というか。

 「オレはゴスタ」誰も訊いていないのに太った男が答えた。「っつーか充電器なら、オレの車にもあるけど。充電するか?」

 思わず笑いそうになった。なんという早さだ。

 「マジで? じゃああとでお願いしてもいい? っていうか」脇に置いていたバッグを持ってベンチの左端に移動した。「座る?」とりあえず軽い女キャラになるよう努力する。

 「おれはここでいい」と、地味男スネは私の向かいでグラウンドに腰をおろした。

 「んじゃオレは座るわ」ゴスタは私の右隣に座った。たいした距離もあけずに。「オトコいねえの?」

 「いるわけないじゃん」即答した。「欲しいんだけど、なかなかいい出会いがないんだよね」いらないが。「もう一年近くオトコいないもん」

 「は? ぜってー嘘だろ」

 「マジよ」少々むっとしたせいで少し不機嫌な返しになった気がし、はっとした。持ちなおせ、私。「モテないんだよね、なんかビッチだとか言われてるらしいし」ある意味自業自得。

 「え、ビッチなん?」

 にやけ顔のゴスタが訊いたところで、ものすごく遠慮気味な気がする車のエンジン音が聞こえた。

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