○ Divines Mountain
マルコとチェーソンはパーヴォを連れ、状況説明兼人選に向かった。三分後には単車二台とスクーター二台が一足先に山をおりた。そのあいだに、私とレジーはプラージュのことをケイに説明した。ケイは興味を持って、彼にURLを教えてもらった。バカだ。
それからは早かった。バンダナやマスクで顔を、様々な方法でナンバープレートを隠したスクーター連中と単車連中のあとに続くよう、レジーを乗せたチェーソンの車と、私とケイを乗せたマルコの車も公園のパーキングをあとにした。女と一部の男は解散ということにして、二十五人でひとまずストーン・ウェルへと向かう。
普通のスクーターはアクセルを全開にしても、速度が六十キロを越えたあたりでリミッターが作動する。だがリミッターをカットすれば、八十キロくらいは余裕で出るという。
加えて車とは違い、スクーターや単車なら、無理な追い越しもできるうえ、もし警察に追われても、撒いて逃げられる可能性が高くなる。彼らは顔を隠しているので、直接捕まるか、ハイウェイ等に取りつけられた自動速度違反取締装置であからさまに顔や車体やナンバープレートなどを撮られでもしない限り、二十四時間逃げきれば、捕まることはまずないらしい。といってもベネフィット・アイランドではその取締装置すら、南北に伸びるバイパスの一部にしか設置されていないけれど。
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ストーン・ウェルへと向かうあいだに、私の携帯電話には再びレジーとパーヴォの電話番号とアドレスが登録された。
おかしな話だ。なんだかイヤだと思い宣言つきでデータを消したのに、その一週間後におかしな喧嘩を観戦させられて、あげくバカ共を捜して迎えに行くために謎の不良集団に協力してもらいつつ、消したはずのデータがまた戻った。意味がわからない。
マルコに言われ、私はアニタにメールを送った。とりあえず単車連中とスクーター連中何人かが行く、私の名前を言っていればそれは当たりだと。二輪車組は信号を無視していくので、早ければ十五分程度、二十分前後の時間で着くだろうとのことだ。
ディヴァインズ・マウンテンに入って少し進むと、下に流れる川──私たちの地元の傍らをも流れているシフティース・リバーが現れ、その向こう側にベネフィット・アイランド刑務所があるとマルコが教えてくれた。教えられても、見事に木々に囲まれていて、入口が坂になっていたということ以外、どんな建物があるのかもわからなかった。
というかベネフィット・アイランドに刑務所があることじたい、はじめて知った。しかもストーン・ウェルから来られるということは、ウェスト・キャッスルからも意外と近いということだ。なぜ知らないのだ、私。
また少し進むと、この先工事中、迂回しろという看板があった。その道を行けばディヴァインズ・マウンテンの森林公園に最短で辿り着くらしいのだが、おそらくこの道が使えず迂回するために、川沿いの道を進んだのだろうとマルコは推測した。
窓を開けてよく見てみれば、山道からひっそりとある坂を下ったり上がったりしたところに、数軒の民家があるのがわかった。けれどそれは、山道を奥へと進むほどに減っていった。こちらは車に乗っているのであまり実感がないものの、徒歩なら本当に道は暗いだろう。外灯はあっても薄暗く、しかも外灯から次の外灯までの間隔も長い。真っ暗な部分のほうが多かった。
ケイが車酔いで気分が悪いと言いはじめた頃、携帯電話が鳴った。パーヴォからだ。
「はいはい」
「見つけた!」電話越しに彼が言う。「ちゃんと四人いる。ジョンア以外、三人が泣いてて、ビビられながらも先輩たちがなだめてる。んで、エルミとジョンアがちょっと怪我してるわ。エルミは木で引っかいたかなんかで脚擦り剥いてて、ジョンアは足挫いたらしい」
「そ。ありがと。なだめなくていいよ、むしろ説教してください」
「いやいや、できんて。とりあえず単車二台とスクーター二台が、森林公園のほう見に行った。もしかしたらクソ野郎共がまだいるかもしんねえから。あとプラージュのサイトもチェックしてる。けど──それっぽい投稿はないっぽい」
もしかするともう、山をおりたかもしれない。すれ違う車はなかったが、マルコによると、この山にある道はこれ一本というわけではないらしいし。
「わかった」と私が答えると、運転中のマルコが電話を貸せと言って手を出した。「マルコに代わる」
「はいよ」
パーヴォは今の状況と、私たちの前を走っているチェーソンのほうにも今連絡が入ってるということ、どの道を行ったかというのをマルコに説明した。マルコは川沿いということでだいたいの目星はついていたらしいが、私にはさっぱりだ。アニタたちは相手の電話番号も知らないらしい。
すぐに数軒の密集した家々と学校らしき建物が現れる。こんなところによく住めるなと思った。そこを通り過ぎて左に曲がる。いつのまにか霧が深くなっていて、家の明かりも消えた。本当に真っ暗だ。
携帯電話がこちらに返ってくる。まだ通話中だったが、「たぶんすぐ着く」とマルコは言った。
私は再び電話を耳にあてた。「もしもし?」
「あ、ベラ?」パーヴォの声。「とりあえずナンネに代わるわ」
「ん」
「ベラ──」ナンネはまだ完全には泣きやんでいなかった。「ごめん───」
四回連続の曲がりくねった道が効いたのか、本気で気分が悪いらしく、ケイは私の脚を枕にしてうなっていて、私は彼の背中をさすっている。
「あやまるのは私にじゃなくて、見つけてくれたヒトたち。たぶんこっちもすぐに着くから」
「うん──なんかいっぱいいるんだけど──さすがに、ちょっと怖いんだけど──」
「ブラック・ギャングの子たち。集会みたいなのがあってね、私とケイも、マルコに連れられて行ってたから。ほとんど全員、顔も名前も知らないけど、とりあえず捜すの手伝ってくれて」
「合図だ」マルコが言った。「着いた」
前方でハザードを数回点滅させて減速したチェーソンの車が停まった。こちらもあとに続く。
「着いた。切るよ」
電話を切ると、私はケイに声をかけた。
「ケイ、ちょっと降りよ。そのほうが気分マシになる」
「お前、ビールなんか飲むからだぞ」エンジンをかけたまま運転席のドアを開けるマルコが言った。「頼むから車で吐くなよ」
「死ぬ──」
おいおい。
マルコは呆れた様子で運転席を降り、シートを倒した。
「とりあえずお前、先行け」私に言う。「こいつは外に引きずり出す。吐かれる前に」
吐くのはさすがにやめてほしい。「はい」
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ハーイ、おバカさんたち。とでも言ってやろうと思っていたのに、私の姿を確認するなり、アニタは泣きながら私に抱きついてきた。
男の前だからか、それが可愛い女のすることだとでも思ったのか、数秒遅れてそれに続くよう、エルミも抱きついてきた。うざい。
「離れろこら」私は言った。「うざいわ」
「おいおい、冷たいな」隣でチェーソンが言う。「そこはこう、泣きながら、よかったーとかって──」
「言いません」と、私。
無理やりアニタとエルミの身体を離すと、本当の意味でやっと安心したのか、彼女たちは泣きながら笑った。
「ええ!?」彼女たちの後方でパーヴォが声をあげた。「なんで今さら泣く!?」
視線が一気に彼らのほうに集まる。ジョンアが脚に顔を伏せて泣きだしていた。ナンネは苦笑いながら彼女の背中をさすってなだめたものの、一緒になって泣きはじめた。
よく泣くなとは思っても、私はなだめたりはしない。チェーソンに言う。
「とりあえず尋問しようか。時間経ったら捜し出しにくくなる」
「だな。泣いてるところ悪いけど」
「気にしない」彼女たちに訊ねる。「相手とメールしてたの誰?」
おそるおそるエルミが手を挙げた。
「んじゃ俺の車で充電して、そいつのアドレス教えて」そう彼女に言うと、チェーソンはレジーたちに声をかけた。「四人とも、とりあえず俺の車に乗せろ。んで充電して相手のアドレス確かめて、プラージュにそいつらのアドレスが載ってないかチェック。あと覚えてる限りの相手の情報も訊いてまとめろ」
ボスの命令は絶対なのか、彼らはすぐに行動した。チェーソンの車の窓を全開にし、アニタとナンネ、ジョンアを後部座席に座らせ、エルミは助手席で充電器を借りた。ひとりの男が運転席に乗った以外、あとの彼らは車を取り囲んで携帯電話片手に尋問をはじめた。
チェーソンが私に言う。「問題は、奴らが解散してたり、捨てアドだった場合」
「だったらもう、私が投稿する。まだ一時間も経ってない。バレない程度に条件を絞って募集かける。解散しててもまた集合してくれるかもしれないし」
「お前なら顔写真もつけたほうが引っかかりやすいかも。いや、けどよけいなのにも撒き散らすことになるか」
私は写真がキライだ。「なんならあれよね。絞れなかったら、条件満たしてるってメールしてくる奴、全員に同じ場所を言えばいいのよね。基本的な文章は作っておいて、会話が成り立つようにちょっと変えればいいくらいにしてコピーしておく。で、送信。ちょっと離れたところであいつらに確認させれば、車はわかるはず」
「ああ、なるほど。けどここからだと、あっちにもこっちにも行けるんだよな」
マルコの話では、南のほうに位置する町にも、さらなる山奥にも移動できるらしい。
私は訊いた。「ストーン・ウェル方面に行く道は、通ってきた道だけ?」
「いや、この道をもうちょい行ったら別の道で戻れる。途中に学校──小学校があったの、見たか?」
学校のようなものはあった。「見た」
「あれの裏にも、ふもと近くに繋がる道がある。そこから」
そこから戻れる。確か迂回路へと入って少し進んだ先に、二股になっている道があった。私たちは左側の道を通ったけれど、もしかしたらその右がそれに繋がっているのかもしれない。
「ならストーン・ウェルで投稿する」と私は言った。
「ハズレだったら?」
「一週間かけてでも探し出す」
彼は笑った。「んじゃそれでいくか」
「チェーソン」携帯電話片手にレジーが声をかけてきた。「森林公園、それっぽい車はいないって。別方面に行って捜そうかっつってる」
「いや、とりあえず戻ってこさせろ。プラージュにアドレスはないんか」
「ない。一時間ぶんくらい遡って投稿チェックしたけど、四人組って投稿もない」
「んじゃやっぱこっちから投稿するしかねえな」
私は口をはさんだ。「レジー。その子たちに、自販機でスポーツドリンクを二本買ってきてって頼んで。お金は返すから」
「りょーかい」彼は電話に戻った。
「とりあえずちょっと移動するか」チェーソンが言う。「すぐ先に空き地がある」
あんたもマルコも、地理詳しすぎ。「ん」
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全員で空き地へと移動する。面倒だからそのままチェーソンに乗せてもらえと言うと、アニタとナンネは気まずさから、無言の抵抗を見せた。無視した。拒否する権利などない。
一方で、一応外には出ていたものの、マルコの車の脇でうなだれるケイを再び車に乗せるのも苦労した。山なんかもうイヤだとごねたのだ。吐いてはいない。だからよけいに気分が悪いのだろうと思う。無理やり吐かせることもできるし、むしろ私とマルコはそちらを勧めたが、彼は絶対にイヤだと言い張った。
空き地への移動には三分もかからなかった。相手の車のナンバーなど覚えているはずもなく、アニタたちからは大雑把な情報しか得られなかったものの、いちばんてっとり早いと思われる方法──私の携帯電話からプラージュに投稿するという行動に出た。男共から少々うるさすぎる気がするアドバイスを受けながら設定を考える。
結果、こちらは今年四月に家庭の事情でインセンス・リバーから引っ越してきた十六歳、まだ友達が少なくて寂しい。女二人組だけどあと二人までなら呼べる、などというデタラメを書き込んだ。いろいろな可能性車を考え、十六歳から十九歳限定、改造車に憧れているので、車があってノリのいいヒトを優先したい、という言葉も加える。投稿。
メールを送ってくる男たちのほとんどが、最初から簡単な自己紹介をつけてくれる。年齢と職業、どこに、もしくはどのあたりに住んでいるか、そして自分がどんな系統か、なにが得意か、好きか──といった自己アピールもだ。
条件を無視した内容も交じりつつの、鬼のように送られてくるメールを捌いていくわけだが、私の遅すぎる返信に痺れを切らしたらしく、携帯電話はすぐレジーに奪われた。彼の返信技は神業的だった。
森林公園を見回ってくれたギャングたちがが戻ってきて、私は千フラムと引き換えにスポーツドリンクを二本受け取った。一本はアニタたちに、一本はケイに渡す。
ケイが復活した。
復活したとたん、彼は彼女たちに不満をぶつけた。お前らのせいだとか、アホもたいがいにしろとか、私に迷惑かけすぎだとかなんだとか。
いつもここで言い返すのがアニタなのだが、言い返したくても言い返せない立場にいるのを自覚しているアニタ嬢、本気でへこんでいた。




