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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 18 * DEFIANCE HEART
92/139

* Panic

 マルコの言葉どおり、決闘がはじまって数分、ビロンの拳での攻撃を、レジーはよけるくらいしかできなかった。ときどき顔面を狙うものの、ことごとくガードされる。ボディは効かない。みぞおちを確実に狙える状況ではなかった。

 それでも相手からは攻撃がくる。ビロンには力があった。拳一発だろうと、キレイにもらえばそれで勝負が決まってもおかしくはない。喧嘩慣れした人間なら、それが本命ではない攻撃だとすれば、相手の蹴りを自分の次の攻撃の準備に使うことができる。単にガードするのではなく、受けた次の瞬間に相手の身体を倒すか、タイミングさえ合えばカウンター攻撃にも繋げられる。だが、だからといってそれを警戒、恐れていると、スピードを重視してしまい、結果攻撃が軽くなる。捕まったら終わりだということは、レジーもわかっている。

 頭ではそうわかっていても、ああいう、ダメージがなかなか蓄積されないタイプの人間を相手にするのは疲れる。距離を詰めすぎれば捕まるし、離れれば自らの攻撃すら有効なものではなくなる。パコが勝つと思っていた喧嘩にパーヴォが勝ったこともあり、おそらくビロンはそれほど油断していない。けれど力ではビロンが上なことは確実だ。

 攻防がある程度パターン化してくる。相手の攻撃をかわすのに精一杯で、攻撃はしても有効なダメージを与えられていないことを自覚していれば、それが長引けば長引くほど、自分が負けている感が強くなる。どうすれば勝てるかというのに頭を使いはじめる。反応が鈍くなる。有効な攻撃をもらう。顔に一発。捕まる。ボディに二発。また顔に一発。

 レジーは倒れた。

 「──うそだろ」唖然とするパーヴォがつぶやいた。

 「え、終わり?」ケイが言う。「マジで?」

 ビロンはすでにレジーに背を向け、両手を高々と挙げながら歓声を浴びている。中には起きろとレジーを奮い立たせる声もあるのだけど、仰向けになって倒れている彼は動かない。

 私は冷却枕をパーヴォに渡して立ち上がり、円の中へと向かった。

 当然周りからはざわつきが起きるのだが、そんなことも気にせず、口元が血だらけレジーの傍らにしゃがんで彼の頬を数度軽く叩いてみた。

 「起きろこら」

 少々気絶していたらしい彼はうなりながら目を開けた。

 「──あれ、負けた?」

 「さあ」と、私。「おら、口開けろ」

 「──は?」

 「はい開けてー」

 たいして開いていない、切れて血が出ている彼の口に向かって飲みかけのビールを流し込む。吹き出したレジーは咳き込みながらも勢いよく身体を起こした。周りから笑い声が溢れる中、手の甲で口元を拭って怒った。

 「なにすんだアホ!」

 「よかった。まだいけるね」そう言ってビールを一口飲んだ。「私ね、つきあってた男がいるのよ。一年半。そいつは喧嘩がすごく強いらしくて、かなりの問題児だった。まあ私とつきあって、ちょっとおとなしくなったらしいんだけど。それでもその一年半のあいだに、二回暴力沙汰を起こしてる。でも不思議なことに私、そいつが喧嘩──ヒトを殴るとこって、見たことないの。なのに今日こんなところに連れてこられて、よく知らない人間のくだらない喧嘩を見せられてる。しかもそのひとりは負けそうになってる。このままだと、本気で無駄足になる。負けるとかやめて」

 彼はぽかんとしていた。「え、負けたんじゃねえの? これ」

 「コールされてないから、まだ終わってはないはず」

 そう答えると、左手を地面について身体を支え、私は彼にキスをした。

 フレンチ約三秒。周りからは冷やかしの声があがった。

 唇を離し、呆気にとられるレジーに向かって微笑む。

 「方法はなんでもいい。どうにかして、あれの身体を倒して。失敗したら自爆になる跳び蹴りでも、攻撃くらったついでで脚掴んで倒すのでも、うしろに回り込んで突撃突進体当たりでもなんでもいいよ。上に乗っかって頭突きをくらわせる。腕でガードされるかもしれないけど、そのくらいこじあけて。鼻をつぶせば、高確率であんたの勝ち」

 私は立ち上がり、またケイたちのところに戻った。

 誰かがまだやれるのかとレジーに訊いた。彼はやると答えた。私のせいで少々イラついたらしいビロンの了承も得た。

 そして、第二ラウンドがはじまった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「おら、シャツ脱げこら」パーヴォがレジーに言った。

 「やだし! 寒いし!」と、レジー。

 ジーンズをめくりあげたケイが彼の脚を指で押す。「ここは?」

 「だから痛いって!」

 ケイはものすごく楽しそうに笑った。

 「で、なに言われたわけ?」パーヴォの隣に立つチェーソンが訊ねる。「第二ラウンドに入るまえ」

 「だから──」ケイが湿布を貼るためにまた脚を押すものだから、彼はまたも痛がった。「お前、マジでいつかぶっ殺す」

 「だから手当てだっつってんのに」と、ケイ。

 「ああもう!」レジーは不機嫌な声を返した。「だから、元彼の喧嘩を見たことがねえってのと──」湿布を貼られながらチェーソンに答える。「あと突進でもなんでもいいから、とりあえずあいつの身体を倒せって。そんで頭突きかまして鼻潰せって」

 彼は口笛を吹いた。

 「で、それを実践して勝ったと」

 「倒すのに苦労したっすけどね。どうにか腕押さえて頭突き一発入れたら、意外と力抜けたっていう」

 「もしかして喧嘩すんの?」チェーソンがこちらに訊ねる。「その華奢な身体で」

 「まさか」と、私。「ヒト殴ったことはない。血を流す喧嘩はしたことない」

 「ならなんでわかった? あいつの倒しかた」

 「倒せればってのはマルコも言ってたことだし、自分ならどうするかってのを考えただけ。っていうか、相手の顔面に頭突きくらわせるなんてのは、自分じゃしないけど。自分がレジーならって意味で」

 彼は笑った。「いいねー。チーム入るか?」

 私は笑顔で答える。「絶対イヤ」

 「あっそ。で、なに? あのキスは告白?」

 「は? まさか」

 「なんだ。ビッチか」

 衝撃だ。ビッチ言われた。

 「ベラはそんなんじゃねえよ」とケイが言う。「単にキス魔なだけ」

 どうやら私がキス魔というのは確定らしい。

 「なんだそれ。どう違うんだ」

 「気持ちがなくてもノリでキスする。落とす気のない相手だろうとキスする」

 彼は露骨に面倒そうな顔をした。「うわ、男からすりゃ超迷惑。勘違いする男が大量にいそうだな」

 ケイが笑う。「たぶんな」

 いねえよそんなの。

 車のむこうで紹介された女とイチャつきながら話していたマルコが言う。「ベラ、電話鳴ってる」

 状況的に無視してもしなくても面倒なのだろうと思い、ボンネットに置いたままのカバンから携帯電話を取り出した。アニタからだ。とりあえず応じてみる。

 「はいは──」

 「ベラ──」アニタが泣いている。「助けて──」

 私は一瞬、ぽかんとした。「なに」弱々しいその声をしっかり聞きとろうと、トラガスで左耳を塞ぐ。「どした」

 「どこにいるのか」泣きながら言う。「わかんない──」

 「意味わかんねえよ。ちゃんと喋れ。ちゃんと説明しろ」

 「だから──」鼻をすすって続けた。「今日、昼すぎからエルミたちと遊んでて──三時くらいになって、暇だから、プラージュで知り合った男の子四人と会って話しようってことになって──」

 またかと思いながらも、私は続きを促した。「で?」

 「ソイル・ミニストリーで会って、話してて──」ソイル・ミニストリーは、ウェスト・キャッスルからシフティース・リバーをはさんだ西側にある町だ。「夕方になって、二人が帰る代わりに、別の車持ちの二人が来て──」

 話が長い。「ねえ、またバカなことをやらかしたってのはわかったから、用件を言え。どこにいるかわかんないって、どういうこと?」

 「だから──」泣きながら、アニタは声をあげた。「夕飯奢ってもらって、ドライブに行こうって誘われて、車に乗ったら、降ろされて──」

 またも私はぽかんとした。「は? 降ろされたって、どこで? って、それがわかんないっつってんの? っていうかなんでドライブして降ろされんの?」

 彼女はまた泣きだした。どうにか声を絞り出す。

 「──ヤらせないなら、ここで降りろって──」

 状況を理解した。身体目当てなバカに引っかかったということだ。

 「わかった。迎えにこいっつってんのね。でもね、行くのはいいけど、ちょっとは場所思い出してもらわないと、こっちだって──」

 「わかんない!」彼女は叫んだ。「車の窓、スモーク貼ってて、外なんかほとんど見えなかった──話ばっかりしてて、気づいたら山を登ってた。それはわかる──降ろされたのも山の中で、どうにか町に出ようとしたんだけど、知らないうちに結構登ってたみたいで、道が分かれてるところがあるし、しかもあいつらがまた戻ってくるかもしれないから、そんなあからさまに動けないし、暗いし──」なにを言っているのかよくわからない。「現在地調べたくても、ナンネもエルミも電池切れてるし、あたしももう十五パーセントくらいしか──」

 おいおいおいおい。

 「ちょっと待って」えーと、なんだ。「飯食ったのはどこ?」

 「ええと──ストーン・ウェルの、ファミレス──」

 「ストーン・ウェル──」

 あれだ、確かダッキー・アイルとソイル・ミニストリーの中間にある町だ。そこから山。

 「貸せ」と言い、マルコは私から携帯電話を奪った。「もしもし? ──いや、誰とかいいから。ストーン・ウェルで飯食って、そっから山に行ったんだな? ──店の名前は? ──ああ。で、何分くらい走ったかわかるか? だいたいでいい。──ん。近くになんもねえの? 目印になるようなもん。──川な、わかった。もう動くな。適当に隠れてろ。単車と車、何台かで行くから、車が一台とかなら反応すんな。近くに行ったら電話する。──あ? ああ。ならこの電話切ったら、十五分くらいは電源落としとけ。適当でいいから。もう切るぞ」

 電話を終えたマルコが携帯電話をこちらに返す。

 「たぶんディヴァインズ・マウンテンだ。森林公園のほう」

 小学校の時、遠足で行った。

 「誰?」

 「電話してきたのはアニタ」私はケイに答えた。「ナンネとエルミが一緒だっつってるから、たぶんジョンアもいる。よく知らない変態男の車に乗って、山ん中に放置されたらしいわ」ボンネットにあるカバンを取った。

 パーヴォが口をはさむ。「え、ナンネにエルミにジョンアって、もしかしてプラージュのせい? 俺らのせい?」

 私は肩をすくませた。

 「使ったのはプラージュだけど、あなたたちのせいってわけじゃない。ちゃんと忠告してくれたのに、車に乗ったあいつらが悪い。ってことで──」

 「チェーソン」マルコが言う。「悪いけど、単車乗ってる奴何人か貸してくれ。あとリミッターカットしてるスクーター連中も」

 「いいねー、そういうの大好き」と、チェーソン。「けど」と私に言う。「チームの奴らは、血なまぐさい目的があったほうが動かしやすいんだわ。置いてった奴を見つけ出して絞めるくらいの目的は用意してやりたいんだけど、それはそっちの正義感的にはどうなわけ?」

 この男、今の今まで言わなかったが、カツアゲに対する私の歪んだ正義感のことを知っているらしい。

 私の口元は自然とゆるんだ。「むしろそれは、こっちからお願いしたい。計画的なのかは知らないけど、こっちのバカたちも自業自得だとは思うけど、中学生騙して置き去りにするのはさすがにどうかと思うから、ちょっと痛い目に合ってもらわないと」

 「“ちょっと”で済めばいいんだけどな」と答えてマルコに言う。「んじゃ人選行こうか」

 「俺も行く」パーヴォが言った。

 「オレも」今も座りっぱなしのレジーがあとに続く。「単車借りる」

 チェーソンが応じる。「あほ。お前は一回気絶してんだから、俺の車に乗っとけ。連絡係。パーヴォは女の顔、わかるんだな?」

 「三人なら」

 「んじゃ単車組と一緒に先行け。見つけたらベラと連絡とれるようにしとけよ」

 「余裕っす」

 お前も番号消してねえのかよ。

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