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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 17 * CANDIDATES HEART
88/139

○ Sugar Guiter

 二十分ほどが過ぎた頃、携帯電話にメールが届いた。登録していないPCアドレスからだ。“Sugar Guitar”というタイトルで音楽ファイルが添付されている。

  《ヘッドフォンがあるなら、それつけて聴け。ちょっとは大音量に聴こえるはずだ。かなり早口。けど気にするな》

 なんの話なのかさっぱりわからなかった。“お前ギター持ってないだろ”とか、そういうつっこみが返ってくると思っていた。

 そう思いながらもヘッドフォンを用意してベッドのクッションにもたれ、ファイルをダウンロードした。携帯電話に再生か保存かを問われ、とりあえず再生した。

 音楽だ。

 訊いたことのない音楽だった。ギターにドラム、あとはなんだかわからないけれど、とにかくロックだ。サウンドが少し軽いかなとは思う──ポップ・ロックだ。けれどキライではない。ノリがいい。でもボーカルは入っていなくて、でも入ると思われる部分に別の音が入っていた。詩にメロディーがつくように。

 はっとして、デスクの引き出しからノートを取り出した。彼に送った、あのふざけた詩。あれかもしれない。

 ナイトスタンドの明かりをもうひとつつけてベッドに戻り、音楽を保存してヘッドフォンを装着、ノートを見ながらミュージックプレーヤー機能で、再びそれを再生する。

 鳥肌がたった。

 はまる。確かに早口で、うたうほうはかなり疲れそうだ。噛みそうだ。だがうたえる。

 ノートを見ながら、三度か四度は再生を繰り返して、メロディを覚えた。自分の全身が、それを全力で覚えようとしているのがわかった。音楽になるとこうなるのに、なぜ勉強になるとまったくダメなのか、そこはわからない。まあいい。

 おそらくもう平気だと思い、また最初から再生した。大声ではうたえない。だから声は抑える。でもうたう。



  彼女はバスを待ってる

  大都会に向かうため

  背中のギターが彼女の夢

  新しい人生を始めるためのね


  ガムをふくらませてる

  彼女はストロベリーがお気に入り

  汚れたシャツ 破れたジーンズ

  彼女はパンキッシュ


  彼女のそばを通り過ぎ あれはなんだってみんなが言う

  アタマがおかしいんじゃないかって、だけど彼女は気にしてない

  だって彼女は自分で作った音楽を聴いてるから

  みんな同じに見える 少なくとも彼女にとっては

  個性がないような気がしてる

  彼女はそんな世界を変えるつもり

  彼女はそんな世界を変えるつもり


  派手なルックス からっぽの頭

  彼女はゴシップもキライ

  歌が好き 踊るのが好き

  得意技は叫ぶこと


  バスが来ても彼女は座らない

  バスの屋根に登っちゃう

  音楽がはじまり 彼女はうたう

  ギターを弾きながら


  みんなが足を止め バスの周りに集まってくる

  彼らは彼女が作ったロックを聴き 飛び跳ねはじめる

  音楽に乗って飛び跳ねてる

  気分は最高 もっともっとバスを揺らして

  最後まで彼女についてって 準備はいい?

  彼女と彼女の夢を見送る準備はできてる?

  彼女と彼女の夢を見送る準備はできてる?


  数時間後 私はテレビをつけた

  彼女はギターを弾きながらテレビでロックを歌ってた

  さっきと同じように

  彼女の声は武器 ロックは彼女の魂

  だけどギターはとっても甘い砂糖のようなもの

  彼女にとってとても甘い砂糖のようなもの

  彼女にとってとても甘い砂糖のようなもの

  彼女にとってとても甘い砂糖のようなもの



 思わずノートを抱きしめ、笑いだしたい気持ちを必死に抑えた。だけど口元がゆるむのは我慢できなかった。

 彼は天才だ。書きはじめたら止まらなくて、収拾のつけかたがわからなくなった気がして、気づいたらこんなことに、みたいな詩なのに、それでも音をつけてくれた。ディックは間違いなく天才だ。

 彼に電話した。

 「お前のせいでこんな時間だ」第一声でディックは言った。「俺の五時間を返せ」

 こちらは少々反論する。「音をつけてなんて頼んでないんですけど?」

 今度は笑った。「あんなの送ってこられたらな。一応訊くけど、オリジナルだよな? お前の」

 「そう。普通にテスト結果だけでもよかったんだけど、どうせならと思って。特になにも考えてなかったんだけど、ふざけた詩を書こうとしたらあんなことになりました」

 「ああ、笑った。作りながら何回も笑った。お前はパンク好きじゃないだろとかギター弾けないどころか持ってないだろとかってつっこみもした。けどちゃんとストーリーになってるし、歌にできると思ったらな、作りたくもなるだろ」

 「それで夜更かししたってこと?」

 「そう。いつも零時か、遅くても一時には寝るのに。曲はわりとすぐできたんだけどな、詩のメロディを入れるのに苦労した。しかもPCは持ってないとか言うし。わざわざ携帯電話で聴けるようファイルを変換しなきゃならなかったし」

 なにを言っているのかよくわからない。「私はすっかり眠気覚めた気がする。興奮しすぎて」

 「それはそれは。だが俺はもう寝る。これでも忙しいんでな。けど詩書いたら、PCでも携帯電話でもどっちでもいいから、とりあえず送ってこい。いくらでも音つけるぞ、曲を作るのは得意だから。っていうか、リーマンやってたあいだの鬱憤がたまってるだけでもあるけど。女の詩は助かる。女心なんか、俺にはさっぱりだからな」

 私にもさっぱりです。「わかった。たぶんそんなにしょっちゅうは書けないと思うけど、また書きたくなったら送る」

 「ああ。二十四日のことは、また二十二日か二十三日に連絡入れる。明日学校だろ。お前も寝ろよ」

 「起こしたのはそっちだ」と、一応つっこんでみた。

 「ああ、そうだっけな」彼はすっとぼけた。「とりあえず寝ろ。またな」

 「うん、おやすみ」

 いざ書こうと思ってペンを握ってみても、なにも浮かばなかった。けっきょく私は眠った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 サビナの様子が変だと気づいたのは、それから二日後のことだった。

 なんというか、ゼインとつきあいはじめてからか、三年になってからか、時期はよくわからないけれど、私の前では騒ぐ女でなくなっていた。というか、もしかするとおとなしい人間になったのかもしれないが、そういった理由により、元気がないかどうかという言いかたをするなら、私にはよくわからない。

 だがなにかが変だった。ものすごく無口になっている。気がする。もしかするとペトラにおみやげのことを聞いたのかもしれない。でもペトラからはなにも言われていないし、カルメーラもなにも言わないので、とりあえず無視しておいた。私が関係あるかどうかはわからないし、関係ないのだとしたら、私が口を出すところではない。

 学校でのクリスマスパーティーの準備は着々と進んでいた。最近は飾りを作ることと、“Breakout”の替え歌練習がメインだった。チラシを配る時にこの替え歌のサンプルも一緒に配ったこともあり、オリジナル替え歌をうたうという申し出をしたグループも何組かいた。だがうまくできないとかで、二年や一年ならばサイニやマルユトが相談を受け、話がこちらに流れてきて、私が少々手を貸すというのもあった。おもしろおかしくしたいというグループも、わりと真面目な歌にしたいというグループもいた。どうにか応えた。

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