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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 17 * CANDIDATES HEART
87/139

○ Accepting Is Not An Understanding

 復習に飽きた私はベッドの上、ジョンアの隣に腰をおろし、ビールを飲みながらお菓子を食べた。

 電話を終えたアニタがみんなのもとへと戻る頃には誰もが復習をやめ、エルミはベッドにあがった。

 ペトラが私に言う。「っつーか、ゼインてサビナの彼氏でしょ? あんた、そんなに仲いいの?」

 私は質問を返した。「どこまでを仲がいいって言うの? 最近でいえば、一ヶ月に一回くらいのペースでアドニスたちと会ってる。テスト勉強も含んでの話だけど。二ヶ月に一回くらいはゼインが顔を出す。極たまに電話かかってくるから話す。ゲルトたちとなにも変わらない友達づきあいですけど」

 「んじゃ仲いいんだ」彼女はそっけない様子で答えた。「そういうの、サビナは知ってんの?」

 こちらでも勘ぐりがはじまったようだ。「番号やアドレスのことはサビナも知ってるはずだし、みんなで遊んでることも知ってると思う。あと、知ってるかは知らないけど」私はチェストの上を示した。「修学旅行のおみやげももらいました。ラッキー・ドラゴン」

 全員の視線が一気にそちらに集まる。

 「見えねえよ」と、カルロ。

 私は笑った。「三百フラム。けど受験のお守りになるかもって」

 ペトラの反応は微妙なものだった。「ふーん。なんか、べつに嫉妬とかじゃないけど、すごい複雑な気がする」

 「なにが」

 「あ、サビナの立場からすればってことね」彼女がつけたした。「元はあんたと仲悪かったわけで、今でこそ話はするし一緒にいるけど、昔のこととか考えたら、イヤだとは言えないだろうし。サビナはたぶんそんなに嫉妬しないし、女友達のことも気にしないだろうけど、あんたと仲がいいってのは、なんかすごい複雑な気がする」

 アニタも同意した。「たぶんそう。あたしはベラと昔から仲いいわけだから、ベラとアドニスが仲いいってのはなにも気にならなかったけど。元はベラの友達だし、文句言う権利もないんだろうけど。サビナだって元はといえばベラ繋がりだから、文句言えないんだろうけど。自分との仲が微妙なベラが、自分の彼氏と仲いいってなったら──ちょっと」

 「ちょっと待って」私は話を止め、整理しようとした。「だからつまり、アニタの彼氏がエルミとすごく仲よかったら、アニタ的には微妙なわけ?」

 「微妙」

 「なんであたし!?」エルミが口をはさんだ。「ああ、でもイヤだわ。逆に考えたら、なんかイヤ」

 私はエルミに訊いた。「あんた、私とブルが遊んでたってのは、べつによかったんだよね」

 肩をすくませる。

 「そこはね。言ってもしかたないし」

 よくわからない。

 セテが割り込んだ。「逆に考えてみりゃいいんじゃね。お前とアゼルとエデ。アゼルとつきあってた時で考えて、アゼルとエデがめっちゃ仲よかったらどうよ」

 「なんでそこであいつだよ」と、私は言った。「べつにどうでもいい。だって私、一年の時は、三年のあいつの取り巻きに、すごく嫌われてたし。ぜんぜん知らない相手だけど、それは話さなくてもわかったし、ものすごく睨まれてた。でも気にしなかった。ものすごくイチャついてる感じの光景を見せつけてくれたこともあったけど、なにも思わなかった。むしろおもしろかったし」

 ペトラは呆れている。「やっぱこいつになに言っても無駄だよね。普通の感覚がまるでわかってない」

 ムカつく。

 「アウニもそんな感じだったのかも」カルメーラが言った。「アウニはベラと仲がいいってわけじゃないし、去年ヤーゴとつきあう前とか──ヤーゴがベラと話してんの、すごく気にしてたし」

 今度はヤーゴがつっこむ。「なんでここであいつの名前が出てくんだよ」

 「そういやお前、やりなおすとか言ってたの、どーなったの?」ゲルトが彼に訊いた。

 「ああ、なんか止められたから、そのまんま。あいつももうなんも言ってこないし」

 トルベンがつぶやく。「とうとう愛想つかされたと」彼、グラスに注いだビールを少しずつ飲んでいる。

 「どんな愛想だよ!?」

 「実際どーなの? アウニは」セテがカルメーラに訊いた。「アウニ、まだこいつに惚れてんの?」

 彼女が眉を寄せる。「それはあたしからは──」

 「訊くなよそこは」ペトラが割って入った。「ヤーゴにその気がないんなら、言ってもしかたないじゃん」

 「っつーか受験生だし」とトルベン。「こいつのアタマで今アレとつきあうって、かなり危険」

 「うっさいよ」と、ヤーゴ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 嫉妬などというものは、くだらなさすぎて笑える。

 「ならペトラ、サビナに訊いてみてよ」私は言った。「おみやげのことも写真撮って見せて、そういうのイヤなんじゃないのって。私もゼインもそんな気、まったくないけど、サビナが嫌がるようなことをするつもりはない。私はこんなだから、はっきり言ってもらわないとわからない。ゼインもそう。ただの友達だけどそれすらイヤなら、もう会わないしなにももらわない。あげたりもしない」

 彼女は苛立たしげに天を仰いだ。

 「そんなはっきり言われて、サビナがちゃんと答えるわけないじゃん。彼氏のほうもそういう考えならよけいだよ」

 「ならどうしろっつーのよ?」

 カルメーラが口をはさむ。「サビナだけじゃなくて、ほとんどはみんな、不安になると思うよ。いろんな意味でかなう気しないもん。自分の彼氏とか好きな相手がベラと仲よかったら、そのうちベラに奪られるんじゃないかって──っていうか、相手がベラのこと好きになっちゃうんじゃないかって思う。そうなったら──」

 なに言ってんだこいつ。

 「ま、相手の気持ちが信じられなくなるよね」アニタがあとを引きとった。「どれだけ好きって言われてても、ベラと話してる楽しそうな彼氏を見ちゃったりしたら、一度疑いを持っちゃったら、そういうのはなかなか消えない。自分に自信がなかったりしたらよけい。去年そういう話、したじゃん」

 確かにそういう話をした。ルキアノスやアドニスを絡めての、リーズとニコラの嫉妬のことだ。アニタが言ったのは、私がどれだけ自分を嫌っているか、みんな知らないから、とのことだった。

 彼女が続ける。「ベラにそんな気がないってのは、あたしたちなら見てればわかる。けど相手の気持ちはわかんないじゃん。ベラとゲルトとセテの、これだけ一緒にいるのにトモダチだってのは、ほんとに特殊だもん。絶対的でしょ。裏の裏まで知ってるから、そうならないんだろうなってふうにも納得ができる。けど知り合って一年やそこらの人間相手なら、なにが起きるかわかんないし。地元が一緒の、学校だけのある程度のつきあいでも、やっぱわかんない。友達としてみてるつもりでも、実は恋愛対象として好きでしたっての、あったとしてもおかしくはない。つまりベラにそんな気がなくても、相手はそうじゃない可能性があるってこと」

 彼女の話を聞きながら、必死に理解しようとした。だが、そういう考えがあるということを認めはできても、理解はできない。意味がわからない。

 私同様、わけがわからないといった様子のダヴィデが言う。

 「っていうか、この変人のなにがいいわけ? 楽しいのはいいけど、一緒にいればいるほど、めんどくさくてムカつくだけじゃん」

 「お、お前もわかってきたか」と、ゲルト。

 セテが笑う。

 「“カチーン”の量が増える。そんで呆れる。肯定に入っちゃえば、あとはもうラク。自分もどんどんドス黒くなっていく」

 ゲルトはさらにつけたした。「そんである程度のことはどうでもよくなる。嫉妬なんてくだらねー、なにもかもめんどくせー、少々サボっても平気、少々きついこと言っても平気、少々悪さしても平気、女は魔女か悪魔だ、みたいな」

 「え、お前らそんな感じなの?」

 ヤーゴが訊くと、彼らは「そんな感じ」と声を揃えて答え、笑った。

 「俺もどうでもよくなってきた」ダヴィデが言う。「酒なんてバレなきゃよくね? 家に帰ったら、歯になんかはさまってるとかって言い訳して、歯だけ磨けばよくね?」

 セテは天を仰いで笑った。ゲルトが応じる。

 「それだそれ。なんならベラみたいに、帰ったらバスルームに直行すりゃいい。こいつのスリー・バスに比べれば、二回なんてたいしたことないんだし」

 “スリー・バス”というのは、朝、夕、夜の三回、シャワーを浴びるということだ。

 「だよな。酔わないように気つけりゃいいんだし。酔ってもシャワー浴びたらちょっとは覚めるだろうし。うちの親だってけっきょく、勉強だけちゃんとしてりゃいいんだろうし」

 「どんどん悪に染まっていく」ペトラがつぶやいた。「なんだこの悪の伝染」

 「っていうかなんでそんな話になってんだ」

 アニタのつっこみも無視し、彼らは自分たちのグラスにビールを少しずつ分けると、なぜか乾杯した。おそらく彼ら、酒で少々テンションが上がっているのではないかと思います。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「この中で二十五日のクリスマス、予定があるヒト手を挙げて」

 私は突然言ってみた。おもしろいくらい、誰も手を挙げなかった。なので続けた。

 「二十三日のつもりだったけど、二十五日にしよっか。ランチを家で早めに済ませて、昼くらいから。ケーキと酒は私が用意する」また気まぐれな発言をしている気がするが、まあいい。「お菓子とジュースはそっちが適当に。解散は今日と同じで夕方五時半までに、だけど」

 カルメーラが笑顔を見せる。「クリスマスパーティー!」

 アニタも口元をゆるめた。「んじゃお菓子、もう今日の残りでいいよね。もったいないし」

 「え、せっかく持って帰ろうと思ったのに?」シスコンダヴィデが口ごたえする。「勝ったのに!」

 「ひとつで我慢してくださいな。さすがにこれ以上ベラにお金使わせるのはまずい」

 「っていうか、大丈夫かこれ」ペトラはまたもつぶやいた。「どんどん悪の道が開けてる気が」

 私は笑った。「酒のこと、親にバレて怒られても、私のせいにしないでよ。あ、今日罰ゲームで飲ませたぶんはいいけど。あとはあんたらが勝手に飲んだんだから」

 「お菓子は!?」ダヴィデがしつこい。「っていうかベラ」

 「なに」

 「それ、そのお菓子」チェストとは反対側の窓際にあるTVボードの上にみっつ並べている缶を示す。ソイル・アシーヴで買ったソフトクッキー缶だ。「まだ残ってんの?」

 「ひとつは開けてて何個か残ってる状態。あとのふたつはまだ開けてないけど。まさか持って帰る気? 散々ヒトに嫌味散らしといて?」

 「だってお菓子、ひとつで我慢しろとか言われたし」

 理由になっていない。賞味期限が一月までだから、冬休みにゆっくり食べようと思っていたのに。

 「一缶だけにしてよ」

 「よし」

 彼は未開封の缶を見つけてそれをひとつ取った。

 「んじゃそろそろ帰るか」ゲルトが言う。「時間がやばい」

 いつのまにか午後五時半を過ぎている。「帰れ。さっさと帰れ」

 「片づけなくていいの?」アニタが訊いた。

 「いい。自分でやる」

 「お前のその性格で片づけとか掃除ができるっての、ちょっと意外だよな」と、ヤーゴ。

 笑える。「できないほうがおかしいから」

 彼らが帰ったあと、部屋に戻ってテスト結果用紙を証拠としてルキアノスとアドニス、ナイルに送信し、最近すっかり出番の少なくなってしまったCDプレーヤーで歌を聴きながら、鬼の片づけモードに入った。

 部屋はすんなり片づいた。もちろん使ったグラスもだ。ついでにキッチンのシンクを念入りに掃除、仕上がりに満足していると、背後から買い物を済ませて帰ってきた祖母に肩をつつかれ、心臓が止まるのかと思う勢いで驚いた。そして二人で笑った。

 夕食を作りながらクリスマスのことを話すと、酒の代金を私が出して祖母が代わりに買ってくれることを了承され、でもあまり飲ませないようにねと言われつつ、ケーキは祖母がお金を出して店に注文しておいてくれるということで話がまとまった。当日の朝取りに行けばいいよう手配してくれるらしい。

 テスト結果に関しては、ものすごく褒めてくれた。クリスマスプレゼントはもう決めてあるとも言われた。なんだろう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夜、自分の部屋に戻ってから、ディックにもテスト結果を送らなければと思い、そこで気づいた。私、彼のメールアドレスを知らない。知らないので、アドレスを教えてくださいと電話した。すんなり教えてくれたものの、どうしたのだと言われ、メールを受信すればわかると答えた。

 普通に画像のみのメールを送るつもりだったのだけれど、それだけではつまらないと思い、学校の授業用に買い置きしてある新品のノートをひとつ出して広げ、さくさくと詩を書いた。とんでもなくふざけた詩を書いた。大笑いされるだろう詩を書いた。しかもちゃんと一曲ぶんになるだろう詩なので、また笑える。

 その詩を本文に打ち込んでテスト結果の証拠画像を添付、彼に送信した。返事はなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夜中。

 サイドテーブルの上で携帯電話が鳴って、私は起きた。うるさすぎて、危うく携帯電話を放り投げるところだった。

 画面を確認すると、なぜかディックからだった。時間、夜中の二時前。マジふざけんな。そう思いながらも電話に応じる。

 「今何時だと思って──」

 彼は私の言葉を遮った。「お前、PCアドレス持ってるか?」

 「は? 持ってないけど」

 答えながら身体を起こしてクッションに背をあずける。

 「ああ──まあいいか。なら携帯電話にメール送る」

 「は?」

 「いいから、ちょっと待て。三十分くらい起きてろ。たぶんそれくらいでできる」

 「なにが──」

 電話が切れた。なんだお前。

 眠りについてからおそらく、二時間経ったか経っていないかほどだ。

 あくびをしながらナイトスタンドの明かりをつけ、ベッドから出た。寒い。

 窓を少し開けて煙草を数口吸うと、カーディガンを羽織って一階に行き、ビールを持ってまた部屋に戻った。飲みながらまた煙草を吸う。

 寝ていた人間を夜中に電話で起こしてメールするから待てとは、どんな状況だ。なんだ。なんのつもりだ。

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