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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 17 * CANDIDATES HEART
86/139

○ Grow Up

 ぞろぞろとキャッスル・ロード沿いにあるKマーケットへと向かいながら、私は財布の中身を確認した。あるある、千フラム札が八枚。とりあえず六枚を財布から出す。

 時々、店が釣り札の中に五千フラム札を含めてくれない時がある。釣りが九千フラムある時にもそんなことをされると、なんの嫌がらせかと思ってしまう。どちらにしても最終的には千フラム札に変わるのだろうから、なんでもいいけれど。

 Kマートのパーキングに到着し、私は立ち止まった。

 「さてと。んじゃ携帯電話を回収します」

 立ち止まり振り返った彼らは声を揃えた。「は?」

 無視して、私は肩にかけていた自分のカバンをアニタに押しつけた。

 「ほら、入れろ。電卓使用防止策」

 「え、なに。電卓?」

 「いいから入れろっつってんだろ」

 そう言うと、彼らは眉寄せ顔を見合わせながらも自分たちの携帯電話を私のカバンに入れた。ジョンア以外。

 「よし」カバンを受け取って再び肩にかける。なにげに重い。「んじゃチーム分けね。チームA、ダヴィデとセテ、アニタとナンネ」そう言って二千フラムをセテに渡した。「チームB、イヴァンとゲルト、カルメーラとジョンア」カルメーラに二千フラムを渡す。「残りがチームC、トルベンとヤーゴ──あとカルとペトラとエルミ」ペトラにも二千フラムを渡した。

 アニタが訊ねる。「え、なんのゲーム?」

 「チームに分かれてお菓子を買う」スカートのポケットから自分の携帯電話を取り出しながら説明した。「お菓子とジュースなら好きなもの、なんでもいいけど、合計が千五百フラム以上二千フラム以下になるよう暗算して買って。私はそっちの買い物には参加しないけど、千五百以上二千以下で適当な四桁の数字を設定する」

 そう言って、自分の携帯電話に四桁の数字を打ち込んだ。“一八六九”。適当なのに、我ながら嫌味ったらしく半端な数字だ。それを一瞬発信、すぐに切る。

 説明を続けた。「発信履歴に残したから、それが証拠ね」携帯電話をポケットに戻す。「レシートはちゃんともらって。私が決めた金額にいちばん近いチームが、残ったお菓子を山分けして持って帰る。いちばん遠かったチームは罰ゲーム、私が作るものすごくまずそうなジュースを飲むことになる。レジで表示される合計を見てズルするのはなし。っていうか意味ないと思うけど。二千フラムを超えたら自分たちで払って。あ、アイスはこの買い物のあとでちゃんと買うからご心配なく。時間がないから、ジュースとお菓子を選んでレジに並ぶまでの制限時間は今から十五分。ってことで」両手でマーケットを示した。「行ってらっしゃい」

 顔を見合わせて様々な反応を見せながらも、彼らはマーケットへと急いだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ああ、疲れた。なぜこんなことをしているのだろう。

 などと思いながら携帯電話で時間を確認、ひとまずマーケットの外にあるベンチに腰をおろした。自分の買い物なら、五分もあればじゅうぶんだ。

 テストの結果を、ルキアノスたちに報告しなければいけない。けれどそんな気分ではない。あれだけ責められると、素直に満足なんてできないじゃない。なぜ責められるのかわからない。かなり理不尽な気がする。

 この場所、ちょうど邪魔になる位置に車がなく、アゼルとはじめてキスした場所が見える。このマーケットには時々来るので、その時は高確率で目に入るし、今さらどうってこともないけれど。

 考えかたしだいでは、あの公園からはじまって、このマーケットで終わった気がする。“外で”、という意味では。

 だってあの時、アゼルが消える前に来たのはこのマーケットだった。二日前の話で──そのあとマスティたちも一緒に、マブやコンビニに行っているけれど。

 祖母が旅行に行った日の夜、アゼルとふたりでここのスウィーツショップにソフトクリームを買いにきた。スウィーツショップが閉まっていて買えなかった。

 でもやっぱり正確には、終わったのは祖母の家だ。後にアゼルに繋がる、リーズやニコラと会ったのも祖母の家だった。こう考えてしまえば、なにが始まりなのか、なにが終わりなのかがわからない。なんのことを考えてそうなるのかも、私は自分でわかっていない。

 私の人生はニュー・キャッスルで始まって、ニュー・キャッスルで終わった。終わったのだけれど、オールド・キャッスルでまた始まって、また終わった。終わったということは、始まったということ。終わりは始まり。そういうこと。

 アゼルが消えて、リーズたちがいなくなって、なにがはじまったのだろう。

 地獄。そうそう、地獄。もともと地獄にいるけどね。というか私の存在そのものが地獄だけどね。受験がはじまった。それはあたりまえ。

 はっとした。こんなことを考えている場合ではない。さっさと自分の買い物を済ませ、奴らがレジでズルをしないよう見張らなければいけない。

 自分の買い物を終わらせ、すぐあとに買い物を終えたアニタたちのレシートをチームごとに確認した。これはもちろん暗算も重要になるけれど、私の考える数字をどれだけ予想できるかにもかかっている。気がする。

 結果、いちばん近かったのはチームB、イヴァンたちだ。単に範囲の中心あたりを予想しただけだという。あと無駄に細かい数字。

 いちばん遠かったのはトルベンたちチームC。数字は千九百代で、ぎりぎりを予想していた。

 私は舌打ちした。ダヴィデのアホに飲ませてやりたかったのに。

 そしてアイスを、スウィーツショップのソフトクリームではなくマーケットで普通のアイスを買って、祖母の家へと向かった。


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 祖母の家。

 キッチンでグラスを五個用意、男共にはリビングのテーブルを運んでもらった。三階の屋根裏部屋へと向かい、アイスを食べた。

 その後、ペトラたちはもう、本気でイヤな予感しかしていなかったらしいのだが、それは当たりだった。

 私は、適当に選んで買った二百ミリリットル入りのパックジュース五種類を、野菜ジュースだったりフルーツジュースだったりカフェオレだったりという五種類を適当にグラスに注ぎ、混ぜ合わせて、コップに半分くらいの量で特製ドリンクを作った。少しではあろうものの、おそらくグラスごとに味が違う。色も不気味すぎるし、最悪の罰ゲームだ。

 彼らはなんだかんだと文句を言いながらもそれを飲んだ。叫び声が部屋に響いた。無理らしい。興味を示したセテやアニタはそれを少しもらって飲んだものの、やはり無理らしかった。

 ペトラとエルミとヤーゴが勘弁してくれと懇願するものだから、キッチンから新しいグラスとビールを持ってきて、グラス三分の一ほどに注ぎ、それを飲ませた。ペトラとエルミが軽く酔った。弱いらしい。

 「ダヴィデのせいだ」ラグの上、トルベンとセテのあいだに寝転んでうなだれるヤーゴが言った。「ベラに奢れとか言うから」

 ゲルトとダヴィデのあいだ、カルロが同意する。「ああ、それは言えてる。お菓子とか言いだすからラッキーとか思ったら、わけわかんないゲームはじまったし」

 「負けるのが悪いんだろ」と、ダヴィデ。

 私は窓際のデスクに腰かけて煙草片手に残り物のビールを飲んでいる。

 「っつーかあんたら、なんでもかんでもヒトのせいにしなきゃ気がすまないの? 自分を責めろ自分を」

 「あたし、無理」ペトラもトルベンとカルメーラのあいだで寝転び、うなだれている。「酒なんか一生無理」

 「クリスマス、チューハイ用意しようか?」

 「あ、それなら飲んでみたい」アニタが私に言った。「ビールは無理だけど」

 罰ゲームの残りのビールをほんの数滴口にしただけで、彼女は無理だと叫んだ。

 セテが言う。「え、お前酒飲むんか。そういうの、絶対やらねーと思ってた」

 「え、なんで? 煙草は吸おうと思わないけど、チューハイならべつにいいかなーって思う」よくはない。「ママはベラがビール飲みはじめたこと知ってるけど、べつに怒らなかったし。煙草はやめろって言ってたけど。タニア姉もたまに友達と一緒に飲んでるもん。ママたちにはわざわざ言ってないけど」

 「お前の基準はいつも姉貴とベラだな」と、ゲルト。

 「ねえベラ」ナンネとジョンアと三人でベッドの上に腰をおろしているエルミが切りだす。「酒って、飲んでたらそのうち強くなる?」目がうつろうつろしている気がするし、頬はほんのり赤くなっている。

 「なるんじゃないの、知らないけど。リーズとニコラは飲んでたらそのうち強くなってたかな。昔一回飲みすぎて吐いたらしくて、それから一定量飲むのはやめてたけど、半年くらいしてからまた飲みまくった。まあ酔いはしてたけど、吐いてはない。テンションがバカ高でそのうち寝る、起きても記憶はないみたいな状態」

 「マジ? あたしもビールもらっていい?」

 「んじゃ取ってくれば」私はナンネへと視線をうつした。「ナンネ、悪いけどついてって」実は手癖の悪いこの女をひとりでうろつかせたくない。「ついでにあと二本くらい持ってきてくれたら嬉しい」

 「わかった」

 「あ、オレも欲しい」カルロが立ち上がった。イヴァンに訊ねる。「お前は?」

 「飲む? 一応平日だし、あんま飲むのもどうかと思うけど」

 「グラスに分けりゃいいんじゃね。ダヴィにも飲ませてやらねーと気がすまないんだけど」

 「は!? ヤだよ」

 ダヴィデは無視された。イヴァンも立ち上がる。「一口くらいは飲ませてやりたいな。けどベラ、そんなに開けて平気なんか」

 「平気。お金は私も出してるし、私がいつどれだけ飲むかわかんないっての、おばあちゃんも知ってるし」

 「ならいいけど」

 「あたしも飲んでみようかな」カルメーラは突然言った。「グラスにちょっと」

 ペトラが身体を起こす。

 「やめときなって。あの地獄ドリンクのせいかもしれないけど、ぜんぜんまずい。酒なんかロクなことない」

 「ちょっとだけ」と言って立ち上がる。「ベラ、グラスひとつ借りる」

 どうしたのだこいつ。「どーぞ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 けっきょく誰がどのくらい飲むかわからないからと、全員に行き渡るようグラスが十数個とビール数本が追加された。夕方五時半までに帰ることを考えれば時間がないからと、まずいだのやはり無理だのという声もあがる中、返ってきた答案用紙の確認作業がはじまった。

 アニタは五教科合計が二百四十六、一学期末に比べれば約二十点も下がった。

 エルミはまさかの二百四十八。一学期末と比べて約三十も下がったことになる。“遊びすぎだろ”という私の言葉に、これといった反論はなかった。それには“出会い系サイトを活用しすぎだろ”という意味が含まれているということはおそらく彼女もわかっていて、つまり図星ということだ。

 ちなみにハヌルは合計が二百八十六だったという。十四点足りないのは“ぎりぎり”なのか。なら私は“ぎりぎり”二百五十あったことになるのか。余裕ではないのか。

 来週は月曜から金曜まで、学校と進路を話し合う三者面談がある。私の保護者は当然祖母だ。金曜日のいちばん最後。全員一応の希望日を出すのだが、いつでもいいから決めてと祖母に言われ、なんとなく、金曜の午後六時に希望を出した。午後十八時というのは本来、学校側が提示する時間からは的外れで、いちばん最後は普通、遅くても十七時三十分から十五分程度なのに、それでも時間外のその希望はとおった。

 誰かと祖母が会うのがイヤというわけではないけれど、やはり警戒はしてしまう。担任ゲルハラがうちの事情を知っているのか、試したかったっというのもある。とおったということは、おそらく知っているということ──に、なるような、ならないような。注意することすら避けられているだけのような、そうでもないような。

 デスクの上で携帯電話のバイブレーションが震え、電話らしく、デスクチェアに座って煙草を吸っていたジョンアと代わって電話に応じた。アドニスからだ。

 電話越しにアドニスが言う。「今日ぜんぶ返ってくるんじゃなかったっけ? いつ連絡よこすんだよ」

 「ごめん、今友達と一緒で、そんな状態じゃなかった。でも目標は余裕で超えたよ。二百六十六もあった」

 「は? マジで!?」

 「マジだよ。嘘つかねーよ」

 「え、ちょい待ち」

 そう言うと、彼は電話の向こうで誰かになにかを言った。複数人の声が聞こえる。

 「もしもし、ベラ?」ルキアノスの声だ。「まじで? 二百六十六?」

 「マジです。あとで証拠、携帯電話で撮って送る。ありがとね。あなたが言ってたみたいに、やっぱりまた中間の問題も出たの。再テストが効いたみたい」

 「うん、よかった」安堵の声だった。「あ、ちょっと待って。ナイルが代われって」

 「ん」

 「二百六十六って、すごくない?」ナイルが言う。「ルキとアドニスの誕生日なんかいいから、礼にチーズケーキと激辛ピザ奢って」

 笑える。「なんでも奢る。っていうかその組み合わせはいいの? 変よ、なんか」

 「余裕。ゼインとアドニスが激辛なんかいらねーって言ってるけど──ゼインも代われって言ってるから代わる」

 「はいはい」

 彼のテンションはバカ高だった。「ヘイ! ベラ!」

 「ハイ、ゼイン」あんたはもうほんと、サビナと一緒にいようよ。「あなたにはそれほど手伝ってもらった記憶がないんだけど、どうしよう」

 「うるさいよ。オレはサビナの勉強みてんの。って、レベル変わんねえけど。みんなで勉強できればいいんだけどな。そんなことは無理らしいから」

 まだ諦めていないのか。「そうね。勘弁してほしい。でもあと何ヶ月かで、サビナが同じ高校に入ってくるよ。楽しみ?」

 「超楽しみ!」張り切った答えを返してくれた。「お前もウェ・キャスに来ればいいんだよ。もーちょっとがんばれば入れるだろ? したらナイルとカーリナも一緒に、ひとつのグループができる」

 あはははは。「絶対イヤ。マジでイヤ。なにがなんでもイヤ。死んでもイヤ」

 「言いすぎだし! あ、アドニスが電話返せって言ってるから代わる」

 彼の脳内思考はどうなっているのだろう。「はーい」

 電話口の声がアドニスに変わった。「ひとつ言っとくことがある。オレ、今週土曜が誕生日。その日にデートする。修学旅行に告ってきた女と」

 「そ。まだ早いけどおめでとう。がんばって」

 「ん。つっても今から誘うんだけどな。お前のテストの合計が目標に届かなかったら、しないつもりだったんだけど」

 「またそうやってヒトを理由にする気だったの?」

 そう言いながら私は身体を起こし、デスクの上に置いてある煙草を一本取って口にくわえた。火をつける。

 「いや、そういうんじゃねえけど──お前がなかなか報告よこさねえから、ダメなのかと思ってた」

 「ごめん。だってね、すごく責められたのよ」煙草の煙を、少し開けた窓に向かって吐き出す。「わりと難しかったらしくて、私は成績上がって目標もクリアしたけど、一学期末に比べれば合計点数が落ちた子が多くて、八つ当たりの嵐。アニタも二百五十なかったから、なんかすごい機嫌悪かったし。お菓子とアイスでなだめたけど」

 「え、マジで?」と、アドニス。「──アニタ、今一緒にいんの?」

 「いるよ。代わろうか? 今みんなでテストの答案見て間違い確認したり復習したりしてんだけど、アニタ、またへこみだしてる。くだらないミスが多すぎて」

 おそらく彼女は、クリスマスパーティーのことで浮かれていたのがいちばんの原因だ。

 「ああ──んじゃ代わって」

 「ちょっと待って」と言って煙草をもう一口吸ってから煙草を火消しに入れ、アニタを呼んだ。「アニタ。アドニスから電話」

 彼女はこちらの様子を伺っていた。「え」

 「話したくなきゃいいけど」

 「出る!」

 彼女は私と席を代わって電話に応じた。

 私たちがテスト問題についてあれこれ言う中、こちらに聞こえないようにか、しばらく小声で話していたものの、そのうち泣きだした。泣きながら笑った。泣きやんで、“がんばって、応援してる”とも言っていた。

 電話を終えると、「さっさと受験終わらせて、春休みは男と遊びまくる」、と宣言した。バカだ。

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