○ Test Results
十二月三日、火曜日。
LHRまでもを使い、先週受けた二学期期末テストの答案がすべて返ってきた。他はともかく、基本五教科の合計は二百六十六点。見事目標達成、プラス十六点だった。
放課後の教室。
「明日、雪降るんじゃないの」隣の席で、私のテスト結果基本五教科ぶんをまとめた細長い紙片手にダヴィデが言った。「マジでありえん」今日彼は、返された私の答案用紙の点数を見るたびにこんなことを言っている。
「ねえ。あんた、どんだけヒトをバカ扱いしたら気が済むの? 自分の合計が下がったからって僻むな」
彼は身を乗り出して紙を私の机に置いた。「僻んでないし。三百切ったわけじゃないし。ノース・キャッスルにするからいいんだよ。むしろその言い訳が出来たからよかった」
私は鼻で笑った。
「落ちたらかっこ悪いもんね」
「お前、今日性格激悪」呆れと苛立ちの混じった声だ。「そっちこそ浮かれんなアホ」
アホって言われた。確かにアホだけど。
「俺もノース・キャッスルでいい気がする」同じく合計が少々下がったトルベンが言った。「私服っつーのが面倒だけど、近いし。っつーか俺らの成績落ちたの、お前のせいじゃねえの?」私に言っている。「夏休みに呼び出すし文化祭にあれこれやらせるし」
「あ、それだよそれ」ダヴィも同意した。「お前のせいだ」肯定らしい。
私は反論した。「ちょっと待ってよ。中間は二人とも成績よかったじゃん。中間以降は私、特になにもしてないじゃん」
「いや、できるはずだった期末ぶんの勉強が──」
トルベンはなにか思いついた。「んじゃアレだ。お前が妙に真面目に勉強してる姿が不気味すぎて、勉強に身が入らなかったっていう」
あははははって、ものすごく笑ってみたけれど。
「なんでもかんでもヒトのせいにしないでくれます!?」
「うぃーす」後方戸口からセテが顔を出した。「どうだったよ、テスト」
彼のあとに続いてカルロ、ゲルト、イヴァン、ヤーゴも入ってくる。
振り返ったダヴィデが彼らに言う。「このバカがすごい性格悪い! なんかムカつく!」
「だからあんたのはただの八つ当たりだって言ってんじゃん」と、私。
「ダヴィがキレるってめずらしいな」セテは私の机にあるテスト結果用紙を手に取った。「──え、うそ、マジで?」
「なに」ゲルトがそれを覗き込む。「おお、すげえすげえ。上がってる。見事復活。っつーかそれ以上」
イヴァンたちもそれを見て、なんだかんだと感想を言った。セテは合計が二百五十六で、ゲルトはそれよりも二点低かったらしい。しかも凡ミスしていのだとか。カルロとヤーゴはなぜかショックを受けていた。去年なら私はカルロと同じくらいのレベルで、なんなら私のほうが低いことのほうが多く、ヤーゴは私とカルロよりも平均的に少し上だった。ダヴィデとトルベンは自分たちの合計も彼らに教えた。
ゲルトがダヴィデに言う。「ようするに調子に乗ってるだけだろ。気にすることじゃねえじゃん。っていうか点数はお前らのほうが遥かに上なのに、なんでそんな負けたみたいになってるわけ?」
その言葉に彼ははっとした。「ほんとだ。なんで負けたみたいになってんだ。いや、点数が上なのはわかってんだけど、なんか負けた気分になってた」
セテが笑う。「ベラ・マジックにかかっちまったな。ベラの成績が上がるとか、なんか違和感あるし。自分の合計が下がったらよけい、やられた感があるみたいな」
「それだよそれ。しかもこいつ、それを自慢するわけじゃなくて、あたりまえみたいな顔してんだよ。目標点余裕でクリアしたのに、はしゃいで喜んだりしないみたいな。それがなんかムカつく」
私は喧嘩腰に口をはさんだ。「なら私はどんな顔すればいいのよ? これでも必至に勉強したんだっつの。目標いかなかったから絶望ものだけど、満足はしてるつもり。っつーかはしゃいで喜ぶ方法がわかんねえよ。教卓に登ってビクトリーポーズでもとれば満足なわけ!?」
「はあ?」彼が言葉を返す。「誰もんなこと言ってな──」
ゲルトが私の頭に軽い手刀をかました。
「わかったから。もういーって」
私はその部分を手で押さえた。「なんで私!?」
「ダヴィデとトルベンが受けたムカつきの返し」
「は? 意味わかんないんですけど?」
「お前の場合は変にポーカーフェイスだから反感買うんだよ」
「よけい意味わかんねーよ」
「ちなみにアニタはへこんでる」セテが言った。「あいつも成績下がったから。今教室でペトラと一緒に必至に回答の確認してる。カルメーラも来てたから、あいつに結果言ったんなら、アニタたちもお前の点数聞いてるかも」
結果用紙はカルメーラにも見せた。「へー」
「だからそれだよ」ゲルトが言う。「お前、アニタの前でもそんな態度とったら、下手したら逆ギレされるぞ。一緒にミュニシパルに行けなくてもいいのかーとか」
「あ、言う気がする」と、セテ。
「私にどうしろっていうの? なんで成績上がって責められなきゃいけないの? 誰の成績が下がろうと私には関係ないじゃん」
「つくづく嫌味な女」トルベンは呆れ顔。「どうやったらこんな嫌味になれるんだ」
私はむっとした。「わかりました。帰ります。三学期のテスト結果は一切誰にも見せません。上がろうと下がろうと、ずっとポーカーフェイスを貫いてやる。誰の成績がどうなっても知りません」
ゲルトがカルロから受け取った私の点数用紙をこちらに返す。
「お前が悪いんじゃねえよ。お前のその性格と周りの状況の相性が悪いだけ」
受け取った紙を胸ポケットに入れた。意味がわからない。
「まさにベラ・マジック」セテが言う。「期待を裏切られんのがイヤなんだよな。ベラにはこう、成績では下のほうでうろちょろしててほしいし、喧嘩売られたらひとりで反撃してほしい。なんかのイベントん時はわけわかんないこと言いだしてほしいし、勉強以外じゃ無理だと思うようなことを平気でやってのけてほしい。言ってみりゃ成績上がるのは受験本番だけでいいんだよ。中学のテストじゃ絶対落ちるだろ状態続けて、本番で受かってほしいみたいな」
「だから意味わかんねえよ」私はつっこんだ。ようするにバカでいろと言っているのか。
カルロが口をはさむ。「半端なく勝手な気がするけど、まさにそれだわ。ひとり勝手に成績上げて目標クリアしてんじゃねえよみたいな」
「言いすぎだって」イヴァンは呆れた様子だ。「ベラのは素直に褒めるとこだろ」
「私の味方はイヴァンだけ」
私は遠い目をしてつぶやいた。どうして責められなければいけないのだろう。この理不尽の塊はなんなのだろう。
「わかった」突然ダヴィデが言った。「ムカつくからお前、なんか奢れ」私に言っている。「アイスでいいや。寒いけど」
「は? なんでそうなんの?」
「あ、それいいな」セテが賛成する。「カルにも奢る。慰めに」
彼は声をあげた。「誰が慰めてくれって頼んだ!?」
私のイライラは募っていた。でもアイスも食べたかった。それがまたイライラをさらに加速させた。「行きゃいいんでしょ」
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B組の教室を覗きこむと、他にも数グループの生徒が残る室内、アニタは中央付近にある机にテストの答案らしきものを広げ、前の席に座ったカルメーラ、隣の席のペトラと一緒に、なんだかんだと議論を交わしていた。前方戸口から声をかけると、アニタはしかめっつらをこちらに見せた。
「下がったわ!」叫ぶように言う。「ボロボロだわ!」
私はなにも訊いていないのに。「んなもん知るか」
「あたしがミュニシパルに行けなくてもいいの!?」
ゲルトの想像どおりの答えを返してくれたものだから、私の周りでゲルトたちは爆笑した。アニタはよけいにキレた。
私は無視した。「今からこいつらにアイス奢らされに行くけど、あんたらも行く? 一分前に思い出したんだけど、ゲルトの誕生日のことなんかすっかり忘れてたから、それもついでってことにする。マーケットでお菓子、大量に買う。金はぜんぶ出す。そんでうちに行く」今決めた。「ヤケ食い大会」
ペトラが私に訊ねる。「あんた上がったんじゃないの? 合計、目標達成したんでしょ?」
「こいつらのせいでそんな気分じゃねえんだよ」
「意味わかんないけど」彼女はアニタたちへと視線を戻した。「行く? 奢りらしいし。ベラの答案も見たいし」
カルメーラが真っ先に答える。「行く!」
「見たくない気もする」アニタがつぶやいた。
どいつもこいつも。「んじゃお前は来んな。ひとりで家に帰ってタニアに泣きつけ。A組に行ってナンネとジョンア呼んでくるから、ペトラとカルメーラはさっさと来て」
アニタはまた怒った。「行くわアホ!」
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続いてA組の教室。中を覗くと、廊下側最前列の席にジョンアが、二番目の席にナンネが座り、その隣でエルミが机に顔を伏せていた。その隣の中央列席にハヌルと、一、二年の時に同じクラスで学級委員をしていた学級委員がいて、その仲間二人と話をしている。
私が声をかける前にハヌルがこちらに気づいた。
「あ、ベラ。テストどーだった?」
うっさい黙れ。「ご心配なく。余裕で高得点です」そう答えてジョンアたちへと視線をうつした。「今からマーケットに行ってお菓子とアイス買いまくって、うちでヤケ食いパーティーするけど、来る? 金は全額出す。ただお菓子を選んで食って帰るだけ。八つ当たり男二人と八つ当たり女一人と嫌味な奴らが大量にいるけど──」
私の後頭部をトルベンがはたいた。
「“二人”ってなんだよ。俺は八つ当たりなんかしてねえし」
「痛いなもう!」私は彼に向かって声をあげた。「暴力男!」
「はあ? お前に言われたくねえよ」
「っていうか八つ当たりなんかしてないし!」ダヴィデが割って入る。「言い訳できたからいいって言ってんだろ!」
「喧嘩すんなよもう!」こちらに合流したペトラが言った。「うっさいわ」
イヴァンがつぶやく。「どいつもこいつも機嫌が悪すぎる。なにこれ。こんなになったことないんじゃね」
セテは苦笑った。「ないな。トルベンとベラはともかく、ダヴィまでってのはマジでない」
私のイライラゲージはさらに上昇している。再びA組の教室を覗きこんだ。ジョンアとナンネはおろおろしている。
「ダヴィとトルベンとアニタと私がこんな状態。そんな空気でよかったら、だけど」
「行っていいなら行くけど──」ナンネが今も顔を伏せたままのエルミへと視線をうつす。「これが」
「放っとけば、そんなの」と、私。
私の右隣から、カルメーラがA組の教室へと足を踏み入れる。
「どしたの? エルミ」
「成績がめっちゃ落ちたからへこんでんだよ」なぜかハヌルが説明した。「目標が二百八十なのに、二百五十もなかったから」おそらくこれは、一学期末テストの時の仕返しだ。
「まじで? やばいじゃん」と、カルメーラ。「っていうかあたしも、三百にちょっと足りなかったんだけど。期末、めっちゃ難しかったし。ハヌルは? ノース・キャッスル志望だったよね。そっちも目標三百だっけ。あった?」
ハヌルの顔が若干引きつる。「あたしもなかった。ギリギリで」最後の部分を強調した。
「やっぱ難しかったよね。エルミは行かないの?」
無反応。
エルミのこういうところは昔から、本当に変わらない。
「エルミ。話聞いてなかったわけ? ヤケ食い大会だって言ってんじゃん。成績が下がった奴と、私の点数が気に入らない奴らの集まり。無理にとは言わないし、このまま反応しないなら放置していくけど」
ゆっくりと顔をあげ、彼女がしかめっつらをこちらに向ける。
「ベラは目標いった?」
「余裕で越えました。だから八つ当たりを受けてるんです」おそらくエルミの成績が下がったのは、あの出会い系サイトのせいだろう。「時間がないのでもう行きます。ナンネとジョンアは連れていきます。さよーなら」
「待ってよ!」彼女は勢いよく席を立った。「行くし!」




