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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 16 * BLACK HEART
83/139

* Condition

 翌週月曜、三日間に渡る期末テストがはじまった。三年だけは特別待遇、テストのあとはランチを食べて掃除を済ませたら家に帰る。

 普通は午後を勉強に使うためだと思うのだが、一日目の放課後、アニタとエルミ、ナンネ、ジョンアが祖母の家に来た。私とエルミとナンネの会話をアニタが気にしていて、けれどきちんと説明するのに学校はイヤだとナンネたちが言ったからだ。

 自室である屋根裏部屋にあがると、レジーとパーヴォのことと、彼らに教えてもらった“プラージュ”というサイトのことをアニタに説明した。

 彼女は微妙そうな顔をしていた。おもしろそうだとは思うものの、不特定多数というのが気になるらしい。テスト期間中にやることでもないし、受験生がやることでもない。それでもエルミはそれを完全否定させようとせず、とりあえずといってサイトのURLを教えた。

 ちなみにエルミは八人に本アドを教えたものの、土日のあいだにメール相手が四人にまで減ったらしい。自分は送っていないものの、相手に送ってもらった顔写真が微妙だったとか、メールしていても楽しくなかったとかいう理由だ。

 ナンネは相変わらず四人とメールしているものの、よくやりとりするのは二人だけ。ただの暇つぶしだという。暇って、受験生がいうセリフではないけれど。それでもダヴィデを諦めるきっかけになればとは思っている。

 一方私は、基本五教科のテストで合計二百五十以上とることしか頭になかった。一応それ以外でも、各教科のテストを受ける前に教科書を見たりダヴィデたちと問題を出し合ったりはするけれど、正直他はどうでもいい。五教科で二百五十以上とれないのなら──少なくとも私にとっては──いくら他の点数がよくても、意味はない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 土曜日、午後。

 なぜか私は、センター街のグランド・フラックス・エリアにいた。お決まりのボードウォーク。曇ったり晴れたりの肌寒い空気の中を親しげ、かつ楽しげに歩く同世代の若者たちが視界に入る。けれど私は屋根つきテーブルベンチにナンネと並び、エルミと向かい合って、どこの馬の骨ともわからない相手を待たされてる。

 なぜこんなことになったのかって、話は昨日の昼休憩に遡る。

 エルミに呼び出され、三年D組の隣にある空き教室に入った。で、やばいやばいと連呼された。なにかと思えばメール相手のひとり、十六歳の男に遊ぼうと言われたらしいのだ。

 勝手に遊べばと答えたのだが、幻滅されるかもしれないし幻滅するかもしれない、ゆうべ電話した時のイメージが崩れるのがイヤだのなんだのと、わけのわからない理由をつけて渋って見せた。用件はなんだと訊くと、何人かで遊ぼうと提案してみるからついてきてくれとか言いだした。

 もちろんそんなことは断った。いくら暇で出会いがないからといって、出会い系サイトに手を出すような男となど知り合いたくはない。レジーやパーヴォはどうなるのだという話になるが、サイトを使ってまで男と知り合いたくはないということにしておく。

 曜日指定はされていなかったので、土曜はアニタと遊ぶつもりだと言った。はっきりとそんな約束をしていたわけではないものの、“プラージュ”というそのサイトを覗くために家に行っていいかと訊かれていたからだ。もちろん私は、そんなものひとりで勝手に見ろと答えた。

 するとエルミ、アニタにまで話を持ちかけた。

 で、サイトにというよりは、そういうものを使っている男というのに興味を持ったらしいアニタ嬢、話に乗った。けっきょくナンネとジョンアも連れてこちらが五人。相手は四人グループという話で、エルミが会う約束をとりつけやがったのだ。

 私は終始イヤだと言った。だが同じように渋っていたナンネが、やはり自分も出会い系サイトを通じて男とメールしているということもあり、彼女が折れてしまい、こちらまで折れるしかなくなった。唯一、遠目から見て微妙だと思えばそのまま切る方向でという私の唯一の意見が採用された。

 待ち合わせはグランド・フラックスの南東ボードウォークとだけ決め、着いたらメールか電話する、という手はずだ。

 だが先に相手を観察することを考えれば、五人でまとまってひとつのテーブルベンチに座っているのは得策ではなく、待ち合わせの時間よりも少し早めに到着すると、私とナンネ、エルミがひとつのテーブルに、アニタとジョンアが少し離れたところでボードウォークのステップに腰をおろすことにした。お互いに目は届くし、私とアニタはなにかあったらすぐ連絡をとれるようにと携帯電話を構えている。

 そして私たち、どちらも四人組の男グループというのを捜している。エルミいわく、今のところ、相手は不良ではなく普通の男らしいという情報しかない。


 「あれは?」右隣でナンネが声を潜めて言った。エルミの後方を見ている。「きょろきょろしてる四人組がいる」

 「え、うそ」エルミは振り返った。姿を確認したのか、こちらに向き直ったときには、かなり微妙そうな表情をしていた。「まさか」心なしか口元がひきつってる。

 私も彼女たちの言っている、少し歩いては立ち止まって辺りを見回し、また歩きだすといった行動を繰り返している四人組を観察した。

 左端にいる男は癖毛らしく、髪はカッパーレッド。これといった特徴がない。

 その隣にいるのは黒髪のひょろっとした男で、なんというか、髪型が変だ。短くカットしているのだが、なんというか、前髪が特徴的だ。ハサミを使って一発で切りました、みたいな感じになっている。

 そしてキレイなゴールデンブロンドヘアの男。こちらも髪型は特徴的。左右があちこち跳ねている癖毛というだけではない。つむじが左寄りらしく、そこから前髪を持ってきているのだけれど、それが眉を隠す長さだ。眼鏡をかけていて、少々太っているようにも見える。不自然なほど首が太いからそう思うのかもしれない。

 右端にいる男は、四人の中でいちばん背が高い。こちらも少々太って見える。黒チェックの上着の下に黒いシャツを着ているのだが、少々おなかが出ているような気がしないでもない。アッシュブラウンの髪はとても柔らかそうで、けれど十六歳には見えない。目が垂れ気味なせいか。いや、同じ垂れ目でもダヴィデを老けていると思ったことはないので、やはり顔のせいか。

 「あ、電話出した」ナンネが言った。「ブロンドの眼鏡」

 「は!?」エルミはまたも振り返ってそれを確認した。「マジだ」

 私は彼女に確かめた。「マナーモードにしてるよね」

 彼女の手には携帯電話が握られている。「してる」

 「で、微妙なの?」

 「微妙。あのブロンド眼鏡だったら、マジでへこむ」

 「でも電話きたら出なよ。遅れそうだとか今向かってるとか適当に言い訳して」

 「どうすんの? あれはヤだ──」エルミの携帯電話のバイブレーションが震えた。「やばい。電話かかってきた。どうしよう」

 「ちょっと待って」私はアニタに電話をかけた。エルミを促す。「出ろ。今向かってるとか言い訳して。アレに聞こえないようにね」

 彼女は渋ったものの、身を小さくして、小声だけど明るく電話に応じた。

 「はいはーい」

 こちらも携帯電話を耳にあてる。「アニタ?」

 「まさかあれ?」アニタも彼らの姿を確認したらしい。「あれはないって」

 「ないの?」もう一度彼らのほうを見やった。眼鏡の男は電話中、同時にエルミも今向かっている途中だと電話で言ってる。「あれっぽいんだけど」

 「なんつーか、なにもかもが微妙な気がする」アニタが言う。「顔で選ぶわけじゃないけど、なんか見た目的に、会話続かなさそうっていうか。話合わなさそうっていうか──」体裁を保てる言い方を探していると思われる。

 アニタがそんな言い訳をしているあいだに、こちらは今も電話中の眼鏡男と目が合った。「目合ったよ」とりあえず微笑み返してみた。エルミもまだ電話で話している。

 「ちょっと、やめてよマジで」と、アニタ。

 眼鏡男に続いて、カッパーレッドヘアの男もこちらを見た。あとの二人になにか言っている。

 「じゃあとりあえず拒否することにする」私は言った。「奴らが去るまでこっち来るなよ。あっちのことも見るな。拒否するんだから、バレたらエルミが面倒なことになる」

 「わかった」

 「なんならクレープ買ってきて。チョコクリームみっつ。あんたとジョンアもいるなら五つ。金はあとで払う」

 「了解しました! ちゃんと追い払ってよ」

 「はいはい」と答え、こちらは電話を終えた。エルミはもう喋っていないのに、まだ携帯電話を耳にあてている。

 「バレないように電話中のふりだって」ナンネが私に言う。「バカだ」

 彼女は声を潜めて言葉を返す。「しょうがないじゃん!」顔を隠したいのか、右手で額を覆った。「アニタは? やっぱナシだっつってる?」

 「言ってる」と、私。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 アニタとジョンアは、彼らが立っているのとは逆方向にあるスウィーツショップへと向かった。心なしか、男四人組がこちらに近づいている気もする。しかもやたらとこちらを見ている。

 女五人組というのは、目に見える範囲にはいない。女グループでいえば二人組や三人組が多いか。というか、普段から三人以上の奇数グループというのはあまりいない気がする。五人や七人よりは、四人や六人といった偶数人数のほうが多いような。

 耳元で突然震えた携帯電話に、エルミは驚いたらしい。「メールだ」携帯電話を操作する。

 「なんて?」ナンネが訊いた。

 「“赤毛の友達いる?”、だって」

 彼女がしかめっつらを見せる。「どっちのことだろ。やっぱ気づかれてんじゃないの? さっきからあのヒトら、やたらとこっち見てるよね」

 私は声を潜めた。「とりあえずエルミ、相手のアドレス拒否して。なんなら電話番号も拒否。そんで行けなくなったって電話して」

 「え、マジで? それでどうにかなる?」

 距離はあるもの、四人組の彼らは今もやたらとこちらを見てなにかを言っている。

 「なるでしょ」と私。「友達に急用ができたとか先輩に呼び出されたとか、理由はなんでもいい。言うこと言ったら無理やりにでも電話切って。バスの時間がとか充電がとか電波がとか迎えがとかで。一応断りの電話入れておかないと、いつまでもあそこにいられちゃ迷惑だし。アニタたちと合流できないし。で、その電話が終わったら二手に別れる。どっちかはスウィーツショップのほうに行ってアニタたちと合流。どっちかは私と一緒に、電話しながらあいつらの横を通り過ぎる。電話の相手は誰でもいい」

 「ああ、ちょっと待って」

 エルミは早々に携帯電話を操作し、相手のアドレスと電話番号を拒否する設定にとりかかった。

 「マジでめんどくさいな」ナンネがつぶやく。「会うのもわりとしんどい」

 「もっと軽く考えりゃいいような気はするんだけどね。なんで見た目で選ぶんだか。友達なら顔関係ないだろうに」

 「話できそうかどうかってのはあるからなあ」

 「拒否した」とエルミが言った。「電話する」顔を伏せ、相手に断りの電話をかける。

 「どっちがいい?」私はナンネに訊いた。「スウィーツコースか電話コース」

 「どっちでもいいけど、ベラとエルミが横通る時に相手がどんな顔すんのかってのは気になるよね。遠目からちゃんと確認したい気が」

 「どっちも電話してるつもりだけどね。なんならナンネもアニタに電話してればいい。誰にも話しかけられねえよ、みたいな」

 彼女は笑った。「顔見てドタキャンとか、本気で最悪だと思うわ。うちらだって確証はないだろうけど、たぶんバレるし」

 「誰かとつきあったことがあるかどうか、くらいは訊いたほうがいいかもね。それでも顔の保障はできないんだろうけど」

 「写真送ってもらうのが確実だろうけど、したらこっちのも送れって言われるもんな。それはイヤだし、やっぱ会うってのはないわ。で、どこで待ち合わせんの?」

 「最短でイースト・オフィス・タウンのほうに行ってぐるーっと橋渡ってくるから、アニタたちと合流したらここに戻るか、ステップにでも座ってて。電話する」

 エルミが顔をあげた。

 「電話終わった。めっちゃあやまった。テーブルベンチに座ってる三人組は違うのかとか、赤毛二人いないかとか言われたけど、あたし以外の四人は全員ブロンドだって言ってやった」

 「よし、行こうか」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ナンネはアニタに、エルミはなぜかハヌルに電話をかけた。私はときどきメールをよこしてくれるレジーに電話をかける。ナンネを先に彼女たちのほうに行かせて、こちらもエルミと一緒に彼らのほうへと歩きだした。

 レジーが電話に出た。「はいよー」

 「今なにしてんの?」

 四人組はじろじろとこちらを見てなにかを言っている。

 「今? 今な、喧嘩売ってきたソイル・アシーヴの奴シメてるとこ」

 レジーの声のむこうは妙に騒がしい。ヒトを挑発するような、怒鳴るような、罵るような声が多く聞こえてくる。

 「そう。で、いつまで待たせる気ですか?」

 「は?」

 「っていうか、すごいうざい話、聞いてくれる?」四人組に近づき、彼らに聞こえるように言った。

 「え、なに」

 「なんかやたらとこっちを見てくる奴らがいるの。かなり不気味」背の高い老けた男の横を通り過ぎる。「あんたがさっさと来てくれないからよ。おかげで場所変えなきゃいけなくなったじゃない」

 彼には当然、意味がわからない。「ええー」

 「道がわからないならわからないってさっさと言ってよ」言いながら振り返って四人組の姿を確認すると、特徴のない男と黒髪の男が眼鏡男になにか言っていた。「今どこにいんの?」

 「ええー? ダッキー・アイル・パークだけど。かける相手間違ってねえ?」

 「ううん、間違ってないよ」と、私。エルミに肘をつつかれ、彼に「ちょっと待って」と彼に言った。

 声を潜めたエルミがうしろを見やりながら言う。「歩きだした。セーフっぽい」

 こちらもそれを確認した。戻る頃にはいなくなっているはずだ。

 「戻ってもまだいるようなら、本気で喧嘩売ってやる」じろじろと見られるのは好きではない。「電話終わっていいよ。さっさとアニタたちと合流してクレープ食べる」

 「了解」エルミはまたハヌルとの電話に戻った。「あ、もしもし? ごめんごめん」

 こちらも電話に戻る。「ごめん、もういい」

 「え、なに」

 「今友達といるから、帰って気が向いたらメールか電話して説明する」

 「ええー」レジーはやはり、わけがわからないらしい。「なんだそれ」

 「説明がいらないなら説明しない」

 「いやいや。なに? 今から遊ぼーとかって誘ってるわけじゃねえの?」

 「まさか。そんな距離じゃないし」

 「そうだけど。まあ夜の十一時までには家に帰ってると思うから、なんならその頃メールか電話して」

 「わかった。ごめんね」

 「いいよ。んじゃな」

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