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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 16 * BLACK HEART
82/139

* Throw Oneself

 土曜日、朝十時を過ぎた頃。

 ひさしぶりと挨拶しながら、ナショナル・ハイウェイ沿いにある銀行前のバス停で出迎えてくれたルキアノスとアドニス、ナイルにハグをした。一ヶ月以上ぶりだ。

 私を降ろしたバスが再び走り出したところでナイルが言う。

 「ゼインも来るって。デートの時間遅らせたから、直接ルキの家に行くって」

 「わざわざ? っていうかナイル、誕生日おめでと」

 「もう終わったし」

 アドニスは私の荷物を自転車のカゴに入れ、再びサドルにまたがった。

 「次はオレとルキ。十二月」

 彼が十二月生まれということは以前聞いたが、ルキアノスもそうなのか。

 「プレゼントなにがいい?」

 「金」

 「殴られたいのかお前」

 彼は笑った。「っつーか、ナイルにオンナができた。修学旅行で告られたんだって。わりと可愛いの」

 「まじで」

 「ちなみに」とナイルが言う。「修学旅行のあとの月曜が代休だったからさっそくデートしたんだけど。しょっぱなから遅刻しやがったから、早くも俺は不機嫌モード」

 「何分遅れたの?」

 「九分」

 「細かいな」

 「十五分待たされたら帰るってメール入れるよ俺は」

 「もうちょっと妥協しなさいよ。っていうか、相手が家出てから出発すればいいじゃない。もしくはコンビニで立ち読みでもして時間潰すとか」

 「コンビニで立ち読みしてる奴って、すごい邪魔じゃない? コンビニで本買う趣味はないけど、そういう奴を見るたびに舌打ちしてる」

 自分もそうだと納得した。やはりコンビニで本を買う趣味はないが。「それもそうね。ならやっぱり、彼女の出発に合わせて家を出ればいいのよ。で、待たせればいい」

 彼は肩をすくませた。

 「待たせるのもキライなんだけどな。そういう奴になるのがイヤ。ゼインのことあれこれ言えなくなるし」

 「待つより待たせるほうがステータスは上がるような」

 「なんのだよ?」

 アドニスが割って入る。「とりあえず、わかったから、続きはルキの家でやれ。ここで立ち話する必要はねえだろ」

 「ランチにドーナツ買うのってアリ?」私は訊いた。

 「ええー? それは微妙」

 「だって買いに出るの面倒だし。時間がもったいない──」自転車のハンドルに腕をあずけているルキアノスへと視線をうつす。「よね」

 彼が微笑む。「めずらしくやる気だな」

 「このテストはちょっとね、五教科で合計二百五十とらないとまずいの。だから真剣にする。いいならピザ注文する」

 「俺は気分的にベーカリーでもいいけどな」ナイルが言った。「っていうかそういう気分」

 「なら私はナイルと一緒にベーカリーでランチを調達する。あとは知らない」

 「俺もそっちでいいけど」と、ルキアノス。

 「決まりかよ」アドニスは天を仰ぎながら言った。「まあ食えりゃなんでもいいや。行くべ」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ゼインはルキアノスの家で待っていて、私がアドニスの自転車の荷台から降りるなり、彼もハグをしてくれた。会うのは約二ヶ月ぶり、ナイルの誕生日を祝ったとき以来だ。

 「やっぱ会う機会、あんまないな」白っぽいコンクリートのドライブウェイを玄関ポーチへと歩きながらゼインが言った。「週に一回くらいはサビナを送っていったりもするんだけど、それでも会わない。サビナから話は聞くけど、ほんとに生きてんのかって心配してた」

 私は笑った。「学校帰りじゃないなら、それほど外をうろついたりもしないからね。っていうか、先月も三人には会ったし。いないのはそっちですよ」

 「先月のあれ、テスト勉強ついでのPV鑑賞? 事後報告だったんだよ。来るならオレも呼べっつーのに」

 「だから、なんか変じゃん」ナイルはベーカリーの紙袋を両手に抱えてゼインの前を歩いている。「カノジョがいるってだけならいいけど、あんまお前呼んでると、ベラもサビナも微妙な感じになるし」

 前方でルキアノスが家の鍵を開けた。今日も家のヒト、夕方までは誰もいないらしい。

 アドニスはゼインに疑わしげな表情を向けた。「お前、なんか変にベラに会いたがるよな」勉強道具が入った私の小ぶりなスポーツバッグを持ってくれている。「妙にベラのこと気にするから、なんかすげー違和感ある」

 「いやいや、そんなんじゃないし」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ゲームルームに直行すると、相変わらずそこに居座り続ける懐かしのミスター・ピンキー・レオパードにもハグをしようとした。ナイルに奪われた。

 おやつにと買ったパンをひとつ食べるあいだに、ルキアノスが前回の中間テストの答案用紙を確認、溜め息をついた。やったはずなのに、と。私は平謝りするしかなかった。

 私の本名は“イザベラ・グラール”なのだけれど、テストだろうとなんだろうと、学校のものには私、名前を“ベラ・グラール”と書く。いつからそんなことをはじめたのか、正確には覚えていないものの、そのことで怒られたことはない。語呂が悪いとは思うが、“イザベラ”とは書きたくない。いつのまにか“時々”が“毎回”になって、そんなことを続け、慣れてしまったので、自分の名前が“イザベラ”だということすら、たまに忘れている。

 答案用紙をコピーしてきたと思えば、ルキアノスはナイルと一緒に、オリジナルの答案用紙に書かれた回答すべてに消しゴムをかけた。アドニスとゼインはルキアノスの指示に従って、社会科と理科から前回のテスト範囲の問題を教科書から適当に出した。テストが終われば忘れるタイプの私には、それすらきつい。というか、前回分は本気で頭に入ってない。

 そしてまさかの、第二回非公式中間テストが開始された。消しゴムをかけたものがさらにコピーされたのだ。まずは社会科と理科、一度はやっているのだからという理由から、当然時間もかなり短い。

 煙草もビールも一教科が終わるまで禁止され、彼らが修学旅行で買ってきてくれたおみやげのマドレーヌとクッキーは、テストがすべて終わるまでもらえないという条件までついている。

 けれどルキアノスとアドニスは私が持ってきたおみやげのソフトクッキーを食べながら、質問すればヒントをくれた。本番でなにを書いたかは見えないものの、その答えが合っていたかどうかは、残っている採点の跡でわかる。思い出しながら考えながら、どうにか問題を解いていった。

 ちなみにナイルとゼインは自分たちのテスト勉強、バーカウンターに座って問題を出し合っていた。


 私が理科のテストに頭を抱えている最中、バーにいるゼインが言った。

 「ああ、そろそろ行かねえと」

 「待ち合わせ遅らせてあげくに遅刻したら最悪だよな」と、ナイル。

 「まだ平気なはず」そう言ってこちらに来る。「ベラ、ソフトクッキーもうひとつ持っていい?」

 私はテレビの前にあるテーブルと、寝転ぶと眠ってしまいそうになるソファベッドのあいだに腰をおろしている。「ひとつでもふたつでも。もう一缶持ってきてるから」

 「マジで? んじゃサビナのぶんももらってく」

 左側のシングルソファに座っているアドニスが、ソファ脇に置いていた缶からソフトクッキーをみっつ取り出して彼に差し出す。

 「今日も泊まり?」

 ゼインは受け取った。「も、とか言うな。先週はデートしただけで泊まりじゃないんだから。んでベラ、玄関まででいいから見送って」

 「今テスト中」ルキアノスは右側、アドニスの向かいでシングルソファに腰をおろしている。「邪魔するな」

 「ちょっとくらいいいじゃん」

 休憩できる。「行く。すぐ戻る」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 玄関へ向かうと、ゼインは私に先に外に出るよう促した。従う。外から見れば、ダイニング、階段と並ぶ玄関ポーチは、家の両端にあるマスタールームとシッティングルームよりも少し奥ばった位置に造られていて、そのぶん屋根がついている。玄関ドアは大きな窓のあるブラウンカラーだ。

 ドアを閉めると、ゼインは三千フラムを財布から出してこちらに差し出した。

 「会っても返しにくいわ」

 私はぽかんとした。「なにこのお金」

 「は? いや、借りてたやつ」

 少し考え、思い出した。「ああ。夏祭りのね」と言いながらお金を受け取る。

 「え、なに。忘れてたんか」

 「すっかり忘れてた。それどころじゃないんだもん。勉強あるしテストあるし、学校の諸々が忙しいから」

 「ああ、なんか学校でクリスマスパーティーやるって話か」財布をうしろポケットにしまいながら言う。「いいよな、学校でクリスマスパーティーできるとか。去年の話も聞いたけど、なんかおもしろそーだし。文化祭かっつーの」

 「ノリはそんな感じ」と、私。こちらも七分丈ジーンズのポケットにお金をしまった。「そこまでちゃんとしたのじゃないけど」

 「写真撮ったらサビナにあげて。って、さすがに全校生徒対象じゃカメラは持っていかねえか」

 「どうかな。もし持ってって撮ったら、それはちゃんと渡します」エデとカーリナには拒否します。

 「頼む。で、みやげやる」彼はジーンズの左ポケットから、白と朱色の水玉模様の、しわくちゃになった小さな紙封筒を出した。「ちょっと早い気もするけど」

 「なに?」

 受け取って袋を開け、中を見た。なにか入っている。右手の平にそれを出した。

 三センチもない大きさの、赤くて薄いクッションのようなものに乗った陶器製のドラゴンだ。色は白と赤で、妙に凛々しいというか、偉そうな表情をしている。

 「“ラッキー・ドラゴン”だってさ」ゼインは説明した。「安物──っていうか三百フラムだし、効果あるかは知らないけど。もしかしたら受験のお守りになるかも」

 ペンケースに忍ばせられそうだ。「こういうのを“カッコカワイイ”っていうのかな。ありがと」

 「利子と、サビナにくれた猫耳カチューシャの代わりってことにしといて」

 「そんなのいいのに」

 「気にすんな。たまたま見つけて、このドラゴンの変に偉そうな顔がお前に見えただけだから」

 「ちょっと?」

 彼は笑った。

 「嘘だって。まあ行くわ。あいつら呼んでくれなさそーだから、来月以降で今度ルキたちと遊ぶ時、一応メール入れといて。そん時に残り三千フラム返す」

 まだ三千フラム残っているのか。「わかった」

 ランチをはさんでのおかしな再テストを五教科ぶん、すべて終えた頃には、午後十四時を過ぎていた。やっと彼らのくれたおみやげを食べながら、復習がてらそのテストの答え合わせと解説をルキアノスにしてもらう。明日は前に進んで、テストの範囲を徹底的にやるらしい。頭がパンクしそうだった。

 夏に散々邪魔をしてくれたアドニスとナイルも、最近はやたら協力的だ。アドニスいわく、受験に失敗されても慰め方がわからないかららしい。


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌日日曜。

 煙草とビールに救われながらも、なんとか真面目に勉強した。ルキアノスとアドニスの三人だったものの、ルキアノスはアドニスにも勉強を教えるという、やはり面倒なことになっていた。それでも彼はちゃんとこなすからすごい。

 そしていいと言ったのに、勉強道具プラス彼らがくれたおみやげの残りで荷物が増えたからと、二人はバスで家の近くまで送ってくれることになった。三人でナショナル・ハイウェイを西へと向かうバスに乗り込む。

 「お前、今年のクリスマスはどーすんの?」

 走り出したバスの車内、最後尾のシート。右隣に座っているアドニスが私に訊いた。客は私たちの他に、老人世代が五人、父親の腕の中で眠る小さな子供を連れた親子が一組と、高校生らしき三人組が一組だ。

 「二十三日はアニタたちとパーティー、二十四日は友達とデート。二十五日はわかんない」と、私は答えた。アマウント・ウィズダムに行きたいような、けれどどうでもいいような。

 「デートって男?」

 「男。年上。すごく楽しみ。でも恋愛だとかじゃない」一月の、生演奏でうたわせてくれるというほうも気になる。「そっちは? また合コン?」

 「さあ。まだわかんねーけど──アニタは? オトコできた?」

 「できてないけど。好きな男すらいないけど。気になるの?」

 「違うわアホ」視線をそらしてそっけなく答えた。「受験生だからそういうの、やってる暇ねえんだろうけど。なんか、次にいくタイミングがよくわいかんねえ。あいつがオトコつくらねえまま受験で奮闘してる時に、こっちが他の女とどーにかなるってのもどうなのかなと」

 「罪悪感? うしろめたい?」

 「なんかな」

 「実はこいつも、修学旅行で告白されてるんだよ」

 左隣でルキアノスが声を潜めて私に言ったので、アドニスは怒った。

 「言うなっつったのに!」

 「うるさいよ。静かにしろ」

 「いけばいいじゃない」私は言った。「アニタはあんたのことなんか微塵も気にしてないわよ」

 「は? マジで?」

 「こうやって勉強教えてもらうってのも話すけど、特に反応しないし。オンナができたかなんて訊かれないし、名前も普通に出すし。元気ならいいみたいな。二十三日に友達とちょっとしたパーティーやるから、クリスマス当日がどうこうなんてのも言ってない。オトコなんてもういらね、ってのはまえに言ってたけど。それはたぶん、あんたのことが原因なんじゃなくて、あのクソ男のことが原因なんだけど。今は周り、サビナ以外フリーだから、そっちで遊ぶかなんかするんじゃないの」

 「ふーん──けどな、なんかな」

 じれったい、と思った。「っていうかノア、まだ指輪してるの?」ルキアノスの左手の薬指にある、女除けの指輪を示して訊いた。「いつまで女除け続ける気?」

 「それはそっちも同じだし」と、彼。

 「私は少なくとも、一月まではしてないと。あいつに会った時に見せるんだから」

 「嘘つくの?」

 その質問に、私は遠い目をした。「たぶん、嘘ついてもすぐばれると思う。私は嘘が得意なほうだけど、あれに嘘つくのは苦手なの。それほど嘘ついたこともないと思うけど。どうせ嘘言ってもばれるのよ。っていうか私に男がいるかどうかすらどうでもいい奴なのよ」

 アゼルには、なんでも正直に話していた気がする。

 「──なんか」つぶやくように彼が言葉を継ぐ。「なんかあった? その指輪作った時に比べたら、なんていうか、怒りが抜けたというか──普通に、会ったら戻りそうなんだけど」

 「そんなつもりはないけど」と、私。抜けたのはおそらく、“意地”だ。「もうどうでもいいの、ほんとに」

 寂しいと思うことは否定しない。でも戻る気はない。けれどもう、人前で絶対に戻らないなんて意地を張るのには疲れた。

 アドニスが口をはさむ。「お前ら、端から見てるとカップルに見える。どっちも指輪してるから」

 「それはルキに失礼よ。それにそれ言ったら、ゼインだってそうじゃない。指輪は別ものだけどちょっと見ただけじゃわかんないし、五人でいても、私と彼とルキとが、三人でおかしなことになってるみたいになる」

 彼は笑った。

 「確かに。っつーかサビナに悪いから、あんま二人になんなよ。あいつの言動が原因なんだろうけど、勘ぐり入れたらマジで怪しく見える」

 「ありえないんだけどね。昨日の見送りは、おみやげをくれたのよ。ラッキー・ドラゴンっていう、二センチくらいの小さな陶器製のドラゴン。可愛いの」

 「は? マジで?」

 確かにこちらからは言っていないけれど、知らなかったことに驚きだ。「深い意味はないわよ。そうやって変なこと言いだすから、わざわざ私だけを呼んで渡してくれるんでしょ」私が言うと意味がなくなる気もする。「三百フラムだけど受験のお守りになるかもって言ってたから、受験の時はあれ、ペンケースに忍ばせて持っていく」

 ちなみに今は部屋のチェストの上のコンポの前に、二年前にリーズとニコラが修学旅行のおみやげにくれた天使と並べて置いてある。

 「ほら、ますます怪しいだろ」と彼は言う。

 「言ったじゃない。私はなにがなんでもミュニシパルに受からなきゃいけないの。願掛けだのお守りだのラッキーアイテムだの占いだのなんてのはまったく信じないけど、自分の学力を考えれば、そういうのにすらすがりたい気持ちはあるの」

 「まあ、それはオレもすがるほうだけど──あ、オレが受験の時に持ってたブレスも貸してやろーか。ディアンティアがくれたやつ」ルキアノスのお姉さんのことだ。「天然石のパワーストーン。ガーネットとか、なんか忘れたけど何種類かの」

 「あなたが受かったって、すごいご効果ありそう」

 彼は空笑った。「どういう意味だこら」

 「いいなら借りたい。すがりすぎるのは逆効果な気もするけど、ふたつくらいなら大丈夫だろうし」

 「え、オレ、合格祈願的なものにはわりとすがったぞ。金ないからグッズは欲しくても買えなかったけど、受験シーズンて、なんかやたらそういうの書いた食い物とかも出るじゃん。便乗してるだけで意味なんかないんだろうけど、そういうの見たらとりあえず買って食ってたし」

 「それはやりすぎかと思いますけど」

 「受かりゃなんでもいいんだよ。とりあえずそのパワーストーンは、二月くらいに貸してやる。試験日のちょっと前。けど受験終わったら返せよ」

 「わかってる」

 恋愛成就の天然石というのは、どうなのだろう。あんな思いをすることなく、未来永劫、幸せな恋愛できたりするのか。そんなわけはないか。

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