* How To Get Boys Mind
突如エルミの携帯電話が鳴った。顔をしかめる。「げ。ハヌルからだ」
「ご愁傷様」私は言った。
「切ったら怒るかな」
「かけなおしてくるでしょ」と、ナンネ。
「だよね」
面倒そうに立ち上がると、エルミはこちらから少し距離をとりながら電話に応じた。ハヌルと話すよりもメールしたいというのが彼女の本音。
レジーが私に訊ねる。「マルコとつきあってんじゃなくて、他にオトコがいるわけでもないのに指輪してんだって?」
なにをぶっちゃけてくれているのだろう。「魔除けにね」
「魔除け?」パーヴォが言葉を返す。「男除けだってマルコは言ってたけど」
「両方。ナンパ除けでもある。友達を助けるための道具にもなる。使い道はいろいろ」
「もったいない。モテるだろうに」
モテるというのは、どんな状態を言うのだろう。「私に関わるとロクなことがないし、モテはしない」
「どんなだよ」レジーがつっこんだ。「っつーかアドレスと番号訊いたら教えてくれんの?」
「え、やだよ」
「なんでだよ」
「不良はキライ」
「マルコとつるんでてそれはないだろ」
「あいつはもう不良とか言える年じゃないし」と、本人が言っていた。「つるんでるっていうか、あれは後輩の兄貴なのよ。暇つぶしに嫌がらせされてるだけだし。実はわりと仲悪くて喧嘩もするし」
「マジで? 普通に仲よさそうだったのに」
「気のせいよ」
レジーは思いついたような顔をした。「あ、あれか。ナンネたちがメール終わったら、そのまま電話を奪ってこっちの電話を鳴らすとか」
パーヴォが笑う。「無理やりだな」
「返したほうがいい?」ナンネが訊いた。
なぜかレジーが答える。「いや、急がねーしいいけど。どうよ、なんかいいのいる?」
「よくわかんない」と、彼女は肩をすくませた。「みんなおんなじような内容ばっかり返してくる。質問ばっか」
パーヴォが応じる。「質問返せばいいじゃん。もしくは話題振るとか。ほとんどがたぶん、最終的に会うつもりでいるからな。どこの子だとかは気にしてるかも。それにそのサイトをしょっちゅう使ってる奴だと、まえにメールしてた相手じゃないってことを確かめたいってのもあるだろうし」
「ああ、なるほど」
「質問て、たとえば?」ジョンアが訊ねた。
「なんでもいーよ。私服はどんなだとか、煙草吸うかとか、中三なら高校はどこ受けるんだとか、期末テストの勉強してるかとか。好きなバラエティ番組とか、音楽でもいいし。どうせどんだけメール続くかわかんない相手なんだから、少々適当だったり強引だったりでいいんだって。質問に曖昧に答えるだけじゃ、メールする気ないんだなとか思われる。うざいと思ったら切ればいいだけだし」
「お前はホストか」レジーが彼につっこんだ。「けどまあ、メール続ける相手絞ろうと思ったら、さっさと情報集めたほうがいいぞ。たまにだけど、純粋にメル友が欲しいだけって奴もいるし」
「ああ、わかった。ごめんベラ、もうちょっと待って」
指が疲れないのか訊きたい。「いくらでもどーぞ」
「ちょっと!」エルミが笑顔で戻ってきた。「超笑える。ハヌルにさ、ベラの不良な男友達二人が遊びに来てるから、ナンネとジョンアと六人で話してるっつったんだ。行きたいとか言いだした」
悪寒がした。「やめてよ」
「もち断ったよ」再びベンチに腰をおろす。「どこでって訊かれたから、オル・キャスでっつっといた。こっちまでは来ないはず。もう解散するって言ったし」
「来たらマジで解散してやる」
「え、なに、キライなの?」パーヴォが訊いた。
「ちょっとね」と答えたエルミは、携帯電話で撮ったハヌルの写真を彼らに見せた。
彼らは苦笑っていた。それがエルミの楽しみらしい。キライだと言って興味を誘い、写真を見せ、沈黙かそれ以上の同意を得る。そして次にハヌルに会ったら、そんなふうにバカにしたことをおくびにも出さず、いつものように仲のいい友達として、今日のことを自慢気に話すのだろう。あげくレジーやパーヴォのこともメール相手のことも、新しい男友達ができたと言って、楽しげに話すのだろう。
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それから少しして、ナンネはジョンアと相談しながら、自分のアドレスを教える相手を四人にまで絞った。アドレスをコピーしてナンネの携帯電話に送り、友達の電話を借りてたからと改めてメールを送るらしい。
手元に携帯電話が戻ってくるかと思ったのだが、受信メールを見る了承を彼女に得たレジーが私の電話を受け取った。こちらに返ってきた時には彼らの電話番号とメールアドレスが登録され、私の電話番号も彼らの携帯電話に記録を残していた。
アドレスを戻すためにサイトへとアクセスしながら、私は小さくつぶやいた。
「アドレスが無事なら、とりあえずはうるさくなんないかな」
「どんだけガード固いんだよ」レジーが言う。「センター街まで行くのはさすがにめんどくさいけど、ここまでなら来るかもしんないし。そん時にちょーっと話すくらいいいじゃん」
「車じゃないなら、軽く一時間はかかるんじゃないの?」携帯電話を操作しながら私は言った。「さすがに来ないでしょ」
彼は空笑う。「たぶんあんま来ねえけど」
パーヴォが口をはさむ。「や、けど逆があるかもよ。またベラとマルコがこっちに来て、マルコがチェーソンと飲みに行くとか言いだして、ベラが置いてかれてみたいな」
ぶっ殺す。「それやったら私はあいつにマジでキレる。っていうか行く気はないけど」今度こそ本当に、あそこで高速を降りてくれるとは限らない。「それに私の場合はね、そういうことになってもタクシー拾って帰ると思うのよ。わざわざあなたたちを呼び出すようなことはしないわ」
「タクシーってどんだけ金かかると思ってんだ」
今度マルコに強制された時は、お金を多めに持っていかないと。「どうにかなるでしょ、そんなの」
アドレス変更を終え、ついでに大量にある見知らぬアドレスからのメールを一気に削除して携帯電話をポケットにしまおうとすると、レジーがまたそれを止めた。
「ちょ、マジで頼むって。アドレス訊けるかどうかでチェーソンとマルコが賭けしてんだよ。あっさり教えてもらえたらチェーソンの勝ち、無理やり手に入れたらマルコの勝ちなんだけど、教えてもらえなかったらオレら、あの二人に大量の酒買わされることになってる」
大量の酒。なんて魅力的。「ならあなたたちの負けね。残念でした」
「マジで」
エルミが口をはさむ。「べつにいいじゃん、アドレスくらい。番号知られたんだから変わんないし」
「だろ?」レジーが言った。
笑える。「エルミ。わかってると思うけど、アニタ以外にマルコのこと喋ったら、あんたマジで最悪な目に合うことになるわよ」
「わかってるよ」反論するように答える。「けどなんでナンネとジョンアには言わないの!?」
「二人はそんなことしないもん」
「うん、しない」ナンネが言った。「あんたがいちばん危険」
「はあ!?」
「いやいやいや」レジーが割って入る。「さらりと話題変えんなよ。しかも脅しって。ビビるわ」
「アドレス変えるまえに送ればよかった」
そう言いながらも携帯電話を操作して、私は彼らに空メールを送信した。電話帳に登録する名前を増やす趣味などないのに。
レジーはメールを確認した。「よっしゃ。まあしょっちゅうじゃないだろうけど、暇な時にぷらーっと来るかもしんねえから、そん時は相手して」
「そのままさらにぷらーっとハイウェイを走ってセンター街に行けば、ナンパができるんだけどね」と、私。
「あれ、やっぱ嫌われてる?」
「どうでもいい。面倒なことがキライなだけ。遊ぶのも外に出るのも学校行くのも受験も、なにもかもがめんどくさい」
「おいおい」とパーヴォが言う。「学校と受験が面倒なのはわかるけど、遊びたい盛りじゃないの?」
どんな盛りだ。「やだ。引きこもりたい病にかかってるからね。もうさっさと四月になんないかなと思って」そうすれば私はアゼルに会うことなく、ブラック・スターでうたい放題の日々だ。
「そんなことは無理」レジーが言った。「オレはむしろ、一生十六のままでいたいわ。将来なんて考えるとぞっとするし」
「あなたたちが一生十六歳ってことは、私は一生十五のままってことよね。絶対イヤ。私も早く十六になりたいかな。もしくは十七。でもそれで時間が止まるのは勘弁。早く二十歳になりたい」
「二十歳ってなにしてんだろ。大学なわけはないから仕事? それともフリーター?」
パーヴォが笑う。「フリーター率高いよな。仕事してもすぐ辞めて、みたいな」
「あら、まだ高校生って可能性はないの?」私はものすごく失礼なことを言ってみた。「二回くらい留年してですね」
レジーはけらけらと笑った。
「それはさすがにありえんわ! 留年決まったら即学校辞める。絶対辞める」
「間違いない」パーヴォも同意した。「っつーかそろそろ帰る? 腹へってきた」
「ああ、だな」私に言う。「ごめんな、つきあわせて」
「いーよ」テーブルからおりた。「少なくともこっちは」真剣にメールしてるらしいエルミたちへと視線をうつす。「収穫あったみたいだし」
エルミが顔を上げた。「え、あ、帰る? ごめん。なんかもう、どれが誰かを覚えるのに必至で」
立ち上がったパーヴォが笑う。
「わかるわかる、なるよな。まあがんばって。変なことになんねえようにだけ気つけろよ」
「うん、ありがと」
パーク内を通ってキャッスル・ロードへと出たところで私は彼らに訊いた。
「バス停まで送ろうか?」
「ああ、いいよ」レジーが答える。「これまっすぐ行ってハイウェイに出りゃいいんだよな? バス停がどっちかさえ教えてくれれば、あとは平気」
「そう。バス停は右。なんならタクシー代出すけど」
「は? いやいや、いいって。どんなだ。お嬢様か」
「いや、違うけど。って、そっか。二人はお金とられてんじゃないんだっけ」
「ない。なんとか無事。っつってもあん時、取られる金なんかほとんど持ってなかったけどな。小遣いのほとんどはスクーター改造の金にまわってるし。十七になったら今度は単車の免許だし」
マスティもブルも、マフラーを変えるまでは至らなかった。ナンバープレートを隠すかなにかのパーツを用意したくらいだ。すぐにアゼルが捕まってしまったから、それ以降はそんな気にならないと言っていた。けっきょくあのスクーター、どうなったのだろう。
「そ」と、私。「ならもし今度スクーターでこっちに来て、もし私が暇だったら、ご飯くらいは奢ってあげる」
二人が声を揃える。「マジで」
「それしたらご飯目当てなんだと思うけどね」
そうつけたすと、彼らは笑った。
「来にくいわ」とレジーが言う。「まあまたメールする。気が向いたら返して」
「気が向いたらね」そのままフェードアウトの場合がものすごく多い私だけれど。「バイ」
「またねー」
エルミが手を振ると、彼らも手を振り返して歩いていった。
残念顔というわけでもない男たちにアドレスを訊かれているのに教えないバカはあんただけだ、なんてセリフを私に言ったエルミはさっさと家に帰りたいらしく、少々早歩きになっていた。ナンネも楽しそうだ。私は本当に、そういうの、なにが楽しいのかわからない。
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祖母の家に帰ると、待っていてくれた祖母と一緒に夕食を食べ、シャワーを浴びて自室に戻った。レジーからメールが届いていた。
《チェーソンに電話して、頼みこんでアドレス教えてもらったこと話したら、かなり笑われた。賭けはマルコの勝ちだって。ちなみにオレらの地元のダッキー・アイル、どの市に属すか知ってる?》
知るわけがなかった。知るわけがないので、“レセス・リップル・シティじゃないの?”と返事をした。
《残念。フォルト・リバー・シティでした。なんにもねーことに変わりはないけどな。なんなら今度来てみりゃいいよ。山と川しかないド田舎だけど》
山と川しかないのはこちらも同じなものの、あの日、帰りにその町を通った時、確かに田舎だとは思った。というかベネフィット・アイランドそのものが田舎だけれど。
《私はクレープとソフトクリームとチョコレートケーキがなきゃ生きていけないから、それがないところには行きません。おやすみ》




