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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 16 * BLACK HEART
80/139

* Plage

 関心なのかなんなのか、エルミは吐息をついた。

 「そういうの、マジであんだね。喧嘩ならまあ、ここでもあるけど。カツアゲとかそういうのは、あんま聞いたことなかった」

 「やることねえんだよ、地元が田舎すぎて」レジーはジーンズのポケットから煙草を出した。「だからってセンター街まで行くのもめんどくさいし」

 パーヴォが質問を返す。「そっちは普段どう遊んでんの? センター街とか行く?」

 「一ヶ月に一回も行かないかな。隣町にショッピングセンターがあるから、たいていそこで用は済むし」エルミが答えた。

 「だよな。っつーか中三なんだよな。高校どこ受けんの?」

 「あたしはウェスト・キャッスル」

 「へー。二人は?」

 「私は行かない」と、ジョンア。

 「マジで? すっげーうらやましい。それがとおるってうらやましい。ナンネは?」

 彼女は一瞬渋った。そして答える。「シーニック・インレットのつもり」

 パーヴォは悪戯ににやついた。「お、マジか。さては俺らとレベル変わんねえな」

 火をつけた煙草の煙を吐き出しながらレジーが笑う。

 「お前、超失礼」

 「インディ・ブルーとも言われたけど、なんかね」

 「ああ、そりゃシーニックのほうがマシだって」と、パーヴォ。

 「え、どんなとこか知ってんの?」

 「山」

 ナンネの質問に彼らは声を揃えて答え、顔を見合わせて笑った。

 パーヴォが続ける。「いや、山っつーか、実際は山と山のあいだ? みたいな感じだけどさ。タチの悪さで言や、レセス・リップルとインディ・ブルーは変わんねえと思う。まあどっちにも、普通だったり地味だったりもいるんだけど。とりあえず女が少ないんだよ。シーニックは一応男女比がほぼ同じだから、行くならそっちのほうがいい」

 レジーはあとを引きとった。「ちなみに、アホギャルとヤンギャルがわりといるって話。リトル・パイン・アイランドとか、エイト・ミリアド方面の奴が多いんじゃねえかな。西のバカ高がレセス・リップル、東のバカ高がインディ・ブルーだとしたら、南のバカ高がシーニック・インレットみたいな。けどそのみっつの中じゃ、間違いなくシーニック・インレットがマシ。オレらそのぜんぶにツレいるけど、シーニック行ってる奴がいちばん楽しそうだもん。明るいバカが多い」

 「お前もわりと失礼だよ?」と、パーヴォ。「けどまあ、それは間違いないわ。レセス・リップルとかインディ・ブルーとか行く奴、高確率で中退してるし。留年も多くてなにげに荒れてるし」

 「ああ」ナンネは納得した。「ならやっぱ、シーニック・インレットのがいいか。なんか距離と高校の質? 考えたら、どっちもどっちだなとは思ってたんだけど」

 「それはわかる」短くなった煙草の火をベンチの側面で揉み消しながら、レジーは同意した。「オレらは高校までバスで三十分もかかんねえけど。ここからシーニックだとどんくらいだろ」パーヴォへと視線をうつす。「一時間くらい?」

 「そんなもんじゃね」

 ナンネがやんわり訂正する。「乗り換えあるから、正確には平均一時間十五分とか二十分とかだって言われてる。朝がすごい面倒な気がする」

 ちなみにベネフィット・アイランド、電車はあれど車両や本数が少なく、しかも都会ほど速くも動いてくれないので、住む町に駅があるのでなければ、交通手段としては馴染みが薄い。センター街での乗り継ぎという点は変わらないが、学生証の提示でバスが無料ということもあり、学生にはそちらのほうが主な交通手段になる。

 「遅刻してでも高校は行かなきゃなんねえもんな」レジーが言った。「単位落としすぎたら最悪留年だし。まあ少々の遅刻なら平気だろうし、シーニックもうちと一緒でゆるいとは思うけど」


 黙っているのに限界がきたのか、エルミが口をはさむ。「ってゆーか二人とも、顔広いよね。やっぱ不良だから?」

 「なんだその理由」パーヴォがつっこんだ。「いや、暇つぶしにメールしてんだわ。いろんなとこの女と」

 「え、なに、ナンパとかして?」

 「違う違う。“プラージュ”ってサイト、知らね? 掲示板サイトなんだけど」

 「知らない」

 「マジで? プレフェクチュール別に書き込みできる掲示板があるから、アドレス使って掲示板に書き込んで、メル友募集すんの。そのサイトはただの掲示板だって言い張ってるけど、フリーアドレスは使えなくてみんな本アドの即投稿制だから、出会い系サイトみたいになってる。今暇だからメールで相手してーとか、今から遊ぼーみたいなんがわりと多いし。それに書き込んでる女に適当にメール送ってしばらくメールして、そのうち実際に会ってみたり」

 「出会い系? タダなの?」

 「当然。じゃなきゃ使わねえよ。十代から二十代の利用者が多いから、いい暇つぶしになんだわ」

 「へえ──」エルミは頭の中を整理しているらしい。「おもしろそうだけど、そういうのって」こちらを見る。「どうなんだろ」

 なぜ私に訊くのか。「メールなんてめんどくさいだけじゃん」とな。

 「ベラはしてそうだと思ってたんだけどな」レジーが言った。「顔ひろそうだし」

 「するかよめんどくさい」

 「なんなら教えよーか? サイトのURL」

 「いらない」

 「教えて」と、エルミは身を乗り出した。「なんかよくわかんないけど、やってみたい」

 「パケット使い放題のプランに入ってないときついぞ? 平気?」

 「入ってるから平気」 

 「んじゃ携帯電話出してみ」

 レジーに言われ、彼女はすぐに携帯電話を渡した。

 彼が彼女の携帯電話でインターネットを開き、URLを打ち込む。パーヴォはナンネとジョンアにも教えようかと訊いた。ジョンアは電話を持っていないと答え、ナンネは微妙そうな反応をしたものの、エルミに促されて携帯電話を彼に渡した。二人の携帯電話に、わりと単純で覚えやすいらしい“プラージュ”というサイトのURLが打ち込まれる。

 すると彼ら、今度は自分の携帯電話を出し、サイトを開いて使いかたを説明した。

 使用できるのは本アド──携帯電話会社を通して正式に設定したアドレスのみなので、迷惑メールを受け取りたくなければ、先にアドレスを一時的なものに変えておくほうがいい。ただしアドレスを変えられるのは一日三回までなので、元に戻さなければいけないことを頭に入れておくこと。

 アドレスを変えたらサイトにアクセス、プレフェクチュールを選んで“投稿”をクリック、空メールを送信する。すると混雑時でない限りは数秒から数分で、サイトから投稿フォーム用のURLが自動的に送り返されるので、それをクリックして投稿フォームにアクセスする。なんでもいいらしいタイトルと年代と名前と本文を書き込んで送信。で、投稿完了。

 ちなみに、男よりも女が投稿するほうが返信率が高いという。けれどまともな返事が欲しいのなら、本文はよく考えたほうがいいのだとか。投稿フォームの有効期限は三十分で、返事が少ないとかロクなのがいないと思えば、何度かは書き直しできる。で、ある程度返事が集まればアドレスを元に戻して相手にそれを教えればいいという話。

 困った話としては、たとえば募集の的を十代に絞ったとしても、本文をよく考えたとしても、それを完全に無視して変態めいたメールを送ってくる男がいること。職業はもちろん、年齢すら嘘をつく奴もいる。それどころか完全カラダ目的の奴も。最近は顔写真の交換を求められることが多く、だがそれすら嘘の場合があるので、絶対安全というわけではない。すべて自己責任だ。

 そして投稿のためにアドレスを変えるということは、本アドへのメールは当然入ってこない。アドレスを変えたのに教えなかったとかで友達に誤解される場合があるのでそちらも注意が必要。

 そのうち会うつもりなら、相手が車持ちかどうかに関わらず最悪の場合もありえるので、最初のうちはある程度信用できる相手を見つけることを考えたほうがいい。なんならそのうち電話してもらって話してみるのもいいとか。

 試しにやってやろうかと言うと、パーヴォはアドレスを適当なものに変え、女として投稿した。偽アドレスだとはいえ、あからさまに偽っぽくするよりは、存在しそうなもののほうがいいらしい。

 投稿が完了してから数分、変態めいたものも少々混じっていたものの、返信は二十件を越えた。時間差で届くメールもあるし、時間や曜日というのも関係があるという。いちばん利用者が多いのは、金曜と土曜の夜八時頃から。男として投稿した場合、返信はまともなのが十あればいいほうだという。

 エルミは興奮していた。これでいろいろな男友達をつくれるから。

 ということで、エルミもさっそくアドレスを変えて投稿することにした。彼らは、自分たちがどんな投稿にメールを出す気になるかというのを教えた。簡単な自己紹介プラス明るくておもしろそうというのが文面に出てれば、返信率は高いという。あと少々のバカっぽさ。メール友達としては、話してて楽しいことが第一条件なわけで。

 だが彼らの助言により、地元については少々ぼかすことにした。市内の西のほうだと答えるだけだ。募集相手は十五から十七歳。的を細かく絞りすぎると返信率は下がるけれど、とりあえずそれでいいだろうとのこと。

 で、数分で届いた返事は十五件ほど、変態ものを除けば十件。すぐにアドレスを元に戻してから返事するのでもいいし、偽アドでしばらくメールしてみてから本アドを教える相手を決めるのでもいい。エルミは少々悩んだものの、帰るまでは偽アドレスで適当にメールしてみることにした。

 ナンネとジョンアがものすごく興味をそそられている気がするのは気のせいか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「こんなとこまで来てこんなサイト教えるって、いよいよなにしに来たんだかわからなくなったわね」

 私がそう言うと、彼らは笑った。エルミは真剣にメールしていて、ナンネとジョンアは覗きこむようにそれを見ている。

 「いや、そんなつもりじゃなかったんだけどさ」と、レジー。「成り行きだけどこっち来て、お前にあやまったほうがいいかなってマルコに訊いて。あんなのは気にしてないからべつにいいけど、なんなら電話してみるかって言ってくれて」

 「どうでもいいよ。リアルに映画観てるみたいでちょっとおもしろかったし」

 「ええー」彼らは愕然とした。「おもしろいとか言われた」

 「バット振り下ろされた子は平気だった?」

 パーヴォが答える。「ああ、あれでも一応加減してくれたらしくて、打撲で済んでる。痣はわりと酷かったけど。武器持ってたのにあっさりやられたから、めっちゃへこんでた。あと運転席側にいたほう。あれもわりと喧嘩は強いし、腕にも自信あったからな。あげく上に怒られるから、わりと参ってる」

 バットを持っていたというリーズとニコラも、相手をあんなふうに襲ったのかもしれない。しかもマルコとは違って、狙ったのはもしかすると頭部だ。復讐心があれば、加減など忘れる。

 「まあやっぱり、相手を間違ったのね。なんかお金まで取られてるし」と、私。

 ナンネが口をはさむ。「ねえ、ベラ。これ、うちらでもできると思う? なんかさすがに怖いんだけど」エルミのように完全無防備というわけではないので。

 「さあね」と答え、私はポケットから自分の携帯電話を出して彼女に見せた。「なんならこっちでやってみる? でもアドレスは変えてね、エルミがやり方わかるから」エルミと私の携帯電話会社は同じだ。暗証番号は初期設定のまま。「で、ありかなと思ったら自分のアドレス教えればいいじゃん。あとから微妙だと思ったら、アドレス拒否するか自分の本アドを変えるかよ」

 「いいの?」

 「お、やる?」なぜかエルミが乗った。「よし、やったげる」

 彼女は早々に私の携帯電話のアドレスを変え、サイトのURLを入力してアクセス、折り返されてきた投稿フォーム用のURLを受け取った。ナンネとジョンアの三人であれこれ相談しながら本文を決める。

 「けっきょくやるんじゃん」パーヴォがこちらに言った。

 「私はやらないわよ? メールはキライなの。送られてくるメールの半分か三分の一は、基本的に無視なので」

 「は? マジで?」

 「マジだよ」エルミが割り込んだ。「暇? とか今なにしてんの? とかいうメールは、たいてい無視される。ベラに確実に連絡とろうと思ったら電話しかない。金かかるっつーのに」

 ものすごく不満そうに言うと、彼女はまた携帯電話のほうに注意を戻した。投稿が完了したらしく、私の携帯電話をナンネとジョンアにあずけて自分のメールに戻った。

 パーヴォが言う。「俺ら、基本的にメールなのに。電話するってこと? 電話代、怒られねえの?」

 「ぜんぜん」私はいくらかかっているかも知らない。「メールしてるとイライラしてくる。電話なら一分で済む会話を五分かけてメールでやりとりする意味がわからない」

 「大げさだろ」レジーは苦笑っている。「高校どこ受けんの?」

 「ミュニシパル」

 「マジか。頭いいんか」

 「ぜんぜん。点数、笑えるくらい足りてないもん」

 「は? マジで? 落ちるんじゃねえの?」

 「さあ。とりあえず明日とあさっては期末テストの勉強、真面目にするけど。最悪進路変更を言い渡されるかもしれないけど、そのつもりはないから、なにがなんでもどうにかしないと」

 「レベル落とさねえの?」パーヴォが訊いた。「一応市内なんだし、選択肢はオレらより多いだろ」

 「悩むのが面倒だからそれはしない。私服は絶対だし。たぶん平気よ、高校に落ちる自分が想像できないから」

 彼らは笑った。「わけわかんね」

 落ちてしまうと、ブラック・スターに行けないことになる。それはダメだ。それだけの理由で、私は落ちるわけにはいかない。

 投稿に対する返信が大量に届いているらしく、ナンネはおろおろしていた。対象外のアドレスは削除したほうがいいなどというエルミの助言を受けつつ、どうにか返信していく。なにが楽しいのかわからないけれど、ジョンアを含め三人とも、ものすごく楽しそうだ。

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