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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 15 * FALL HEART
76/139

○ Be Careful

 「ねえこれ、カツアゲなの?」

 足を地面におろしながら、私は白いパーカーの彼に訊いた。

 「あ? わかってんならさっさと──」彼が言葉を切る。「なにこれ、めっちゃ美人」

 「っつーか若くね?」青いパーカーの男が言う。「ガキじゃね?」

 「おい!」運転席のほうから怒鳴り声がした。「なにごちゃごちゃ言ってんだよ! さっさと金取れ!」

 「って言ってるから」白いパーカーの彼が私の前にしゃがむ。「金くれる? 出せるだけでいいから」

 やはりカツアゲだ。私はふきだし、天を仰いで笑った。

 「いやいやいや」青いパーカーの男が右半身を車にあずける。「笑い事じゃねえんだわ。状況わかってる? こっち六人いんだぞ?」

 背後でマルコが運転席に移動するのがわかった。

 「ごめん、だって──」私はどうに笑いをこらえる。「カツアゲなんて漫画やドラマの中だけだと思ってたから、おもしろくて」

 アゼルたちはそんなことはしなかった。売られた喧嘩を買い、ムカつく相手を殴るだけだった。けれどこういうのも、本当にあるのだ。知らなかった。だが考えてみれば、マルコはそういうタイプだったか。彼の昔のことはよく知らないが。

 白いパーカーの彼が訊ねる。「ここらの人間じゃねえの?」

 「市内から来た」と、私。「ベネフィット・アイランド・シティね。高速飛ばして」

 「なにしに?」

 「なにって──」

 答えようとしたところで低いうめき声となにかが地面に落ちるような鈍い音がして、私はうしろを振り返った。いつのまにか運転席のドアが大きく開いていて、マルコが外に立っている。

 「誰の車に触ってんだよ」

 そう言った彼が膝をついているらしい誰かの顔を思いきり蹴り上げ、またうめき声が聞こえた。彼はそのまま後方へと歩きだす。

 あーあ。

 それに気づいた青いパーカーの男がバットを持ったまま、慌てたように後方へと向かった。けれどその男は白いパーカーの彼の傍まで、地面を滑るように転がってきた。

 「誰の車にもたれてんだ」バットを拾い、マルコがこちらに歩いてくる。「この車一台買う金で、お前らのポンコツスクーターが何台買えると思ってんの?」

 彼は横向きに倒れている男のわき腹にバットを振りおろした。鈍い音がして、男はうめいた。

 自分で買ったんじゃないじゃん。とかいうつっこみはなしにしておいて。「ちょっと。こんなところまで来て警察沙汰とかやめてよ」

 「んなもん知るか」

 マルコはバットを後方の、車を照らしているスクーターのほうに投げた。

 慌てた声に続いて、スクーター数台が大きな音を立てて倒れる音がした。

 「で」マルコが青いパーカーの男の傍にしゃがむ。「金くれんの? 有り金ぜんぶ」

 倒れたままおなかとわき腹を抱え込む彼からは当然、うめき声しか返ってこない。

 唖然としていた白いパーカーの彼は、視線をゆっくりとこちらに戻した。

 「──彼氏?」

 「違う」私は答えた。「ただの先輩」

 「マジで? つーか何歳?」

 「そっちは年齢不詳。私は十五だけど」

 「十五? 高一?」

 「中学三年」

 彼はあからさまに驚いた。「中三!?」

 「シケてんな、三千フラムしか入ってねえ」マルコの手には青い男のものと思われる財布がある。しかも中身を見ている。「けどこんな田舎に住んでりゃ、べつに金使う用もねえだろ」

 叩きつけるように財布を青い男の顔に放ると、立ち上がってまた後方へと向かった。

 彼がなにかを怒鳴りはじめたが気にしないことにして、私は白いパーカーの彼に質問を返した。

 「いつもこんなことしてんの?」

 「いつも? いや、まあ、それなりに? オレら、ダッキー・アイルの人間なんだわ」

 ダッキー・アイル。ウェスト・キャッスルからナショナル・ハイウェイをまっすぐ西に進んだところにある田舎町だ。

 彼が続ける。「地元ではあんまやんねえけど、たまにここらとかソイル・アシーヴとかで、おっさんとか狙って」

 「おっさんが乗ってると思ったの?」

 「だってこの車、かなりの高級車だろ? それはわかんだよ。けどまさか、こんなのに若い男が乗ってるとか思わな──」言葉を切り、彼は声を潜めた。「ヤバいヒトだったりする?」

 「暴力団とかじゃないよ。ただの元不良」

 ほっとしたらしい。「ああ、ならよかっ──」

 「ベラ」マルコが運転席に戻ってきた。「デブのくせに七千フラム持ってた。五千フラムくれるって」五千フラム札を一枚と千フラム札数枚をパタパタさせながら言う。「あとな、スクーターに乗ってた奴二人が金だけ放り出して逃げた。二千フラムと三千フラム」

 私は呆れた。「もらう気ですか?」

 「俺が奪ったわけじゃねえよ。金くれんのかって訊いたらくれただけ。しかも二人のID見たけど、どっちも十七だよ」

 またアゼルと同じ歳だ。

 「あ、スクーター乗ってたうちの二人は十八っすよ」白いパーカーの彼が訂正した。「地元の先輩」

 ちゃっかり自分の財布にお金をしまいながら、マルコはコンソールボックスに肘を置いてこちらに身を乗り出した。白いパーカーの彼に訊ねる。

 「地元、ダッキー・アイルだろ? チェーソン、わかるか?」

 「わかるけど、知ってんすか?」

 「もう二年以上会ってないけど知ってる。ウェ・キャスのマルコが出てきたって言っといて」

 「あのヒト今、ブラ・ギャンのアタマっすよ。オレらはチームに入ってないし、昼間は学校行っててめったに会わねえから、いつ言えるか」

 「会ったらでいい」マルコはとうとう財布をジーンズのポケットの入れた。「とりあえず車動かすのに邪魔だから、ノびてる奴らとスクーター、どうにかしろ」

  白いパーカーの十六歳らしい彼は、十八歳の二人に置いていかれたらしいひとりを呼び戻すと、うなり続ける青い男と気絶していた太った男をどうにか車から遠ざけ、スクーターも脇にやった。

 マルコは車を出した。お金を返す気はないらしい。しかも普通に会話していた私にありえないと言っていた。これはさすがにおもしろくてケイに話したいから、おみやげで吊って詮索を避けるという手段に出ることにした。

 夕食を食べたところに戻って閉店ぎりぎりの店でおみやげを買うと、今度は高速には乗らず、土手を使って帰ることにした。

 結果、高速道路を使うのと比べても、十数分しか変わらないことがわかった。けれどカツアゲされ、マルコは一万フラムを手に入れたわけなので、高速代もおみやげ代も、すべて無料になったと言っていい。

 もちろんこちらのおみやげは、私が自腹で買ったけれど。けっきょくイチゴの乗ったチョコレートケーキのことなど、私はすっかり忘れていたけれど。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 日曜日。

 昼前にアニタが家にやってきた。ちゃっかり祖母作のランチをいただいた彼女を連れて屋根裏部屋にあがると、私は金曜にソイル・アシーヴで買ったおみやげのソフトクッキーを彼女にあげた。

 これ、ソイル・アシーヴのというよりはベネフィット・アイランド・プレフェクチュールのおみやげとして、それも最近作られたものらしい。丸缶にチョコレートクリーム入りのソフトクッキーが小包装で十二個入っていて、ひとまずひとつ買って食べてみたのだが、とてもおいしかった。賞味期限を見て、ぜんぶで十缶も買った。八千フラムの出費だった。

 これだけ買ってしまったらもう隠しようがなく、どうせケイにも話すことになっているしと思い、職場で食べてと言って祖母にも一缶渡した。マルコにドライブに連れてってもらったとは言わなかったかったが、訊かれもせず、あっさりありがとうと受け取ってもらえた。おそらくわかっただろうけれど。

 カツアゲ話では、アニタはケイと同じでかなり笑った。マルコがちゃっかり一万フラムを手に入れたこと、そしてケイに話したせいでお金をたかられて、マルコがしかたなく五千フラムを分けるはめになったというところが特におもしろかったらしい。目の前で殴り合いがはじまるのでなく、ただ話に聞くだけなら、そういうのは特に怖くもないのだとか。

 ソフトクッキーを続けて四つも食べ、祖母の入れてくれたミルクティーを飲み干した彼女に、今度はエルミとエデの話をした。

 エルミの最初の男、ブルが、実はカラダ目的だったこと。マルコは私といる時にやたら睨まれるというケイの愚痴を聞いて、エデを適当に遊んで捨てることにし、それを実行したこと。私がそれを黙認していたこと。というかむしろエルミのことは、そうなることをわかっていてブルに会わせたこと。一度別れてからヨリを戻したあとは、二股状態になっていたこと。

 さすがの彼女もヒくかと思ったけれど、どうやらそれほどヒきはしなかったらしい。

 「ブルとエルミのことは、なんとなく遊ばれてる気がするって思ってた」アニタが言う。「エルミと話してて、なんか寝てばっかっぽかったし」

 私はラグの上、赤いビーズクッションに寝転んでいる。

 「実際ほとんどそれだけよ。デートらしいデートなんて、ほとんどしてない」

 「けど一回別れたあと、ヨリ戻すの手伝ったんだよね。なんで?」

 「手伝ったってわけじゃない。ヨリ戻したいから協力してって言われて、でも具体的にどうとかはなくて、めんどくさいからブルに言いに行った。そしたらブルが二股を開始することにした。それだけ」

 「ああ」納得した。「相当舞い上がってるとは思ってたけど、やっぱりそのとおりだったわけだ」彼女ももうひとつの赤いビーズクッションにこちらを向いて寝転んだ。「で、エデも完全に遊ばれてたと」

 「そう。つきあってるあいだ、マルコは何度か他の女とも寝たらしいし。ときどき会ってホテルに行ってってのが基本。調子づかせるために何度か普通のデートもしたけど、それも数える程だって」

 彼女は眉をひそめた。「なんか──あいつら二人がどういう扱いされてようとどうでもいいけど、怖いな。裏でそういうこと企まれてたら、なんかイヤ」

 「知らされなきゃべつにいい気がする。しかも私は話を聞いた限り、あの二人、処女捨てられて喜んでんじゃないかと思ってる」

 「あ、それは思ってる気がする。ペトラの話じゃ、カーリナとエデ、よく下ネタ話してたらしいし。さすがについていきたくなくて、サビナと一緒に逃げるっつってた」

 笑える。「エルミもそうだよ、たぶん。あんたはあいつの家に行ったことないから知らないだろうけど、あいつ、下ネタ漫画が大好きだし」

 アニタは露骨に嫌そうな表情をした。

 「げ。マジで?」

 「マジで。ちなみにハヌルはね、下ネタ漫画はもちろん、ホモっぽい漫画が大好きなの。あいつの描く絵もホモっぽい。普段はくだけた絵でごまかしてるけど、真面目に書いたら、うまいんだけど、どう見ても本屋にホモ漫画として売ってるだろって類の絵になるの」

 「マジかよ」顔がひきつっている。「あの顔で」

 「しかもあいつら、そういう漫画を貸し借りしてるからね。まあそんなだから、ハヌルの場合、もう脳内では処女じゃなくなってるかも。架空の元彼氏もいることだし」

 そう言うと、アニタは大笑いした。クリスマスの言い訳が楽しみだとか。

 「そういやエルミに男紹介したよね、別れたけど。あれはなんで?」

 今日は質問の嵐だ。「男欲しいとかほざいてて、ふと相手のことを思い出したってだけ。あいつにオトコがいれば無駄なノロケがはじまるから、遠まわしにハヌルを攻撃できるじゃない」

 今度は彼女、天を仰いで笑った。

 「悪だ! けどそれは言えてる!」

 「でしょ」と、私。「常に誰かとつきあわせてやりたいわけじゃない。でもエルミにひとりふたり元彼がいるってだけでも、ハヌルはダメージをくらう。エルミも自らそれをステータスにするから、さらに武器は強化される。自分にも誰か紹介してって言ってきたとしても、私やエルミはさらっとかわす。ハヌルはひとり悶々とすることになる」

 「クロすぎる!」彼女は肩をふるわせて笑っている。「エルミが対ハヌル用の武器だとは思わなかった」

 「ストレス受けまくってるから、そのくらいの返しはしてやらないとね」

 それからしばらく話をしたあと、思い出したようにアニタが切りだした。

 「けっきょく、クリスマスはどうすんの?」

 私は質問を返した。「二十三日じゃダメなの? 二十五日は予定、あるわけじゃないけど。前日は、ディックに帰りが遅くなるかもって言われてる。疲れるかもしれない」

 「“ディック”ね」話したくないと言ったから訊いてはこないものの、気にはしている。「二十三日は月曜だったよね。デボラが仕事行ったあと、ランチ食べてから──で、ケーキだけどうにかして、パーティー?」

 「学校のパーティーもあるのに、まだやるの?」

 「それとは別!」勢いよく身体を起こす。「こうやって学校で会えるのも、あとちょっとじゃん。冬休みはみんな勉強するだろうし。そりゃあたしとベラは高校同じだし、ペトラやカルメーラとは遊ぶかもだけど。ゲルトやセテたちは卒業したら、そんなに会えなくなる気がするし。勉強しなきゃいけないっていうんなら、ケーキだけ食べて、みんなで宿題やればいいじゃん」

 なんの会なのだろう。「わかった。ならケーキは私が買う。ジュースとお菓子はそっちで用意して。テーブルはリビングと、二階にあるのを借りる。昼の一時から夕方五時まで。延長はなし。でも無駄に多い人数はやめてよ。うざいから」

 アニタは笑顔で私に抱きついた。

 けれど当面は、期末テストと学校のパーティーを乗り切るために集中することにする。

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