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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 14 * REMEMBER HEART
65/139

* A Place That I Want To Go

 日曜日、夜。

 「土曜はどうにかするよ」電話越しに、ルキアノスが言う。「正直、行きたいもんでもないし」

 来週の土曜、彼とアドニスの通うイースト・キャッスル高校で、文化祭の一般開放がある。その週明けの月曜は、私のほうが二学期の中間テストだ。去年の、文化祭にリーズたちを呼んでやたらと男を紹介してみるという少々ふざけた思い出があるからか、誘ってはこなかったものの、こちらでテストがあるのを覚えていたらしく、彼が電話をかけてきた。そしてその一般開放の土曜をどうにかすると言いだした。

 「いいわよ。適当に勉強してみるから」と、私。勉強などおそらくしない。

 「いや、でも文化祭の映像も観たいし──俺ひとりが行かなくても、どうにかなるはずだから」

 「変よね。私がやりたくない時に限って周りはやる気を出すのに、私がやる気になったら、アニタがそうなんだけど、なぜかやる気にならないっていう」

 「いや、アニタは君と同じクラスじゃないからだろ? まあそれはともかく、アドニスは怒るかもしれないけど──途中で抜けるくらいならできるはず」

 そこまで文化祭がイヤなのか。「なにするの? 文化祭」

 数秒の沈黙を作ったあと、彼は質問を返した。

 「笑わない?」

 「さあ」

 なぜか溜め息をつく。「ホスト喫茶」

 「え、なにそれ」

 「だから、クラスの男子が全員スーツ来て接客するっていう、とんでもない喫茶店」

 とんでもない喫茶店。私は思わず笑った。「ああ、なるほど。客は主に女が対象になるわけね」

 「そう」彼の言葉は投げやりだった。「クラスの女子も手伝いはするけど、一応女子はステージに立って歌と踊りをやるってのがメインてことになってる。丸一日休むのが無理だとしても、接客は交代制だから、順番を早い時間にしてもらえば平気。勉強する時間はちょっと短くなるけど」

 彼はどうやら、私の一学期期末テストで基本五教科の合計を二百五十点にできなかったことを気にしているらしい。

 「土曜はいいわよ。あなたがかまわないなら、日曜はつきあってもらうって言いたいところだけど──たぶん疲れるだろうから、それもいい。どうせ来月は期末があるし。そこで最終進路が決まるはずだから、その時はお願いしたいけど」

 「だから、中間のも勉強するって。それに文化祭のも観たいし」

 「サビナにディスク、渡そうか? 彼女も持ってるけど、私のぶんを」

 玄関のベルが鳴った。だけど一階には祖母がいるからと、気にせず続けた。

 「それをゼインに渡してもらえば観られる。返すのはいつでもかまわないし」

 「ええ? いや、それはそれで面倒な気が──」

 「あなたに教えてもらわずに私がどこまでできるかって、気になったりはしないの?」

 「いや、確かに気にはなるけど、君のことを疑ってるとかじゃなくて、テストの結果聞いて、あとから後悔したくないってのはあるかな」

 「でもそれはようするに、やっぱり信用してな──」

 デスクの上にある子機が鳴った。祖母から内線電話だ。

 「ごめん、子機で呼ばれてる。ちょっと待って」

 「うん」

 起き上がってベッドからおりた。携帯電話を持ったまま、子機を手にとって応じる。

 「はいはい」

 「マルコが来てるわ」子機のむこうで祖母が言う。「電話が通じないからって。またケイと三人でドライブに行こうって言ってるわよ」

 「ええ──」なんと余計なことを。「ケイ、いるの?」

 「いいえ。マルコは出かけた帰りで、今から迎えに行くんですって。家の前で待ってるわ」

 強制か。拒否できる状況にない。祖母に迷惑がかかってしまう。

 「わかった」行きたくないけど。「すぐに行く」

 子機を充電スタンドに戻すと、私は深すぎる溜め息をついた。関わるなと、何度言えばわかるのだろう。再び携帯電話を耳にあてる。

 「ルキ、ごめん。最悪な迎えが来たらしいから、行かなきゃ」

 「え、なに?」

 「まえに話したでしょ、後輩の兄貴。仲の悪い、苦手な奴。電話が通じないからって、わざわざ家に来たらしいの。とりあえずまたメールする」

 「ああ──うん、わかった」

 「ごめんね」

 「じゃあ帰ったらメール入れて。もしかしたら起きてるかもしれない。メールしなかったら俺は土曜、文化祭を丸一日休んでそっちのテスト勉強するから」

 そして私がアドニスに怒られるのか。「わかった、メールする。じゃあね」

 「うん」

 電話を切った。さあ。アゼルのフォールディングナイフでも持ち出してやろうか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 助手席に乗り込んでドアを閉めてすぐ、私はマルコにつっかかった。

 「どういうつもりよ? 車にはもう乗らないって言ったじゃん」

 彼が鼻で笑う。

 「乗ってから言われても」

 ムカつく。「降りる。帰る」

 ドアのインナーハンドルに手をかけると、自動でドアをロックされた。ムカついて手動でロックを開けようとすると、マルコはあっというまにギアを入れ替えて車を少しバックさせた。

 「あんたほんと──」

 マルコはけらけらと笑っている。「今のはちょっとおもろかった」

 そう言って祖母の車を避けるよう、車を前進させた。そのまま走る。

 本当にイライラさせてくれる。「今日はなに? また嫌がらせ? 巻き込むなって言ったじゃん」

 「いや、別れた」

 私はぽかんとした。「エデと?」

 「他に誰がいんだ」

 「え、他の女といるところを見せてやるって言ってたの、まさか私じゃないよね」

 「さすがにないわ」車を右折させる。「それは明日から適当にやってやるつもり。仕事帰りに女連れてオル・キャスうろつく」

 「ねえ、なにしに来たの?」

 「ただの暇つぶし」

 「お願いだから、おばあちゃんを巻き込むようなことするのはやめてよ。卑怯よ」

 「べつに巻き込んだわけじゃねえよ。お前の電話が通じなかったから家に行っただけ。クラクションやたらと鳴らすよりいいだろ」

 「どっちもどっちだし」

 車はまた右折した。キャッスル・ロードへ向かっている。

 「お前は文句が多いな。しかもエデの反応すら訊かねえって。どんだけ無関心なんだよ」

 「泣きじゃくって別れたくない、はい終了」

 「まあそうだけど」とマルコが言う。「我ながら役者っぷりが完璧だったぞ。文化祭の時、ババコワがあいつ呼び出してくれたのはよかったわ。学校着いた時、あいつんとこ行く前にボダルトに電話して駐車スペース借りたって言ったし、校長と教頭も、俺が文化祭に行ったことは知ってたんだけどな」

 「そうなの?」

 「そー。けどすぐ帰るから、他の先公には言うなっつって。今はお礼参りもないんだな。それでなくても卒業生が文化祭とか関係なく学校に乗り込むなんての、わりと普通だったのに」

 それは“普通”ではないはずだ。「じゃあババコワ教諭は見当違いにキレたってこと?」

 「そ。校長らが気づいてないと思ったんだろな。まあそのおかげで、やっぱ年が違いすぎるってのを理由にしやすくなったんだけど。お前可愛いしすげー好きだけど、俺もツレに反対されてるし、ドツボにはまる前に別れたほうがいいって」

 お前はブルか。「よくそんな言葉をぺらぺらと喋れるわね」

 「だから役者っぷりが完璧だったんだって。最後のほうなんてあいつ泣きまくりで、ろくに喋れてなかったけどな。家の近くまで送って、どうにか帰らせた。そのあと俺は別の女んとこ行って、一発ヤッて飯食ってお前んとこっていう」

 呆れた。私の周り、なんでこういうのが次から次へと出てくるのだろう。

 「そんな報告いらない」

 「明日学校であいつがどーなってるか、わかったら報告しろよ」

 「やだ」そもそもあのプライドの高い女が、自ら別れたと周りに報告するかが謎だ。「あんたに関わりたくないだけじゃなくて、あいつにも関わりたくな──」

 車はまたも右折した。

 「ちょっと」マルコに言った。「あんたの家、逆!」

 彼が笑う。「だから今度男の車に乗る時は気つけろよっつったのに」

 「信号で停まったら降りてやる」

 「なら信号無視するまでだ」

 「免停になりやがれ。罰金地獄に陥りやがれ」

 「まだ八時すぎだから、お前の同期もそこらうろついてるかもな。面倒なことになりたくなかったら顔隠せよ」

 もういやだ。本当にいやだ。バッグからサングラスを取り出し、装着した。やはりフォールディングナイフは持ってくるべきだったらしい。

 私は嫌味をこめてつぶやいた。「ケイに電話したらなんて言うかな」

 「さあ。俺がキレられることは確実だけど、それを俺が気にするかっつったら、微妙」

 必ずしもケイに弱いというわけではないらしい。サンダルを脱いでシートに脚を立てた。このあたりは普通の家が並ぶだけだ。

 「どこ行くの」

 「どっか行きたいとこねえの?」

 私は窓の外へと視線をそらした。

 「アマウント・ウィズダム」

 「やっぱ引きずってんじゃねえか」

 そこに、アゼルがいる。「そんなんじゃない。たぶん行ったことがないから、どんなとこなのかなと思って」

 「会いたいなら会いたいって言やいいのに」

 「会ったら刺す。殺し合いになる」

 「お前はわかるけど、なんであいつまでお前を殺そうとすんだよ」

 「黙って殺られるような奴じゃないもん。それに、なんでかわかんないけど、あいつは私が最悪だと思う態度を平気でとると思う。それがわかる」そこに気持ちがあるのか、どちらにしてもなにを言うのか、どうするのかはわからないけれど。「会うってことは、刺すってこと。殺すってこと。いいことなんてひとつもない。だから会いたくない」

 「お前、言ってることがめちゃくちゃ」

 「そうね」

 学校の脇に差しかかり、目を閉じた。私にだって、よくわからない。行きたいところを訊かれて、なぜアマウント・ウィズダムなんて答えたのか。

 アゼルが生きているかどうかもわからない状態で、そんなところに行っても意味はない。というか、行ったとしても入れるわけなどない。つまり、会えるわけなどない。それなら、行く意味などないのに。

 時間が経つほど、アゼルがいなくても平気なのだと実感する。けれど時間が経つほど、私は矛盾していくような気がする。

 殺してやりたいほど怒って、憎んでいた。なのに今は、時間が経っているおかげでそれもどうでもよくて、思い出すことも以前ほどは苦痛ではなく、目を閉じると時々現れる彼の幻影に、私は抗うこともしなくなった。そうしたら、恋しがるべきではないとわかっているのに、記憶にある彼の声に、手に、キスに、身を委ねようとしている時がある。支離滅裂だ。

 六月を乗り越えた。七月を乗り越えた。九月一日を乗り越えた。文化祭を乗り越えた。あとはクリスマス。最大の難所。

 独りでいるのが正解か、誰かといるのが正解なのかは、私にはよくわからない。けれど九月一日と同じように、またアゼルとの思い出に浸るのもいいかもしれない。過去にトリップするだけなら、問題はないかもしれない。突き放しても完全に消えてくれるわけではないのなら、もういっそ、アゼルがいない現実を受け入れた時と同じように、過去を恋しがる自分を受け入れてもいい気がする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 車が停まったことに気づき、目を開けた。ナショナル・ハイウェイに出ようと、右折レーンに入っている。

 「アマウント・ウィズダムなんか行ったら明日撃沈だぞ」マルコが言った。

 それもそうだ。「もう帰ればいいと思う」

 「ベネフィット・アイランドの更生施設なら見せてやれる」

 アゼルが昔、入っていたところ。「どこにあるの?」

 「ローア・ゲート」

 「また?」

 「まえに行ったアマウント・アイランドは、ローア・ゲートの東のほう。施設があんのはバルキー・ヘンプ。西のほう。大げさに言や、ここから北に向かってほぼまっすぐ」

 そういえば、ローア・ゲート・シティは縦長だ。「でも遠いよね」

 「三十分もありゃ着くんじゃね」信号が青に変わり、彼は車を発進させた。右に曲がる。「どうすんだ」

 どうしよう。「わかんない」見たい気もする。でもどうでもいい気もする。

 「お前、やっぱめんどくさいな」

 「っていうか、なんでまた明日学校っていう時の前日なの? このあいだは月曜だったよね」

 「なんだそれ。金曜とか土曜でもよかったわけ? それ言ったら、ホテル連れ込まれても文句言えねえぞ」

 私は唖然とした。「あんたたちみたいなのって、そのことしか頭にないの? バカなの?」

 「お前はヤりたくなんねえの?」

 「ぜんぜん」だって私は、アゼルにキスでもされるのでなければ、そんな気分にはならない。

 車は左に曲がる。

 「よく耐えれるな」とマルコは言う。「俺がお前らくらいの年だった時なんて、一週間ヤらねえだけで発狂しそうになってたけど。少年院とかマジで地獄」

 「猿」

 「今はそうでもないけどな、さすがに。アゼルも今頃地獄だろうよ」

 「存分にその地獄を味わえばいい。自分がどれだけバカなことしたかって、思い知ればいい」

 「けどあいつが戻って、もしお前んとこ来たら、お前は絶対流される。どんだけ引きずってねえとか言い張っても、うまいこと言いくるめらてけっきょく戻る」

 「私がどれだけ頑固か知らないでしょ。意地でも戻らない」

 「どうだか」

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