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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 13 * FESTIVAL HEART
63/139

○ Blind Love

 ステージ袖とステージは、ステージと同じライトブラウンカラーの五段階段がつないでいる。ただこれ、なぜか設置式だ。

 私は機材の傍にあるそのステップの端に、ダヴィデやトルベン、リカ、他数人と座って、幕の陰からそれを見ていた。途中から見物人たちは一緒にうたったり、コミカルな映像に笑ったりしていたものの、最後には大きな拍手が聞こえた。一部に二年を巻き込んだりもしているので、おそらくその効果もあると思われる。ステージ袖に戻ってきた連中は、袖に潜んでいたクラスメイトとハイタッチしたりハグをしたりして喜んだ。まだ早いと思う。

 次、“Need You Now”。去年カラオケでアドニスと一緒にデュエットした曲だ。私は一目惚れなんてありえないと思っているけれど、男子のほとんども鼻で笑ってはいたけれど、女子の多くは共感──というか、憧れていた。

 私が曲に合わせて口ずさんでいると、一番が終わったところで、クラスメイトのひとりがマイクを渡してきた。ステージに出ずにうたえば、と。けれどそれなら男子もうたわなきゃ変だ、という話が勝手にはじまって、すぐ隣にいたダヴィデがうたわされることになった。彼は全力で拒否したものの、クラスメイトのひとりが親切にも歌詞カードを印刷した紙を持っていたから、ダヴィはそれを見ながら、私たちはCメロと最後のサビだけをうたった。

 その半端な演出が効いたのかどうかは知らないけれど、この曲も拍手は大きかった。PVの出来もわりといいのだ、私的には。

 「お前らマジで恨むからな!」私の二段下のステップに座っているダヴィデが声を潜めてクラスメイトに言った。

 「うまかったじゃん」と女子が言う。「去年カラオケ行ったんだし、セテたちも入ってたけど、ベラとだってうたってだし、誰も二人が一緒にうたったなんて気づかないよ」

 「そういう問題じゃないよ? 一緒だとかそういうのがイヤとかじゃなくて、うたうってことそのものがイヤだって言ってんだよ!」早口だった。

 「もううたったじゃねえか」べつの男子が言った。「遅いわアホ」

 「お前らが無理やり──」

 トルベンが彼の言葉を遮る。「うるせえよ。次、はじまるぞ」

 曲と曲とのあいだには、雰囲気を切り替えるために、数十秒の沈黙を入れてある。

 「どうしよう」左隣にいるリカが不安げな表情で言った。「間違ったらどうしよう」

 「だいじょうぶだって。ただ突っ立ってればいいんだから」と、私。

 ハリエットはリカの隣で、すでに猫耳カチューシャをつけている。彼女はリカをなだめた。「平気だよ、リカ。なんなら手つなぐよ?」

 彼女は今にも泣きだしそうだ。「ほんとに?」

 「あたしは中央に行くから途中で離すけど、そこでうつむいて立ってればいいから。わかった?」

 あまり平気ではないらしく、彼女は小さくうなってから「わかった」と答えた。

 ちなみにこの曲、一度はへこんでやめるとまで言いだしたハリエットの熱烈なアタックにより、途中まではステージ袖から、そして途中からステージに出て最後まで歌をうたう彼女に合わせ、私がコーラスを入れることになっている。メインの音程ならともかく、コーラスの音程を完璧に覚えてうたうというのをできるのが、私しかいないらしい。

 そして“Pretty In Pink”のPVがはじまり、私とハリエットは本気でうたった。ハリエットはところどころ、私の音程につられそうになっていたものの、彼女もリカも相手役のヒースコートも、もちろんカルメーラも、練習どおりステージ上での役割を果たし、裏方も当然のように完璧な仕事をこなして、ハリエットは予定どおり、引かれた幕からひとりひょこっと顔を出してウィンクをしてまた引っ込んで──体育館は大きな歓声とたくさんの拍手で溢れた。

 そしてステージ袖にいた、調子に乗ったクラスメイトたちは、女子の中に数人の男子が混ざるカタチで、マイクを持ってステージ前に立った。“Where The Lines Overlap”をうたうためだ。映像を観せるべきなのに。当然、二階にいるクラスメイトもうたうことになる。注意を映像に向けるべきなのに。

 それでも、この曲の盛り上がりは最高だった。特に三年のアルバムということもあって、映像の中に自分たちの姿を見つけると、観客として体育館にいる三年の他クラスの人間たちはやたら騒いでいるらしかった。

 そしてまたも大きな拍手が沸き起こる中、私の強い押しで作った、この曲の映像、最後のオチ。

 スクリーンの中、“十月四日、ウェスト・キャッスル中学文化祭、三年D組舞台発表”──なんてことをノートに手書きで書いてあるシーンが、まるで映像の終わりかと思わせるように映しだされる。曲も完全に終わる。

 すると画面が暗転、そこに白い文字が浮かびあがる。

 “三年生のみなさんへ。このディスクのコピーがほしい場合は、一枚につき百フラムでコピーします。D組の誰かに申し出てください。後日映像をコピーしたCD-Rを届けます。CD-Rに対応したデッキかPCがあれば、今は持っていなくてもいずれ買えば、いつだってそれを観られますよ。追伸、売り上げは三年D組のジュース代になる予定ですのでご了承ください”

 それで体育館は爆笑と拍手の渦を巻き起こした。

 大きな歓声と共にすべてのPVを流し終え、D組の生徒たちがまとまってステージ袖を出ると、アニタやペトラを含むたくさんの同級生が私たちに駆け寄り、ハグをした。反対側の袖でも同じような現象が起きていたし、リカはA組のちょっと意地悪な彼女からも、しっかりと褒めてもらっていた。というか、当然のようにベタ褒めだった。そしてみんなコピーを買う、と。

 そしてやっとステージ部門が終わった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ランチは通例どおり、各自持ってきたか買ってきたか、もしくは教師や保護者がグラウンドに用意した軽食で済ませる。今年からランチのために体育館が開放されたままになっていて、ピクニック感覚でランチをとれるという話。けれどランチタイムなどというものは用意されておらず、ステージ部門が終わって教室に戻ったところから、教室での催しをはじめられることになっているため、自分たちのクラスでローテーション式に勝手に昼食を済ませろ、とのことだ。

 PVでかなり興奮したらしいアニタたちと、祖母の作ったサンドウィッチが目的なセテたちと一緒に、空き教室でランチを食べようか、なんてことを話しているうち、やっと体育館をあとにする生徒たちの怒涛の波がおさまり、私たちも投票を済ませた。ちなみに、私は迷わず二年D組に投票。この投票用紙、あらかじめ自分たちのクラスが印刷されている。なので、あからさまに禁止されているわけではないものの、名前などを書く必要もないものの、自分のクラスに投票すればすぐにバレる。つまり、痛い奴がいるクラスということにならなくもない。もちろん教師にしか知られないけれど。

 体育館を出ると、私はケイに呼び止められた。そして体育館裏へと拉致された。

 そこには脚を立てて座り、缶コーヒー片手に体育館の外壁にもたれて煙草を吸うマルコがいた。この体育館裏は去年、仕事が終わったあと、アゼルと一緒に文化祭に来たマスティとブルが自転車を停めた場所だ。グラウンド側にある体育倉庫と正門近くまで繋がった、私の身長と同じくらいの高さのコンクリート壁と体育館のあいだは、二人並んで歩くには少し窮屈だと思うくらいの幅しかない。

 マルコの姿に少々嫌な予感を感じながらも、私は一分前に答えてもらえなかった質問を再びケイにした。

 「なによ?」

 彼が答える。「エデがババコワに連れてかれたって。たぶん説教」

 だからどうした。と思いながら、マルコにも質問をした。「あんたはなんか言われたの?」

 「いや」煙を吐き出し、視線を合わせないまま彼が答える。「いちばんうしろで観てたけど、お前んとこのが終わってすぐ、ババコワがこっち来て。ちょっと来いとかってあいつ連れてった」

 「へー。で? なんの用?」再びケイに訊いた。「まさかエデを助けろとか言わないよね」

 「まさか。兄貴が」彼へと視線をうつす。「ちょっとおもしろいもん見せてやるっって」

 なにをと訊く前にマルコの携帯電話が鳴った。エデかららしい。煙草をコーヒー缶の中に入れて火を消し、彼が電話に応じる。体育館裏にいると伝えて電話を終えた。

 「関わりたくないから戻っていい?」

 「まあ待てって」マルコは立ち上がった。「お前に矛先が向くようなことはしねえよ」


 ほんの数分でやってきたエデは、心配しているフリをするマルコに出迎えられ、「怒られたけど平気」と答えて彼とキスをした。けれどすぐ、奥で並んで壁にもたれる私とケイの存在に気づき、なぜいるのだと言いたげな表情を私に向けてから、ケイに軽い挨拶をした。ケイが答えていないも同然の返事をすると、マルコはなにを言われたかを彼女に訊いた。

 「いろいろ──」言葉を濁す。「すぐ帰らせろって」

 マルコはエデを体育館の外壁際に立たせ、彼女の背中に腕をまわしている。「やっぱ来ねえほうがよかったな。お前に迷惑かけんのヤだし、帰るわ」

 エデも当然、彼の腰に腕をまわしている。「でもケイのとこのホラーハウスが──」

 私の隣でケイの表情が一瞬、ひきつった。

 「しょうがねえよ。ケイはベラと行けばって言うけど、俺らそんな仲いいわけじゃねえし。っていうか俺、こいつキライだし。こいつも俺のことキライだし。諦める」

 笑える。確かに少々おもしろい。

 「え、帰んの?」ケイが口をはさんだ。「兄貴たちが怒られるって、変じゃん」言いながら私の左手を探して見つけ、つないだ。「ベラは去年、三人も乱入させたんだぞ」

 手をつないだのは“ごめん”の意味。“平気だ”と答える代わりに、私も彼の手を握り返した。

 「しかもオレたちのとこでも普通に遊んでたし」と、ケイがつけたす。 

 「お前、注意されたの?」マルコが私に訊いた。

 「何人かの教諭には会って驚かれたけど、特に。私のクラスが文化祭の終了時間を長引かせてて、主事はそれに文句言っただけで、あとは遊び終わったんならさっさと帰れって、それだけ。朝から来たわけじゃなかったし。二時間くらいですぐ帰ったし」

 「ふーん。まあお前んとこは」エデへと視線を戻す。「担任があれじゃ、しょうがないわ」今度はケイに言う。「悪いな、ケイ。やっぱ帰る──」

 エデは彼の言葉を遮った。「気にしなくていいよ。せめてホラーハウスだけでも行きたい」

 「けど見つかったら、また怒られるぞ? さすがに俺、目立つし」

 エデは必死だ。「そんなの気にしない。説教ならいくらでも受ける」

 あはは。おもしろい。

 「マジで?」と、マルコ。「んじゃとりあえず、ケイのとこのホラーハウスだけ行くか」“だけ”を強調した。

 嬉しそうな表情のエデが彼の首に手をまわしてキスをせがんだので、ケイは「じゃあオレらは先に教室に戻る」と言い、私の手を引いて体育館裏をあとにした。

 エデのあまりのカマトトぶりに、吐き気と笑いだしたい気持ちとが入り混じって、私たちはとりあえず苦笑うしかなかった。エデはすっかりマルコに夢中らしい。もし次に文句言われたら、保護者扱いにしろってことで言いくるめればなんとかなるかもと言うと、ケイはその言葉をメールでマルコに送った。通じるわけがないけれど。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 あとで行くと約束してケイと別れ、やっと三年D組の教室に戻る。

 教室内でランチをとっていたクラスメイトが、アニタたちが空き教室で待ってると教えてくれた。

 鍵のかかった灰色の私のロッカーからは、サンドウィッチが入っているはずのトートバッグがなくなっていた。

 生徒ひとりにつきひとつを使うことになる教室のロッカーには、それぞれ鍵がかけられるようになっている。生徒には出席番号というものがあり、進級するとその教室にある、出席番号に応じたロッカーの合鍵をふたつ借りられて、ひとつを自分が持ち、もうひとつはなにかあった時のためにと、信用できる友達に預けるというのが普通だ。

 マスターキーは担任が管理する。放課後は毎日教室に鍵がかけられるものの、合鍵が作られて後々問題になる可能性があるので、毎年春休みのあいだに、ロッカーはランダムに入れ替えられる。しかも業者による清掃つきだ。

 そんなことはどうでもいいが、私のロッカーの合鍵は、アニタが持っている。ものすごくイヤな予感がした。

 D組の隣にあるE組の空き教室。

 アニタにペトラ、カルメーラ、ハリエット、ナンネとジョンア。そしてゲルト、セテ、ダヴィデ、イヴァン、カルロ、トルベン、ヤーゴ。彼らは教室後方に積み上げられていたいくつかの机と椅子をおろして並べ、ランチをとっていた。その机の中心に、私が持ってきた、祖母が朝早くから作ってくれたサンドウィッチが入っている紙製のランチパックが置かれていた。

 ごめんごめんとあやまられる中、おそるおそる中を覗いた。取られることは予想していたので、少し多めにと作ってもらっていたものの、そのランチパックの中には、ひとりぶんには明らかに足りないだろうみっつのサンドウィッチしか残っていなかった。

 私はキレた。

 どうやら全員が食べたらしい。ジョンアにはアニタが無理やり食べさせたとか、ひとつずつだった予定が止まらなくなったとかいう、わけのわからない言い訳をされた。けっきょく私は、彼らが朝コンビニで買ってきたり親に作ってもらったりしたランチで腹ごしらえをするはめになった。いちばんの楽しみだったカツサンドを取られて泣きそうだった。

 このあとに控えた、まだなにも知らないアニタたちへの“目立つ”プレゼントを、いっそのこと取り消してやろうかと思った。

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