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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 12 * SENSATION HEART
61/139

* Questioning

 翌日、夜十時すぎ。

 ルキアノスに電話をかけるのはいいとして、なにを言うの? まだ怒ってるのかって? それともあやまる? 私、もうあやまった。

 どうでもよくはないけれど、この電話が無駄に終わったら、もう本気でどうでもよくなる気がする。なんでもかんでもすぐ怒りに変えてしまう性格だから、許してくれないならもういいです、となる気がする。だからといって放置していたら、ナイルたちまで微妙な状態になるかもしれないし。

 ということでひとまず、ベッドに寝転んで電話をかけてみた。

 しばらく待つ。

 五回ほど呼び出し音が鳴ったあと、“ただいま電話に出ることができません”という機械声のアナウンスが流れた。

 ムカついた。

 いや、わざとだとは限らない。もしかすると席をはずしているのかもしれない。彼もわりと、携帯電話には無頓着なほうだ。でも今まで、電話をして出なかったなどということは、おそらくない。このタイミングでそんなことがありえるのか、微妙なところだ。

 《逆ギレするまえに電話に出て。終わらせたくはないの》

 そう彼にメールを送った。

 もういやだ。ヒトの気持ちを考えるのが苦手なのに、なにを考えているかわからないヒトの気持ちなどわかるわけがない。ついでに言えば、誰かの機嫌をとるなどということも苦手だ。そもそも私は、そんなことをするタイプでも、できるタイプでもない。

 土曜は、怒っていないと言い張るルキアノスの態度が終始微妙で、諦めて帰ってきたけれど。それが彼の機嫌を悪化させたのかどうかすら、私にはよくわからない。

 もう一度、彼に電話をかけた。これで出てもらえなかったら、おそらく私、キレるか完全に諦めるかすると思う。

 と思ったのだが、三コールほど鳴らしたところで呼び出し音が途切れた。

 ルキが電話をとった。「ん」

 まだ微妙な気がする。「まだ怒ってんの?」

 質問したのだが、返ってきたのは土曜に何度も聞いたセリフだった。「だから、怒ってないって」

 怒っているとしか思えない。「怒ってるんじゃないならなに?」

 少し沈黙。

 「──考え事」

 「話が噛み合ってない気がするんですけど」

 「もういいよ。気にしなくていい」

 衝撃を受けた。「今さらそれはないと思うんだけど」

 「うん、ごめん」

 あやまられた。「ちょっと待ってよ。悪いのはこっちでしょ? なんであなたがあやまるの? 意味がわからない」

 「だから怒ってないんだって。責めてるわけでもない。ただちょっと──間が悪かったっていうか、なんていうか」

 「なにそれ」

 「うまく言えない。ただほんとに、怒ってるわけじゃないから。ほとんど八つ当たりみたいなもん。それを自分の中でうまく処理できなかったから、よけいにムカついてただけ。自分にって意味で」

 なにを言っているのか、まったく意味がわからない。「もういいの?」

 「うん。いい」

 なんだこのあっさり回答。「なんかすっきりしないんですけど」

 無視して、ルキアノスは突然質問した。「チーズケーキは好き?」

 「好き。レアチーズケーキが好き」

 「ショートケーキは?」

 「好き」

 「チョコレートケーキは?」

 「大好き」

 「あれは誰?」

 「あれ?」

 「土曜に一緒にいたの」

 「ああ、ディック? 知り合い。いつも行ってるCDショップの店長の紹介で知り合って」

 「そのヒトと一緒にいて、時間を忘れてたと?」

 「そう」

 「デート?」

 尋問がはじまっているらしい。「楽器屋の上にあるレンタルスタジオに連れてってもらったの。そこで彼がギターを借りて、弾いてくれた。私はそれに合わせてうたってた」

 数秒沈黙。

 「──歌を?」

 なにこの微妙な反応。「うん」

 「で?」

 「で、とか言われても」

 「それはデートだったと?」

 「なにをデートっていうのか、よくわからないんだけど」

 「片想い?」

 「は?」

 「いや、デートだって言ったじゃん。恋愛に年齢は関係ないとかも」

 確かに言った気がするが。「ねえ、彼は二十八歳よ? 私は十五よ? 現実的に考えてよ。そりゃ大人なら二十離れてても恋愛できるかもしれないけど、私は中学生よ。普通に考えてありえない。冗談も通じなくなっちゃったの?」

 「──ああ」

 なんだこの反応。「納得してくれました?」

 「うん、いや、ごめん。そういやそうだ。なんかボケてた」

 なんなのだろう。「もう尋問終わった?」

 「いや、まだ」

 「今度はなに」

 「うーん──」特に用意があるわけではないらしい。「じゃあ日曜はなにした?」

 「アニタたちと買い物に行った」エデとの一件を怒ってないならつきあえとかで。「昨日は学校。夜は拉致られてドライブしてた」

 「拉致? ドライブ?」

 「そう。後輩の兄貴。免許とって車手に入れたとかで、ほぼ強制的に車に乗せられて、ローア・ゲートまで連れて行かれた」

 「ふーん──楽しかった?」

 「微妙」愛想もなく即答した。「あんまり仲よくないの。相性が悪くてね。そのあと一度ウェスト・キャッスルに戻って、そいつの弟も連れて、またドライブ」

 「最初は二人でローア・ゲートに行ったってこと?」

 「うん。なんだっけ、アマウント──アマウント・アイランド? に、行ったの。湖みたいな川があって、ちょっと話して」ナイルと電話して。「すぐ戻ったけど」

 「へえ──それは確実にデートだ」

 「やだ、やめて。絶対違う。だいいちそいつ、つきあってる女がいる」

 「え」

 うん、この反応は特におかしくない。「なに考えてるのかよくわかんない奴なの。仲は悪いし、すぐ喧嘩しそうになる。そういうんじゃない。なんか怪しい雰囲気にはなりかけたけど、電話がかかってきて救われたし」

 「怪しい?」

 本当に、なんだったのだろう、あれ。「ちょっとね、変な空気になった」アゼルと似たようなことをしてきた。「でもそれはいい。あ、ついでに金曜のことも話そうか」

 「ええ──なに?」

 気づけばこちらが主導権を握っていた。「放課後、文化祭の準備が終わったあとにね、学年の連中──ぜんぶで百人くらいを、学校のグラウンドに集めたの」木曜は喧嘩ショットを撮るのに忙しかったので。

 「うん」

 「そいつらをね、二十人ずつくらいで分けて、男女関係なく適当に並ばせて、手繋がせて、万歳させた」

 「え」

 私は説明を続けた。「でね、私は台車の上に立ってカメラを構えて、クラスメイト二人にそれを押して走ってもらって、そいつらのうしろ姿を動画で一気に撮影してったの」

 「まじで? 危なくない?」

 「言われたけどね。楽しかった。友達が支えてくれてたし、平気。他のクラスの連中は、かなりわけわかんない状態なんだけど。夕日に向かってだから、わりといい映像が撮れたよねっていう」

 その夕日が嘘だったかのように、今日は雨が降っている。

 「すごいな。もうそろそろぜんぶ完成しそう?」

 「ううん」否定した。「最後の一曲はまだ手つけてないし、木曜と金曜に新しく撮ったのを、また編集しなきゃだし。でもみんなの中でイメージが固まってきたから、ちゃんと間に合うはず」

 「そっか。楽しみ。中学の文化祭に一般解放がないってのが残念」

 「なくていいよ、そんなの。なくても勝手に紛れるバカはいるし」

 「え」

 「あとね」私はまた話を切り替えた。「昨日から私は先取りで、早くも秋制服に切り替えました」

 「話変わりすぎだけど。そういえばその格好って、見たことない気がする。っていうか、ベラの制服姿って見たことない」

 「そうだっけ。私はシャワーが大好きだから、すぐ着替えちゃうしね。秋冬の制服は気に入ってるの」アゼルを思い出すことに間違いはないのだけれど、それでも。あれを着ている時が、いちばん落ち着く。「私が着てったもんだから、今日は学年女子の三分の一くらいが便乗してたな。暑いとか文句言いながら」

 ルキアノスは笑った。

 「じゃあ今度、制服見せてくれる?」

 「たぶん文化祭ので見られると思う。私はそれほどうつってないと思うけど。っていうか、見ても特に意味はないと思うけど」

 「まあ──」

 「あ。今週の土曜か日曜、どっちかは知らないけど、ナイルにケーキ買って持って行く。チーズケーキをホールで買って、あとは適当に」

 「また話が変わった」と彼が言う。「なに? 誰かと話した?」

 「ナイルにそう言ったの。ナイルはあなたの家でって言ってた。あなたがいいならだけど」

 「それはいいけど」

 「ならそっちで土日、どっちか決めて。っていうか、たぶんゼインのデートが優先されるんだろうけど。今度は遅刻しないから」

 「ああ。じゃあ──先にゼインに訊いて、曜日が決まったら、二人でケーキ、買いに行こうか。半分ずつ出す」

 「アドニスたちは連れてかないの?」

 「ケーキ屋って、大人数で入る雰囲気じゃないし。アドニスとゼインがいたらうるさいことになるし」

 確かにそうだ。「わかった。今度はちゃんと行く」

 「うん。今度遅れたら罰ゲームあるから」

 「なに」

 「それは言わない」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 水曜、秋冬制服で登校してくる女子の数はまた増えていた。二年や一年の一部も便乗して。

 そしてエデが昨日、マルコの新車でドライブしたとかで、A組付近はその話題に潤っていた。照れ自慢を続けているらしい彼女に、はじめてまともに同情した。残酷すぎる。

 土曜日はケイネル・エイジに向かい、ルキアノスと待ち合わせをた。ランチをとってシャンパンを買ったあとケーキ屋で、わざわざレアチーズケーキを予約注文しておくというルキの手際のよさを目の当たりにした。

 ルキの家のゲームルームでミスター・ピンキー・レオパードの姿を見つけると、私は飛びかかるように彼を抱きしめた。こいつを手に入れてからしばらくは落ち着くなんて感想、特に持たなかったけれど、そう言ったゼインやアドニスの気持ちがわかった気がした。

 だけど午後二時、アドニスとゼインと一緒にルキの家に来たナイルに、あっさりとミスターを奪われた。

 ケーキを取り合ううちにシャンパンはすぐなくなり、ビールに切り替わった。泊まりで夕方からデートがあるらしいゼインが先に帰ると、残った私たちは夕食を外に食べに行き、解散した。

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