* secret and promise
「誕生日ケーキに灯すキャンドルは、一本多くするのよ」
「どうして?」
「パパとママの他にも、お祝いしてくれてる人がいるかもしれないから。その人のぶんよ」
「なにそれ?」
「決まりごとはもうひとつあるよ、イザベラ」
「なに? パパ」
「ケーキのキャンドルは、一気にぜんぶ吹き消しちゃダメなんだ」
「どうして? アニタは、いちどでぜんぶけさなきゃって言ってた」
「一度にぜんぶ吹き消すと、願い事も一緒に吹き飛んじゃうんだよ。それに、願い事がひとつしかできない。大切なのは、キャンドルひとつひとつに、願い事をひとつずつ込めて火をつけること。叶いますようにって祈りながら、その火をひとつひとつ吹き消すこと。自分の息で未来に送るんだ。キャンドルの火がちゃんとひとつずつ消えれば、未来が願い事を受けつけたって証拠になるんだよ」
「あら。素敵な話ね、ジョニー。あなたってそんなにロマンチストだったの?」
「受け売りだよ。昔あいつが言ってた」
「そんなの初耳だわ」
「あいつも覚えてなかったさ。酔った勢いで言ってたんだから。そもそもあいつは、誕生日のケーキにキャンドルを挿すなんてことすらしないし」
「ケーキを食べる時はいつも手掴みだったものね。ダイナーでケーキにキャンドルを挿して誕生日を祝ってるカップルを見かけた時、それで煙草の火をつけてたし」
「ああ、あったな。しかも詫びにって、ケーキにその煙草を挿した」
「あれには笑ったわ。あの時のあの客の顔。けっきょくチョコレートとイチゴを奪ってたし」
「あのカップルは悲惨だったけど、ある意味あれだけで済んでよかった気もする」
「よくわかんない!」
「ああ。ごめんよ、イザベラ。この話は内緒だ。キャンドルの話も、誰にもしちゃいけない。うちだけの決まり事だから」
「アニタにも教えちゃだめ?」
「そうだな、教えないほうがいい。教えたら、君の願い事が叶いにくくなるかもしれないよ。神様ってのは、とんでもなく意地悪だからな」
「あなたの言い方もじゅうぶん意地悪よ、ジョニー?」
「そうかも。でもイザベラ、これは内緒だ。パパと約束、できる?」
「できるわ。だってママが、約束は絶対守りなさいって言うから」
「そうだよ。約束は破るもんじゃない。できないとわかってるなら、できる自信がないなら、そんな約束はしないほうがいい」
「約束する。私は秘密を守る」
「いい子だ──おいで。六歳の誕生日おめでとう、イザベラ」
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「ねえママ」
「なあに?」
「“あいつ”ってだれ?」
「“あいつ”?」
「パパとママがときどきはなすじゃない。“あいつ”」
「ああ──パパとママの友達の話よ」
「なまえはないの?」
「ないわ」
「どうして? なまえはだれにだってあるでしょ? 犬にだってなまえがあるじゃない」
「──“S”、よ」
「エス?」
「ねえ、イザベラ。“S”の話も、“あいつ”の話も、誰にもしちゃダメよ」
「これも“ひみつ”?」
「そう、“秘密”」
「なんだか“ひみつ”ばっかり」
「そうね。でも“秘密”なの。誰に言ってもわからないことだから」
「ふーん──」
「またママと“約束”、してくれる? “S”のことも“あいつ”のことも、誰にも内緒にするって。このことはぜんぶ忘れるって、“約束”してくれる?」
「──する! “やくそく”する!」
「ありがとう。大好きよ、イザベラ」
「わたしもだいすき、ママ。パパもだいすき!」
「それはパパに直接言ってあげてね」
「じゃあきょうはパパがかえってくるまで、おきててもいい?」
「まあ。そうね、ちょっと早く帰ってきてって、電話してみようか」
「する!」




