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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 11 * APOLOGY HEART
54/139

○ Mind Become Strong

 「経験上、二度目はそうなるわよ。心のどこかで身構えるの」両足を立てて額を空いている右手で覆い、私は目を閉じた。「信じようとしても、信じてるつもりでも、また同じ思いをしないようにって──たぶん、本能的に防衛線を張るのね」

 考えているのか数秒沈黙し、ゼインがつぶやくように切りだす。

 「つまり──やっぱ肯定?」

 「どうだろう。よくわかんない。アホ男とつきあってた時、一度目の浮気の時は、そういう奴だって知ってたはずなのに、この世の終わりかってくらい泣いた。自分がされるとは思ってなかったのね。二度目はないようにって、必死になってた。信じようとしたし、たぶん信じてた。

 でも二度目があった。泣いたりしなかった。すぐ怒りに変えたから、別れもしなかった。信じてはいたけど、本能が勝手に身構えてたのよ。受けたショックは最初と変わらないと思う。ただ衝撃に強くなっただけ。自分の知らないところで、衝撃に対するクッションが厚くなってた、みたいな──ほら、病気にかかると、ウィルスに対抗するために少なからず抗体ができるっていうでしょ? ああいう感じ」

 「ああ──」納得したのかしてないのかよくわからない反応だった。「お前は? 怒鳴ったって、やっぱキレたから? ショックあった?」

 「ありまくり」私は無愛想に答えた。「いちばん可能性がないと思ってた友達が、そのメインの人間の中にいたのよ。思わず唖然とした。そのうえ奴らが友達だのなんだのって、わけわかんないことばっかり言いだすもんだから、思わずキレたの」

 「ああ。けどまえのオレほど、変なことにはなってない気がする」

 サビナの過去を知った時の彼と比べればという意味か。

 「だから、私は特殊。諦めが早いの。怒りを爆発──まではいかないけど、キレたわけだから、そのあとは呆れ。早かったわよ、そこまでいくの。今はもうどうでもいい」

 「早いなおい」彼はつっこんだ。「んじゃその友達に対する態度とかも、ぜんぜん変わんねえわけ?」

 「変わらない。もともと、そういうのに振りまわされてどうこうなったりしないし。私が知らなかっただけで、そういうことをするのもその友達の一部だってことでしょ。今まで見えなかったけど、そういう部分があったってだけ。私がイジメみたいなことを嫌ってるって知っててそれやったんだから、そいつもそいつなりに必死だったのよ、たぶん」たぶん。「よっぽどエデにムカついたんだと思う。それに男友達が、私がひとりで喧嘩売るところばっかり見てるから、集団はどうかと思うって言ってたんだけど。普通の人間からすれば、私のほうが狂ってるわけでしょ? なにもおかしいことはないじゃない。そういう習性を持ってるのが女なんだし」

 今度は彼、愕然とした。「言い切っちゃったよおい。──なんかさ、思ったより衝撃受けてない自分に気づいて、サビナにすげー悪い気がして。変な罪悪感が」

 「そんなの感じる必要ない。私の友達の話を言い換えれば、サビナは昔のことをあんたに話して、二度としないって決めてたはずだったのに、同じようなことをまたした。それだって、よっぽどだったんじゃないの、知らないけど。黙ってりゃバレないのに、なんで話しちゃうんだろうね。バカなのかな」

 彼が空笑う。

 「ほんとだよ。なんで言うんだ。黙ってろよってな。いや、そりゃ話してもらえんのも嬉しいんだけどさ。だったら元気ない時にまず話せよって。信用されてんのかされてないのか、さっぱりわかんねえ」

 信用。どちらなのだろう。信用していないから、シカトされている時には話さなかった? 信用しているから、終わってからぜんぶ話した?

 つまり。「意地かもね」私は答えた。「同情なんかされたくないし。嬉しくないし。心配もされたくないし。よけいなお世話だし。うざいだけだし」

 「お前ふうに考えるなよ」今度は天を仰ぐ勢いで答えた。「ああ、でもそうかも。心配かけたくないってのはあったのかも」

 なぜ私ふうがダメなのだろう。こいつも恋の病の犠牲者か。

 「でも、あんたの気持ちは信じてたのかもね」いつのまにか、右手は額から離れている。「それか、別れてもいいと思ってたか」

 「お前、マジで意地悪い」無愛想な声。「一言よけいだ」

 「ショックが和らぐのはべつに悪いことじゃない。RPG風に考えればいいよ。ダメージ受けてレベルアップして、いつのまにかレベルがマックスになって、隠れボスにも立ち向かえるほどの強さになってるみたいな」

 わけのわからない言葉にゼインはふきだし、げらげらと笑った。

 「隠れボスってなに!? いつ出てくんの!? ドラゴン!?」

 「気をつけて。地獄に住む赤いドラゴンは火を吹くわよ。すやすやと眠ってたかと思えば突然起きて火を吹いて、“お前なんかに娘はやらん!”って怒鳴るわよ」

 電話のむこうでゼインがさらに大笑いする。

 「結婚か! 早いわ!」

 「そのまえにやられちまえ」と、私。「全滅しちまえ」

 「立ち向かえるっつったじゃん!」笑いながら言った。「お前かと思ったら親だし。びびるわ」笑いをこらえようとしている。「ああ、オレも、もうどうでもよくなってきた。それほど衝撃がなくて、別れようとも思わなかったから別れなかったし。もういいか」

 「そうそう。もうどうでもいいじゃない。忘れなさいよ。そんで二度と私の前でこの話題を持ち出さないで」

 「あれ、やっぱまだキレてる気がするけど、まあいいか」ようやく笑いがおさまる。「ナイルたちにはまだ言ってねえんだ。サビナと電話終わって、すぐお前にかけたから。もう言わないほうがいいよな」

 「うん、言わなくていい。ナイルなんか特に、またヒく可能性があるし。そもそもあんたは自分とサビナのこと、話しすぎなのよ」

 「そーか? オレはナイルにはよく話す。だって愚痴聞き役だし。お前と一緒で、あいつもすげー冷たい答え返してくれるんだけどな。二言めには、“そんなにムカつくなら別れろ”だよ」

 笑える。「私は苦手だけどね、そうやって話すの。時間が経たないと、ほとんど無理かな。どこまでも一匹狼」

 「だよな。学年の女子の半分以上が関わってる一件で、なんでお前がまったく気づかなかったのかってのが謎。どこまで鈍感? どんだけ無関心?」

 それは私が訊きたい。「知らないよ。あいつらだって隠してた部分はあったらしいし。それでも私が校長室に呼ばれたってだけで、あっさりそれを暴露したわけだけど。わけわかんない」

 「あ、それはオレも不思議に思って、サビナに訊いた。エデがぜんぜん学校に来なくなったもんだから、収拾のつけかたがわかんなくなってたんだって。今さら誰かが連絡入れるのも変だし、乗り込んでもどうすりゃいいかわかんないし? そもそも、エデが状況をわかってんのかが微妙だし。そこにお前が呼び出されて疑われたってもんだから、けっきょくメインで関わった奴ら、満場一致でお前に話すことにしたって」

 話を聞いて、私は唖然としていた。

 収拾のつけかたがわからなくなった? 自分たちから仕掛けておいて? どこまでバカなのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「もうやめよ、この話」私はすがるように彼に言った。「呆れを通り越して完全な同情になりそう。情けなさすぎて泣きそう」

 どうやら頭のいい人間が数人集まったところで、なんにでも手際よく対処できるというわけではないらしい。

 ゼインが苦笑う。

 「確かに。ダチがそんなだったら、ちょっと情けないわな。んじゃ話変える。ナイルの誕生日プレゼントの、アドニスとルキに言った。季節感なさすぎだってつっこんでたけど、逆にそれを笑いにすんなら、早いほうがいいんじゃねって言ってる。けどオレ、日曜はデート。だから土曜はって話なんだけど。ルキから電話きてない? 夜かけるっつってたんだけど」

 「ううん、きてない。シャワー浴びたあと、部屋に戻ってすぐあんたからの電話に気づいて、かけなおしたから」

 「あれ、まじで? んじゃ電話きてるかも」

 かけたほうが早いか。「じゃあ電話してみる」

 「そーして。あ、あと」彼が続ける。「サビナの学校での写真、欲しいんだけど」

 「ストーカーですか?」

 「いやいや。だってお前、サビナに写真、ほとんど渡してねーべ? 夏休みの終わりに友達とおしてちょっともらったけど、さすがにそれ以上は言えないとか言ってた。それに、文化祭のが完成したら映像焼き増ししてもらうから、それで観れるしって。それはそれでいいけど、写真じゃねえし。だからオレが言ってみるって」

 「じゃあ適当にプリントして、明日持っていく。ナイルにメール送るまでの無理やりな時間潰しのテーマをくれてありがとう」

 少し嫌味を込めて言うと、彼はまた笑った。

 「オレもそこまで起きててやろ。アドニスとルキにも送れってメール入れとく」

 ものすごくアホな集団に思えてきた。「ついでにあんたとアドニスたちの写真も、ちょっと渡しといてあげようか? サビナが、こっちはこっちで遊んでることを知ってるんならの話だけど」

 「知ってるけど、それこそストーカーみたいになんねーか? しかも最近ので言ったら、プールで遊んでるとこがほとんどだし。ミスター・ピンキー・レオパードとロアー・キットのスープレックスだし!」

 その言葉で先々週の日曜、ルキアノスの家に行った時のことを思い出した。私はふきだして身をよじり、大笑いした。

 ルキアノスと一緒にドーナツを買いに行くことになった時、その前に見せたいものがあると言うアドニスたちに、プールに連れていかれた。そこで私とゼインは爆笑した。

 つぶらな瞳のロアー・キットがミスター・ピンキー・レオパードに、ジャーマン・スープレックスというプロレス技をかけ、プールにぷかぷかと浮かんでいたのだ。ミスターのヒトを見下したような目が、なぜか妙にうつろに見えて、失神寸前のようにも思えて、ものすごく切ないことになっていた。しかもナイルが写真を撮ってくれていて、彼らはそれを一枚ずつ印刷して家にまで持ち帰った。

 ちなみにロアー・キットはけっきょく、アドニスの妹の手に渡った。大喜びだったらしい。フラッシュ・サンダー・サーベルには、弟はそんな年じゃないと反抗したけど、クッションを盾に、アドニスは弟と剣士遊びをしたという。

 「わかった」私は笑いをこらえながら言った。「あの写真だけ、サビナにあげる。サビナもストーカーになんてなりたくないだろうし」

 彼も笑っている。

 「あれ、サビナも笑ってた。ナイルのやつ、写真撮るのうますぎ」

 ナイルの写真には“あじ”がある。「デジカメ買えばいいのにね。そしたら私みたいに、プリント地獄に落ちるけど」

 「それがイヤだから買わないっつってた。欲しくなったりはするらしいんだけどな。オレらはお前やルキみたいにリッチじゃないし。データだけ渡すにしても、さすがに学校の奴にPCアドレスまで教えるのはイヤだしって」

 理解できる。「ほとんど使わないけど、携帯電話のカメラがすごくラクよね。しようと思えば印刷もできるのに、画像だけで納得してくれるもん。私も撮るのは好きだけど、デジカメはさすがに失敗だったと思ってる」

 「だろうな。今なんか学校で撮りまくってるし。お前が相手だから言いだせないだけで、欲しがってる奴はわりといると思うわ。だからって全員から金とったとしても、印刷にわりと時間かかるし。せめて普通のプリンターがありゃ、ちょっと安っぽいものの、紙に印刷できるんだけどな」

 私ははっとした。紙に印刷。その手があったか。

 「そうだよ。紙でいいじゃん。学校のプリンター使って印刷すればいいんだ。しかもA4紙に、何枚かまとめて印刷。あ、できた。これいい」

 「おいおい」呆れたらしい。「一枚や二枚じゃ済まねえだろうし、量が半端ないんだぞ。見つかったら怒られるわ」

 それもそうかとまた納得した。「じゃあやっぱり、今までどおり無視ね。言ってきた奴にだけ、金とってプリントする」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ゼインとの長電話を終えた頃には、二十二時三十分に近い時刻になっていた。たっぷり一時間は話していたらしい。携帯電話の電池残量が四十パーセントを切っている。新着メールにもかまわず、今度はルキアノスに電話した。彼は二回目の呼び出し音が鳴りはじめる前に電話に出た。

 「ハイ」私は仰向けのままで切りだした。「今平気?」

 「うん、平気。何回か電話したんだけど、通じなかった」

 「ごめん。ゼインと電話してた」

 「ゼイン?」彼が訊き返す。「ずっと? この一時間のあいだに、三回か四回はかけたんだけど」

 「そう、一時間くらい話してたから」

 「長いな。なんかあった?」

 あった。「ううん」嘘をついた。「サビナに写真をあげてほしいって話だったんだけど、なんか色々と雑談が入って」

 「ふーん──じゃあ聞いた? ナイルのプレゼントをいつ買いに行くかってのも」

 「うん、聞いた」彼の声は、眠くなる。話しかたのせいか。「ナイルは連れていかないよね」

 「連れてかない? 用意してから呼び出すってこと?」

 「違うの? 役割を分けるってのは? 誰かが店を選んで誰かがモノを選んで、私が買う。誰かがカードにメッセージを書いて渡すのよ」

 「ああ、聞いたけど──そっか。ナイルの好みは無視か」

 「じゃあゼインに選んでもらう? いちばん好み、わかってるかも」

 「かもな。ならメッセージはアドニスにやらせる。店は俺が選ぶ。エイト・フラッグ・エリアで」

 ウケ狙いでないのならいちばんありえないところだ。「だめ。あそこは変な店が多いもん」エイト・フラッグにはじめて行ったのは、去年のちょうど今頃だ。ホラーハウスで使うマスクを買うために、アゼルとマスティとブルに連れていってもらった。「それならファイブ・クラウドのほうがいい」

 「そ。で、なんでマフラー? すぐには使えないじゃん」

 「最初に会った時、彼がマフラーをつけてたから。普通のマフラーだったんだけど、なんかその印象が強いの」

 「ああ、なるほど」と、ルキ。「時間は? ランチ食べてからでいいか」

 今日の彼は淡々としている。「いつでもいい──あ。じゃあ私は、午前中に買い物を済ませてくる」

 「なに、またよけいに買おうとしてる?」

 「違う。今日男友達七人が家に押しかけてきて、デジカメで撮った写真、プリントしたの。大量の用紙がなくなった。サビナのぶんも印刷しなきゃだし、また用紙とインクを買いに行かなきゃならないから、ウェスト・アーケードで買ってくる。そういうの、ちょっと安い店があったはず」

 「ああ──じゃあランチは?」

 「知り合いのところにも寄って、つきあってもらうかな」サイラスのところだ。「だからそのあとね。一時か二時くらい。ランチが終わったらメール入れるってことでいい? 二時までには連絡する」

 「わかった。じゃあその頃にはセンター街にいるか、行けるようにしとく。こっちも着いたらメールか電話する」

 「うん。じゃあまた、土曜に」

 「うん。おやすみ」

 「おやす──み、って、寝ちゃダメよ。ナイルにメール送らなきゃ」

 「あ、そうか。まあいいよ。おやすみ」

 いいのか。「おやすみ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 電話を切ったあと、眠い目をこすりながらもサビナに渡す写真をプリントした。ひとまず十五枚。

 今頃気づいたのだけどダヴィデから、トルベンに訊かれて、“お前がばーちゃんと二人で暮らしてること喋った、すまん”というメールが届いていた。まあどうでもいい。

 零時数分前になって、ナイルへのメールを用意した。

 《十七歳の誕生日おめでとう。ゼインが教えてくれた。幸せの海に、存分に溺れてくださいな。平日でデジカメを持って行けないのが残念。今度会う時があなたの誕生日ってことで、ケーキを奢ってあげる。私たちが一切れのケーキに十七本のキャンドルを挿して、ケーキを台無しにしないよう見張ってて》

 固定電話の子機で時報ダイヤルに電話して、零時になった瞬間に、そのメールを送信した。

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