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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 10 * REVENGE HEART
48/139

* Unexpected Incident

 「何事ですか?」

 妙に重苦しい空気の中、手を脚の上で組んでソファに背をあずけ、校長と教頭を見やりながら私は訊いた。彼らは一度深刻そうな表情で顔を見合わせてから、同時にこちらへと視線を戻した。

 校長が静かに切りだす。「先日ある保護者から、ある訴えがありました」目立たないよう深呼吸をして続ける。「──自分の子供が、いじめを受けていると」

 私はぽかんとした。「は?」

 教頭が慎重に、言葉を選んで説明する。「その家庭の保護者によると、その生徒は夏休みが終わる少し前から、学校で生徒たちに──意図的に、避けられているんだとか。そのせいで、大変な精神的苦痛を与えられているとのことです」

 意味がわからない。「はあ」

 「保護者は、中心になっているのは君だと名指ししてきました」

 え。

 カンニネン学年主任が言い訳がましく割って入る。「もちろん、こちらも、すぐには納得しませんでした。調査してみなければわからないと。ですが──」声を小さくして言葉を切った。

 ですが?

 戸口もたれて腕を組んでいる主事があとを引きとる。「小学校に問い合わせてみればわかる、と言われた。で、お前のことを問い合わせた。なにかそういった問題を起こしたことはあったかと。お前の昔の担任に話を聞けた。数年前、お前がリーダーだったグループで、お前を中心に他生徒に対するいじめ行為があったと」

 ──小学校。数年前。担任。イジメ。

 あの時のことだ。小学校三年の、ジャングルジムでのこと。

 意味を理解したとたん、私はふきだし、天を仰いで大笑いした。

 やばい。今になってこの話が出てくるとは思わなかった。六年も経つのに、まだ覚えているのか、あのエコヒイキ男。というかまだ小学校に教師として存在してるのか、あのクソ担任。

 「グラール」呆れた様子の主事が言った。「笑うところじゃないだろ」

 はっとして笑いをこらえた。「ごめんなさい」座りなおして喉を鳴らす。落ち着け、落ち着け。

 「──では」カンニネン主事が懸念の表情で尋ねる。「それは、事実ですか?」

 事実かどうかで言えば。「ええ、事実です」

 微笑んでそう答えると、彼らは戸惑った様子で再び顔を見合わせた。

 「まあ、受け止め方によるんだと思いますが」私はなにも見ずに続けた。「元担任の中では、そういうことになってるんでしょう。私の中では、少し違います。確かに小学校三年の時、そういったことはありました。数人で遊んでいて、そこにある生徒が一緒に遊びたいと言ってきた。結果的に、仲間はずれみたいになりました。

 女だけのグループがあって、いつもは私がなにをして遊ぶか決めてました。ドッジボール、鬼ごっこ、トランプ、オセロ──私は普段から“リーダー”っていう立場にいるつもりはなくて、なにをするか訊かれ、なにをするか決めろと言われてたからそうしてただけです。誰が決めても同じだと思ってたから。

 でもその日は違った。私じゃなく、別の子がジャングルジムで鬼ごっこをしようと言いだした。私たちもそれに従った。だから一緒に遊びたいって言われた時、私は言いだした子に訊いてって言いました。今日はその子がこれで遊ぶって決めたからって。

 でもその子は、ベラがリーダーなんだからベラが決めてって。そこからはふざけながらの言い合いです。私はリーダーになんかなったつもりはない、だけどその子は、ベラがリーダーだって。私たち、その子がキライで、でも一緒に遊ぶのはべつによかった。ただリーダーっていうのに要点を絞ってしまっただけだと思います、よくわかりませんが。

 気づいたらその子はいなくなってました。なんでも泣きながら教室に戻ったとかで、それを見つけた他の生徒たちから話が漏れたらしく、あとで私たちは担任に呼び出され、一部始終を説明しました。私たちは自分たちが間違ってるなんてちっとも思ってなかった。ただ論点がずれてしまっただけ。

 だけど話を聞いた担任は、最終的に私がリーダーで、その一件の首謀者も私だってことで判断をくだしました。あの担任にどこまで聞いたかわかりませんが、あのヒトはその日の放課後、私の母親を呼び出して注意もしました。私がこんななので当然、母親もこんな感じで、“くだらないことで呼び出すな”、ですけどね」

 説明を終えると視線を上げ、私は口元の苦味を感じながら校長の視線を受け止めた。

 「これがおそらく先生たちが聞いたっていう、私の“いじめ遍歴”です。誰がどう言おうと、私はこれを“いじめ”だとは思ってませんし、なにひとつ後悔はしてません。それぞれの受け止め方の違いなので」

 校長と教頭はまたも顔を見合わせると、ほっとしたように息をついた。視界の端で、学年主任があからさまに安心しているのが見えた。

 「つまり──」校長が切りだす。「誤解ですね。見解の違い」

 「いや、ぼくたちは信じてましたよ」教頭は毅然とした態度で言った。「ここにいる四人とも、君はそんなことをする生徒ではないと」

 それは裏を返せば、ババコワは疑っていたと言っているように聞こえる。

 「まあ、なんでもいいです」と、私。で、なんだったか。そもそもの話のはじまり。「なんでその保護者がその話を知ってるのかはわかりませんけど」そういえば、本当になぜだろう。「私は、あの元担任には嫌われてましたし、理解してもらえなかっただけだと解釈してるので」

 あの放課後の呼び出しは、秘密裏に行われたものではなかったのか。確かにアニタとアニタママは知っているし、ゲルトもペトラも、他の何人かは知っていることだけれど。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 背筋をぴんと伸ばし、カンニネン教諭が改めて切りだした。

 「では、ミズ・グラール。今現在、誰かを避けている──意識して過度に避けているようなことはありませんか?」

 「むしろ避けまくりですけど」私はけろりと答えた。「私、あまりヒトとつるむのが好きじゃないというか、すごく仲のいい友達ってのがほとんどいないというか、それなりなつきあいの人間とどうでもいい人間とキライな人間が多いので」

 「そういうことじゃない」主事はこちらに来て、隣の二人掛けソファに腰をおろした。「ようするに“いじめ”に近いことだ」

 「だから、しませんよ。私はキライな奴とでも話せる人間です。今まで本気で意識して避けたのは、おそらくひとりだけ」忌々しい存在、ミスター・ネストール・ブランカフォルト元生徒会長。「でもそれは同期じゃないです。同期の奴に対する態度は、夏休み前とちっとも変わってません」

 「なら、周りでそういうことが起きてる気配はないのか? いじめを訴えたのは女子生徒だ。その生徒を避けてるのは、ひとり二人じゃない。数人から十数人はいるはずだ。さすがに目立つと思うが」

 「だから、知りませんて。少なくとも私の周りはそんなことにはなってないはずです。っていうか、仲のいい奴のこと以外、ほんとに気にかけないんですよ。仲がよくても気にかけなさすぎて、無関心だなんだって言われるくらいですから」

 答えが気に入らないのか、彼らは一斉に深い溜め息をついた。

 「では、少し質問を変えます」校長が言った。「三年A組の生徒、ミズ・エデ・ワルテルはわかりますね?」

 なぜその名前が出るのだろう。「はいもちろん」

 「彼女が二学期──正確には始業式がはじまる少し前の夏休み、文化祭の準備期間から、学校に登校していないことは?」

 「ああ、そういえばそんなこと、A組の男子から聞きました」とは答えたものの、私ははっとした。「──まさか、エデがいじめを受けてると?」

 深刻な表情の校長は、こちらの目をまっすぐに見ながらゆっくりとうなずいた。

 「そうです」

 口をあんぐりと開けての、はあ? と言いたいのが率直な反応だった。

 だが私は冷静。「その首謀者が私だと?」

 「ええ、そうです」

 納得した。知っていて当然だ。小学校三年のあの事件の時、担任に告げ口をしたのはエデとカーリナだ。話したのだとしたら、エデの親が知っていることなどなにも不思議ではない。

 教頭が私に訊ねる。「思い当たることは? クラスが違うのは承知ですし、ボダルト教諭やゲルハラ教諭によると、君が彼女と一緒にいるところはあまり見たことがないとのことですが──」

 「仲は悪いです。小学校の時から嫌われてるので、私も嫌い返してます。いちいち喧嘩売ってくるので、その喧嘩を買ったことは何度かあります。売ったこともあります。ですが、そういういじめってのは──」

 私が言葉を切ると、今度は主事が口を出した。

 「この件に関するリーダーはわからんかもしれんが、それ以外のことはわかるだろ。ワルテルが学校を何日も欠席したうえでそう訴えるってことは、周りにいる近い人間にそういうことをされてるってことなはずだ。浮かばんか?」

 と、言われても。「ごめんなさい、ほんとにさっぱりです──」そう答えながらも、私は頭をフル回転させた。

 エデの周りということは、カーリナでサビナで、ぺトラでカルメーラでチャーミアンでアウニで、その他諸々で──あのカーリナが、エデをいじめる? 確かに性格は悪いが、常にエデとセットなのに? というか、エデがリーダーだったはずだ。

 サビナ? 昔のことを泣きながらゼインに話して、赦してもらったのに? 改心してなかったということ?

 ぺトラ──エデが私のことをどう言っていようと無頓着。私が気にしないのを知っているから。それどころかその悪口の内容をわざわざ報告してくれる。

 ちょっと待て。ぜんぜんしそうにない。まったくわからない。

 地味真面目グループに無視されたからといってエデが気にするはずもないし、むしろ普段からエデが無視している感じだ。だいいち夏休み中など、編集作業に没頭していたし、A組その他のことまで気にかけていない。

 確かにA組の空気が微妙だということは時々聞いてたものの、エデがずっと休んでいることなんて、私はついこのあいだまで知らなかった。しかもそれだって、マルコと遊び呆けているという話だった。それも、他の女子には言うなと口止めされたが──。

 “他の女子には言うなよ。もしかしたらオトコと遊んでるとこ見た奴もいるかもしんないけど、学校サボッてオトコとってなったら、よけいに反感買うだろうし”

 A組の男子は、私にそんなことを言っていた。

 反感? 自慢? なに?

 だめだ。さっぱりわからない。

 考えているうちにベルが鳴って、鳴り終わった。

 「──ちょっと」私は視線を上げ、校長に切りだした。「探ってみてもいいですか? 私には検討もつかないくらいさっぱりですけど、もしかしたらそういうの、あったのかもしれません。先生たちが闇雲に探るよりはいいかと」

 「最悪の場合」主事が私に言う。「お前が他の生徒たちから反感を買う可能性があるぞ。いいのか?」

 「それは平気です。私は反感をおやつにして生きてるような人間ですから。ちなみに訊きますけど、エデは学校に連絡してたんですか? 休むって」

 「それはあった。といっても、夏休みのあいだは自由参加だし、そういった連絡はなかったらしいが。始業式の日に風邪をひいたと連絡があって、それが長引いてるとかでな。保護者からの直談判があったのは今週の月曜。なんでもその日は忘れ物があって家に取りに戻ったら、ワルテルが家にいたそうだ。仕事が終わって、家に帰ってから事情を聞いた。で、放課後に保護者──母親が学校に来て、いじめの事実を訴えた。休むって連絡を入れてたのは、保護者を名乗るワルテル本人だったらしい」

 理解はしたが、最後の部分が気になった。

 「保護者を名乗る。私も真似しようかな」

 そうつぶやくと、主事に怒られた。

 「では」と、校長が話を戻す。「やってみてくれますか? そういう事実があったと確認できた場合、すぐにこちらに報告してください。もしも同時にそういう行動をとっていた生徒の名前が確認できた場合も、君はできるだけ責めずにいてください。生徒同士のちょっとした喧嘩ならともかく、いじめだという訴えがあった以上、こちらもその生徒たちから事情を聞かなければなりません。君の立場が微妙になる可能性はとても高いですが、それでもよければ」

 疑われた以上、立場もクソもない。「はい。ちゃんと報告します」

 あのエデを追い詰めるなどというおもしろいことを誰がしているのか、正直ちょっと興味がある。

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