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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 08 * SARCASM HEART
42/139

* Midnight Dream

 ゲームルームではナイルとアドニスがスキーで勝負をしていた。その光景を、ビール瓶片手にルキアノスがソファベッドから眺めている。

 「それ、何本め?」私が持っているビール瓶を見たルキアノスが訊いた。「かなりハイペースな気が」

 「ごめん、もう三本め」彼の隣に座る。「明日買い足しに行ったほうがいいかも」

 「いや、そういう意味じゃないし、それはいいんだけど。ほんとに強いな」

 春休みのあいだに、さらに強くなった気がする。「でも今、わりとまわってるよ? 頭がぼーっとしてるし、眠いし」彼のほうを向き、腕で頭を支えて半分横になる。すでに午前一時に近い。「十秒まぶた閉じてたら、もう寝てると思う」

 彼は笑って、サビナとゼインがどうしたかを訊ねた。

 「サビナが先に寝るって言うから、ゼインもあと追いかけた。サビナが寝たらまた戻ってくるかもって」

 「すげー文句言ってたの、こいつら」ゲーム画面からは目をそらさず、コントローラーを操作しながらアドニスが言った。「みんなでっつーのはもうないんじゃなかったのかとかなんとか。さすがに家に泊めるのはどうだとかなんとか」

 同じくゲームしながらナイルが口をはさむ。「俺らはなんも間違ってないし。あのバカの空気の読めなささ、どうにかなんないのかな」

 私も彼に言う。「ゼインは、ナイルにもうちょっと、サビナと打ち解けてほしいって。ゲームすらきっかけにならなかったから、かなり落ち込んでた」

 「そんなの無理──勝った!」

 「ああ! くそ!」アドニスは天を仰ぎながら声をあげた。「スピード速すぎだよこれ! あんなアングルで障害物なんか見えるか!」

 「俺に見えてんだから、お前に見えないはずないじゃん」と、ナイル。「設定でなんか変えられるんじゃないの?」

 そう言われ、アドニスは不満そうな表情で説明書を手に取った。

 「だいたいさ」ナイルは続きを口にする前にテーブルにあったビールを飲んでソファに背をあずけた。「普通、ふたりでいるほう選ぶんじゃないの? なんでわざわざこっちに出てくんのかがわかんない。来るなら明日の昼でもいいだろ」

 それは言えている。

 ルキアノスは苦笑した。「思い立ったら即行動なとこ、あるからな。あっちもだいじ、こっちもだいじ、みたいな。わからなくはないけど、時間と場所を考えろよ、みたいな」

 ナイルはそのとおりだと同意した。

 ふとした考えが頭をよぎり、私はルキアノスに切りだした。

 「ゼインが、たとえば高校受験の時のあなたみたいな立場になったら、ナイルにもサビナにも、同時に勉強教えることになるのかな」

 彼の元恋人のことを言ったのだが、二人は笑った。アドニスはひとりゲームの設定をいじりはじめた。

 「俺がゼインに勉強教えてもらうなんてありえない」ナイルが言う。「だったらルキに頼むわ」

 「っていうか、その状況をナイルが拒否するだろ。それしようとした時点で、ゼインが本物の、救いようのないバカってことになる」

 確かにと私は納得した。「とりあえず、サビナの心境が微妙なこともわかったし、ゼインはもうやめとくって」

 「それはよかった」ナイルはビールを飲み干した。「あのアホが来る前に全員寝てたらどうなるんだろ。あいつはひとり寂しくゲーム?」

 ルキアノスが応じる。「かもしれないけど、誰かはここで寝ることになるだろ。ベラが使うはずだったゲストルームが奪われたし。ベラなら、ディアンティアの部屋使っても、なにも言われないかもだけど──」

 「私がここで寝る。こいつで寝てみたい」

 「それはそれで贅沢だな」とナイル。「ひとりだとかなり広いよ。広すぎて落ち着かないとかないの?」

 アゼルがいなくなったあとは、あの屋根裏部屋が、ベッドが、妙に広く感じた。

 「平気。残念なのは傍にプールがないこと。夜中に起きてもプールに飛び込めないんだもん」

 ルキが笑って、ゼインとサビナがここで寝ればよかったのかもと言うから、また笑った。できれば一階では寝たくないというのが、私たちの本音だ。

 アドニスが突然声をあげた。「よっしゃわかった! もう完璧。アングル切り替え完璧。設定でアングルをオートにして、ついでに自己切り替えも学んだ。もう余裕」

 「オートって、俺のほうまで変わるわけ? やだよ、画面がチカチカ変わるの」

 「個別設定できる」彼はナイルに向かってコントローラーのボタンを示した。「もう一回勝負!」

 「もう眠い」とルキアノスが言う。「なんでそんな元気なんだ」

 「お前と違って普段からたっぷり寝てるからな」

 「前に同じ」

 ナイルがそう言って、彼らはまたゲームをはじめた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 いつのまにか、寝ていたらしい。

 すでにゲームルームは真っ暗──ではないものの、テレビの両側にあるオレンジ色の灯かりがふたつと、ドリンク・バーのカウンター下ライトをつけただけになっている。誰もいない。静かだ。身体にはブラウンと思われるシーツがかけられているが、手に持っていたはずのビール瓶がなくなっていた。置いた記憶はないのだが。

 なぜ起きたかって、リアルすぎる夢をみた。

 アゼルのバカが、また夢に出てきた。それだけならいつものことなので、べつにかまわない。

 だけどつないだ手の感覚が、頬に触れる手の感覚が、キスが、妙にリアルだった。声が、笑顔が、すぐそこにあった。

 「愛してる」

 私は言った。

 「俺もお前好き」

 アゼルが答えた。

 なのに、抱きしめようとしたら消えた。

 真っ暗な中に取り残されて、言いようのない恐怖に襲われた。気づけば夢の中、九歳の頃の私に戻っていた。

 白いドアのむこうから、両親のものと思われる怒鳴り声が聞こえてきた。

 恐怖に耐えられなくなって、起きた。

 私は、十五歳だ。

 現実に、戻ってきた。

 大きく、溜め息混じりに深呼吸しながら髪をかきあげ、再びソファに寝転んだ。

 リアルなのは、本気でやめてほしい。本気の本気でやめてほしい。夢の中でまで私を犯す気なのか。というか、九歳の時はアゼルのことなど知らなかった。

 右腕を勢いよくおろすと、シーツが指先に触れた。

 私はぽかんとした。

 自分がかぶっているのとは違う。色が違う。これは白だ。エアコンが効いているから二枚重ねだったのか。

 と、ランドリールームへのドアが開いた。誰かがまだ起きていたらしい。

 私は身体を起こした。

 「誰?」

 「ごめん、起こした?」ルキアノスの声だ。こちらに来る。

 「夜這いですか?」

 「違うし!」否定する彼の顔がうっすらと見える。「──っていうか、ごめん。気づいたら寝てたっぽい。さっき起きたんだけど、起きたらここだった。さっきの、話してた時の状態」

 寝起きだからか、頭の回転がいつも以上に鈍い気がする。なんとか意味を理解した。隣で並んで眠っていたらしい。

 「そ。今何時?」

 「三時過ぎてる」と答え、彼は白いシーツを手に取った。「これ回収しようと思って」

 「ああ。で、私が起きなきゃ、ここで眠りこけたあげく夜這いに来たってことは、永遠に黙ってるつもりだったと」

 「いや──」言葉を切り、彼はシーツを再びソファベッドに落とした。「もういいや。寝る」

 思わず笑った。

 「ごめん。今ちょっと、変なの。頭があんまり働いてない。しかももう一本ビールもらわないと、眠れないかも」

 ビールだけが唯一、記憶を麻痺させてくれる。ビールを飲んでいれば、それを理由に、アゼルのことを考える自分を許すことができる時もある。

 「なに? なんかイヤな夢みた?」彼が訊いた。

 後半は、イヤな夢だ。なら前半は? と、自分に訊き返したくなる。

 「アホ男の夢」と、私は答えた。「あと、地獄の夢かな。よくわかんない。覚えてない。でもなんか、天国から地獄に落ちるような、そういう夢」

 「──ああ」彼がソファベッドに腰かける。「寝るまでついてようか」

 「私は子供か」思わずつっこんだ。いや、十五のガキですけど。「平気。慣れてるから」

 そう答えると彼は気遣わしげな様子で、いつもそういう夢をみるかと訊ねた。たまにあるけど気にしないと答えると、そのたびに起きるのか訊いた。

 私は首を横に振った。

 「平気な夢と、平気じゃない夢がある。起きたくなる夢をみた時は、無理やり起きる。じゃないと、夢で疲れることになるから」なぜかふと、アゼルと最初に会った時のことを思い出した。「──私、膝枕なんかしてもらってないよね」

 「いや、それはしてないけど──腕に寄りかかりはしてたかな」

 「ごめん」

 「いや、いいけど。なんで膝枕?」

 私は苦笑った。

 「最初にあいつに会った時、すごく眠くて、ソファで寝たのね。気づいたら、あいつの膝枕で寝てた」

 「学校?」

 「ううん。みんなが集まって遊んでた家。あいつが住んでた家。リビングでみんながゲームしてて、私とあいつはソファに座ってた。コーナーソファの角。そこがあいつの定位置で」今はもう、コーナーソファに出くわしても、コーナー部分に座ろうとは思わない。「私もそこが好きで、どっちも譲らなかった。けっきょくふたりで座って、気づいたら寝てた」

 少し沈黙を作ると、ルキは静かに切りだした。

 「──名前、呼んでた気がする」

 「なんて?」

 「ア──ル? アル? なんかわかんない。そんな感じの」

 アゼル。マジだ。

 私は視線をそらして苦笑った。

 「夢の中で名前なんて、呼んだ覚えないんだけどな──アゼル。それが、名前」

 “愛してる”の、代わりにもなった名前。

 「──やっぱ、引きずってる気がする」

 言葉で反論するより先に、私はまた首を横に振った。

 「会いたいなんて思わない。好きでもない。それを証明する方法はわからないし、番号なんか消したところで、意味はないと思うけど。このあいだ、知り合いにも言われた。他の男とつきあえば忘れられるって。でも──」また頭の中に、別のことが浮かんだ。「あ」

 「なに?」

 「アドニスのとこに行かなきゃ」

 「は?」

 「言うことがあるの、忘れてた」

 「話の続きは?」

 「もう忘れた」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ルキアノスによると、私はアングル切り替えを覚えたアドニスとナイルが再び勝負をはじめてから、おそらく十分ほどで眠ったらしい。

 そのあとゼインがゲームルームに来て、少しのあいだ四人で遊んでいたものの、だんだん頭がまわらなくなってゲームを抜けて、ソファにいるうちに気づいたら寝ていたのだとか。彼らに起こされた気がするけれど、おそらくうるさいと一蹴して終了した。

 そのあと夜中に起き、一度はゲームルームを出たものの、シーツを回収しに戻ったところで、私に見つかったのだとか。隣で誰が寝ていようと、特に気にしないのだけどと言うと、こっちが気にすると言われた。男の考えることはよくわからない。

 二階、ルキの部屋からバスルームをはさんだ場所にあるゲストルーム。ここはシングルベッドがふたつあるツインルームだ。手前のベッドにナイルが、奥のベッドにアドニスが、いびきをかきながら寝ていた。ふたりとも同じ方向を向いて、同じような格好で眠っている。

 まずはルキアノスが、私のデジタルカメラで彼らの寝顔と寝相を撮った。フラッシュに表情を歪めたものの、ナイルもアドニスも起きなかった。私はアドニスのベッドの脇にしゃがんで、起きてと言いながら彼の身体をゆすった。

 少し続けると、彼はうなりながら仰向けになり、手の甲を額にあてて目を開けた。迷惑そうな表情でこちらを見る。

 「──なに」

 「単車の男、わかった」

 「は?」

 「私の知ってる相手だった。今年二十歳。その時は十七歳くらい?」

 「えーと──」頭が回転していないようだ。「──お前の、ウェ・キャスの奴ってこと?」

 言葉がなんだかおかしい。「そう。このあいだまで少年院に入ってた、筋金入りのアホ男。私がつきあってた男よりもさらに上をいく奴」

 「へえ──よくわかったな」

 「あんたから話を聞いた時、なぜか頭にそいつが浮かんだ。このあいだ少年院から出てきたから、訊いてみたの。そしたらやっぱりそうだった。本人は助けたわけじゃないって言い張ってる。だからお礼とかもいらないって」

 「ああ──で、なんで今? 起きてからでよくね? っつーかお前、寝てたじゃん」

 「うん、起きたから──」

 突然、ナイルがうなりながら寝返りをうった。「うるさい」と言ってクッションをひとつ、こちらに放り投げる。アドニスの顔にヒットした。

 「お前──」彼は目が覚めた。「オレが悪いんじゃねえよ!」クッションをナイルのほうに投げ返した。

 ルキアノスに引きずられ、私は部屋を出た。

 「俺の部屋、使う?」ツイン・ゲストルームのドアを閉めた私に彼が訊いた。「ベッドで寝ればいい」

 「ゲームルームに戻るわよ」

 「俺がそっちに行くから」

 「なんか変よ、それ。私はどこでだって眠れます」

 「またヤな夢みたらどうすんの」

 「どこで寝ても同じでしょ? それに、二度めは平気なことが多い。もしみたとしても、ダメージは特にないの。さっきも言ったと思うけど、慣れてるから」

 彼は肩をすくませた。

 「慣れるのもどうかと思うけど」

 「昔からだから、なんとも思わない。大丈夫。おやすみ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 朝は、夜中の報復かと思うほどうるさいはじまりだった。前日にアドニスが手に入れたタンバリンを、耳元でしつこくうるさく鳴らされたのだ。キッチンカウンターに書き置きを残し、ゼインとサビナは退散していた。朝の七時頃に帰ったようで。私が起こされたのは午前九時すぎだった。

 朝食をどうするかという話になり、面倒だからとブランチに私の奢りでピザを頼んだ。それを待つあいだ、ルキアノスの提案で、昨日デジカメで撮った写真を印刷した。ついでに彼らの写真ファイルをルキアノスのPCにコピーもした。その間、アドニスとナイルはビデオを借りにレンタルショップに行った。

 ピザが届くと、ゲームルームで映画を観ながらブランチを済ませた。なぜか真昼間からホラー。カーテンを閉めきってのホラー。レンタルランキング、ホラー部門で一位だったらしいが、悲鳴がうるさいだけで、特におもしろくはなかった。突然出てこられても、よほどでなければ驚かない。

 そのあとは機関銃型とノーマル型の水鉄砲、そして新しいビーチボールを持ってプール。まさかのダブルボール・ビーチバレーだった。

 散々遊んで夕方、私はひとりウェスト・キャッスルへと帰った。

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