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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 08 * SARCASM HEART
40/139

* Complicated Feelings

 けっきょくろくに花火を見ていないけれど、四番街と五番街を通って帰ろうかという話になり、ナイルが私のバッグの中で見つけたデジタルカメラで花火と自分たちの写真を数枚撮ったあと、再び人ごみの中に突っ込んだ。ミスター・ピンキー・レオパードはナイルのところに戻ったものの、フラッシュ・サンダー・サーベルを持ったアドニスが、自分もミスターが欲しいだのと言いだし、私たちはそれを置いている屋台を探した。一回四百フラムのくじ引き屋台で見つけた。空くじはない。

 四人でやることにして、まずはルキアノス。謎のトレーディングカードセット。小学生の男の子のあいだで流行ってるらしいもの。彼は絶句していた。

 続いてナイル、オセロ。思わずマブを思い出した。笑えない。ナイルも今さらいらないと言った。でもまあ使える。

 そしてアドニス。安っぽいけど妙にかっこよく見える、短機関銃型の水鉄砲。水鉄砲はもういいと怒った。

 最後に私。またビニール人形。ミスター・ピンキー・レオパードではなくて、それよりも縦に短くて横に大きい、ロアー・キットという雌猫の、リーズが大好きだったキャラクターだ。ミスターとは少し違い、輪になる腕は少し交差していて、首につけるには顔が大きすぎて無理で、ものすごく邪魔な、腕につけるタイプ。アドニスはでかすぎると文句を言いながらも、水鉄砲と交換しろと言った。丁重にお断りした。


 「お前の運がマジありえねえ。なにこのビニール人形率の高さ」

 ロアー・キットを左腕に抱えつつ、フラッシュ・サンダー・サーベルとその他景品を右手に持って、コンクリートの外壁にもたれるアドニスが言った。今は私たち、やっと祭り会場を抜け、メイン・ストリート沿いに建つ図書館前の歩道にいる。タクシーを待っているのだ。

 夜の十時前だというのに、メイン・ストリートの交通量は多く、少し歩いた先にあるバス停に向かっているのか、もしくはこのあたりの住人なのか、思う存分祭りを楽しんだといった様子で歩いていくヒトたちもいる。

 私は彼に訊き返した。「褒めてくれる?」

 「なにを」

 「あのアホ男の電話番号とアドレス、やっと消したの」

 「マジで? あと半年もしたら電話かかってくるかもしんねえのに?」

 アゼルは自分から電話をかけるタイプではない。「これからは登録してない番号、無視しないとね。アドレスも変えたほうがいいかも。あと、登録外着信拒否?」

 「本格的だな。けど家知ってんだろ? 普通に考えたら来るだろ」

 「来るの? どのツラ下げて? あれはやりなおしたいとか言ってくるタイプじゃないわよ。あやまるタイプでもない。あやまったことなんか一度もないし。あやまられても困るし、来られても困るし、っていうか、むこうだってさすがに冷めてるでしょ。私が冷めてんだから」

 「まあ実際どうかわかんねえけどな」アドニスはなぜか、気まぐれにフラッシュ・サンダー・サーベルのライトをつけ、剣を光らせてる。「お前、ヒトが持ってるパフェ見て欲しがるようなやつだし。実際目の前に来たら──」

 アドニスの隣で、ミスター・ピンキー・レオパードを抱えたまましゃがんで外壁にもたれているナイルの携帯電話が鳴った。ゼインからだ。電話に応じた彼は、少々驚いたらしい反応をし、少し待つよう彼に言って、アドニスへと視線をうつした。

 「ゼインが風船射的やって、SMBシリーズのオールスター・スポーツ、手に入れたって。しかも六月に出たばっかりの最新」

 SMB──確か“ストレンジ・メカニック・ブラザーズ”。元はおかしな発明ばかりしている兄弟が、その変な発明品で悪者を退治するというアクションゲームだ。マブにもあって、マスティとブルがよくやっていた。オールスター・スポーツはそのゲームシリーズに出てくるキャラクターたちを使って、何種類かある競技──ゴルフだのスキーだのバレーボールだので遊べる対戦可能なスポーツゲームだ。

 「マジで!? ちょ、帰りに持ってこいって言え」

 ナイルはアドニスの言葉をゼインに伝えた。なんだかんだと少しやりとりすると、ゼインがケイネル・エイジに帰ってきた時に彼らが取りに行くということで話がまとまり、ナイルは電話を終えた。

 「お前もルキんとこ泊まる?」アドニスが私に訊いた。「朝までゲーム大会」

 「泊まるのはいいけど、眠くなったら寝るわよ」

 「っていうか、ベラがいたら朝まで酒盛りになるような」と、ナイル。

 「あ、そっちのほうがいい」そういうゲームは苦手なので。

 「けど平気?」ルキアノスはナイルと並んで腰をおろしている。「なんていうか──」

 男三人に女ひとりだ。「私は平気。家も平気。あなたがいいならだけど」

 「それはぜんぜんかまわないけど」

 「なら泊まろうか──あ、でも、一回家に帰っていい? 着替えてくる」ついでにお金も取ってくる。

 「一回家に帰ったら、出てきづらくない?」ナイルが訊ねた。「時間的に」

 「ぜんぜん。先にルキの家に寄って、勉強道具回収して家に置いてくる」

 それは置いといていいようなと言うルキに、絶対イヤと返したのだが。

 「んじゃ先にお前んとこ行けばいいべ?」アドニスが提案した。「着替えだけ持ってくりゃ、シャワーはゲストルームの使えばいいし。こっちはタクシーに乗ったまま、家からちょっと離れたところで待ってりゃいいし」

 タクシーは、待ち時間もお金を取られるシステムではなかったか。まあいい。

 「じゃあそうする」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「あらおかえり──まあ」

 リビングから玄関ホールへと出てきた祖母は、左腕にロアー・キットを抱え、ミスター・ピンキー・レオパードを背中に背負い、右腕にアドニスからもらった小生意気そうな四角い顔をした猫のぬいぐるみを抱えつつ、手にフラッシュ・サンダー・サーベルと、他にも色々ともらった小物を持つ私を見て数秒、呆気にとられた。ロアー・キットを持ってくれて、私は心の底から解放された気分になった。首に腕を絡めるミスターが半端なく邪魔で、すぐにそいつを左腕に抱えなおした。ぜんぶ当てたのかと訊かれ、もらったものもあるけど、大きいのはほとんどそうだと答えた。すごいと褒められた。

 「でね、着替えだけ持ったら、また友達のとこ行ってくる」ロアー・キットを両手で抱える祖母に言った。「今もタクシーに乗って、アウトリーチ・センターの駐車場で待ってもらってもらってるの。急がないと料金が」

 「あらあら、大忙しね」祖母は笑って言った。「楽しかったんならよかったわ」

 「すごく楽しかった。ほとんど食って、まともに遊んだのは射的くらいなんだけど。花火なんか見てないけど。このおもちゃの山は、とりあえず金曜に学校に持って行って、写真の小道具にする。そのあとは適当に友達にあげるつもり」

 「そう。じゃあ金曜の朝は、車で送っていきましょうか。さすがに持って行きづらいでしょう」

 ミスター・ピンキー・レオパードだけならともかく、ロアー・キットは横に大きくて邪魔な気もする。持って行けないことはないだろうが、その他おもちゃのことも考えれば。

 「うん、お願い」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「ベラなんかもう、まるで我が家のようにくつろいでるぞ」

 半開きにされたドアのほうから、アドニスの声が聞こえた。

 ルキアノスの家のゲームルーム。シャワーを借りて着替えも済ませ、私は寝る準備完了状態だ。まだ寝ないけれど。柔らかなオレンジ色の照明と、ブラウントーンで揃えられた部屋の中、瓶ビール片手に、三人用だろうけど詰めれば四人は眠れるブラウン系チェック柄のソファベッドの上、優雅に横になっている。

 ソファベッドの正面向かいには造りつけの棚があり、そこに埋め込むよう大型テレビが、贅沢にも上下に二台設置されていた。ビリヤードをしながらでも画面が観られるようにということらしく、ボタンひとつで上下同じ映像映し出したり、別の映像を出したりできるのだとか。だけどこの中の誰もビリヤードなんてしないので、その下のテレビだけを使い、ゲーム機を置いた丸いガラステーブルをはさんで両側の、一人用の座り心地のいいふかふかソファに座ったルキアノスとナイルが、ふたつ古いらしいSMBシリーズ、オールスター・スポーツのテニス競技で試合をしている。二セットめで今のところ、ルキがリード中。ちなみにさっき、私もナイルと勝負したけれど、ダブルスコアで完敗した。

 この部屋には、ヌックからランドリールームを経由して辿り着く。ドアから入ってすぐのところにドリンク・バーがあって、ソファコーナーはその奥、窓側だ。

 クッションに頭を乗せたまま、仰向けになって頭を少しそらし、ドアのほうを見た。アドニスに続いてゼインと、気まずそうに、けれどもゲームルームの規模に呆気にとられているらしいサビナがこちらに来る。

 私が祖母の家で準備をしている時、ゼインとナイルのあいだでメールのやりとりがあったらしく、私がここに泊まることを話すと、ゼインがサビナを連れて行ってもいいかと言いだしたらしい。

 話を聞いて微妙そうな反応を見せたルキアノスとアドニスのぶんも一緒に、ナイルは一応抵抗したものの、けっきょく三人とも折れた。つまりこちらがゲームを取りに行く話はなくなって、彼らもここに泊まるということだ。彼らには一階のプール脇にあるゲストルームを使わせようということで意見は一致している。あとは適当。

 「お前、すっかり馴染んでるな」白いビニール袋片手に、ゼインが私を見おろしながらこちらに来る。「くつろぎすぎて、なんも違和感ない」

 私は笑いながら身体を起こした。

 「寝そうなの。思ったより眠い。はしゃぎすぎて疲れたらしいわ。シャワー浴びてからだんだんと眠気がね」

 「だからプールで眠気覚ますかって言っただろ」

 そう言ってアドニス、私の右側でソファベッドに飛び乗った。ものすごく揺れた。これもふかふかで寝心地がいいので、このソファにいると本気で寝そうになる。座面が広めなうえ、普通のソファと違って半分が少しななめに上がっていて、普通の背面というのがほとんどないタイプなのだ。つまり八十パーセントは眠り用のような。

 「プールは明日」腰をおろした彼に言った。「あれだけ歩きまわったうえにプールなんか入ったら、さすがに倒れちゃう」

 言いながら彼のほうに寄ると、ソファに上がったゼインに促され、サビナも座った。

 ゼインが私に言う。「ふたつも下のくせになに言ってんだ」

 「そういえば年上だっけ。忘れてた」

 「お前そればっか」とアドニス。彼に同じセリフを言ったことがある。

 「また反則!」突然ナイルが声をあげた。「裏技なしって言ってるだろ!」

 「あ、ごめん。忘れてた」悪びれることなくルキアノスが答える。「もう手が勝手に覚えてて」

 「こんなの無効試合だろ」

 そう言うと、ナイルは丸いガラステーブルの上に置いたゲーム機のリセットボタンを押した。ゲームはタイトル画面に戻った。

 「それは卑怯だろ。いくら負けてるからって」

 「裏技入れて勝ってたくせになに言ってんだ。裏技なしって散々言ってるのにやるほうが悪い」

 彼らでも喧嘩はするらしい。

 「だから手が勝手に」

 「はいはい」どうでもよさそうに返事をすると、ナイルはゼインへと視線をうつした。「あれ、来てたの?」

 「嘘つけお前!」気づいてただろ、という意味らしい。

 「新しいのやるべ」

 アドニスはゼインが脇に置いた袋からSMBの新作ソフトを取り出し、まだ開封されていない透明の保護フィルムを大雑把に開けて、ナイルに渡した。

 ゲームを準備するナイルに、ビールを持ってこいと言われた。ついでにジュースとつまみもとゼインがつけたした。

 私はビールを飲みながらドリンク・バーに寄り、ミニ冷蔵庫の中身を確認した。ビールが三本とオレンジジュースが二本あった。

 続いて脇に置かれた木製のキッチンワゴンを引きずってキッチンに向かう。脇に設置されたパントリーから、適当なお菓子を用意した。ここに来ると、ルキアノスと一緒にこうやって用意するので、もう慣れたものだ。誰がどんなものを好むかというのも、なんとなくわかっている。ビールとジュースの瓶も数本出した。代わりにドリンク・バーのミニ冷蔵庫に補充するためのビールとジュースをワゴンに置いてから、パントリーから出した瓶を冷蔵庫に補充。そしてゲームルームに戻る。

 ふと、メイドというのはこういうものなのかなと思った。そうでなくても、高級レストランのボーイとか。そういえば、去年修学旅行で泊まったホテルでも、こんなことをしていた気がする。ほとんど先に用意されていたけれど。

 ゲームの説明書を読んだり、とりあえずやってみようとしたりする彼らになにを飲むのか訊くと、ルキとアドニスとナイルはビールだと即答し、ゼインはサビナに飲んでもいいかを訊いた。了解が出た。サビナは飲まないというか、飲めないというか、飲んだことがないらしい。私は彼女にオレンジジュースの瓶を渡した。ちなみにアドニスとルキアノス、四月に私と三人で飲んで以来、妙にビールを飲む頻度が増えたらしい。私のせいで。それはいつのまにか、ナイルとゼインにも少々の影響を与えているようだった。

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