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RED - DISK03  作者: awa
CHAPTER 01 * WITHERED HEART
4/139

○ Reunion

 日曜日。

 学校ではさっそく遅刻常習犯になっている私は、どうにかビールなしで起き、朝からバスに乗って、センター街へと向かった。ファイブ・クラウド・エリアにある、ゼスト・エヴァンスという小洒落たCDショップに入る。

 棚にある商品を整理していた店長のサイラスは、私を見るなり安心したような表情を見せ、ハグをしてくれた。

 「どうした。春休みに来なかったから心配してたんだぞ」

 「ごめん、引きこもってたの。春休みに入ってすぐ、リーズとニコラと、あと一緒につるんでた先輩二人がね、揃ってどっかの施設に入っちゃって。しかも三年間戻ってこないとかで、もう、わけわかんなくて」

 「ほんとか。そりゃ──」言葉を濁して身体を離し、気遣わしげな眼で私を見た。「平気か?」

 わからない。それでも私は、苦笑った。

 「平気。だけどなにか手伝えること、ない? 十二時に友達とランチの約束してるんだけど、それまで時間があるから」

 私の頭を撫で、彼は微笑んだ。

 「んじゃ、またインデックス作るか。新しいアーティストのもあるし、アルバムをいくつか選んで一押しだってカードをつけてもいい。道具用意してやるから好きにしろ」

 「ありがとう」

 サイラスは大人だ。年齢はおそらく三十代後半ほどで、それほどこまめに整えていない不精ともとれる髭はあるものの、頭のよさそうな、端整な顔立ちをしている。だが音楽の話になると熱くなるし、笑う時は子供のように無邪気に大笑いする。彼も私の話をさらっと聞き流してくれるタイプで、相談とは違うけれど、家のことも、アゼルのことも話してある。

 大人といえば祖母と、自分を捨てた両親、あとは友達の親数人と教師くらいしか知らない私にとって、彼は貴重な存在だ。私は“親戚”というものに会ったことがなく、他に身近な大人の存在を知らないから。

 カウンター内に入ると、私は夢中で作業した。アーティストやアルバムの紹介文を手書きで書いていくのだ。馴染みらしき客が来て新しいバイトだと訊かれると、隠し子だというばればれの嘘をつく。サイラスと一緒になって少し話をするのだが、彼と同じよう、笑わせてくれる客がいるのがありがたかった。レジスターの打ち方まで教わり、久しぶりに人前でまともに笑った気がした。といってもほとんど苦笑いに近く、心の底から大笑いというわけではないけれど。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 CDを二枚買ってゼスト・エヴァンスを出ると、ルキアノスと待ち合わせ、カフェでランチを食べた。今日は機嫌がいいなと言われた。私が基本的に不機嫌なことを、最近はそれが常なことを、彼も知っている。なので違いはすぐわかるらしい。

 こういうテンションの時に買い物に繰り出すとやばいのよと言うと、彼は散財のストッパーになれるよう努力すると言ってくれた。

 ランチを食べ終わると、ファイブ・クラウド・エリアとグランド・フラックス・エリアにある店をハシゴし、買い物をした。服や靴、服飾雑貨だ。どうにか試着だけに留めたものもあるけれど、けっきょく数時間を買い物に費やし、三万フラム以上を使った。

 すっかり薄暗くなった空の下、グランド・フラックスのボードウォーク。ボードウォークのステップに腰をおろしてデザートのクレープを食べ終わると、ステップに寝転んで目を閉じた。

 「疲れた」

 左隣で座ってるルキアノスが、足元に置いた五袋の紙袋を呆れ顔で見やる。

 「買いすぎ」

 「久々なの、まともに買い物するの。っていうか、散財するのが? 修学旅行以来よ、こんなに使ったの」

 「中学の修学旅行の小遣いの上限、確か一万フラムとかじゃなかったっけ」

 「私がそんなので済ませるわけないじゃない。多めに持ってったのに、けっきょくむこうでもおろしたもん」

 「まじで? よくバレなかったな。中学の時、倍額持ってきたのを自慢しまくってた奴は怒られてたよ」

 「そういえばなにも言われなかった。大量に買い物して大量の紙袋を持ってたけど、特になにも言われてない。相手が私だから諦めてたのかも」

 後方から誰かが、苦笑うルキアノスの名前を呼んだ。

 「ナイル、ゼイン」彼が応じる。「こないだぶり」

 「こないだぶり──って」ブロンド頭の男が私の頭上でしゃがみ、顔を覗きこんだ。「あ、やっぱり。サングラスの変な女だ」

 その顔には見覚えがあった。さすがに“キザ男”とは言えないが。「ハイ」

 「ほんとだ」と言ったのは、ルキの背後に立ったもうひとりの男だ。こちらにも見覚えがある。確か私は、秘密裏に“ワインD”とあだ名をつけた。二人とも、今年二月に私がリーズとニコラと一緒にセンター街に来た時、私たちをナンパした男だ。もうひとりいたはずだが、今日は一緒ではないらしい。

 「え、知り合い?」ルキアノスが訊いた。

 キザ男が答える。「知り合いってほどでもないよ。ちょっと話しただけ」

 私は起こした身体をルキのほうへ向けてから彼に言った。

 「正直に言え。ナンパしたんだって言え」

 彼もステップに腰をおろす。「俺はしたくてしたんじゃないし。ゼインたちが勝手にやっただけだし」今日はマフラーをつけていない。春なので、さすがに。

 「よく言うわよ。勝手にヒトのサングラスとって爆笑したくせに」

 「話省きすぎ。謎なこと言ったのはそっち」

 彼らにナンパされた私は、左手の薬指にある指輪を見せ、消えた男の話をした。途中で詮索にイライラし、話を犬に切り替えた。彼らは爆笑した。

 ワインD──おそらくゼインという名前の彼が口をはさむ。「っつーか、消えたオトコって、ルキのこと?」

 「まさか」私は答えた。「あれは犬の話だってば。ルキは友達。今日は買い物につきあってくれてる」

 「買い物って」キザ男──おそらくナイルという名前の彼は、私たちの足元にある紙袋を見やった。「それ、ぜんぶ?」

 「そう。散財したの。ルキ、ストッパーになってくれるって言ったのに、ぜんぜんなんだもん。似合う似合うって言うから、調子に乗ってあれこれ買っちゃって」

 ルキアノスが反論する。「いやいや。確かに似合うとは言ったけど、それは選んでる時だろ? レジに行く時はさすがに買いすぎだって言ったよ? 聞かなかったじゃん」

 「ストッパーになってないことに変わりはないわよ」

 「そうだけど」

 「そっちは?」ゼインがルキに訊いた。「やっぱナンパ?」

 彼が答える前にナイルが割り込む。「ルキはナンパなんかしないだろ、俺と一緒で」

 「アドニスが一緒だったらわかんないだろ? あれはナンパするぞ? オレと一緒で」

 今度は私が口をはさんだ。「アドニスのことも知ってるってことは、二人とも、ケイネル・エイジ?」

 彼らは声を揃えてそうだと答えた。ただ、小学校は違うらしい。

 「ルキとアドニスもナンパだった。しかも私がひとりでいるところに、二人がかりで」

 簡単に説明すると、彼らは笑った。

 「いや、アドニスがとりあえずナンパしろって言うから」

 そう言ったルキアノスの言い分を無視して私はさらに補足した。

 「しかも数ヵ月後に、“ナンパなんかするもんじゃない。人生初ナンパがこんな変な女だったから”、とか言ってた」

 ゼインはけらけらと笑った。「ひでえ」

 「いや、そこは同意する」ナイルが言う。「サングラスとったら二重人格っていう変人だし」

 「今はサングラスつけてなくても、つけてた時のテンションです」と、私。

 「うん、意味わかんない」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 自分の傍らに置いていたバッグの中で携帯電話が鳴った。画面を確認して、「アドニスからだ」と言った。

 「うそ、ちょっと貸りていい?」

 そう言われたので、ゼインに携帯電話を渡した。彼が電話に出る。

 「もしもーし。──え? いや、誰それ。知らんよ? は? 持ち主? ああ、ちょっと待って」

 彼は携帯電話を、私ではなくナイルに渡した。

 「はいはい。──いや、違いますけど。──いや、キレられても困るんですけど。え、緊急? ああ、捜してみます」

 今度はルキアノスの手に渡る。

 「はいはい。緊急ってなに? ──あれ、俺はわかるの? ひどいな。うん、一緒にセンター街にいる。──ああ、ゼインとナイルだよ。──いや、なんか会って。知り合いなんだって」

 アドニスが長々となにか言っているらしい。

 「いや、特に決めてないけど。──ああ。じゃあ代わる」ルキアノスは携帯電話をこちらに差し出した。「ちょっと早いけど、三人で夕食行けるかって言ってる。行けるんなら、すぐこっちに来るって」

 私は受け取った携帯電話を耳にあてた。

 「ハイ」

 「なにがどうなってんだかわかんねえんだけど」と、アドニス。「行けるの? 飯」

 「いいよ。買い物して荷物が大量だから、できればさっさと帰りたいけど」

 「んじゃ帰りは送ってやる。今どこ? グラ・フラ?」

 「そう」

 「んじゃ着いたらまた電話するわ。ゼインとナイルはとりあえずいてもいいけど、飯行く時は追い払うからって言っといて」

 自分で言えばいいと思う。「はいはい。じゃね」

 電話を終えると、ゼインはまた私に質問した。

 「ちなみに消えた男っての、アドニスでもないよな?」

 「だからあれは犬の話だっつってんじゃん」

 そう答え、私はアドニスの言ってたことを彼らに伝えた。

 ゼインが笑う。「マジかよ。ひどいな」ナイルへと視線をうつす。「どーする? とりあえずアドニスが来るまで待つ?」

 「どっちでもいいけど、こないだ会ったし、べつにいいような気もする」

 「ちなみに」ルキアノスがゼインを示す。「サビナの彼氏」

 私はきょとんとした。「え」

 「あれ? サビナの友達?」ゼインが訊いた。「そういやウェ・キャスだっけ」

 また面倒がはじまった。サビナとは友達ではない。むしろ敵だ。「同じクラス」

 「へー。とりあえず、ここではじめて会ったことにしてくれる? なんかナンパしまくってるとか思われたらイヤだし」

 彼のナンパの頻度など知るはずもないが、言わないほうがこちらにとっても都合がいい。

 「そうね。っていうか、なんか面倒だし。会ったことすら言わなくてもいい気がする」

 「まあそれでもいいけど」

 「さっそく隠し事かよ」ナイルが言った。「先が思いやられるわ」

 「隠し事じゃないだろ。喋らないだけだもん」

 「どっちでもいいよ」ルキが割り込んだ。「アドニスといいインゴといいお前といい、なんでそんなにうるさいの?」ゼインに言っている。

 彼は反論した。「お前らが静かすぎるだけだっつの!」

 「お互いにつるむ相手、考え直したほうがいいよな、たぶん。そもそもカノジョいるくせに、なんで誘ってくるのかが謎」

 ナイルの言葉にゼインは口ごたえした。「今日はむこうがダチと遊ぶっつってんだからしょうがないじゃん! 泊まりにはまだ早いんだっつの。キスもしてねえんだぞ」

 「もういーよ」ナイルは両手で耳を塞いだ。「そういう話、聞きたくない」

 なんというか、アドニスとゼインが話す光景が目に浮かぶようだった。

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