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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 06 * EXERTING HEART
30/139

* Nuisance Lover

 火曜日。

 リカが浴衣なのでと、私はタクシーを呼んだ。彼女と、甚平姿のジョンアとナンネ、サビナを拾い、ニュー・キャッスル地区にあるキャッスル・パーク横のコンビニへと向かった。花火はナンネと一緒に昨日、買ってある。しかも大量に。私はサビナの家を知らなかったのだが、文化祭の準備をはじめてから、リカが電話番号とアドレスを彼女と交換していたらしく、連絡はとれた。一方でリカ、私がサビナの電話番号を知らないということに、妙に驚いていた。

 集まったのは、ゲルト、セテ、ダヴィデ、イヴァン、カルロ、トルベン。彼らは全員、黒や紺、灰色の甚平姿だった。それから女子ニュー・キャッスル組、浴衣姿のアニタ、カルメーラとペトラ。男女比が違うものの、メンバーも若干変わっているものの、けっきょく十四人だ。私、団体行動はキライなのに。多すぎるのは、わりとうざい。

 用意したうちわや扇子をめぐって男女で軽く取り合いをしたあと、コンビニでジュースやソフトクリームやアイスクリーム等を買い、ぞろぞろとキャッスル・パークに移動、噴火花火からはじめた。私のデジタルカメラはカルメーラが持っている。私と彼女でとにかく撮る予定だった。といっても、すぐにアニタやペトラの手に渡るのだろうが。

 キャッスル・パークは東西に縦長になった公園で、オールド・キャッスルにあるバーデュア・パークほどではないものの、それなりの面積だ。周りはアイアンの柵と等間隔に並べた木で囲まれていて、芝生が広がる遊具コーナー、白いコンクリートのベンチコーナー、そしてまた芝生の広がるグラウンドと、みっつのエリアに区切られている。区切られてといっても、柵があるわけではないけれど。

 噴火花火がある程度終わると、私とゲルトは脇へと逃げた。彼らが花火したり写真を撮り合ったりして騒ぐ姿を、荷物を置いたテーブルベンチのベンチに座って、傍らで地面に腰をおろしているゲルトと一緒に、ただ眺めていた。

 だって花火、このあいだしたばかりだし。もういいし。風流とかいらないし。ゲルトと私、写真にも写りたくないし。

 「そーいえば」赤い火花を散らす手持ち花火片手にアニタがこちらを振り返った。「文化祭の打ち上げ、どーすんの?」私に訊いている。

 「知るかそんなん」と、私は返した。「あんたクラス違うじゃん」

 「去年はクラス関係なくやったじゃん!」

 「これ以上ダヴィの勉強する時間を削ったら私がぶっ殺されます」

 そう言うと、ゲルトたちは笑ったものの、女たちの視線は一気に彼に集まった。

 「こっちに押しつけんなよ!」と、ダヴィデ。

 「そーいやあんた、勉強する時間あんの?」ペトラが彼に訊いた。「なんかわりと、ベラに引っ張りまわされてるって話だけど」

 「今んとこ、一応時間はある。毎日朝五時に起きて約二時間と、夜寝る前に二時間くらい勉強。平日学校に集まっても、午後は解放されるから、飯食ったあとか、もしくは夕方ちょっと寝てる」

 「うわ、マジで」

 「トルベンもそーだよ。部活あるから俺よりキツイ」

 「毎日死にかけ」と、トルベン。

 カルメーラは思いついたような顔をした。「あ、あれか。ベラが言ってた、イースト・キャッスルに通ってる先輩がやってるっていう勉強方法」

 ダヴィデはうなずいた。「そうそ。きついけど、昼間に勉強するよりマシ。慣れたらわりと平気だし」

 「あたしもそれにしよーかな」ペトラが言う。「正直勉強する時間、あんまないんだよね。あたしだってテニスあんのに、ベラが相手しないから、こっちがアニタの相手しなきゃいけないし」

 アニタは全力でつっこんだ。「あたしは犬か!」

 トルベンが応じる。「けど昼寝する時間は絶対要る。じゃねえと、身体動かすのに体力持たねえ」

 「だよねー。まあこっちも、夏休みで一旦終わる予定なんだけど。八月末に最後の交流試合があるから、あんま練習休めないし。なのになぜか文化祭の練習もあるし」

 「もとはといえば、D組のせいだよな」セテが言った。「夏休み前に文化祭の話なんかはじめるから、こっちにまで影響が」

 「そうだよ!」眉を寄せたペトラがカルメーラに訊く。「誰? D組で最初に文化祭の話持ち出したの!」

 「ハリエットかな」

 その答えに、一同は揃って納得の表情を浮かべ、苦笑った。カルメーラはさらに、なにをやるかのアンケートをとったこと、その結果を持ってハリエットが私にどうにかさせようとしたことを話した。ついでにか、ダヴィデは寝ていた私の頭をトルベンが教科書で思いっきり叩いたことを補足した。みんな笑った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 テーブルの上に置いているバッグの中で携帯電話が鳴って、私は画面を確認した。ヤーゴからだ。私の扇子を奪って自分だけを仰ぐゲルトにどうしようと訊くと、とりあえず出ればというので、少し静かにしろと周りに言って電話に出た。ゲルト以外、彼らは少し距離をとった。

 「なんですか」と、私。

 ヤーゴの言葉は突然だった。「ヤりたいだけでヨリ戻すのってアリだと思う?」

 第一声でなにを言いだすのだろう。またこういう質問なのか。一年経っても、彼はなにも変わらない。

 私は質問を返した。「なに、ヨリ戻そうって言われたの?」

 「っつーか、告られた? なにしてんのってメールが来て、ちょっとメールしてたんだけど。好きな奴できたかとか、彼女できたかとか訊かれた。できるわけないけど、お前はって訊き返したら、まだオレのことが好きなんだって」

 「そー。べつにいいんじゃないの? もともとそうやってはじまったんだし。悩む理由なんかどこにもないじゃん」

 「けど嫉妬がうざいしな。まえに治すとは言ってたけど、治るかわかんねえし」

 「うん。たぶん、治りはしない。言うか言わないかの違いはあるとしても、嫉妬は絶対すると思う。あいつはたぶん、そういう空気を出しもする。そんで周りは、ものすごくうざいと思う」

 「だよな。知ってた? オレとアウニが別れてから、トルベンがちょっと解放されたみたいになったの。二年の時、アウニとチャーミアンとか、誰か女子もう一人でグループに、みたいなとこ、あったから」

 笑える。「でも今は平気でしょ? クラス違うし」

 「まあ、たぶん。トルベンも部活と文化祭の準備がどうこうとか言って、あんま遊ぼうともしねえし。カルロ以外、他の奴らも、文化祭だの部活だの勉強だのが多い。だからわりと暇」

 どうやらアウニとヨリを戻そうかと悩む理由には、暇つぶしもプラスされているらしい。

 「あ、でもね、今ヨリ戻したら、ちょっとやばいことになるかも」

 私が言っていると、こちらに来たトルベンがゲルトに小声で話しかけ、こちらを見た。またゲルトと話す。

 「なに、やばいって」ヤーゴが訊き返した。

 「あんたとアウニは一生ヨリを戻したり別れたりし続けるカップルってことで、みんなの印象に残る可能性が」

 「は?」

 なんと言えばいいのだろう。「だからさ、D組がやたらと写真やビデオ、撮りまくってるのは知ってるよね」

 「あー、知ってる」

 「ヨリ戻したら当然、D組の連中はあんたたちを撮ることになると思うのね。そしたら──」

 私が話しているのを無視し、「貸せ」と言ってトルベンが手を出したので、私は彼に携帯電話を渡した。

 「ヤーゴ? 俺だけど」トルベンが電話のむこうにいる彼に声をかける。「──あ? うっせえよ。違うわアホ。ヨリ戻すんならもうちょいあとにしろ。じゃねえと、お前の中学時代イコールあいつになる。──理由は無理。それ言ったら殺される。けど、今はやめたほうがいい。──確かにうざいけど、それだけじゃねえって。──それは知るか。文化祭の日にぜんぶわかるわ。──ん」

 トルベンがこちらに返そうとした携帯電話を、横からゲルトが奪った。

 「あ、もしもし? 俺、ゲルト。──え、うん。花火。去年みたいに」彼は笑った。「いや、だってアウニもお前も、あんま来たくねえかなって。──あいつは来てねえよ。ちょっとメンバー変わってる程度。──ああ、まだ手持ち花火はじめてちょっとしか経ってないから平気。ベラがやたら花火買ってるし」どうやら彼を呼ぶ気らしい。「うん、キャッスル・パーク。前んとこ。──いらね。うん、わかった。じゃーな」

 電話を切ったゲルトにトルベンが言う。

 「わざわざ呼ばんでも」

 ゲルトは携帯電話をこちらに返した。

 「写真撮る人数は多いほうがいいべ? それにあのままだと、うざーい詮索がはじまる」

 「まあ、確かに?」

 「んで、ヨリ戻すのやめるって?」

 「そこまで言うならやめとくって。なんて断ればいいんだとか訊かれたから、知るかって言った」

 笑うゲルトがこちらに訊く。「どーやって断るんだ」

 知るわけがない。「知らない。無視でいいんじゃないの」

 「お前、冷たすぎ」

 「あいつらがどうなろうとどうでもいいし。それよりソフトクリーム食べたい」

 「さっき食っただろ」

 「さっきはチョコだったから、今度はバニラチョコ食べる」

 「お前、飯食ってねえの?」トルベンが私に訊いた。

 「や、食べたよ。家を出る直前に。照り焼きチキンだった。うまかった」

 「なんでそんなに入るわけ? どんな胃袋してんだよ」

 「デザートは別腹って言葉、知らないの?」

 「そういう問題じゃないような」

 「ベラの場合、食っても太らんからな」ゲルトが言った。「しかもストレス溜まってたら食いに走る傾向がある。酒とか煙草にいくよりはまだマシなんだけど」

 私は彼に言う。「ヤーゴが来てストレス溜まったら、覚悟してよ。その甚平の背中にある素敵刺繍、台無しにしてやる」

 「はいはい」と、彼はどうでもよさそうに返事をした。現実には私がそんなことをしないとわかっている。「けどソフトクリーム食いたくなってきた。行くか、コンビニ」

 「奢ってあげるからチャリ出動させてね、めんどくさいから」

 「へいへい」

 ゲルトが立ち上がり、私もあとに続いた。トルベンも行く。みんなに声をかけてみると、なんだかんだで全員欲しいという話になったので、セテとイヴァン、そして去年と同じように、また私と一緒に奢り役になったカルロとの六人で、自転車に乗ってコンビニへと向かった。

 戻りは大騒ぎだった。ゲルトとイヴァンがソフトクリーム片手に自転車を運転するうえ、ゲルトのうしろに乗った私、トルベンのうしろに乗ったセテ、イヴァンのうしろに乗ったカルロが、両手に二本ずつのソフトクリームを持っていたのだ。しかも、ゲルトは嫌がらせのごとく立ちこぎをしようとする。あまりの蛇行運転ぶりに、さすがの私も落ちるかと思った。そのうえパークに戻ると、ゲルトがなかなか自転車を停めようとしない光景をおもしろがり、アニタたちはデジカメでその光景を撮っていた。ソフトクリームを投げてやろうかと思った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 到着したヤーゴを見てカルメーラはぎょっとし、私の腕を引きずってベンチに座らせた。声を潜めて私を咎めにかかる。

 「なんでヤーゴが来るの!」

 少し離れたところ、ヤーゴはさっそく花火に火をつけ、カルロとセテと三人で写真を撮ってもらっている。

 「や、なんか来た」と、私。

 「写真、使えなくなるよ? 使ったらアウニにバレるじゃん」

 「いいじゃん。遊んだのかって訊かれたら遊んだって答えて、なんで自分を呼んでくれなかったんだって訊かれたら、私がアミダでどっちを呼ぶか決めたって言えばいい」

 彼女は天を仰いだ。

 「そんなうまく──」

 「呼んだの、まずかったか」こちらに来たゲルトが言う。「呼んだの俺。なんも考えてなかったわ。悪い」

 「いや──」彼女は困っているらしい。「文化祭で色々やってるから、アウニと花火の話はしてないんだけど。でもヤーゴに好きな子できてないかなとか、そういうのはちょこちょこ──」

 「つーか、別れてても嫉妬なわけ? 嫉妬が原因で別れたのに? なんも変わってねえじゃん」

 カルメーラは溜め息をついた。

 「それが女心なんだよ、たぶん」

 「けどそんなの」ゲルトがこちらへと視線をうつす。「あいつにどうこういう資格、ないよな」

 「ないね」私はあっさり答えた。「だからさ」カルメーラに言う。「流れ的には、私がダヴィの勉強の邪魔をするために、花火するって言いだした。アウニもヤーゴも来たくないだろうと思って誘わなかった。私の独断ね。で、花火をはじめたはいいけど、私の気まぐれでけっきょくヤーゴを呼ぶことになった。はい終了」

 彼女は眉を寄せて首を傾げる。

 「いいの? それで?」

 私は肩をすくませた。

 「それがいちばん丸く収まるよ。あいつが誰かを責めたいなら、私を責めさせときゃいいじゃん。ゲルトのことなんて、責めたくても責めらんないだろうし。ヤーゴが電話してきたの、私のとこだし。くだらない用事だけど」

 「ああ──それは言わないほうがいいか」

 「イエス」

 「女ってめんどくさい」ゲルトがつぶやく。「変なのばっかり」

 カルメーラは訂正した。「全員がそうなわけじゃないよ!」

 変なのが多いことは否定しない。私も“変なの”だ。

 「とりあえず」と言って私は立ち上がった。「写真は使う。いくらでも使う。あいつがどういう反応するかは気にすんな。批判はぜんぶ私にまわしとけ」

 ヤーゴはけっきょく、アウニに“悪い”とだけメールを返した。他に言葉が思いつかないからだ。返事はなかった。

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