* Revenge Of A Major Role
翌日。
朝早くから祖母と一緒に作ったお菓子やケーキを持ち、ハリエットの家へ行った。
ハリエット家の庭に用意された四つのテーブルと、その周囲を飾りつけていく。それなりに大きなパーティーに見えるよう工夫する必要があった。先週ワンコインショップで買った風船をとにかく膨らませて紐をつけ浮かせたり、浮かないものは重石をつけて地面に転がしたり、お菓子を盛りつける普通のペーパーカップやペーパートレイも、落書きや折り紙を使って少々派手にしてみたり。
準備がひととおり終わると、役者たちのドレスアップをはじめた。ちなみに男子は制服もしくはズボンにカッターシャツというシンプルな格好で、他の女子たちは手持ちのワンピース系を着てくる予定でいる。私は黒のシンプルなミニドレス。映る気はまったくないけれど、私が撮影するわけではないので、一応。
とはいえ、自分の髪がやはり気になった。クラスメイトには黒髪だったりブロンドだったり赤毛だったりと、いろいろな髪色の子がいる。だが私のマダーレッドの髪は、人数が少ないからか、本当によく目立つ。脇役にすらなるつもりがないのだから、無駄に目立つべきではないのに。ウィッグでも買えばよかったのかもしれない。せめてパーティー部分だけでも、映像になにかのカラー効果を入れれば、少しはマシになるかもしれないが──そんなことが許可されるはずはない。リカのドレスがピンクに見えなければ、この映像そのものが台無しになってしまう。
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午後三時すぎ、徐々にクラスメイトが集まりはじめた。
女子がそれぞれの自宅から切り花やフェイクフラワーを持ってきてくれ、それらを使ってテーブルをどうにか飾りつけた。ハリエットの母親も庭で花を育てているし、テーブルとチェアをいくつか置き、そこにお菓子を盛りつければ、かなりそれっぽくなった。
“Pretty In Pink”のPV製作にメインで関わったメンバー以外、リカとカルメーラ、ハリエットのドレスアップ姿をまともに見るのはこれがはじめてで、彼女たちは注目の的だった。他のPVでは、ドレスアップなどしないからだ。ハリエットとカルメーラはまんざらでもなさそうで、リカは終始照れ困った様子だった。
そしてすべての準備が整った夕方四時半、玄関を使わず家の傍らにある小道を経由して、それほど広くもなく、けれど狭くもないハリエット家の庭に、まだ来ていなかったクラスの女子たちと、メインの男を含む男子たちが到着した。
中学生はパーティーなんかとはほとんど無縁なため、私が過去に企画した打ち上げに来たことのないブレインタイプの男子たちは、かなり戸惑っていた。女子の家に行ったことがない、行けるとも思っていなかった男たちがほとんどなのだ。
しかも意外なことに、撮影のためのこのお菓子パーティー、クラスメイト全員が集まっていた。二十人集まればいいほうだと思っていたのだが、まさかの四十数人なので、わりと大きなパーティーに見える。なにが起きたのかは知らないけれど、恐ろしい。
「なんかすごい大掛かりになってる気がする。まさかここまでやるとは思わんかった」
右隣でダヴィデが言った。私はパティオにある置かれた三人掛けのガーデンソファに、彼とトルベンと並んで三人で座っている。彼らは二人とも、夏制服のカッターシャツとズボンを着ていた。男子のほとんどがそうだ。前方ではクラスメイトたちがハリエットの指示のもと、ジュースの入ったクリアカップを片手に持ったり持たなかったりしながらバランスよくグループに分かれ、話をしている。
「女は好きなもののためならとことんやるからね」と私は言う。「“Pretty In Pink”には公式PVがないのよ。でも聴いてると、どんな状況なのかがわかる。ハリエットたちはそれを映像にしようとしてる」
「受験生なのに、夏休みまで文化祭のために時間使うってどーなんだ」
その疑問は私にもあるけれど。「それ言ったら私、かなり遊んでるわよ。目標に点数足りてないくせに」
「落ちちまえ」トルベンがつぶやいた。「落ちたらどーすんのか知んねえけど」
「落ちたらムカつく奴らの笑いの餌食になるから、それはしない。でももし落ちたら、お前ら全員に嫌がらせのメール、毎日送ってやる」
ダヴィデが笑う。「マジでやめて」
「俺は安全。アドレス知られてないから」と、トルベン。
確かに知らない。「私の情報網ナメないでくれる? ヤーゴにでも訊けば一発でわかるわよ」
「お前に教えたらキレるって言っとくわ」
「ねえ、私とあんた、キレたらどっちが怖いと思う? 確実に私。あいつが言うこと聞くのも私」
「なんだその自信」
ダヴィが口をはさむ。「いや、でもヤーゴは教えるわ。俺はたぶんそこまで無理強いされないから、たぶん教えなくても済むけど」
「あいつ、簡単にヒト売りそうだよな」
「っていうか、ベラを敵にまわしたらえらいことになるしな」
「マジでやだ」
「ねえ」私は割り込んだ。「あんたら本人目の前にして、どんだけヒトを悪魔扱いすんの? 私だって敵は選ぶわよ? たぶん」
彼らは声を揃えた。「うそつけ」
「よし、じゃあそろそろ!」庭の中央でテーブルの脇に立つハリエットが声をあげた。「とりあえず、みんなは普通にしてくれていいよ。わかってると思うけど、音声は抜くからどんな話をしてくれても大丈夫! よけいなことしたら、たぶんベリーに怒られるけど」
クラスメイトが苦笑う。
ハリエットが簡単な説明を続ける中、“Pretty In Pink”のPVでリカの相手役をするヒースコートが私に声をかけてきた。彼はイヴァンと並ぶほどの身長で、髪は短くカットしてる。頭はいいものの真面目すぎることもなく、誰とでも話す。ひょろっとした体格で、特に部活をしてるわけでもないのになぜか、程よく日に焼けている。
「マジでやんなきゃダメ?」ソファの傍らにしゃがんだヒースコートが私に訊いた。「ハリエットの説明が細かすぎて、いまいちなにをどうしていいのかがよくわかんないんだけど」
「だから、カルメーラと話してればいいのよ。あとはこっちでやる」
「いや、けど声かけるみたいなのがあるわけだろ?」
彼の言葉に、私ははっとした。言っていない。誰にも言っていない。
「ごめん、言い忘れてた。それ、予定変えるから」
彼はぽかんとした。「は?」
立ち上がり、私はハリエットの隣へと向かった。
「最後の演出を変える」クラスメイトたちを見やりながら私は言った。「予定では、このパーティー会場でヒースコートがリカに声をかける、って流れだったけど。そうじゃなくて、最後のサビが終わったあとの声をかける部分は、リカとカルメーラ、ヒースコートが舞台に上がる」
全員がそれぞれに顔を見合わせ、ざわついた。そんな中、リカは焦った様子でこちらに駆け寄った。
「無理無理無理! 絶対無理!」
「平気。やるの」と、私。なにを基準に、なにが平気なのかはわからない。
「けど、どうやって?」彼女の背後からカルメーラが訊いた。「どのタイミングで舞台?」
私は彼女たちに説明した。PVを流すあいだ、体育館のカーテンを閉めて照明も落としておくこと。最後のサビに向かう間奏のあいだで、三人がステージの両側に立つこと。そのあいだのPVは、彼女たちを除いたパーティーの映像であること。たいしたことのない舞台照明を駆使して、最後の声かけ部分に繋げること。
なるほどと納得の声が溢れる中、ハリエットは声をあげた。
「あたしは!? 舞台、三人だけ?」
彼女のことなど、考えていなかった。「そうだよね。出たいよね。じゃああんたも、同じタイミングで舞台に出ようか。カルメーラとヒースコートが、向かって舞台左側で待機。あんたはリカと一緒に右側にいて、ひとり中央まで移動する。スクリーンの前ね。で、最後のサビから、CDと合わせてナマでうたう。最後の声かけ部分もいていいよ。舞台の照明は、徐々に入れていこうか。で、うたうあんたの両側でリカたちのやりとり。曲を終わらせるためにまた照明を落として、裏が全力で幕引き。幕が下りたあと、なんなら幕からひょこっと顔だけ出して、ウィンクでもしてまた引っ込んでみる?」
つたない言葉での説明でも流れを理解し、彼女は瞬く間に笑顔になった。
「やる! それでいこ!」
唖然とするリカに向かってカルメーラが言う。「諦めるしかないね。この二人がやる気になっちゃったら、もう誰も止められないよ」
興奮した様子のハリエットがリカに言う。「止まらないから、やるよ! リカ!」
彼女は半泣き状態だ。「もうやだ」
「復讐よ」と、私はリカに言う。「あんたに主役なんてやれるわけがないと思ってる奴らを見返してやんの。この演出で出来が決まるのは確か。でも、成功しないわけがないじゃない。私とハリエットがついてんのよ?」さすがにこのセリフは適当すぎるか。「映像は映像でちゃんと締めておきたいから、この場でも声かけ部分を録画しておく。それを練習にして、そのとおりに舞台で演ればいい。って言っても、それほど動きがあるわけじゃないけど。あんたはただ立って、近づいてこようとするヒースコートを待ってればいいだけ。声をかける寸前で曲は終わるんだから」
少し悩んだ表情をしたものの、カルメーラや他の女子数人になだめられ説得されて彼女は、深呼吸して覚悟を決めた。
「わかった」
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月曜日。
ナンネと二人でショッピングセンターに行った。自分のぶんにくわえ、ナンネとジョンアの甚平、そしてうちわと扇子もいくつか。うちわなら、コンビニに行けばいくらでも無料でもらえることくらい、私でもわかっている。でも写真やビデオに残すことを考えれば、買うほうがいいと思ったのだ。
ナンネの話によると、A組は文化祭、二手に分かれたという。エデやアウニを含む派手・目立ちたがり・不良組が歌と踊りで、ナンネやエルミ、ハヌルを含む地味・真面目組がショート劇なのだとか。エルミとハヌルはその劇側で仕切る立場に属していて、わりとうざいらしい。
そしてA組女子に聞いたとおり、エデとハヌルの仲は、なにげに最悪な状態になっているらしかった。私がよく一緒にいるからか、ナンネ本人と、よくA組の教室に来るジョンアは直接的被害を受けていないものの、ハヌルはハヌル自身や周りに聞こえるように、よく嫌味や悪口を言われているらしい。それも、エデがカーリナと一緒にいる時だけ。エルミはなんだかんだでハヌルと一緒にいることが多いので、巻き添えなのか標的に入っているのか、同じく嫌味の被害に合ってるという。
おしゃべりエルミがそのことを私に言わないのは、おそらくプライドがあるからだ。そういう目に合ってるということを知られたくないというのが強いのだろうと、ナンネは言っていた。もうひとつ言えば、エルミは勘違い女で、それを言われているのはハヌルひとりだけのように振る舞っている。エルミは、まったくと言っていいほど私に気にかけてもらえていないことも承知しているので、そういうので助けを求めてきたりはしない。
それはそうとナンネ、印刷したダヴィデの写真を渡すと、かなり興奮していた。一生の宝物にするつもりでいる。一生片想いするつもりかとつっこんだ。でもそれはないらしい。中学を卒業すると同時に、その時はきっぱりと諦めるつもりで、けれど初恋は初恋なので、一生大事にできる気がする、と。
ショッピング・センターを出ると、ウェスト・キャッスルに戻ってナンネの家に行った。ジョンアを呼び出し、買ったばかりの甚平を渡すためだ。
ジョンアはやはり拒否したものの、派手ではないけどおっさんくさくもない女用の甚平を、けっきょく受け取った。あとうちわも。




