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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 06 * EXERTING HEART
28/139

* Blesses Abiding Long Zenithal Night

 土曜日。

 撮影を午後四時すぎに終え、クラスメイトと明日の打ち合わせをしたあと、午後六時半すぎ、私はアロウ・インレットのチック・ノーティド・ショッピングセンターにあるベアラック・ダイナーへと向かった。

 ルキアノスとアドニス、ゼインとナイルはすでに到着していたのだが、ゼインとナイルが店先でモメていた。

 ここまで来てサビナに会わないなんて変だとゼインが言い、それならふたりで別の店に行けとナイルが反論する。けれどもゼインは、帰りが寂しいだろと文句を言う。その傍らで、私はルキアノスからブラックカラーのレザーブレスレットを受け取った。裏側に“B.A.L.Z.N”と刻印されている。彼らと同じように、左手首につけた。黒で正解だった気がした。

 けっきょくサビナは呼ばないことにし、ベアラック・ダイナーで夕食をとった。わざわざブレスレットを持ってきてくれたお礼にと、私は彼らにデザートを奢った。

 二時間弱居座ったあと、やっと外に出る。空はすっかり暗くなっていて、ダイナーだけでなくショッピングセンターに集まっていた人たちの車も、やっと減りはじめた。バス停で時間を確認したものの一歩遅かったらしく、約二十分後にくるバスを待たなければいけなかった。彼らは先に私を送ると言いだしたのだが、そこでゼインはまた悩みはじめた。サビナに見つかったらなんと言い訳しようか、と。

 けっきょくアドニスとゼインがバス停に残り、ルキアノスとナイルが送ってくれることになった。べつにいいのに。


 キャッスル・ロードの、両側が芝生になった歩道を南へと歩きながら不機嫌ナイルがぼやく。

 「最初から来なきゃよかったんだよ、あのアホ」

 彼の隣を歩くルキアノスが苦笑う。

 「一応遠回しに言ったんだけどな、ぞろぞろ行くのもどうかと思うって」

 「俺だって言ったよ。気まずいのイヤだから、サビナは呼ぶなよって。一度は納得したはずなのに、また言いだしたし」

 ゼインは波が激しいらしい。

 「気まずいのイヤって言ってもお前、ほとんど話さないじゃん。存在無視じゃん」

 私はルキの言葉に納得した。

 「だって話すことないし。知らない人間に気遣う必要ないし」ナイルが言った。

 これは理解できる。

 「まあそうだけど。俺の家に来た時とか花火の時とか、ゼインとアドニス、お前とサビナをあんまり近づけさせないようにって、なにげに必死になってたらしいよ」

 私にもそうしてくれればよかったのに。

 ナイルはどうでもよさそうに返事をした。「それはありがたい。っていうか、どうでもいいことに変わりはないんだけど、一週間経ってもやっぱりまだ、あいつがつきあってんのはそういう女だって考えが抜けない。できれば関わりたくない」

 左前に同じ。

 ルキは肩をすくませた。

 「だから、改心してるって。じゃなきゃゼインだって、わざわざ指輪まで買ってつきあい続けたりしないよ。お前が嫌ってると、ゼインがやりにくくなるじゃん」

 モノに頼るというあれ。

 「キライなモノを好きとか言えるほど大人じゃないし。拒否できるところはしたいし」ナイルはそっけなく答えた。「また会ったとして、本人の前でそういう態度を出すつもりはないけどさ。あいつがつきあう女、みんな変なのばっかだもん。なぜか性悪か陰険に成り下がる女ばっかり」

 わがままなうえに、すごく失礼なことを言っている。

 「まあ、それはしょうがないんじゃないの。自分の気分だけで彼女と別れてるのなんて、お前だけだよ。待ち合わせに三回遅れたらもう別れるとか、本気で意味わかんない」

 あはは。わがまま。

 「何度も許してたら癖になるだろ。っていうか遅れたから別れるんじゃなくて、遅れないように気をつけることができない女だから別れるんだよ。しかたない理由なら納得する。でも服選ぶのに時間がかかっただの、髪型が決まらないだの、くだらない理由で待ち続けるほど気長くないし」

 わからなくはない。

 「その考えをどうこう言うつもりはないけど、気持ちってそんなに簡単に冷めるもん?」ルキアノスはナイルに訊いた。「怒るのはわかるけど、そういうので別れようとまで思ったことない」

 「冷める。急激に冷める。筋の通ってない自己中とわがままはキライ」

 「そういうとこ、ベラと似てる気が──」


 ルキアノスの言葉を遮るよう、バッグの中で携帯電話が鳴った。

 ナイルがこちらを振り返る。

 「あれ、そういえばお前送ってんだっけ。喋らないから存在忘れてた。っていうかまだまっすぐ?」

 「まだまだだから、どうぞ続けて」言いながら歩く速度を落としつつ、私は携帯電話を取り出した。ナンネからだ。通話ボタンを押して応じる。「はいよ」

 「メール、見てないの?」電話越しに彼女が訊いた。「昨日の夜、十一時すぎに送ったんだけど?」

 すぐにはわからなかったものの、そういえばと思い出した。朝気づいて、あとで返事しようと思い、そのまま放置した。

 「ごめん、忘れてたわ」と、私。「で、なんだっけ」

 「花火の時、浴衣着るの? って」

 「残念ながら浴衣は持ってねえよ。めんどくさい。みんなは?」

 「ベラが返事くれないからアニタに訊いたら、みんなベラが着るならって言ってるみたい。ジョンアは甚平だけど」

 なぜ私だ。「私が着ないって言ったら着ないわけ? そんなこと言われたら、着ないって即答するわよ」

 「着るって言ってよ!」と、ナンネ。「まあ面倒なのはわかる。帯の部分が暑いし。歩きにくいし座りにくいし、甚平買ったほうがいい気もする。どっちにしても、次はうちわ持っていかないと」

 声を落として話しを続けながら歩く彼らのあとに続いて通りを渡る。まだまっすぐだ。

 「せめて扇子にしなよ。あ、でも私が扇子持ったら、えらいことになりそうな。ふわふわのとかどーよ? 夏なのに」

 彼女は笑った。

 「ふわふわはさすがに暑いって。普通のだとして、浴衣なら平気じゃないの? ドレスとかだと、なんかすごいオーラ出そうだけど──っていうか、サビナが来るってマジ?」

 ゼインのアホ。デートしろよアホ。と思う。「ほんと。あんたらが浴衣着るんだとしたら、またタクシー呼ぶことになるけど。アニタたちは拾えないね。ざまあみろって言っといて。で、私は明日か明後日にでも、また甚平買いに行くわ」去年のものは着たくない。「気が向いたら女全員の扇子と、ジョンアの甚平買ってくる」

 「え、マジで? けどジョンア、受け取るかわかんないよ、そんなの」

 「だろうね。ならつきあってよ。ヒトの着るモンに口出すつもりはないけど、写真撮りまくる予定なの。もうちょっと色が欲しい。ジョンアは呼ばなくていいし、また時期はずれの誕生日プレゼントってことにして、ついでにあんたのも買う。あいつの甚平とみんなの扇子かうちわ、選ぶの手伝って。明後日の夕方くらい」

 「またそういう──」拒否が通用しないと知っているから、彼女は断るのをやめた。「明後日って、月曜か。わかった。けど平気? なんか、午前中の練習? 終わってからも、色々やってんでしょ?」

 「超やってる。けど明日、ひとつは一応ひと段落する予定だから。花火のこと、エルミには言ってないよね」

 「言ってない。ハヌルもそうだけど、もういいかげんうんざりしてるから。なんで夏休みなのにほぼ毎日、あいつらの顔見なきゃいけないんだっていう」

 私は笑った。

 「あいつらにカメラ向けるのが苦痛でしょうがないんだよね、マジで。特にハヌル。だからクラスの奴にやらせてるんだけど。それでもデジカメの画像確認しててあいつの顔が出てきたら、思わず削除しようとしてる。なんか夢に出てきそうで怖い。っていうか、すでに何枚かは消したんだけどさ。これがデジカメのいちばんいいとこなんだって思い知ったもん」

 電話のむこう、ナンネも天を仰ぐ勢いで笑う。

 「わかる! あれと一緒の写真が卒業アルバムに残るのかと思うと、マジでぞっとする! なんか今年はエルミ、わりとハヌルと遊んでんだよね。練習が終わったあとも誘われて。あたしとジョンアはなんだかんだ理由つけて、三回中二回は断るんだけどさ。だからエルミを呼んだら、ハヌルにまで話、伝わりそうだし。それはヤだもん」

 うなずける。「言わないのがいちばんよ。バレてもエルミのアホはどうにかするけど、べつに来てもいいけど、ハヌルは絶対ヤだし。まあ火曜が終わっても、夏休みが終わるまでにもう一回はやるから、その思い出を胸に、どうにか卒業まで乗り切って」

 彼女はまた笑った。

 「そうする。あ、じゃあ月曜、ダヴィデの写真見せて。そんでお金出すから、何枚か印刷して」

 「お金はいいよ。月曜、適当に印刷して持っていく。終わったらメール入れる」

 「うん、わかった」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 私が電話を終えるとナイルがつぶやいた。

 「もう最低。なにこの悪口の応酬」

 ルキアノスが苦笑う。「ようするに、女の子はわりと誰でも、裏じゃこういうことを言ってるかもなと」

 「全員とは言わないけど、わりと言ってるんじゃないの」と、私は携帯電話をバッグに戻しながら答えた。「でもハヌルの顔見たら絶対、こういうセリフも納得できると思う」

 「どんなだよ」ナイルが言う。「しかもお前、金使いすぎ。ダチについでで甚平買うとか聞いたことないわ」

 「あるものを使うのは普通でしょ。私もあんたと一緒で気分屋だからね」また通りを渡る。まだまっすぐだ。「使わない時はぜんぜん使わないんだけど、使うことに抵抗はないのよ。誕生日なんてただの口実だけど」

 「そういえば」ルキが改めてこちらを振り返る。「誕生日、いつ?」

 訊くな。「五月。もう終わった」

 「何日生まれ?」

 「当てたらすごいよね」

 「笑えるけど、無茶言うな」

 ナイルが適当な数字を答える。「十二日」

 その日付は笑えない。「残念。惜しい」

 「じゃあ十日」ルキが言った。

 「すごい。当たり」

 「まじで? 春真っ盛りだな。意外なような、そうでもないような」

 どういう意味だ。「一月とかなら納得するわけ? 確かに希望は冬だけど!」

 彼は笑った。

 「意外といえばアドニスがいちばんだけどな。十二月七日生まれ」

 まさかの冬生まれらしい。「ありえない」

 「何月生まれなら納得できるんだよ」ナイルが言った。「っていうか甚平って、花火でもすんの? こないだやったのに」

 「そー。めんどくさいんだけどね。六月から言ってたことだし」

 ルキが去年と同じくらいの人数かと訊いたので、おそらくそのくらいだと答えた。もう数えるのも面倒だ。

 そのうちKマートの裏通りに繋がる十字路に差し掛かり、私は進もうとするの彼らを止めた。

 「もうここでいいよ。バス逃したら困る」

 ナイルが訊ねる。「あとどんくらい?」

 「三ブロックぶんかな。五、六分歩けば着くから」

 「平気?」心配性のルキアノスが訊き返す。「バスなんか、乗り遅れたら次待てばいいんだけど」

 「いいよ。夜出歩くのは慣れてるの」ひとりではそれほど出歩かないけれど。「まだそんな時間じゃないし、変人にどうにかされるほどヤワでもないから」

 「なんかしようとしても、逆に襲われる可能性があるからな」と、ナイル。

 「そういうこと」

 吐息をついたルキアノスに帰ったらメールを入れるよう言われ、了承した。彼らは来た道を戻り、私は祖母の家へと帰った。

 祖母の家に着いてルキに報告のメールを送ったあと、デジカメでダヴィデの写真を確認。裏方組で、“Where The Lines Overlap”で使う写真はまだそれほど撮っていないせいか、まともなダヴィデの写真はほとんどなかった。明日意識して撮るべきかもしれない。

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