* Time Course
翌日、日曜日。
ハリエットとカルメーラ、リカ、サビナと待ち合わせ、ひとまずアロウ・インレットにあるチック・ノーティド・ショッピングセンターに行った。“Pretty In Pink”で使うドレスや小道具を買うためだ。
ドレスは私が料金を支払うことにしている。ピンク色のドレスの存在は絶対なのだが、誰もそんなものは持っていないのだ。当然、最終的にはリカのものになる。彼女はそんなのいやだと言い張ったものの、早すぎる誕生日プレゼントにしておくから気にするなと言っておいた。
このあとはハリエットの家で撮影を行う。その“Pretty In Pink”のPV、相手の男の恋人役はカルメーラが演じることになった。個人的にはカーリナに、もっと欲を言えばエデに演らせたかった。無理だとわかっているが、実現できないのがこのうえなく残念だ。
そしてこのドレス選び、かなり難航した。肩出しはイヤだとか、フリルがつきすぎたり甘すぎるのはイヤだとか、派手なピンクはイヤだとか、リカがなにかにつけて抵抗する。
加えて、私たちの“Pretty In Pink”に対するピンクのイメージも、少々違っていた。私とカルメーラは淡いピンクだと思っていたのだが、ハリエットとサビナはショッキングピンクに近いものを想像していたのだ。確かに、派手な色のほうが舞台映えはするけれど──。
けっきょく淡いピンクカラーで、バラのコサージュがみっつついた、シフォンのティアード・ショートドレスを選んだ。あと、そんなつもりはなかったのに、ドレスに合うシャンパンカラーの、ローズモチーフのサテンバッグを見つけ、それも買った。どちらも二千フラム以下。許容範囲内だ。
そこまではよかったものの、私はチュールつきのパーティードレスを見つけてしまった。カラーはレッド・パープル。胸下に黒いリボン。カルメーラを意地悪女に見せるドレス。千九百八十フラム。思わず買った。
そうなると、ハリエットの衣装も気になるところだ。呆気にとられていた彼女たちも、ここまでくるとさすがに暴走しすぎだと止めようとしたが、私が聞くはずもなかった。
で、見つけた。アシンメトリーの、スタッズつきワンショルダードレス。普段わざわざパーティードレスを買って着ようとは思わないけれど、これなら日常でも着られる。カルメーラ用のドレスもそうだった。個人的にリボンはいらないが。
次にワンコインショップへと向かった。ストールと、あとは小道具。メイク用品だったりアクセサリーだったり──それから、黒くて大きくて四角い形をしたダテ眼鏡も必要。この眼鏡に対するイメージは全員一致だった。しかもリカ、それが妙に似合っていた。
けっきょく私、たった数時間で約一万フラムを使った。文化祭のためだけに。
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ウェスト・キャッスルに戻ると、祖母の家に寄り、玄関ホールに用意していたミュールやバッグ、アクセサリーから使うものをいくつかを選んだ。四月にルキアノスにつきあってもらって買い物に行った時、いくらかマセた買い物をしてあったので、それを使う。あとは以前から持っていたものとメイク道具。
クラスメイト数人と合流して、ハリエットの家へ。
ハリエットとカルメーラ、リカもそうだったのだが──みんな、サビナが左手の薬指につけている指輪を見て、黄色い声で騒いでいた。破局覚悟だったサビナは終始頬を赤く染め、嬉しそうにしていた。
私はカルメーラを少々意地悪な女に見せるために、あれこれメイクを試した。なんとか出来上がったそれは、まるで別人だった。カルメーラの面影が見当たらない気がした。気にしない。ついでなのでハリエットにもメイクした。高校生でも通る顔だとは思うけれど、さらに大人っぽく見せるために。
先にコーディネートを決めようと、彼女たちがそれぞれのドレスに着替えると、他の女たちはとても羨ましそうにしていた。どうでもいい。メイクをして小物を揃えてドレスアップしたハリエットとカルメーラは、まったくと言っていいほど中学生らしくなくなった。リカも少し、大人っぽくなったような気がするような、そうでもないような。
そして室内での撮影がはじまった。最初の前奏、あといくつかの間奏で使うつもりの、ハリエットがグランドピアノを演奏する部分。手元は映していないものの、彼女の女優っぷりはすごかった。本当に弾いているように見える。いくつかのパターンを、いくつかのアングルで撮った。“私は女優”が彼女の口癖だった。
うたうハリエットを撮影する部分は、ピアノの上に座ったり、窓辺でチェアに座ったり、小道具を変えて廊下を歩いてみたりもしてみようかという話になり、十人弱で家中を移動した。撮影はCDをセットしたデッキを持ち歩きつつ、私のデジタルカメラの動画機能を使って、クラスメイトの女子が交替でスタッフとして働いていた。そしてハリエットのあまりの女優っぷりに、彼女たちもどんどん本気になっていた。いつのまにか、背景の小道具や照明や日当たり具合までもを気にするようになった。
撮影をはじめてみると、どこでどういうシーンが欲しいかというのが見えてきた。テーマは地味で笑わない、奥手な女の子の変身。私は彼女たちの撮影風景に口出ししながら、他の女子と一緒に、どういうシーンをどう使いたいかを、何枚ものレポート用紙に書き出していった。一気に撮影してしまいたいので、できるだけまとめて。
ある程度ハリエットの撮影を終えると、今度はリカの番だった。みんなが、“あんたは女優”と何度も言い聞かせた。彼女はどうにかそれに乗ろうとした。
地味な部分はあとまわしにし、ひとまずメイクアップ部分。ハリエットとの絡みだ。ハリエットがうたいながら、彼女をドレスアップさせていく。髪をセットしメイクをして、ドレスを選んで小道具を選ぶ。そしてパーティーへと連れ出す。私たちの最終的なイメージでは、ハリエットは本当は実在しないというか、リカが見た幻だったという流れ。
実際のメイクは私が、少しずつ進めていった。濃くはなく、けれども一気に華やかさをもたせるような、“変身した”と思わせるようなメイク。ハリエットは、さも自分がしているかのように演じるだけだ。
議論をかわしながら撮影を進めていると、あっというまに夕方になった。ある程度のクラスメイトが揃えば、火曜から三日くらい連続で学校での撮影をやってみようかということにして今日は解散。
ちなみに、パーティーシーンのためにクラスメイトを招待してホームパーティーを開きたいとハリエットから懇願されていた彼女の母親、わりと渋っていたのだが、今日の撮影の様子を端から見てか、なんとかオーケーしてくれた。それでも料理は大変だと思うので、最初に言っていたように、お菓子パーティーにする。それも夕方から。ハリエットの家の裏庭で、来週の日曜のにという話になった。私はその場で祖母に電話し、その日にいくつかのお菓子を作ってもらえないかと頼んだ。ふたつ返事で了承を得られた。
そして一応の相手役、カルメーラとリカが相談し、ひとりのクラスメイトに決まった。背が高く、それなりに頭のいい男。気さくでうるさくなく、どちらかというとブレイン側にいるが、不良側とも話せる男だ。
ハリエットが電話で説得したものの、即イヤだと拒否されたので、私が電話を代わって、やれと言った。即オーケーだった。
頭の中でどんどん、“Pretty In Pink”のPVが出来上がっていった。
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月曜は、ひとり宿題を進めた。宿題といっても、内容は受験対策だ。中学一年の時に習った問題から順に、無駄にプリントがある。できる部分は自分でやって、わからなければ八月のどこかで、ルキアノスが教えてくれるという話になっている。
翌日火曜日からは、三日連続で学校に集まった。休みなのに学校に来ていて、学校に来ているのに授業がないという状況が、生徒たちを妙にやる気にさせていた。
三年D組は、見事に感覚が狂っていた。“Breakout”撮影のために二年フロアに紛れ込み、廊下に画用紙を貼って、同じく文化祭の準備に来ていた二年生を巻き込んで廊下を走るという荒業をはじめたのだ。もちろん、言いだしたのは私だけれど。ちなみにどうして二年かって、一年だと怖がらせるだけだと思うし、三年フロアはいい意味で敵意に満ちているからだ。
噂によると、A組は歌と踊り、B組とC組は劇だという。中学校生活最後の文化祭、同じ状況下ということもあって、今年は本当に、他クラスに話が広がらない。当日見てのお楽しみ、といった状態だ。といっても、体育館でのステージ練習は交代制になっていて、時間外は各教室か、やはり交代制の会議室で練習することになるので、閉めきったA組の教室から音楽が聴こえてきたり、B組とC組の教室からはセリフが聞こえてきたりで、確実な情報がなく目に見えないだけで、なんとなくは知られている。
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金曜日の夜八時すぎ。
部屋に戻るとアニタからの不在着信に気づき、電話をかけなおした。
ここ最近、私がまたメールを返したり電話をかけなおさなかったりしたことへの文句を数分続けたあと、彼女はやっと本題に入った。
「花火いつすんの?」
私はベッドの上に仰向けに寝転んでいる。こういうどうでもいい話題がくるから電話やメールを無視しているのだというのが、なぜわからないのだろう。
「忙しいんですけど」
「いや、あんたが言ったんじゃん。っていうかほんと、D組ってなにやってんの? なんか色々撮ってるってのはわかるんだけど。なぜか“Breakout”とか描いた画用紙を使ってるってのもわかるんだけど。学校の中のいろんなところに出没してるとかいう話だし。動画だけじゃなくて、やたら写真撮りまくってるし? 教室からはたまに音楽聴こえるし?」
「ハリエットに口止めされてるから言えない。花火ねー」八月は、ミッド・オーガストがある。「じゃあ来週の火曜は?」
「あたしは平気。ペトラとカルメーラに訊いてみる。で、誰呼ぶの? ナンネとジョンア、ゲルトたち。で?」
「そういえば、カルメーラがサビナのこと、誘ってたな」
「マジで?」アニタは不満そうな声を返した。「あのやろう」
「ヤーゴを誘うかアウニを誘うかは、カルメーラに決めさせて。っていうかたぶん、ヤーゴは微塵も気にしないと思うんだけど。あと、リカも呼んでやろーか。ナンネたちとはまあまあ仲いいし」
「あー、リカね。カルメーラが言ってた、リカがなんかの主役やるって」
「そう。観たらたぶん、あんた興奮すると思うよ。演出もツボだと思う」“Pretty In Pink”は、彼女も好きな曲だ。
「マジで?」とアニタ。「すっごく知りたいけど、我慢するしかないな。ナンネにダヴィを誘わせるなんてことは? もうしないの?」
「しない」私は即答した。「めんどくさいし。夏休み中でも学校に行ってるから、なんかそういう小細工すんのも変だし」
「まあそっか──あ、けど、今日学校で会って、ナンネが愚痴ってたよ。D組学校来なさすぎ、だって。同じ日に学校来てても、ぜんぜん会えないって」
こちらはアニタたちやゲルトたちに、ほとんど会わない。“Pretty In Pink”以外では、私とダヴィデとトルベンとリカは裏方組で、ほとんど教室にいるか、撮影に行くとしても三年フロア以外の場所をまわっている。会ったとしても挨拶して終わり。ハリエットの監視の目が厳しく、昼前に学校を出たらすぐに帰る。
といっても、一度解散して家でランチを食べたあとにまた集まって、“Need You Now”の撮影をはじめたり、もしくはクラスメイトとその他同期が遊ぶ光景を写真に撮るために、カルメーラとハリエットと──サビナはデートでいたりいなかったりだが──ウェスト・キャッスルを走りまわったりしている。ミッド・オーガストまでに撮影をほぼ終わらせようという話なのだ。ミッド・オーガスト明けは、編集作業をメインにするつもりでいる。
「私もダヴィも真面目にやってるからね」私は言った。「つってもあいつとトルベンは、横から口出すだけだけど。根が真面目だから、なんか妙に細かいこと気にしてくる」
電話越し、アニタは笑った。
「いいじゃん。セテやカルロなんか、あんまやる気ないもん。どうにか説得して、大道具作りをやってもらってるけどね。あたしもそうだけど、去年のホラーハウスが楽しすぎて、いまいちやる気になんないからな」
「私は本気でやってるのに。ちなみにダヴィとトルベンは、あとから活躍する予定なの。裏でね」
彼らとクラスメイトの数人の男たちは、学校での撮影が終わったあと、午後からトルベンの家に集まり、動画編集を独学でマスターしようとしている。
「ふーん? なんか、気づいたらトルベンとも仲良しだよね」
「そうでもないわよ。どっちも嫌味を込めた話しかたしてる。あからさまに相手にするかしないかの違いだし」
「へー。両方成長したってことかな。っていうか宿題は? あんたがぜんぜん電話に出ないから、ペトラと一緒に消化してってるんだけど」
「いいわよそれで。こっちは自力で消化中。わかんないとこあったら、ルキたちが教えてくれるって話」
「へー。仲いーね」なぜか棒読みだった。「プールもルキの家?」
詮索がはじまった。「そうよ。ルキとアドニスと、あとその友達ひとりか二人。たまに遊んでる。そのうち二回はサビナがいた」
「は?」
説明するのも面倒だ。「友達のひとりとサビナがつきあってる。そのうち説明してやってもいいけど、とりあえず今はイヤ。めんどくさいからイヤ。頼まれてもイヤ。土下座されてもイヤ。せめて文化祭が終わるまではイヤ」
アニタは怒った。「拒否しすぎだし!」しかめっつらが目に浮かぶような声で続ける。「──なんかイヤな予感がする」
「まあ気にしないことよ。あんたの知らないところで、いろいろあって。アドニスと別れなきゃ、状況把握できてたと思うけど」
今度は少々ふてくされた。「なんだその嫌味。じゃあ文化祭終わって、それでもまだ覚えてたら訊くことにする。花火は火曜で訊いてみればいいんだよね。あたしはペトラとカルメーラと──ナンネも? で、ジョンアに訊いてもらって? で?」
人数が多いと面倒だ。「女のほう、ぜんぶ任せる。リカにも言ってみて。カルメーラが誘うって言うなら、サビナも誘わせて。ペトラからでもいいけど。男共はトルベンとヤーゴ以外、私からメールを一斉送信する。ヤーゴをどうするかはカルメーラに任せる」
「なんかこっち、色々と面倒そうなんですけど?」
「知るか」自己中心的な私は冷たく返した。「誰かがダメかもしれないから、平気な曜日も訊いて。できれば来週の平日。去年と同じで、夜七時にキャッスル・パークに集合ね」
「りょーかい。じゃあ一応、あんたのほうにもメール入れるよう言っとく」
「はいはい」
ヤーゴと別れてからというもの、アウニは妙におとなしくなったという。ヤーゴと視線を合わせることすらそうなく、けれどもいつもと変わらない振る舞いをするヤーゴを時々、彼に気づかれないようじっと見ているのだとか。カルメーラやペトラからすれば、まだ引きずってるように見えるらしい。
その反面、ヤーゴが気楽そうなのは、彼女たちの目から見ても明らかだった。どうしようもないというのはわかっている。アウニが嫉妬しなくなるか、ヤーゴが嫉妬を嫌がらないようにならない限り、ヨリを戻しても同じことの繰り返しになる。
アニタとの電話を切ってからしばらくしたあと、全員オーケーとの返事が携帯電話に集まった。ゲルト、セテ、ダヴィデ、イヴァン、カルロ。それから、ダヴィデを介してトルベン。女子はアニタ、ペトラ、カルメーラ越しにサビナ、ナンネと、彼女を介してジョンア。そしてリカ。
カルメーラとアニタ、ペトラが相談した結果、ヤーゴだけを呼ぶというのは微妙で、アウニを呼ぶとしても、去年のことを思い出して空気が微妙になるかもしれないということで、どちらも呼ばないことにした。




